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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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130. 滅亡の未来

 情報量が多すぎやしないか? 本当に申し訳ないが、脳が情報を処理するまで待って欲しい。


「少し待ってくれ」

「いいよー」


 今の状況はなんだ? 仲間と共に『賢者の塔』に向かっている最中に、酒焼けしたかすれた声に呼び止められ足を止めた。そこにいたのはドワーフの占い師。それも幽霊ときた。

 前世なら幽霊なんて存在しないと笑い飛ばしたがシルヴィのようなアンデッドがいる世界だ。幽霊くらいいるかも知れない。

 俺の腕に伝わってくる冷たさは幽霊故のものか? 異様な程に軽く、氷でも触っているかのように冷たい。疑問として残るのは俺の体に触れられている点だな。幽霊って人とか物に触れられるのか? オカルトやホラー関係は素人すぎて分からん。異世界だからそういうものだと諦めた方が早いか。


 幽霊である点は後で問い正せばいい。今重要なのはコイツが何者であるかだ。ドワーフだとか占い師だとか、幽霊だとか興味はない。問題なのはコイツが敵か味方か区別がつかない事だ。

 狙いはなんだ?言葉通りなら俺の事を客として捉え『未来を占う』対価で金銭なり、ドワーフなら酒なりを得ようとしているのかも知れない。普通の占い師ならな。

 だが、コイツは明らかに普通じゃない。幽霊だからではなく、勇者パーティーに通用する力を持っている事が今の状況から分かったからだ。


 俺の後ろを通行人が通っているのが分かる。間違っても俺とコイツの二人きりの状況になっている訳ではない。ただ、先程まで共にいたエクレアやダル、それにメリアナの姿が見当たらない。

 俺を置いて先に行った? ないとは言わないが、少なくともダルは一言かけてくれるだろう。エクレアも喋れなくとも行動で意思を表現してくれるのが目に浮かぶ。付き合いが長い分、二人の取る選択が分かる。

 メリアナに関して『先にいきましてよ!』とか『わたくしも残りますわ!』とか、何かと騒ぐだろう。少なくとも何も言わず離れる姿が想像出来ない。

 一人取り残された現場である事を再認識して、深く息を吐くとコイツ───テルパドーラは楽しそうに笑っている。この笑みは絶対にコイツが何かしている。


「一ついいか?」

「あちしに占って貰うって一言言ってくれたらいいよ」

「それで答えてくれるなら好きにしてくれ。改めて一つ聞きたい。俺の仲間はどこに行った?」

「さぁ?あちしには分からないかな。一緒に歩いていたならお兄さんの方が目的地とかに詳しいんじゃない? あ!お兄さん置いていかれたの?薄情な仲間だねー」

「質問を変えようか。仲間に何をした?少なくとも俺の仲間は何も言わず先に行くような事はしない。俺が呼び止められたとしても、俺の仲間は一緒に立ち止まる。長い付き合いだから仲間の行動は手に取るように分かる」


 腕にしがみついていたテルパドーラが離れ、つまらなそうにふーんっと一言漏らした。『信頼関係が出来てるんだねー』と興味なさそうに発言しながら、どこからともなく取り出した酒瓶の蓋をあけて直接酒瓶に口をつけて豪快に飲み始めた。

 酒の飲み方はまだサーシャの方が綺麗だなと、身内びいきの感想を思い浮かべながら改めて周囲を確認する。


 俺たちが歩いていた場所が大通りという事もあり、人の通りは非常に多い。商人の声や王都の人達の会話が今も俺の耳に入ってきている。それはまぁいい。

 不可解な点は俺が今、立ち止まっている位置を人々が大き逸れて歩いている事だ。人ひとり避けるのにあんなに大袈裟に避ける必要はないだろう。一人ならまだしも全員が同じように俺とテルパドーラの周りを避ける。まるでそこに避けないといけない障害物があるように。


「質問に答えろ。仲間に何をした?」


 体格に似合わない豪快な飲み方をしているテルパドーラに再度問いを投げる。返事はなかったが一つの行動は起こした。ぷはーっと声に出しながら飲み干した酒瓶を無造作に投げ捨てた。放物線を描いた酒瓶は地面に衝突し音を立てて割れる。場違いな感想かも知れないが誰が掃除するんだあれ?


