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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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124.姉の思い

 ノエルの案内で通された部屋は俺の予報とは異なり、応接間ではなく彼女の私室だった。確認すれば『僕の部屋だけど、何か問題でも?』と短く返された為、何も言えず閉口した。ノエルの私室に通された時点で先の展開が予想できたが、一先ず話を進めよう。


「話は聞いていたよな、ノエル」

「その確認は必要かい?無駄なやり取りは凡人のする事だよ」

「念の為な、聞いていなかったらもう一度説明しようと考えていた」

「まぁいいさ。カイルの問いに答えるなら肯定だね、ちゃんと聞いていたよ」


 ベットに腰掛けたノエルが左耳につけたイヤリングに触る。まだ彼女が幼い頃に俺がプレゼントしたイヤリングだな。注視すれば微かに魔力を感じる。盗聴器の受信の役割をしているのがあのイヤリングという事か。


「確認だけど、君は何も思わないのかい?」

「盗聴の事か?今更追求するのはそれこそ時間の無駄じゃないか?俺はノエルに聴かれている事を受けて入れているし、何よりノエルには誠実でいたい。隠し事はしたくないからな」

「君がいいなら、それでいいよ」

「盗聴器のお陰で助かってる事もあるし、今回のように説明の手間も省ける。俺がノエルに直接会って話すよりも先に、ノエルが動けるのも利点だと思ってる」

「物好きだね」


 盗聴器を外したらどうなるのか考えたら怖かった為、外さなかったというのもある。常時ノエルに会話ややり取りを聴かれているのは確かに不便ではあるし、常に気を使わないといけないが…ある意味でこの盗聴器がノエルを安心させる役割を果たしていると言っていい。

 特に婚約者がいるにも関わらず、別の女性と肉体関係を持つようなクズを信用するのは難しいからな。本当に最低な男だな俺は。死にたい。


 落ち込んでも仕方ないか。何よりこういった無駄な事をノエルは嫌う。彼女の機嫌が損なうような事はしたくないし、話を進めるとしよう。


「俺の要件は凡そ把握していると思うけど、一応目を通しておいてくれ」


 ノエルに近づき鞄から取り出したサーシャからの手紙を彼女に手渡す。受け取ったノエルが手紙を一瞥した後、ベットの自分の横をポンポンと叩いた。そこに座れって事だろう。

 腰に差したデュランダルを壁に預けてから、ノエルの望み通りに彼女の横に座ると直ぐさま肩にもたれかかってきた。珍しい行動だと驚きつつ、甘えたい気分なんだろうなと勝手に結論づけた。


「亡くなった者が蘇るなんて事は本来ありえない事だから、僕たちに手紙を出すのは分かるさ。けどね、生きていたって事を記すには中身がスカスカすぎないかい?」

「最初に届いた手紙と比べると明らかに内容は軽いからな。サーシャが普段通りに戻ったと思えば、手紙の真偽が分かるんじゃないか?」

「まぁいいさ。あの女にいくら言っても無駄な事は分かったからね。トラさんが生き返ったという事だけ分かれば十分だよ」


 ノエルが文句を言う理由が分からない訳ではない。トラさんの訃報を知らせる手紙との温度差が凄いからな。トラさんの死にショックを受けていた彼女からすれば怒って当然だろう。

 『返すよ』と綺麗に折りたたまれた手紙を渡されたので鞄にしまっていると、ノエルが少し考えるような素振りをした後、上目遣いでこちらを見つめてきた。


「カイル、僕に何か隠し事をしてないかな?」

「隠し事?」

「そう、僕だけでなくダルやエクレアにも言ってない事があるんじゃないかい?」

「分かるのか?」

「どれだけ僕が君の事を見て、その声を聞いてきたと思ってるのさ。隠し事だって僕には分かるよ」


 碧眼が真っ直ぐに俺を見つめている。隠し事は許さないよと目が語っているようだ。俺の個人的な想いだけで言うならノエルに隠し事はしたくない。だが、言いたくても言えないのが現状だ。魔王のせいで相談もろくに出来ないな。


「もしかして、言えない事なのかな?僕が相手でも」

「ノエルにだけは伝えたいという想いはある。けど、言えない」

「隠し事はしたくないって言ってたのは嘘かい? いや、言わなくてもいいよ。訳ありって事くらい分かるさ」

「すまない」

「謝罪が欲しい訳ではないんだけどね。まぁいいや、無理に聞き出しても仕方ないし言えるようになったら僕に言いなよ。けど、一人で抱え込まないようにね。君は僕と違って凡人なんだから」

「分かっているさ。気を使ってくれてありがとう、ノエル」


 フンッと鼻を鳴らしたノエルが俺から少し離れたと思えば、ゴロンっとベットに転がり俺の膝に頭を預けてきた。俺が膝枕をしているような状態だな。

 前世では───に膝枕をした覚えがある。───? 誰の事だ?ノイズが走って邪魔をされた。思い出してはいけない事か…。気分が悪くなる前に切り替えよう。

 心を落ち着かせるように深く息を吐いていると、こちらを見上げてくる碧眼に俺の顔が映った。心配そうなノエルの表情も相まって顔色が悪く見えた。実際に胃が痛かったりするから体調が良いとは言えないか。


「大丈夫かい?」

「いつものヤツだから…まぁ、大丈夫だよ」


 胃痛の種ばかり増えるにも関わらず、一向に問題が減らないのはなんでだろうな?1つ解決したと思ったら2つくらい増えてる印象だ。そう考えると俺の胃は意外と丈夫だったりするのか?


