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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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121.錆びた槍

 窓から陽の光が差し込んでいる。朝だ。何時ものならスムーズに起きられるのだが、どうも目覚めが良くない。夢が原因だろうな。


「起きましたか、マスター」

「あぁ、今起きたよ」


 夢の中でティエラの夫(テスラ)と会ったよと言えばどんな反応をするだろうか? ちょっとした好奇心が湧いてきたが、夢の中でのやり取りを思い出して好奇心に蓋をする。出来るだけ不自然ではないように心掛けないとな。

 寝ている体勢から起き上がったが、着替えや食事を済まそうという気分にならなった為ベッドに腰掛けたままティエラに話しかける。呼ぶ時はデュランダルと呼ばないといけない。間違えないように気を付けよう。


「なぁ、デュランダル」

「なんですか?」

「今までもセシルやルークのように魂が道具に宿る現象があったんだろ?」

「はい、事例として確認されていますね」

「その人たちに終わりはあると思うか?」


 目が覚める前の二人のやり取りが頭の中に過ぎっている。『夢現(ゆめうつつ)』と呼ばれる事象、それ自体が魂の流れに逆らった罰であり魂が宿った道具が朽ち果てるまで死ぬ事も出来ないとテスラは言っていた。場合によっては生き地獄を味わう事になるだろう。それはあまりに酷だ。

 俺の役に立ちたいとその想いで現世に残ったセシルに、俺ができる事はあるのだろうか?


「道具が壊れた後、夢に出てこなくなったという話は聞きますがそれが終わりであるかまでは断定出来ません」

「そうか⋯」

「道具から魂を抜き取る術がない訳ではありませんが」

「オススメはしない訳だな」

「抜き取った魂がその後どうなるか分かっていませんので。セシルさんの事を思うのなら他の手段を探すべきかと」

「そうなるか」

「はい」


 またする事が増えたな。出来ることならセシルにも幸せになって欲しい。俺のせいでセシルが悲しむような事態は避けたいと思っている。


「何かあったのですか? 昨夜とはまた印象が変わったように思えます」

「分かるか?」

「少し表情が硬いように見えます。しっかりとした睡眠が取れなかったのですか?」

「デュランダルには隠し事は出来ないな。夢の中で少しあってな」

「夢の中?」

「⋯⋯夢の中に出てきたんだ、ディアボロが」


 テスラとセシルが夢に出てきた事をデュランダルに共有するのはアリかナシかと天秤にかけ、ナシの方に傾いた。夢の中とは違い今のやり取りもミラベルは見ているし聞いている可能性が高い。不用意に警戒させる必要はないだろう。

 ディアボロが夢の中に出ててくるのと、セシルが夢の中に出てくるのとでは意味が変わるからな。テスラに関してはノーコメント。あんなふざけたやり取りをした事もあって少しばかりティエラと接するのが気まずい。


「以前、マスターを襲った四天王ですね。なるほど、また夢の中でマスターに危害を?」

「いや、以前交わした約束を待っているから早く見つけろと催促してきた」

「マスターとの一騎打ちが希望でしたっけ?戦闘狂ですね」

「それは否定出来ないな。それで俺が見つけやすいようにヒントをくれたまでは良かったんだが、問題も起きてな」

「何かあったんですか?」

「ユニコーンがディアボロに捕まったらしい」

「あっ」


 それだけで察する事が出来たらしい。世界樹を救う為には水の精霊の浄化の力が必要だ。だが、水の精霊の居場所を見つける事は出来ない。唯一の手段として上がったのがユニコーンなのだが、肝心の性獣(ソレ)がディアボロに捕まっている。何なら拷問も受けているようだ。

 ユニコーンを救うにはディアボロとの決着を付けないといけない。なんだこれは?改めて何をするべきか考えると、昔にやったゲームの回りくどいイベントのようになってしまっている。


 これをディアボロの件から順々に解決(クリア)していかなければ世界が滅亡してしまうのだからタチが悪い。嫌な人質を取られたな。


「それでディアボロは何処に?」

「ジャングル大帝のニビルという村に潜伏するそうだ。ここまでの大ヒントを与えるから必ず見つけろって事だろう」

「マスターだけで闘うのは私としても⋯」

「俺とのタイマンがディアボロの望みだからな。それにディアボロと交わした約束でもおる。不義理をするつもりはない」

「分かりました。なら私からはこれ以上は言いません」

「助かるよ」


 昨日もそうだったが、今日も色々とやる事がある。何時までもゆっくりと休んでいる訳にはいかない。

 ディアボロの件を仲間やジェイクに共有して、出来るだけ早くジャングル大帝に向かわないといけない。今も世界樹は呪いに苦しんでいる。


 同時にサーシャから届いた手紙の内容も仲間たちに伝えなければ。俺と違ってエクレアたちはトラさんが生き返った事を知らない。今も悲しんでいる可能性がある。特にノエルには早めに伝えるべきだと思う。俺が思っているよりもずっと責任を感じているように見えた。