「お兄さんの質問に答えて上げようか。お連れさんは今頃、お兄さんの影を追って目的地に向かってるんじゃないかな?」

「俺の影だと?」

「そう。そこにいないお兄さんの幻覚でも見てさ、お兄さんが先を歩いていると錯覚して一緒に歩いた気になってる。そんな事が起きてるかもね」


 意味深な笑みをテルパドーラが浮かべている。改めて思う。コイツ何者だ? 俺の仲間に俺の幻覚を見せて先に行かせた?勇者パーティーの仲間だぞ? その内の一人は勇者だぞ? つまりコイツの能力は勇者にも通用する強力な力であるということ。

 俺に効かなかったのはテルパドーラが俺に用事があったからか、あるいは俺の能力のせいだな。言うまでもないが俺は自身の能力の影響で、俺に干渉し悪影響を及ぼす効果を拒絶できる。それによってテルパドーラが使ったとされる幻覚を無力化した可能性が高い。

 俺だけが幻覚を見えていない。なら俺に見えていないだけで、俺やテルパドーラを大きく避けて歩く人々には何か見えているんだろうな、この様子だと。


「幻覚か…」

「そうだよー。答えが分かって良かったね」

「お陰でスッキリした。答えてくれた事には礼を言おう。ありがとう。その上で聞かせてくれ。仲間に幻覚見せ、俺から引き離して何がしたい?」

「何度も言ってるよー!お兄さんはあちしに占って貰うべきなの。だから呼び止めたし、邪魔が入らないようにお連れさんには先に行って貰ったの」

「勝手な真似だな」


 聞こえていないのか、あるいはフリか…俺の発言を完全に無視して砕けて欠片になった水晶玉を持ってきた。そのまま地面に座ったと思えば、テルパドーラの正面に位置する地面を手でパシパシと叩いている。ここに座れって意味だろうな。

 なんでこんな道端でやるんだ? 占いってこう…室内であったり人が座れるスペースを確保してやるんじゃないのか? 言いたいことをグッと堪えて彼女の正面に座ると割れた水晶玉が俺とテルパドーラの間に置かれた。木っ端微塵とまではいかないが、小さな欠片となっているこの水晶玉で占うっていうのか?絶対に何も移さないだろ、これ。


「今からあちしがお兄さんの事を占ってあげる!」

「分かった。今更、占うのをやめろとは言わないが、何故俺なんだ?他にも人はいただろう?」


 タングマリンに住む住人は勿論、俺と共に歩いていたエクレアたちもいた。にも関わらずピンポイントに俺を選んで声をかけてきた。幻覚が見えなかったからとか、そんな理由も有り得そうだが…。


「あちしがお兄さんを占う理由はね。滅亡する世界を救う為なの」

「滅亡? 世界が滅ぶというのか?」

「うん。あのね…お兄さんの姿と、一緒にいた黒髪のお姉さんの姿を見た時にあちしは断片的に未来が見えた」

「それが滅亡する世界って言いたいのか?」

「そういうことだよ」


 冗談を言っているような雰囲気ではないな。少なくともテルパドーラは本気で言ってる。未来が見える?本当にそんな事が可能か?

 出来ないとは言わない。それが起こり得る世界であるし、そういった能力を与える存在も知っている。口ぶりから察するに未来で見えると言っても詳細なモノが見えている様子ではない。断片的に見える未来というのがどの程度のモノかが気になるな。


「テルパドーラは未来が見えると言ったな。どういう原理だ?魔法か?」

「答えるのが難しい質問だね。魔法ではないよ。気付いたら使えるようになっていた能力と、答えようかな。生まれつき使えた訳ではなくてね。未来が見えるようになったのはあちしが死んでからなんだ」

「死んでから…本当に幽霊なのか?」

「お兄さん、あちしの言うこと信じていなかったの?失礼だゾ!」

「気を悪くしたのなら謝る。すまなかった」

「謝罪を受け取ります、はい!」


 俺が謝るとテルパドーラがやたら嬉しそうに笑った。幽霊である事もこれで確定でいいか?

 それはまぁいいか。やはり未来を視る力は魔法ではないか。それは予想していた事だ。死んでから使えるようになった、というのが気になるくらいか。


「生前は未来を視えなかったのか?」

「全くだねー。だから最初に視た時はびっくりしたよ。変なモノが見えるようになったってそれはもう大騒ぎ!幽霊じゃなかったら、皆あちしに駆け寄って心配するレベルだよ!

