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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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125.やっていい事と悪い事

 ───2日後の夕方。エクレアとダルの二人にノエルを加え、改めてパーティーの方針を話し合い翌日の朝テルマを出立する事が決定した。話し合いを始める前に三人の間でちょっとしたマウントの取り合い…女の争いがあったのだが、大事にはならなかったので一先ず割愛しよう。


 今後の方針として、まずタングマリンに向かいトラさんとサーシャの二人と合流するのが最優先。並行してタングマリンで何が起きたか、確かめるつもりだ。魔族に襲われたのは知っているが、魔族の狙いやどれだけの被害が出たか改めて情報を精査しないといけない。

 テスラが語っていた神器集め(サブプラン)とやらでドレイクが動いている場合、タングマリンの神器が盗まれていないかが心配だ。いや、流石に盗むのは難しいか。『イフリートの鎧』は首長の愛用の品という事もあり近くに飾ってある。戦時には首長が鎧を纏って戦っている事を考えれば盗むのは簡単な事ではない。情報についてはタングマリンに着いてからだな。


 パーティーの方針とは違うが、個人的なモノとしてトラさんが生き返った方法についても可能なら言及したいところだ。テスラの予想通りだとすればトラさんは王族である可能性が跳ね上がる。獣人の中でも王に近い有力者しか持ち得ない貴重な物だからな。

 トラさんが王族だった場合……彼女が魔王になるのか? いや、そんな短絡的な思考をしてはダメだな。まずは証拠を集めよう。複合魔法の発動条件を満たしているかの確認と、物的証拠…手紙に関してはノエルにお願いしてある。教会の伝手を頼って探してみるそうだ。加えてディアボロとの決着もだな。


 ジャングル大帝を案内出来るのは俺たちのパーティーではトラさんだけだ。疑いの目を向けている相手に道案内を頼むというのも中々リスキーな気もするが、それしか選択肢がないのも事実。言動には注意を払おう。


 話を戻すとして、タングマリンで二人と合流したらそのままジャングル大帝に入国し『ニビル』へと向かう。仲間たちはその村でユニコーンの目撃情報を探して、居場所を探す流れになるだろう。俺だけが違う目的で動く事になる。仲間に怪しまれないようにしないとな…。

 

 後、心配なのはユニコーンだな。ディアボロとの戦いは勝つ前提で考えているから、ユニコーンを助ける事は出来るだろう。その後、ユニコーン(性獣)が俺たちに協力してくれるか、だな。メリアナが着いてきてくれるが…果てして効果があるか?


 共にジャングル大帝に向かう事が決定してからは、ジェイクの屋敷で会う度に俺に話しかけてくるがメリアナはアレだな…良く言えばフレンドリー、悪く言えばおもしれぇ女って所だ。

 自信満々でとにかくよく喋る。話をなかなか切り上げられないのは本当に困る。大阪のおばちゃんの方がまだマシじゃないか?


 今日も夕食の後、メリアナに捕まって一時間近く会話をする羽目になったな。『いつ、わたくしを貰ってくださるのかしら?』とか『あら、本気にしまして?カイル様でしたら…わたくし…あ!…まずお金持ちになってから…ね?』とか『わたくし…処女ですのよーー!!』とか、相手にしてると本当にめんどくさいのがよく分かった。

 ジェイクも苦労しているな…。今はそんな苦労人のジェイクに誘われ晩酌に付き合っている最中である。俺の場合は酔わないからただ味や匂いを楽しんでいるだけだな…。


 晩酌に誘われた時は彼の私室だったらどうしようかと考えたが通された部屋は普通に応接室だったし、使用人も控えているので後ろの心配はしないで大丈夫だろう。

 距離がやけに近いのは気にしないでおきたい。隣の席に座ったジェイクから注がれたお酒を飲む。タングマリンで飲んだお酒とはまた違う。テルマのお酒の方がさっぱりしているか? 飲みやすいお酒だな。


 ジェイクの器にお酒がないのを確認して、今度は俺がお酒を注ぐと嬉しそうな声でありがとうございますと返ってきた。基本的にジェイクはいい奴ではあるんだが、意味深な距離感がなんか嫌だな。壁際に控えている使用人も生暖かい視線を向けないで欲しい。


