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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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128.下心が国を変える

 手紙の内容を上から下へとしっかりと確認する。読み飛ばしもなければ読み間違いもなかった。やはり、魔族の手に落ちたのは間違いではないようだ。胃が痛くなるな。


 ダルの母親であるリリスの『魅了』の魔法によって国の上層部が骨抜きになっていると書かれており、出来れば嘘であって欲しいと願うばかりだ。

 ダルの父親であり国の政を担当する大臣のバルディア・ウォン・フィンガーランドが一番最初のようだな。家族の一員となり距離が近くなった事で国王であるガラティア・ウォン・フィンガーランドも『魅了』の魔法を受けたらしい。そこから国の権力者たちがリリスの『魅了』の魔法の餌食になるまで時間はかからなかったようだ。大臣の妻という立場で何かと会う機会があったようだからな。


 一部の魔族が使う『魅了』の魔法は『洗脳』の魔法に似ているが、効果が少し違う。強力ではあるが効果の持続時間が短いのが『洗脳』の魔法。一度かかってしまえば効果は永続的なモノではあるが、相手が自身に欲情しなければ使えない魔法が『魅了』の魔法だ。

 分かるか? つまりだ…リリスの『魅了』の魔法にかかったという事は彼女に下心を抱いたという事を意味する。好意でも同じ効果を発揮するそうだが、大体数は欲情して魔法にかかる。


 夫であるバルディアはまだ分かるが、弟の妻に対して欲情するのはどうなんだ? いや、女性ではなくと家族としての好意を抱いたという可能性も捨て難いが、手紙の内容によればリリスを目の前にすると鼻の下を伸ばしていたようだから欲情したんだろうな…。

 何してんだよ王様(胃痛フレンド)


 騎士を纏める騎士団長にその右腕の副団長、爵位を持つ高位の貴族がリリスの手足となり動いているようだ。アルカディアの国の行く末が上層部の男たちの下心で決まるとか、国民の一人として泣きたいくらいだ。流石に末端までは魔法はかかっていないが、頭を確保すれば体は動く。

 幸いな事に今のところ大きな動きはない。いや、一つだけあったか。国の外側に対してではなく内側に対して動いていた。

 目的は国の軍事力を高めること、その為に騎士や魔法使いを徴集しているようだ。表向きは被害が増えている魔族対策らしいが、操っているのが魔族なのだとすれば…。


「戦争が起きるか…」


 小さく呟いたつもりだったが、耳に入ったらしくエクレアが頷いた。リリスの先導で国と国同士の戦いが始まるかも知れない。

 そこまで考えると今の状況が非常にマズイ事に気付いた。四天王の襲撃のせいで明らかに国力が低下している国がある。そしてその国とアルカディアは隣接している。


 ───テルマとアルカディアが戦争を始めるかも知れない。それもまた魔族の狙いか。


「ダルを監視していたのか?」


 コクリとエクレアが頷く。手紙の内容にリリスの娘であるダルから目を離さないようにと書いてあった。父親の指示に従いエクレアはダルを監視していたようだ。エクレアの父親が警戒するのは当然か。母親であるリリスが魔族として動いている。勇者パーティーの一員にその娘がいればその動向にも意識は向く。だからといって娘にその監視役をやらせるのか…。適任と言えば適任だが…ダルとエクレアは仲が良くそれこそ友達と言える仲だろう。


 常にエクレアとダルが一緒にいたのは監視のためか?それだけとは思えない。ダルとの友情があるからこそ常に共にいる事が多かったのだと思う。

  エクレアに視線をやるとフルフルと首を振っていた。何を伝えたい? こういう時、喋れないのは不便だな。


「一番に拘る理由は何か言ってごらん。どうせ大したことではないだろう?」

「我がカイルに一番愛されたいからなのじゃ!それが理由で悪いか!」

「それだけかい?たったそれだけの理由で一番に拘るのかい? 自分の想いだけじゃないか。僕はカイルの想いを汲み取った上で、一番に愛されるつもりさ」

「意味が分からないのじゃ!」


 口論を繰り広げているダルたちは俺たちを気にする様子はない。こっちはこっちで変に首を突っ込むと面倒な事になりそうだ。今はこちらの話に集中させて貰おう。

 エクレアと対話出来ない以上、踏み込んで聞いてみるべきか。俺だけで判断するのは辛いところがある。


「エクレア、勇者としての直感で答えてくれ」

「…………」コクリ。

「ダルは信頼できるか?手紙にも書かれていたが母親の指示で動いている可能性もある。信頼出来ると思うのなら頷いてくれ」


 エクレアが頷いた。考える素振りもなかったな、直感に従って頷いた訳だ。


「そうだな、俺もダルの事は疑っていない。一緒に旅をしてきて…彼女は信じて大丈夫だと俺は思っている」


 うんうん、と首を縦に振るエクレアを見て心の重荷が軽くなった気がした。手紙の内容を見た時は本当に頭を抱えたくなったからな。ダルの事情を知っていたつもりだったが、母親が魔族として動いているとは流石に思っていなかった。