「ねぇ、カイル」

「なんだ?」

「あの子は…セシルは亡くなったんだね」


 ───くだらない事を考えていたのもあって、不意にノエルから振られた話に思考が止まった。


「状況は聴いていたから知っているつもりだったけど、実際にこの屋敷に帰って来ると実感するね。僕は弟を亡くしたんだね」


 家族としてセシルと過ごした時間は当たり前の事ではあるが、ノエルの方がずっと長い。幼少期の頃から今に至るまでの俺の知らないセシルを知っているだろう。この屋敷で過ごした日々も、姉弟として過ごした日々もノエルの手の届かない所で唐突に終わりを迎えた。

 すぐ側でセシルの最後を見届けた俺よりもただ聴く事しか出来なかったノエルの方が悲しみは深いかも知れない。


「護れなくてすまない」

「敵ならともかくエルフ(味方)の犯行だからね、いくら君でも難しいと思うよ。」

「…………そうは言ってもな。セシルから離れていなければ救えたと思うんだ。セシルを一人にするべきじゃなかった」

「君が後悔しているように僕も…。いや、考えても仕方ない事だね」


 ノエルが何を言おうとしたのかは想像がついた。セシルに自分の代理を頼まなければ今回の騒動に巻き込まれなかったんじゃないかと…そう考えたんだと思う。ノエルの代理として勇者パーティーに加わらなかった場合、セシルは教会の重鎮として『聖地エデン』に向かっただろう。

 ドレイクの『聖地エデン』への襲撃には遭うが死ぬ事はないと思う。セシル自身が優れた神官だからな…。勇者パーティーに加わらなかったら、セシルは死ななかった。いや、俺と関わらなければ死ななかったが正しいか。ミラベルにとって俺とセシルが一緒に行動するのは不都合だったんだろうな…。


「セシルがいなければ…俺は前に進めなかった」

「…………加護の事かい?」

「加護について全く分かってなかったからな。セシルの助言がなければ後回しにしていたと思う。それにセシルが行動に移さなかったらテルマの襲撃を防ぐ事は出来なかった」

「あの子は…国も…カイルの事も救ったんだね」

「救ってくれたよ…俺よりも多くのものを」


 同時に、セシルがいなければテルマが救えなかった現実も存在する。セシルが俺の加護の解く為に動いてくれなかったら今もタングマリンでトラさんの義手が出来るのを待っていただろう。テルマの襲撃に気付く事もなく…。


「今はそこに居るのかい?」

「あぁ、このネックレスにセシルの魂が宿っている」


 ノエルの伸ばした手がネックレスに触れる。セシルの最後をその目で見ていなくても聴いていたからこそ、まだネックレス(そこ)にセシルがいるとノエルも分かっている。


「そんなにカイルの事が気にいったのかい?僕の婚約者だって言うのに…好きになっちゃったのかな?」

「…………」

「ねぇ、カイル」

「なんだ?」

「もし、夢の中にセシルが出てきたら伝えてくれないかな? 夢の中でなら…僕の事を気にしなくていいよって」

「それは…」

「僕がセシルに出来る唯一の事だと思うんだ。あの子の背を押してあげたくてね。だから、君も夢の中だけは…僕の事を忘れてセシルと接して欲しい」

「…………分かった。次に会った時に伝えるよ」


 伝えなくてもセシルはきっとこの会話を聞いている。ノエルの想いも彼女に届いているだろう。

 嗚呼…、夢の中でセシルに会ったとノエルに伝える事が出来たらどれだけ彼女の心の重荷を軽くする事が出来るだろうか…。伝えたい…けど、それもまた出来ない。ミラベルはどういう訳かセシルを危険視している。夢の中でセシルと会ったとミラベルの耳に入ればどうなるか…、警戒するだろうな。俺だけでなくまたセシルに危険が及ぶかも知れない。軽率な行動は慎むべきだ。


「ねぇカイル」

「どうした、ノエル?」

「今日はこの屋敷…僕たち以外誰もいないんだ」

「そ、そうなのか…」


 気のせいだろうか、空気が変わった気がする。ノエルが俺に向ける視線がやけに熱っぽい。流石にここまでされたら察するな、俺でも。


「夢の中ではセシルを…。でも今は現実だからね」

「……そうだな」

「だから、今は僕を愛して。他の女に手を出した分…いっぱいいっぱい、君の愛を僕に注いで。愛しているよ、カイル」


 ───ここから先の展開は割愛するとしよう。

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