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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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Episode5.デュランダルの憂鬱 中編

書籍化決定致しました!!

全ては読んでくださる皆様の応援のお陰です。ありがとうございます。


出版はKADOKAWA様。発売日は来年予定です。

 私の目の前にいる男は清潔感のある見た目をしているが、与える印象が見た目に反して良くない。短く整えた明るい色の栗毛、開いてるのか閉じているのか分からない程細い目と、弧を描く口元。後で分かった事であるが口元に手を添えて笑う癖がある。

 足元まで届く紺色をローブを身に纏い、右手には宝石の埋め込まれた大きな杖を持っていた。


 一言で言ってしまえば胡散臭い。


 何度かやり取りをしたドワーフの者と比べると華奢な体格をしている。肉体はあまり鍛えていないようだな。

 種族の特徴としてドワーフは小柄ではあるが筋肉質な者が多い印象だが、全てがそうという訳ではない。目の前のドワーフ───エトナのような者もいるだろう。

 ドワーフにしては身長が高い。あくまでも目算だが、百七十あるかないかくらいだな。私と身長は然程変わらない。一般的なドワーフと比べれば頭一つ分は身長に差がある。


 注視するように視線をエトナが持つ杖へと向けると微かに魔力を感じた。最近ドワーフの間で流行り始めた魔導具という道具かも知れない。まだ実戦で使える程の代物はないと、首長は言っていたが真偽は不明だ。

 私たち魔族とドワーフの関係は所詮、利害一致の損得関係に過ぎない。魔族が滅びれば次はドワーフと獣人だ。私たちが前線に出て盾になっている間に力を付けるのが目的だろう。

 こちらも助力を必要とする立場、ドワーフが魔族を利用するように私達もこいつらを利用する。


 交渉用に連れてきたレオパルドに視線をやると小さく首を横に振った。何事かと思えばレオパルドの隣にいたコバヤシに耳打ちをしている。『テレパシー』で私に伝えるつもりか? 随分と回りくどい事をしているが、それほど重要な事をレオパルドは聴いたのかも知れない。

 魔族でもレオパルドしか使える者がいない特別な魔法『読心』は読んで字のごとく、対象の心を読む事が出来る魔法だ。交渉事では相手が何を考えているか丸分かりであり、常にこちらの優位で話を進める事が出来る。

 エトナの心を読んで何か分かったのか? その答え合わせをするように間を置かずにコバヤシの『テレパシー』が私に届いた。


『ティエラ、よく聞いて欲しい。目の前のドワーフの男⋯エトナは君のファンらしい』


 何を言っているだコバヤシ(こいつ)はと、頭の中に響いた声に文句を言いたくなった。残念ながら嘘ではないらしい。エトナの顔を見れば、どことなく嬉しそうに頬を緩めている。


「いかがなさいましたか?」


 怪訝そうな表情に変わったが声は弾んでいる。ため息をつきそうになった。首長はどうしてこいつを案内役と交渉役に選んだんだ?


「大した事ではない。それで、名乗りは必要か?」

「高尚なお名前でしたら存じて上げております。魔王陛下のお名前を知らぬ者は我が種族におりませんよ。ただ、お連れの御二人は」

「知らないか」

「世間知らずを恥じるばかりです」


 恐縮するエトナの様子にコバヤシか楽しそうに笑い声を上げた。


「ティエラに比べれば僕たちはまだまだって事だね、レオパルド。君も慢心したらいけないよ」

「おれは別に慢心なんかしてない」

「『複合魔法を使えるおれに敵などいない』ってこの間豪語していたじゃないか?クロヴィカスが生意気な餓鬼って顔を顰めていたよ」

「あのオッサンは弱い癖に五月蝿いから嫌いだ。おれに文句を言うなら戦果をあげてから言えば言い」

「その様子だとクロヴィカスを挑発したんたね?道理で苛立った様子でエルフ共の元へと向かった訳だ」


 二人のやり取りを見ていたエトナがボソッと声を漏らしたのが耳に入った。あれが『悪童』と『校長』か、と。

 コバヤシの異名のインパクトが弱いな。今更ではあるが何故その異名にすると決めたのかが私には理解出来ない。残りの二人の四天王、ドレイクとバージェスと比べても明らかにコバヤシだけ浮いている。

 ある意味で目立つ立場と言えばそうなるか。


「申し訳ございません。四天王の御二方とはつゆ知らず」

「気にしなくて構わないよ。僕たちからすればその方が都合がいいからね」

「油断してくれた方が楽に殺せる。見た目に惑わされて死ね」

「その言い方だと彼に言っているように聞こえるよ。後でテスラから教育を受ける必要があるね」

「おれには必要ない」


 『読心』は便利ではあるが、こういった場にレオパルドを連れてくるのはまだ早かった気がしてならない。連れて行くのを決めた際に交渉中は一切喋るなと言って聞かせたつもりだが⋯。

