表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/160

116.割り込んでくるタイプのメインクエスト

 案の定と言うべきか、俺たちの前に現れたのは魔族の四天王の一人『幻惑』のディアボロである。夢を操る淫魔である彼女ならば俺の夢に出てくる事は容易いか。

 漫画やアニメでこういったシチュエーションがあったような気がするが、それは仲の良い友人であったり恋人だったりじゃないか?

 ディアボロとは関係がない訳ではないが、決して親しいものではない。破る訳にはいかない大切な約束も確かにディアボロと交わしたが、内容はそんな生易しいものではなかった。言ってしまえば殺し合いの約束だ。次に会ったら殺すなんて彼女は言っていたな。それが今という事か?


 夢の中に唐突に現れたディアボロの存在に少しばかり動揺している。俺が探し出して見つけるつもりだったのに、あちらからやって来たというのもあるだろう。完全に油断していた。その上で今後の事をテスラとセシルの二人と話し合っている最中だった。

 内容は間違いなくディアボロに聞かれているだろう。状況として良くない。これで動揺するなというのも難しいだろう。それでも顔には出さないように心掛ける。相手に心理的優位を取られたくない。相手はそういった類のスペシャリストと呼べる相手だ。


 俺と同じようなセシルも唐突に現れたディアボロを警戒し、一挙一動を見逃さないように意識しているのが分かる。対してテスラはディアボロを上から下へと舐め回すように見た後に顎に手を当てて『ほぅ』っと声を漏らしていた。小さくティエラにも着て欲しいな等という戯言が聞こえたが聞かなかった事にしよう。


 改めて対面するディアボロを見て一つの感想が浮かび上がる。


「なんでバニースーツなんだ?」

「男ってこういう格好が好きだろう?お姉さんそういった欲望にもしっかり応えてあげるいい女だかね、サービスだよサービス」


 頼んでもいないサービスの押し売りはやめて欲しい所だ。以前会った時は改造したドレスのような服装だった。今回ディアボロが着ているのは所謂バニースーツと呼ばれるものだろう。律儀にうさ耳と尻尾まで着けている。

 俺も知識として知ってはいてもこうして実物を見るのは初めてだ。不思議と嬉しくないのは相手がディアボロだからだろう。


「下品な格好ですね。魔族の民族衣装か何かですか?」


 そんな民族衣装は存在しない。間違いなくセシルやテスラも初めて見る服装だ。この世界にバニースーツなんてものは存在しないからな。それにしたって随分な物言いだと思ってしまった。

 魔族が嫌いというのもあるだろうか。吐き捨てるような言葉と、汚物でも見るような冷たいセシルの目が少しばかり怖かった。


「おやぁ、その声は…ははは、誰かと思えば私とカイルの逢い引きを邪魔したオスガキじゃないかぁ」

「やっぱり貴女が義兄さんを傷付けた淫魔ですね。気持ちの悪い猫なで声でびっくりしました。そういうのは若いから許されるのであっておばさんがしても気持ち悪いだけですよ」

「それはオスガキにも言えるんじゃないかなぁ?好いているからって死んでまでしがみついてきてさ。ストーカーに付き纏われるなんてカイルが可哀想だよ」

「義兄さんの身体と命まで狙う淫魔には言われたくないですね。わざわざ話を遮ってまで現れて…そんなに構って欲しかったんですか? 犬でも出来る我慢が出来ないなんてやっぱり低俗な種族ですね」


 空気が重たいな。戦闘前のようなピリついた空気感ではないがなんというか居心地が悪い。全く関係ない話であったならどれだけ良かったか。

 楽しげに二人のやり取りを見ているテスラが羨ましいな。


「癖のある女に好かれるな小僧は」

「笑ってないで止めてくれないか? テスラなら可能だろう」

「可能でもしたくない事はしないな。女同士の言い争いに割って入ってもろくな目に合わん」

「確かにその通りだが…」


 セシルとディアボロの二人が殺気立っている所を見ると流石に止めないと不味いだろう。

 夢の中と甘く判断しない方がいい。ディアボロが出てきた以上、夢の中でも傷を負う事もあるだろう。下手すれば死ぬ可能性も出てきた。戦場と同じように気を張りつめるべきだな。