あ、心配しなくてもいいよ!流石に死んでから年月が経っているから騒いだりしないから。あれから28年も経ってるんだね? あちしが死んでから」

「そうか…」

「そうなの」


 28年前か。ちょうど俺が産まれた時期だな。ふと浮かんだ感想ではあるが、だからどうしたで終わりだな。テルパドーラが死んだ時期と俺が産まれた時期が重なったのはただの偶然だろう。気にするほどの事ではない。


「死んでからね、未来もそうだけど魂が見えるようになったの。その魂を目を凝らしてよく見るとその人の未来が視える。みんな違う未来を描いているの。あちし、びっくりしちゃった!」

「魂か…」

「もしかしたらあちしの占いは魂から得た未来の情報なのかも知れないね!」


 死んでから魂が見えるようになったか…。似たような人物がいたな。シルヴィもまた彼女と同じように魂を見る事が出来た。テルパドーラと違い幽霊ではなく、肉体を持つアンデッドではあるが魂を見えるのは全くの同じ。

 だが、シルヴィは未来を視ることは出来なかったようだな。もし、未来を視る事が出来たならタケシさんを救えた筈だ。タケシさんと幸せな未来を作った筈だ。そうなると未来が視えるのはテルパドーラの個有の力か?


「俺の質問のせいで話が逸れたな。世界の滅亡が視えたと言っていたがどういうことだ?」

「ある時を境にね戦いや病気とかで亡くなる人以外の未来が同じになったの。皆、同じ未来にたどり着いて、皆死ぬ」

「世界が滅亡した事によって、全員が死んだ訳か」

「仮説だけどねー。どうにか未来を変えられないかなって考えている時にお兄さんと黒髪のお姉さんを見た。お兄さんには酷な話かも知れないけど、世界が滅亡する原因は…お兄さんのお仲間さん」

「エクレアは…彼女は勇者だ。少なくとも世界を滅ぼす存在から最も遠い存在だと俺は思っている」

「正常なら、ね」


 まるで正常ではなかったと言いたい様子だな。未来のエクレアに何かがあったのか?それこそ世界を滅ぼしてしまいたいと思うほどの出来事が?


「あちしが視たお姉さんは明らかに正気ではなかった。心が壊れてしまったみたいに泣き叫んで、その手に持つ剣を暴走させてた」

「聖剣の力か」


 聖剣は魔力ではなく星の力を使う。使い過ぎれば世界が滅びるとミカが言っていた。コバヤシ(先生)もそうだな。エクレアが怒らせないように注意された。その理由はミカと同じで、世界を滅ぼさないためだ。

 未来においてエクレアに何かあったのか。彼女が正気を保てない程の事態。そういえば!


「泣き叫んでいたと言っていたな。エクレアは喋っていのか?」

「うん? 普通に声に出して泣いてたよ」


 なんで、そんな変な事を聞くの?と言葉には出していなかったが不思議そうに首を傾げられた。事情を知らない者からすれば、喋って当たり前だからな。


 ───エクレアは喋る事が出来ない。


 呪いでもなければ病気でもない。字で伝える事が出来ない事を考えれば神に干渉によるものだろう。


 気になる事が増えるばかりだな。未来ではエクレアは喋れているのか? それは仲間として喜ばしい事の一つだ。だが、同時に未来は滅亡へと向かっている。滅ぼしたのは…エクレア。

 ダメだな。何が起きたかまで想像出来ない。


「泣き叫ぶお姉さんの傍にはお兄さんの姿もあって」

「俺もいたのか…」

「うん。けど、お兄さんは血に染まって地面に倒れていた。……察しがいいんだね、もう、分かったの?」

「俺の死がきっかけか」

「そうだよ」


 あまり嬉しくない情報だ。テルパドーラが視た未来とやらで俺は死んでいるらしい。そして、俺の死が原因で世界は滅亡する。エクレアが俺に好意を抱いてくれているのは分かっている。それがここまで大きいモノだとは流石に想像出来ていなかった。

 死ねない理由がまた一つ出来た気がする。


「世界を救う為にあちしがお兄さんを占ってあげる。未来は揺れ動くもの!お兄さんは生きて、この先の未来を変えちゃおう!」

「俺も死にたい訳ではないからな。死にものぐるいで抗ってみるよ」

「それじゃ、さっそく占うよ!」


 そうして、テルパドーラが俺の前へと起き占いのために使い始めたのはまだ中身の入っている酒瓶。砕けた水晶玉が近くに転がっているが気にする様子もなく、酒瓶に両手をかざして何かをしている。なんで、水晶玉を一度持ってきたんだコイツ? 聞いてもいいのか悩んでいると酒瓶が光った。


「視えたよ!お兄さんの未来が!」


 ───俺の未来は酒瓶に移ったらしい。


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