 テスラも連れてくるべきだったか? 第二の父と呼んで慕っているテスラの言葉ならレオパルドも従っただろう。


 タラレバだな。テスラはバージェスと共に人間たちから奪った砦の防衛に向かっている。戦闘面はバージェス一人でも十分だが、部下を従えての防衛戦となるとテスラの力が必要になる。

 あの二人が防衛している砦を落とされれば、奪った領地が再び人間たちの物になる事を考えればテスラを連れて行くのは戦術面から見ても愚行だ。


「それで今回私たちを呼んだのはあの遺跡に案内する為か?」

「その通りでございます。遺跡の名を『クロ遺跡』、わたくしたちドワーフも長年この地に住んでいますが、誰が造ったかも分かっておりません。ただ、一つあの遺跡が魔族にゆかりのある地である事だけは知っております」

「魔族の王族が拠点にしていた遺跡だったかな?」

「その通りでございます」


 他の種族同様に魔族にもまた王族はいた。だが、遠い昔に魔族が奴隷の身に落ちた事で王族の血は途絶えたと言われている。

 コバヤシはそれを否定し、私こそが魔族を統べる王族の血筋だと言う。バカな話だ。


「なるほどね、君の目的が分かったよ。ティエラに剣を抜かせるつもりだね」

「流石は『校長』の異名を持つコバヤシ様ですね、その通りでございます」

「どうやら僕は君と仲良く出来そうだ。よろしく頼むよエトナ君」

「皆様方とはより良い信頼関係が築けたらと思っております」

「それはドワーフの為かい?」

「あるいはわたくしの為かも知れませんね」


 二人揃って悪い顔をして笑っている。相性が良いのかも知れないなこの二人は。


「さて、お話はここまでにして『クロ遺跡』までご案内いたします。剣についての話は道中にて」

「分かった」


 先導するように歩き出したエトナの後に続く。案内と言っても既に遺跡の全容も見えており、入口までさほど距離は離れていない。待ち合わせの場所を此処に選択した時点で狙いは分かっている。


『ティエラ、先程言った事は決して冗談でも笑い話でもないんだ。彼は君に憧れている。奴隷の身から立ち上がり魔族(どうぞく)から王として崇められている君に。君のようになりたいと心から願っている』


 王になりたいと願っている⋯か。私は別に王になるつもりはなかった。ただの奴隷の身に堕ちている事が気に食わなかっただけだ。

 魔族が立ち上がれたのは魔法の共有を果たしたコバヤシのお陰だ。本来ならばコバヤシが王として立つべきだった。

 何故、エトナは王になりたい?野心か?あるいは今のドワーフの首長が気に食わないのか。


『彼はね、ドワーフの王族の血筋なんだ。だけど王にはなれない。それがもどかしくて仕方ないのさ』


 人間とエルフと違ってドワーフは国を興していない。種族として纏まってはいるが領地も小さく、勢力としての力も人間とエルフには遠く及ばない。ドワーフの長が王と呼ばれるよりも首長と呼ばれる事を望むのはそれもあるだろう。

 ドワーフ(彼らに)にとって今は雌伏の時だ。魔族(私たち)を援助しながら、二大勢力の力が衰えるのを待っている。国を興した時、首長は王を名乗るかどうか。


 ───時折振り返り、こちらの様子を見ながらエトナが歩みを進める。その後に続く私の傍にレオパルドが近寄ってきた。

 小声で私にだけに伝わるように小さく呟いたらしい。その声は確かに私の耳に入った。


「コバヤシのスボン破けてる。尻が見えてるよ、尻が」

魔法(さいのう)もある人望もある、王族としての権威(カリスマ)も持っている。だが、決して王にはなれない。彼の親が今の首長と結んだ契約があるから。

だからこそ彼は心の底から首長と、彼の父親であるマクスウェルを憎んでいる』


 レオパルドの言う通り、コバヤシのスボンは破けている。見たくもない尻を見てしまった。


『彼が今回僕たちを『クロ遺跡』に呼んだのは、ドワーフの為でもなく全て自分の為。魔族(僕たち)との信頼関係を築き、ドワーフが国を興したタイミングで首長の暗殺を願い出るつもりでいる。どうだい、彼は使えると思わないかい?』

「決まったぁって自分に酔ってるよ、コバヤシのやつ」


 ───連れくる人選を間違えたな。

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