「二人を止めてくれとは言わない。どちらか一人を相手してくれ。お前もこれ以上時間を無駄にはしたくはないだろう」

「それもそうだな。小娘と淫魔の言い争いを見ているのも一つの喜劇として良かったが、時は有限だ。小娘の方は俺が相手をしてやる。小僧が淫魔の相手をしろ」

「助かる」


 二人を同時に相手にするというのは出来なくはないが、大変胃によろしくないだろう。加担するとしたらセシル側ではあるが、ディアボロの口撃はなかなか痛烈だ。

 ディアボロとの言い争いでセシルが悲しむよりも、相手の本題を引き出して手早く話を終わらせた方がいい。まずはディアボロの目的を知る事からだ。


「ディアボロ」

「お姉さんに用事かな、カイル」


 声を掛ければセシルとのやり取りを中断してこちらに視線を向けてきた。何か言いたげなセシルの口をテスラが手で塞いでいる光景はどこか犯罪じみているが、今回は見なかった事にして話を進めよう。


「ただの確認だ」

「んー、なんだろうね。お姉さん想像もつかないや」


 いきなり口を塞がれた事でセシルの体が強ばったが、その相手がテスラだと気付いたらしく思いっきり肘で攻撃していた。ガードが間に合わなかったらしく、『ぐふっ』と言う声がテスラから漏れている。


「本来なら俺がディアボロを探し出すつもりだった。それが夢か現実かは定かではないがな」

「そういう約束だったかな」

「残念ながら俺はお前をまだ見つける事が出来ていない。どこにいるかすら分かっていない。そんな中で夢の中にお前が出てきた。どういうつもりだ? あの時を続きを今する気か?」


 ディアボロが好んでいるのは小細工抜きの殴り合いだ。命をかけたやり取りが大好きな変わった淫魔だ。前回のやり取りから考えれば今の状況はディアボロとしても好ましくはないだろう。彼女の望む状況とはかけ離れている。

 問いかけの返答は容易に想像出来た。


「ノンノンノン。闘う気はないよ。前回と違って能力で私の世界に導いた訳ではないからね。時が来ればカイルは目覚めてしまう。朝までの時間も残り僅かだ。そんな短時間じゃ、カイルとの闘いには決着がつかないよ」


 前回が不完全燃焼に終わった。二度目も同じような形で終わるのは嫌なのだろう。言葉の節々に思いが籠っていた。


「それに、こんな状況で前回の続きをしたって燃えないじゃないか。お姉さんはね、カイルと二人っきりで命のやり取りをしたいのさ。カイルが死ぬまで殴りたい。カイルに殺されるまで殴られたい。お互いの全てを賭けた殴り愛がしたいのさ!」

「それがディアボロの望む事だったな」

「そうさ。オスガキやモヤシみたいな部外者がいる状況じゃ、お姉さんが望む闘いは出来ない。3Pや4Pはお・こ・と・わ・り」

「……………」

「そんな呆れた顔しないでよ」

「なら発言に気を使ってくれ」

「努力はしてあげようかな」


 する気はないな。確信を持てる。


「まぁいい。今の状況はディアボロが望む状況ではないだろう。何故出てきた?」

「出るつもりはなかったよ。カイルが私の事を見つけ出すの股を濡らしながら待つつもりだった」

「気が変わったのか?」

「変わったね。本当なら我慢するつもりだったけどさ、カイルがバージェスJrやドレイクと闘っている所を見てしまった。いいね!己の技に対する自信や仲間に対する信頼、譲れない信念を込めた闘い。一瞬の油断すら許されない命のやり取り…ドレイク達が羨ましかったなぁー」


 闘いを見ていたのか? そんな視線は全く感じなかったが…。あの場所にいたのは俺だけなく、勇者であるエクレアもいた。優れた直感を持つエクレアすら気付かないレベルの隠密だとしたらディアボロを探し出すのは一筋縄ではいかないな。


「私ならカイルとどう闘うか毎日考えたよ。どうやって殺そうか、殺した後どこから食べてあげようかって。それとも生かして奴隷にする? 虐めて辱めて鳴かすのも楽しそうだよね。色々考えて楽しい楽しいカイルとの死闘を夢見たよ。私は夢見る乙女だからね」

