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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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112.『読心』

 二人一緒ではなく個人として考えるなら多少の好感度の差はあれど、相談相手として心強い二人だろう。ただ、二人一緒になると話が変わる。

 なんというか…相性が悪い。それは最初から分かっていた事ではあるか。エルフは対人関係が苦手な種族だ。

 忘れがちではあるがセシルも他のエルフに比べればマシではあるが選民思想はそれなりに強い。仲間の中では特にサーシャに対して当たりが強かったな。その事から嫌いな者にはとにかく強く当たるタイプだと考えられる。弱味なんかを見せたら容赦なく突くだろう。

 

「知識は大事ですよ。必ず自分を助けてくれますから。だからといってその知識をひけらかすのは愚の骨頂。ましてや知識を持たない者を嘲るのは間違ってます」

「俺が三流だと言いたいの」

「はい! 三流…いえ三流以下ですね!知識だけしか持ってませんから。魔法の知識は実践しなければ分からない事の方が多いです。それは魔法使いの常識。机の上の空論だけでは魔法は進歩しません。魔法が使えないおじさんには分からないですか?」

「……………………」

「魔法が使えない、知識しかないおじさんが義兄さんをバカにしないでください。義兄さんはおじさんよりも凄いです。だから義兄さんを見下すな!」


 セシルがテスラに対して当たりが強いのは俺が原因か。正確にはテスラの俺に対する態度が気に入らないとかそんな感じだな。

 俺の事で怒ってくれているのは嬉しいが、踏んではいけない地雷をセシルが踏み抜いている気がしてならない。


 ───マクスウェル著作の『ティエラとテスラ』。冒頭しか読んではいないが内容は頭の中に残っている。テスラは賢者と呼ばれる偉大な魔法使いの息子として産まれ、後継者として期待されて育った。

 テスラが魔法について詳しいのは賢者の後継者に相応しくある為にに勉学に励んだからだろう。だが彼は魔法が使えなかった。俺と同じだ。魔力(さいのう)がなかった。テスラは魔法が使えなかった事に絶望していた。皆の期待を背負って努力を続けてきた男だ。思い描いた将来像が崩れるような感覚だっただろうな。

 魔法が使えない事はテスラにとってトラウマに近いものだろう。決して触れてはいけない琴線か…。

 額に青筋が立っているところを見るにテスラがキレてるのは確かだ。


「恋は盲目…好きな人をバカにされたら我慢出来ないといった所か? ガキだな。感情で先走って現実が見えていない」


 まぁいいと、吐き捨てた後にセシルを見下ろすその瞳は氷のように冷たい。


「俺は魔法が使えない。それは認めてやる。あぁそうだ、使えないとも。魔法が使えないから説得力がないのなら小娘に聞いてやる。魔法が使えるお前は『読心』の魔法ついて知っているのか?」

「それは…」

「小僧が欲しい情報は魔王についての情報だ。魔王が使う『読心』がどういう魔法か、その対処法が何か分かれば小僧の心の重荷も降りるという言うものだ。俺は『読心』の魔法の知識を持っているし、小僧に教えてやる事が出来る。

だが、残念ながら俺は魔法が使えない。魔法が使えない俺では説得力がないな。代わりに魔法が使える小娘が教えてやってくれないか?」

「……っ!」

「ほら、小僧が求めているぞ『読心』の魔法がどういうものか。教えてやるといい。教えて小娘の愛しい愛しい相手を救ってやれ。

どうした?言わないのか?魔法が使える小娘なら説得力のある助言が出来るんじゃないのか?」

「…………うぅ」


 徐々に涙目になっていくセシルの様子にこれ以上はダメだなと割って入ることにした。こういった所はノエルに似ているな。やはり姉弟か。

 昔、サーシャに言い負かされたノエルもあんな感じになっていたな…。


 魔法が使えないという点で強く出たはいいが、今回ばかりは相手が悪かった。魔法が使えない事にテスラも何かしら思う事があるのは確かだ。その理由も分かる。

 この世界では魔法が全てだ。特に戦闘面では魔法が使えるかどうかで大きく変わる。使えない事で侮りを受けた事は1度や2度ではないだろう。セシルのように言われた事もあるだろう。それら全てを結果で黙らせてきたのが目の前にいるテスラだ。


 言ってしまえばテスラは魔法が使えないにも関わらず、魔族の一員として戦果を挙げてきた怪物だ。彼の武器は頭脳であり、その知識と心の強さでティエラを支えてきた。ティエラ曰く、テスラが死んでいなければ魔族が世界を統一していたと言い張るほどだ。

 単純な実力とは違う強さのベクトルが異なる化け物。知識だけではなく死後、何百年の時を過ごし経験豊富な怪物に舌戦で喧嘩を売っても勝てる訳がない。


「その辺にしといてくれないか?」

「俺に喧嘩を売ってきたのは小娘からだろう?俺は買っただけだ。そうだよなぁ、耳長族の小娘ぇ!」

「寝盗られ趣味のド変態の癖に…」

「言葉が弱いぞ小娘。そんな言葉では俺の胸の内まで響かん。もっとえげつない言葉でエグってみろ。それが出来ないのであれば最初から喧嘩を売るな小娘」

「ぅぅぅぅ!死ね!変態!」


 泣きながらセシルが俺の背中に抱き着いてきた所で二人の言い争いも決着。俺の背に隠れながら『バーカバーカ』と普段とは違う語彙力の欠片もない言葉を放ってはいるが、テスラには鼻で笑われていた。