 今日の用事を再確認して、素早く着替えを済ませて机においてあったデュランダルを手にする。


「まずはジェイクさんの所ですか?」

「そうなるな。世界樹の事を考えれば出来るだけ早くジャングル大帝に向かわないといけない」

「勇者パーティーがエルフの国(テルマ)から離れる事に民衆の方々が不安に思うかも知れませんが、世界を救う為にやむ得ませんね」

「ジェイクに頼んだ事も無駄になったと思うし、それを含めて伝えるよ」


 ユニコーンをおびき寄せる為に性獣が求める処女の助けが必要だった。ジェイクには遠回しにユニコーンに会うため、『審判』の魔法が使える女性の神官に助力を得られないかと尋ねた。

 ジェイクの知見は俺より優れていたらしく、ユニコーンって単語だけで察したらしい。直ぐに教会の者に確認すると昨夜言ってくれた。


 それもディアボロがユニコーンを捕らえた事で無駄になりそうだな。決着さえ着けばおびき出す必要もなく、ユニコーンに会う事が出来るわけだ。


「念の為、処女の神官にご同行願っては?」

「必要だと思うか?」

「ユニコーンが逃げ出す可能性がない訳ではないですし、処女以外には汚い言葉を浴びせて会話にならないとも」

「面倒だな」 

「性獣ですので」


 二人揃ってため息を吐いた。神官に関しては引き続きお願いしよう。一先ず、ジェイクに会ってディアボロの事を伝えよう。

 まだ朝早いこの時間なら屋敷にいる筈だ。用意された客室を後にして、広間まで行けば使用人の姿が見えた。挨拶を交わしてジェイクの居場所を聞けば日課の鍛錬で裏庭にいるそうだ。

 使用人のエルフにお礼を言ってからジェイクのいる裏庭へと向かう。


 手入れのされた花壇や木、池のあった表庭と違い裏庭は殆ど何もない。屋敷を囲う塀と大きな岩がぽつりぽつりと置いてあるくらいだ。

 言い方は悪いが殺風景な光景だった事もあり、ジェイクが裏庭の何処にいるから一目で分かった。

 彼の元へと向かっていると足音で気付いたらしく、振り返ったジェイクが爽やかな笑顔を浮かべこちらに会釈した。


「鍛錬の邪魔をしましたか?」

「ただの日課ですのでお気になさらず。それよりも私に用事あって此処に来られたのでは?」

「分かりますか?」

「ええ。わざわざ裏庭にまで来るという事は急用でしょう。カイル殿の時間を割いてまで鍛錬をする訳にはいきません。お話はこの場でも大丈夫ですか?」

「こちらこそジェイク殿の時間を割いてしまって申し訳ない。色々と便宜を図ってもらっているというのに」

「それはお互い様ですよ」


 本当に品の良い笑い方をするな。見ていると安心するような柔らかな笑みだ。先程まで鍛錬に使っていたであろう槍を近くの岩に預け、改めてこちらに向き直った。

 用件を言おうとしたが、ジェイクが岩に預けた槍に気を取られ言葉が出てこなかった。


 ───錆びた槍だ。


 テルマの有力者であり、騎士として見てもこの国で一二を争う猛者であるジェイクが使う槍としてはあまりに不釣り合いに見えた。

 あの槍では魔物を倒す事も出来ないんじゃないか?実戦用ではなく、鍛錬用の槍? それにしたってあそこまで錆びた槍を使う必要はないだろう。


「あの槍が気になりますか?」


 視線に気付いたらしくジェイクが岩に預けた槍を見て照れくさそうに笑った。


「見ての通りみすぼらしく、刃も錆びてしまった槍なのですが⋯一応私の愛槍なんですよ」


 岩に預けていた槍を手に取り大切そうに扱う姿からそれが嘘偽りのない言葉であると理解した。もしかしたら思い入れのある槍なのかも知れないな。俺もリゼットさんに貰ったナイフは今も持っている。戦闘には使えないから鞄に大切にしまっているだけだが。

 ジェイクはこの様子だと戦闘でも使っているのだろう。あの槍で魔物や魔族───先の騒動ではドレイクとやり合ったのか?


「カイル殿、お時間はありますか?」


 錆びた武器で魔力で強化された肉体を切り裂くのは難しいだろうなと、錆びた槍での戦闘について考えていると真っ直ぐにこちらを見つめるジェイクと目が合った。真剣な表情だ。


「そうですね、一刻を争うような急ぎの用件ではないので時間はありますよ」


 ディアボロの件を伝えるのは早い方がいいが、一分一秒を争うようなものでもない。トラさんの事を仲間に伝えるにしても朝早く向かうのは流石に野暮だろう。

 剣士として勘ではあるが、ジェイクが何を望んでいるか何となく察してしまった。


「もし、よろしけばですが⋯」

「闘いますか?」

「ええ、出来るならば」


 俺がデュランダルを鞘から抜けた嬉しそうに笑みを浮かべ槍を構えた。ジェイクの深緑の瞳が俺が映っている。

 こうして武器を持って向き合う事で気付いた。俺を見てはいるが、別の人物の姿を重ねて見ているな。恐らく⋯ローウェン卿か。俺と闘う理由が分かった気がした。


「では、参ります!」

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