「お前みたいな物騒な乙女はいないと思うがな」

「嫌いかい?私の事が」

「嫌いではないな。好きでもない」


 面白くなさそうに『ちぇー』っと口を尖らせるディアボロ。これは本音だな。好きでもなければ嫌いでもない。珍しい事に俺はディアボロとの闘いを楽しいと思ってしまった。

 魔法の関与しない肉体だけを使うあの肉弾戦が随分と楽しかったらしい。


「さっきも言ったけどさ本当は待つつもりだったよ。いつかカイルと闘うって確定していたから。そういう約束を交わしたからね。けど、ドレイクが余計な事をしたせいで約束が後回しにされそうな気がしたんだ」


 間違ってはいない。今の最優先事項はディアボロとの闘いでも魔王の事でもない。世界樹を救う事だ。世界樹が枯れれば世界は滅ぶ。当然ではあるが敵を倒しても世界が滅びたら意味が無い。魔王の事はその後だ。


「確かめる為に夢の中でカイルたちのやり取りを聞いて、私の勘は間違ってないと証明された。先に手を打っておいて良かった」


 楽しげな口調ではあるが、目はまるで笑っていない。苛立ち…、怒りか? 感情を抑えるようにディアボロが笑う。


「世界樹はまだいいよ。世界の一大事だからね。優先したくもなるさ。けど、魔王様を探すのは違うだろう?まずは私だよ!君も転生者なら分かるだろ!ラスボスの前にその部下の四天王と闘おうよ!カイルとの闘いをこんなに待ち遠しく思ってる敵がいるんだ!

どうして後回しにしようとする!」


 殺気だけじゃないディアボロの苛立ちと呼応するように威圧感が増していく。ディアボロから溢れ出る魔力で空間が軋んでいるようだ。

 テスラに対して暴れていたセシルも威圧感に当てられたのか固まっている。セシルに殴られたお腹を抑え痛そうにしているテスラを見るに痛みがあるようだ。先程までなかった痛みがある。やはりディアボロの影響下か。


 ───第一優先は世界樹だ。それは絶対に変わらないだろう。その後は?

 ミラベルの事やディアボロの事、魔王の事。やらなければならない事は山積みであり、一つ一つ確実に対処しなければならない。行動指針は既にテスラやセシルと相談して決めた。それがディアボロにとって気に食わなかったのだろう。

 彼女の言い分が分からない訳ではない。だが、一つ言い訳をさせて欲しい。


「お前が何処にいるか分からないのが一番の原因だぞ」


 本気で潜伏した魔族を見つけ出すのは容易ではない。まだ魔王の方が探しやすいまである。5人の内の誰かが魔王だからな。消去法で減らす事で数も絞れた。後は証拠となるモノを見つけるか聞き出すだけ。そのやり方もテスラとセシルと相談して分かった。

 ここまでくれば優先するのは魔王の方だろう。ディアボロの居場所が分かったなら相手をするが…。


「そうだね。だからこうしてカイルの前に現れた。ヒントをあげる為とお姉さんと闘う理由を伝える為」

「闘う理由だと?」


 ヒントはまだ分かるが、闘う理由? 既に交わした約束以上の事か?


「世界樹でも魔王様でもない。私と闘う事が最優先事項になる理由」


 嗚呼…とてつもなく嫌な予感がする。こういう時の感は良く当たる。当たって欲しくないがな。


「カイルは世界樹を救わないといけない。その為に水の精霊の力が必要だよね」

「そうだ」

「けど、目に見えない精霊の元に辿り着く事は出来ない。それで困っていた。けど、情報を集める事で光明が差した」

「ユニコーン…」


 現状、考えうる限りで世界樹を救う方法はそれが唯一の手段と言ってもいい。ユニコーンに会う為にジェイクに頼んだくらいだ。『審判』の魔法が使える女性の神官に協力を要請出来ないかと。


「カイルが探しているユニコーンは私が捕らえている。『クソビッチが我に近付くな』なんてふざけた言葉を吐いて逃げていたけど、夢の世界で拷問にかければ捕らえるのは簡単だったよ。ここまで言えば言いたい事は分かるよね?」

「ユニコーンを助けたければお前と闘えと言う事か」


 血のように赤い唇が嬉しそうに弧を描いた。


「せいかーーーい!!だから、他の何より優先してお姉さんと命のやり取りしようね。カ・イ・ル!」


 どうやらディアボロとの一騎打ちはメインクエスト(最優先事項)に変わったらしい。誰かが思い描いたシナリオに誘導されている気分だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