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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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120.夢の目覚め

 ミラベルがそうであるように、前世の神話に出てくる英雄たちや乙女たちも神に好かれた事でろくでもない末路を辿った者は多くいる。栄光を手にする者もいれば破滅を手にする者もいる。神の求愛は人が受け入れるには余りに大き過ぎるものなのだろう。

 俺もまた他人事ではない。気を付けてどうこうなる問題ではないが、気を付けるしかない。

 

「世界樹を襲った狙いは二つあるんだろ?もう一つはなんだ?」

「陽動だ」

「世界樹襲撃が囮だと言うのか?」

「いや、世界樹襲撃こそがメインプランだ。神が降りて来なかった時のサブプランとして、ドレイクが世界樹を襲撃している間に魔族の手の者が王宮からある物を盗み出す予定になっている」


 王宮からだと? わざわざドレイクが陽動役を引き受けてまで手に入れなければならない物。不意にダルの顔が脳裏に浮かび上がり、連想するように1つの物に辿り着いた。

 それは隣にいるセシルも同様だったらしい。声に出したのは同時だった。


「「国宝」」


 国宝───即ち、神が創った神器。

 エルフの所有する神器は二つであり、その内一つは消息不明となっている。残る一つは『ノームの盾』。

 『ノームの盾』の能力までは分かっていないが、それが魔族の手に渡ればどうなるかは馬鹿でも分かる。


「そうだ。ドレイクがエルフの騎士を引き付けている間に神器を盗む段取りになっている。作戦通りに事を運んだのなら魔族の手に『ノームの盾』が渡っているだろう」


 セシルの視線がこちらに飛んできた。言わんとしている事は分かる。俺に確認したいのだろう。本当に『ノームの盾』が盗まれたのかどうか。残念ながら俺はその答えを持ち合わせていない。襲撃の後の状況はジェイクから相談という形で情報を仕入れているが、王宮に魔族が忍び込んだ事や国宝が盗まれたなんて話は聞いた事がない。

 盗まれた可能性はあるだろうか? 王宮には世界樹と同様に結界が張られている。それを破って中へと侵入し、神器を盗むなど魔族と言えど至難の業だ。それこそ四天王クラスの魔族じゃなければ出来ないんじゃないか?

 ドレイクですら世界樹の結界を壊す事は出来なかった。盗まれた可能性は低いと信じたいが…。


「セシルも俺とジェイクのやり取りは聞いていたな」

「はい」

「俺は神器を盗まれたなんて話を聞いた事がない。世界樹同様に結界も張られている。『ノームの盾』は盗まれていないんじゃないか?」

「そうですね。王宮の結界は世界樹のものよりかは強度は劣りますが、その護りは魔王の攻撃すら防いだと言われています。それに結界の性質として『悪の魂』を持つ者を拒みます。魔族では侵入は不可能かと」


 結界についてはセシルの方が詳しいだろう。彼女が豪語するのであればサブプランの方は失敗したと考えてもいいんじゃないか?


「盗まれたかどうかは今は議論せず、夢が醒めてから確認するといい。それと、報告がなかったから盗まれていないなんて、甘い考えは捨てておけ。盗まれた事実はエルフにとって知られたくない情報だ。当然、隠蔽するに決まっているだろう」


 テスラの言い分も一理ある。仮に盗まれていたとして、それを俺たちに伝えるかどうか?

 神器の持つ力は強大だ。神器の有無で国のパワーバランスが崩れると言われる程だ。『ロンギヌスの槍』が所在不明となっている現在、エルフの国(テルマ)に残された神器は『ノームの盾』だけ。

 残された神器が盗まれたとなるとテルマは神器を全てを失った事になる。その事実が他国に知られればどうなるか。テスラが言うように隠蔽する可能性が高い。


「盗まれたかどうか議論するのは水掛け論か?」

「どちらの可能性もあり、その核心と言える情報がどちらもない。議論した所で答えは出ない。夢が醒めたら小僧が探れ」

「僕もその方が良いと思います」


 となるとジェイクに探りを入れるしかないか…。国に仕える騎士である彼が俺に答えてくれるかどうか。

 ノエルに頼むべきか? 彼女は教会の重鎮であり、エルフの国(テルマ)においても影響力を持つ。人間である俺が探るより、同族であるノエルが確かめた方が正確な情報が手に入るだろう。

 トラさんの件で傷心しているノエルに頼むのは気が進まないな…。いや、待てよ。トラさんは死んでいないからな。その事も伝えないと。言ったらどうなるかな? 怒る気がするな。言いたくなくなってきた。


「それで、肝心の神器を盗んだ理由はなんですか?答えてください」


 サーシャの手紙の内容に対して怒るノエルの姿を幻視して俺が胃を痛めている最中にも、セシルがしっかりと話を進めていた。聞きたい事を聞いてくれるのは本当に助かる。本当に心強いな。