「では、明日にはもう出立するのですね?」

「はい。いつまで世界樹が耐える事が出来るか分かりませんので…、それにジャングル大帝はテルマからは遠いですからね」

「テルマからですと、大陸の真反対に位置しますね。直接向かっても日数がかかりますが…、カイル殿はタングマリンを経由してから向かう予定でしたか?」

「そうなります。タングマリンにいる仲間がおりますので合流して向かうつもりです。ジャングル大帝の地理もその仲間が詳しいので」

「『格闘王』トラさまですね」

「ご存知でしたか?」

「カイル殿のお仲間の皆さまは御高名ですので」


 俺たちの事を上げてくれるのは嬉しいが、ジェイクもたいがいだと思うがな。肩書きだけで言えば俺と比べるまでもないないだろう。『薔薇の騎士 団長代理』兼『騎士団長代理』…事が落ち着けば間違いなく彼がテルマの騎士のトップに立つ。

 『妖精の騎士』の団長と騎士団長を巡って争う可能性もあるかと考えたが、聞いた話によると『妖精の騎士』の団長はジェイクの弟子に当たる人物だそうだ。それもあって今回の騒動をきっかけに誰よりもジェイクを騎士団長に推しているそうだ。流石に確定だな。


 余談ではあるが騎士としての肩書き以外にもジェイク個人を指す異名として『金翼(きんよく)の騎士』というのもある。

 彼の象徴とも言える長く美しい金髪と、翼が生えているかのような身軽な身のこなしから名付けられた異名だな。跳躍力なんかは本当に人並み外れていた。重力を無視しているんじゃないかと錯覚するレベルだった。


「私の個人的な質問を一つしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「答えられる質問ならお答えしますよ」

「勇者パーティーの一ファンとして聞いてみたかったのですが、トラさまとカイル殿がもし本気で闘ったらどちらが勝ちますか? 」

「トラさんだな」

「えっ!?」


 この問に関しては即答だな。ジェイクからすると意外だったらしく驚いていたな。だが、実際にトラさんと手合わせすればジェイクもよく分かるだろう。闘うシュチュエーションによってはトラさんに勝てるだろうが、両者顔を合わせた状態からの一騎打ちなら俺は多分トラさんには勝てない。


 今まで何度か手合わせしてきたがトラさんに勝てたのは1回だけだ。その数十倍も敗北している。デュランダルを使えば戦いにはなるだろうが、トラさんと違って俺の場合は一撃でも喰らえば終わりだからな。あの逞しい肉体から放たれる拳と蹴りは俺の防御では受け流せないだろう。魔力による強化が間に合っても貫通される姿が目に浮かぶ。

 こちらがオワタ式に対してトラさんの方は防御力はバッチリだからな…。それにネコ科を彷彿とさせる俊敏性を考えるとまず攻撃が当たるかどうか…。勝てるビジョンが浮かばないな。


 ───改めてトラさんの強さを再確認すると、彼女が魔王だった時の絶望感が凄い。俺一人ではまず倒せないと考える仲間の協力が必須だ。


「そこまで強いのですか?」

「接近戦は敵無しですね。俺ではまず勝てないですし、勇者パーティーの中でトラさんと闘って勝ち目があるとすれば勇者であるエクレアと魔法使いのサーシャの二人ですね」


 歴代最強と謳われるエクレアの強さはいまさら語る必要もない。勇者パーティーで最強は誰かと聞かれれば真っ先に彼女の名前が上がる。聖剣なしでも普通に強いからなエクレア…。

 サーシャに関しては俺と同じくシュチュエーション次第だな。トラさんとの距離が遠ければサーシャが勝ち、距離近ければ負ける。魔法の詠唱時間を稼げるかどうかの勝負だな。一度魔法を使えれば一方的になる事が予想できる。