 魔王である可能性はないに等しいが、母親の指示で動いている可能性はゼロではない。ダルを警戒しながら更に仲間の中の魔王を探すのは、負担がデカすぎる。ダルの友達としてではなく、勇者としての彼女の直感が大丈夫だというのなら俺は直感を信じよう。今までも彼女の直感に救われてきた。

 俺もその方が気が楽だ。出来ればダルの事は疑いたくない。彼女の好意が偽りだったなら…ショックはデカイだろうな…。笑えない。


「どうする、皆にも共有するか?」

「…………」フルフル。

「内容が内容だからな」


 国の内情の事でもあるし、エクレアからすればダルには言いたくないだろう。エクレアの父親がどうにかしようと動いているようだが、国トップを自由に操れる現状でどれだけ防げるか…。最悪な事態は俺たちにも影響がある。つまり勇者パーティーにとっても大事である。


「ダルには言いにくいな」

「……………」コクコク

「友達を監視しろというのは酷な指示だな」


 怒っているのか眉間にシワを寄せて頷いている。ダルを監視しろという父親の指示に怒っているようだ。ダルにバレたら二人の友情が壊れる可能性もあった。


「とはいえ、手紙の内容は世界を揺るがす大事だ。ダル以外…一先ず、ノエルに相談しようと思う。いいか?」


 エクレアがコクリと頷いた。小声で話したから口論をしている二人に声は届いていないと思っていたが、ノエルから意味深な視線が飛んできて、その後直ぐに逸らされた。盗聴器で聞いていたか?デュランダルは腰に差していたから盗聴器越しなら聞こえないこともない。

 エクレアの了承も得たので読んでいた手紙をたたんで鞄にしまっておく。


 ノエルにはどのタイミングで話そうか? この町には一晩泊まる予定だ。山越えをハイペースで行った事もあり、疲れを取るために休息を取ることにしたのだが…ノエルは宿に泊まらないからな。

 ドワーフの国で、かつ国境近くの町というのもあってこの町に住んでいるのはドワーフが殆どだ。人間嫌いではあるがドワーフが嫌いではないから、この町なら宿に泊まるかと思ったが予想が外れた。警戒心が強いのか基本的にノエルは教会でしか泊まらない。


 まぁ、今日じゃなくても構わないか。宿には俺用の部屋も取ってあるし、デュランダルと話したい事もある。教会に無理言って泊まる必要もないだろう。この後二人きりになれる時間があるなら話すが…。


「ノエル、ダル」

「なんだい?」

「カイル!我は不満じゃぞ!理由は分かっておるな!」


 口論を止めようと二人の名前を呼んだが反応が思ってたのと違った。ノエルは機嫌よさそうだが、ダルは逆に機嫌が悪い。言葉にもしているしな。

 何が言いたいかは何となく分かるが、二人きりの時だけにしといた方がいいと思うんだがな。この場にいる全員がダルが王族である事は分かっているから問題はなさそうだが…。


「ダルフィア…コレでいいか? 」

「うむ!」

「カイル…」

「ごめんなさい」


 ダルの本当の名前を呼べばそれはもう嬉しそうに笑い、対照的にノエルが不機嫌になった。俺にどうしろと?

 居心地の悪さを感じなら二人にご飯を食べに行かないかと提案し、その日は胃に優しいお昼ご飯を食べた。空気は胃に優しくなかったが…。






 ───翌日の朝に町を出た俺たちは予定通り王都に到着する事ができた。かかった日数は4日ってところだな。問題は特に起きなかった。

 メリアナが絶好調で道中スキップしたり、『お兄様の事をどう思ってますの?』とか聞いてきたのが鬱陶しかったくらいか?


 それはともかくとして王都に着いた俺たちを出迎えるように一人の女性が立っていた。


「クハハハハ!元気そうだなカイル!無事で良かったぞ!」


 そこに居たのは筋肉隆々の逞しい肉体を持つ獣人の女性。見間違える筈がない。トラさんだ。嬉しそうに高笑いをするいつもの仲間の姿に自然と笑みが浮かんでいた。


「トラさんの右腕があるのじゃ!」

「蘇ったら元に戻っていてな!クハハハハ!」




 ───失くした筈の右腕が生えていた。

 義手の制作費結構したんだけどな…。

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