「天界へ行く為だ」

「天界に?」

「そうだ。神が住む場所と言われている天界は次元の狭間によって隔離された世界に存在する。次元を超えた先にある世界だ。普通の方法では行く事は出来ない」


 以前、ティエラに聞いた時に言っていたな。天界に行く手段はある。だがそれは神の招待を受けない限りは無理だと。

 テスラの言い分ではそれ以外の方法だな。神に招待されてではない、恐らく神器を使って天界へと向かう気だ。


「だが、天界へと向かう手段は確かに存在する」

「神に招待される以外にもあるのか?」

「分かっていて聞いているだろう?答えは神器だ。神が創った5つの神器を身に纏っていれば天界へと向かう事が出来る。『ウンディーネの首飾り』『ノームの盾』『イフリートの鎧』『シルフの靴』そして『ロンギヌスの槍』

特に鍵を握るのは『ロンギヌスの槍』だ」

「そんな方法聞いた事ありませんが」

「俺もセシルと同意見だ。本当に神器を使えば天界へ行けるのか?」


 俺の問いかけに対してテスラが首を横に振った。否定しているのか?という事は本当は天界に行けないとかか?


「残念ながらやり方を話す時間はない。今は黙って俺の話を聞け」


 時間がない。何度も聞いた言葉ではあるが、今回ばかりは本当に残された時間が少ないらしい。テスラと、隣にいるセシルの姿が先程よりも薄くなっているようにも見える。目覚めが近い証拠だな。


「その前に1つだけ聞かせろ。その情報はどこで聞いた」

「タケシとかいう小僧がミラベル(腐れ外道)から聞き出した情報だ。あの小僧は嘘を見抜く能力に長けていた。情報は確かだろう」


 なるほど情報源はミラベルか。そして聞き出したのがタケシさんだとするのならば、俺はその情報を信じるべきだろう。

 タケシさんが手に入れた情報という事で今すぐにでも聞きたい所ではあるが…、それはまたの機会だな。


「俺が今回の事を話したのはティエラの為だ。小僧の事を愛しているティエラでは言い出しにくい事だからな。過去の自分が出した命令が、こうして小僧を苦しめている。俺は罪悪感に苦しむティエラを見たくない、だからこうして小僧に話している」

「…………」

「その上で伝えよう。ドレイクの次の狙いは『クレマトラス』だ。今回の襲撃でドレイク側も少なからず被害が出た。直ぐには行動に移さないだろうが、態勢が整えば再び動くだろう」

「狙いは『シルフの靴』だな?」

「そうだ」


 エルフの国(テルマ)を襲ったのは神を下界に誘い出す為。世界樹を襲撃して尚、神が姿を現さないとなればドレイクもまた次の選択肢を選ぶだろう。それがティエラが下した命令であり、言い難いからと夫が代弁した訳だ。

 セシルと違いテスラは心から信用出来る相手ではない。それを踏まえて彼の発言を精査しなくてはならないが、ティエラに対する思いだけは本当のように感じた。

 

 ドレイクの次の狙いはクレマトラスか。神器集めが狙いならクレマトラスだけじゃない、ジャングル大帝やタングマリン、アルカディアを襲撃してくるだろう。


 待てよ。ほぽ同タイミングでタングマリンが襲われていなかったか? 偶然か? いや、違う気がする。


 ───魔族の狙いは神器、なのか?


 初代魔王の時代と比べれば現代の魔族の数は大きく現象している。戦い方も徐々に変わってきている事が、これまでの歴史から伺えた。

 魔族が攻勢に出た際、人間とエルフに大きな被害が出た事もある。それでも国を滅ぼすには至らなかった。何故滅ぼせなかったか?単純に勢力の力の差だ。

 その勢力差は時の流れと共に開いていく一方だろう。ドワーフや獣人が加担するのであれば話は変わるが、今の所どちらの種族も静観を貫いているように見える。

 だからこそ狙いを変えた。狙いは神を殺す事か…。そうだな、狙いとしては妥当過ぎるくらいだ。教会の信者の割合は多くをエルフが、次点で人間だ。教会に所属していない者の中にも神を信仰している者は多くいる。神に感謝を込めて毎日祈ってるんですよ、なんて宿屋のおばさんも普通に言っているくらいだ。

 神が死んだ時の影響は計り知れない。


「最優先事項は変わらず淫魔だ。まずは淫魔との決着を付けろ。その上でドレイクを警戒しろ」

「分かった」

「俺からは一先ず以上だ。小娘も言いたい事があるなら手早く言え、もう目覚めだ」

「はい。義兄さん!」


 まずはディアボロか。それは変わらないが、やる事ばかり増えていく。問題事を増やすのが得意だなこの男。

 それはさておき、もう目覚めか。テスラはともかく、セシルとの別れは惜しいな。目が覚めればもう簡単には会えない。ディアボロをこちら側に付けない限り、もうセシルと会う事は出来ない。