「サーシャさまですか…『若き賢者』の異名で知られるドワーフの魔法使いですね」

「『酒乱』としても知られてますよ」

「ふふ…そうでしたね…。サーシャさまもタングマリンに残られたのですよね?ご理由はご存知ですか?」

「理由ですか? 師匠であるマクスウェルさんとトラさんの義手を作る為に残りましたね。本人は面倒くさがっていましたが」


 あの時の事は良く覚えているな。サーシャにもテルマに一緒に行かないかと声をかけたが、先にマクスウェルに脅さられた後だったらしく…ブツブツ言いながら手伝いに行っていたな。義手作成を手伝わない場合、タングマリンでお酒を買えると思うなと脅されたみたいな事を言っていた。

 マクスウェルの持つ権威を考えれば出来なくはないだろうな…。お酒が大好きなサーシャからすれば無視できない脅し文句だな。


「そうですか…」

「サーシャが何か?」

「いえ…、サーシャさまは何も。ただ…マクスウェルさまの件がなくてもサーシャさまはテルマに来られなかったかも知れませんね」

「どういう事ですか?」


 言い難い事なのか?器に注がれたお酒を一息に飲んだと思えば、ジェイクは目を伏せてそのまま沈黙した。サーシャがテルマに行きたくない理由があるのか? サーシャと話した感じではそんな印象はなかったが…。

 とはいえ、無理に聞き出す気も起きない。ジェイクの口から言えないのであれば、それは国にとっての機密の場合もある。沈黙しているジェイクを横目に器に注がれたお酒を飲み干す。器を机に置くのとほぼ同じタイミングで、ジェイクが閉ざしていた口を開いた。


「我が国はサーシャさまに…、正確に言えばサーシャさまのご家族に非道な行いをしてしまいましたので」

「非道な行いだと!?」

「今から500年ほど昔の話になります。私はまだ産まれておりませんので、実際にその場にいた訳ではありませんが…ローウェン卿から聞き及んでおります。エルフとして…騎士として、してはいけない事をしてしまったと」


 ───ジェイクが言い淀んだ理由はローウェン卿が関わっているからだな。ジェイクの口振りから察するにローウェン卿はサーシャの家族にした事に後悔している。非道な行い…か。何をした?


 ヒントは500年前のサーシャの家族。時系列がハッキリと分からないがタケシさんがまだ生きていた頃なら、サーシャの母親であるクロナ・ルシルフェルに何かあったとかか?

 サーシャの母親は4代目勇者パーティの魔法使い。タケシさんのハーレムメンバーの一人でもある…その中にはエルフの王女であるメリルもいた。国が行った非道…か。


「ローウェン卿に命令したのは…先代女王メリル陛下…当時で言えばメリル王女様ですか?」

「はい。その通りです」


 パズルのピースが上手くハマっていくような感覚…。恐らくやったのはメリルだ。メリルの性格を考えれば恋敵であるクロナを邪魔と判断し排除に動く事も容易に想像出来る。メリルの命令でローウェン卿が動いたのだろう。


 俺の勝手な予想だが、タケシさんはハーレムメンバーが5人もいたが本命はクロナだったんじゃないかと考えている。俺の予想の元となっているのはサーシャの存在。彼女はタケシさんとクロナの間に産まれた子供だ。つまり…それだけ愛し合っていたという事だろう。

 子供の事など考えずにヤリまくっていたとかなら、今の話はナシだ。俺の中のタケシさん像が壊れない事を祈る。


 一つ一つのヒントが上手くハマり俺の中でパズルが完成した(答えが出た)。メリルが動いたのはクロナが妊娠した…あるいは子供を産んだタイミングだと思う。恋敵に先を行かれる事を嫌ったメリルが妊娠中か、子供を産んだばかりのクロナを国外に追い出した。その役目を背負ったのがローウェン卿…じゃないか?

 合ってるんじゃないか、これ…。


「ローウェン卿はあの日の事をずっと悔いておいででした。仕える主の命令とはいえ赤子を手にかけたと…」

「赤子に手をかけた…だと」

「はい。クロナさまと…我が国で英雄として語られる一人『動けるデブ』のタケシさま、ご両者の間に産まれた赤子を…殺めてしまったそうです」


 ───やっていい事と悪い事があるだろ。ふざけろメリル。

 

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