「信じてますよ、絶対あのビッチに勝ってくれるって」

「約束する。だから、また夢の中で会おう」

「はい!」


 言葉が汚いぞとか、言いかけてグッと抑えた。別れの言葉にツッコムのは流石に野暮だと思ったからだ。

 満面の笑みのセシルの姿を最後に二人の姿が消えていく。俺の視界もまた真っ白に染まる。









 ───会話が聞こえた気がした。


「おじさん、義兄さんの事殺そうとしてましたよね?」

「なんの事だ?」

「おじさんがナイフを取り出そうとしたのが見たから僕はおじさんを魔法で吹き飛ばしたんです。義兄さんがおじさんから距離を取った時に明確に殺意を感じました」

「所詮夢の中だ、殺す事など出来ん」

「僕はそれでも許せない」

「許せない?それは俺も同じだ。あんな複数の女と関係を持っているような優男にティエラを託す?フフフ…、ふざけるな。認める事など出来る訳が無い。誰だって同じだ。愛する者を他の者に盗られる…その光景を見ただけで殺したくなるだろう?殺意を抱いて当然だ」

「…………」

「小娘は今、何を思い描いた?お前の想い人が自分ではない誰かと愛し合う光景か?」

「それは……」

「殺意を隠すな、それが人の本性だ。誰だって大切なモノは盗られたくない、自分だけのモノにしたいと強く願うものだ。俺にとってティエラはかけがけのない存在だ。この世界で見つけて俺の生きる意味。俺の存在理由。誰であろうとティエラに手を出す事を許す事は出来ない」

「なら!どうして義兄さんにティエラさんを幸せにしろと迫ったんですか!」

「俺が死んでいるからだ。どれだけ俺がティエラを愛そうと…どれだけティエラの事を思っていようと、所詮俺は死人に過ぎない。肉体を持たない魂だけの存在だ。生きている者を幸せにする事など出来はしない」

「そんな事はないと思います」

「何が出来る?夢の中に出てくる事しか出来ない存在だぞ。待て、そう感情的になるな。確かに今のように相談に乗る事は出来るだろうな。あぁ…確かに力になれるだろう。だがな、それは幸せには繋がらない。

夢は必ず醒める。夢の中で幸せを得ても…起きればその幸せは存在しない。夢の中にしか存在しない幸せなぞ…絶望でしかないだろう」

「そんな事は…」

「ないと言えるか?目が覚めれば愛する者はいない。現実がまるで悪夢のように感じる事になるだろう。愛する者を求めれば求めるほど、夢に依存することになり、いずれ夢に飲まれる」

「…………」

「待ち受けるのは残酷な死だ。そして想い人に会いたいと願い同じ末路を進む。だがな、神はそんな事は許さない。無理矢理にでも次の世界へと送る。そして俺たちに待っているのは永遠の地獄だ」

「どういう事ですか?」

「小娘は何も知らず、小僧にまた会いたいからと魂を現世に残した。それは神の救済なんかではない、神が与える罰だ」

「罰?」

「魂の循環を崩す愚か者に与える永劫の呪い。俺たちは魂を道具に定着させた事で本当の意味で自分の意思で死ぬ事は出来なくなった。道具が朽ち果てるその時まで俺たちは生かされ続ける。想い人が先に死のうが、俺たちの事を忘れようが、ずっと生きなければいけない。見なければいけない。目を逸らす事は許されない」

「…………っ」

「本当に好きなら依存させるな。俺たちと同じ想いをさせるな。想い人の幸せを願うなら背中を押してやれ。亡人が生者にしてやれる善行はそれだけだ」

「…………はい」

「俺はティエラの為、小娘は小僧の為。お互い想い人の為に…言いたい事はあるだろうが共に今協力しようじゃないか小娘」

「僕は現世に残った事に後悔はありません。義兄さんの力になれるのなら永遠の地獄だって受け入れます。義兄さんの事が大好きだから」

「…………」

「だから義兄さんに危害を加えたら許しません。エルフを怒らせると怖いですよ」

「小僧がティエラを幸せにするなら俺は何もしないさ。利害一致の協力関係が築けるといいな」

「………………」

「………………」

「ちなみにですけど」

「なんだ?」

「どこまで本音ですか?」

「何が言いたい?」

「気持ち悪い事を色々と言ってたじゃないですか。まるで想い人を盗られる事に興奮する変態のようでした」

「バカか。全て演技に決まっているだろう。小僧が俺の事を気にせず、ティエラを幸せに出来るような俺が泥を被ってやっただけだ」

「………………」

「なんだその目は」

「………………本音を言ってください。興奮しました?」

「………………少しだけな」

「死ね変態」









 ───目覚めが良くない。何故だろうな。

漸く3章の前半が終了という。

長くなってるなー。言い訳させて貰うとするならば本来、タケシの家でのやり取りは二章でするつもりでした。

前章が間延びしているように感じて三章に話を回した訳ですが、結局間延びするという。

はい。作者がバカなだけです。


一先ず前半終了。個人エピソード『デュランダルの憂鬱』と勇者パーティーが旅に出たばかりの頃の過去の回想を一話挟んで後半にいきます。

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