 事のきっかけが俺だからな。セシルには悪い事をした…。俺の為にありがとうと、セシルにお礼を言ってから改めてテスラと向き合う。


「話を戻しても構わないか?」

「そうだな、これ以上小娘とじゃれあった所で時間の無駄だし、構わないぞ」


 楽しげに笑うテスラの様子にセシルが苛立っているのが背中越しに伝わってくる。頼むから煽らないでくれ。余計な事を言う前に話を進めるべきだな。夢の世界の時間が後どれくらいか分からない上、先の口論の間にも時間は過ぎていた。これ以上は無駄にしてはいけない。


「さて、小僧に複合魔法については説明してやってもいいが…時間が惜しいな。小僧、複合魔法については後でティエラに聞け。本で調べるより効率が良い」

「分かった」


 言い争いの間に経過した時間に関してはテスラも気にしているようだ。説明を省くという事は長くなる話だな。専門的な話になる可能性が高い。時間が取れるようならティエラに聞こう。


「既に気づいていると思うが『読心』の魔法は純血の魔族には使えない。『闇』以外にも『風』の属性を必要とする『読心』は魔族と他種族のハーフにしか使えない魔法だ」

「レオパルドがそうであるように、今代の魔王もハーフという事だな」

「そういう事だ」


 ───これに関しては考察していた事だ。驚きはない。


「魔法の有効範囲だが、実はそれほど広くない。術者を中心に半径100mが圏内といった所だ。だが、魔法の有効範囲にいるのであれば複数人の心を同時に読む事が可能だ」

「魔法の有効範囲としては十分過ぎると思うが…。ふざけた話だな。それに同時に心を読む事が出来るのは驚異だ。仲間と集まっている時は全員の心を読まれていると考えた方がいいか」

「読まれているだろうが、ずっとという訳ではない。『読心』の魔法を使っている間は常に魔力を消費し続ける。複合魔法全てに言える事だが、消費魔力は決して少なくない。ティエラに匹敵する魔力の持ち主でも長時間は厳しい筈だ」


 魔法の種類は使う際に魔力を消費するモノと使っている最中に魔力を消費するモノの二つに分かれる。俺が使う『メテオ』は前者、サーシャが移動なんかで使う『フライ』の魔法は後者に当たる。前者の方が最初に消費する魔力が多いのが特徴で、短時間だけなら後者の方が魔力効率は良いらしい。長時間の『フライ』は疲れるからあまり使いたくないと良くサーシャが愚痴っていたな。

 『読心』も同じように使っている間はずっと魔力を消費続ける訳か。使う場面は意外と限られてくるかも知れないな。特に戦闘中ずっと使い続ける事はないだろう。魔力による防御や攻撃の為に魔力を使う。『読心』にまで魔力を回す余裕はないと考えたい。流石に望みすぎか?


「レオパルドは戦闘でも『読心』を使っていたのか?」

「使っていたな。あくまでも短時間だがな。レオパルドは魔力が多い方ではなかった。それ故に短く使う事で魔力の消費を抑えていた」

「短時間でも分かるものなのか?」

「戦闘においては相手の行動を一手二手知るだけでも十分だろう。何をするか分かれば常に相手より優位に立つことが出来る。特に一番の脅威である魔法の対処がしやすくなる。剣士である小僧なら分かるだろう?」

「そうだな」


 お互いが魔法使いの場合は魔法の撃ち合いになるが、剣士の場合はまず相手との距離を詰めなければならない。対魔法使いの初歩の課題ではあるが、これが一番難しい。

 魔法の威力もそうだが、一番厄介なのは発動するまで何の魔法か分からない点だ。見極めようと思えば出来ない事はないが、詠唱や魔法陣の色や形から判断するしかない。相応の知識が必要となるな。

 中には詠唱しない奴もいるからより難易度が上がる。剣士が少ない理由がよく分かるな。この世界は魔法が強すぎる。


 ───改めて思うが『読心』の魔法は強すぎるな。対人戦において最強に近い効力を発揮している。魔族最強の剣士と呼ばれる訳だ。


「『読心』の魔法の対処法はあるのか?」

「残念だが、これといった対処法はない。『読心』の使い手の魔力が切れるか、有効範囲の外から攻撃するか…その二択だ」

「どちらも簡単にはいかないぞ」


 どういう魔法か分かったはいいが余計に頭を抱える事になるとは…。俺が使える有効範囲の外から攻撃なんて『飛燕』しかない。常に相手に手の内を読まれた状態で戦うのはいくら何でも不利すぎる。

 いや、戦い以前の問題か。『読心』によって常に仲間の心の内を知られている状態では、仲間の事を探るような怪しい行動は出来ないな…。


「あっ!」


 どうしたものかと考えていると背中からセシルの声が聞こえた。何か思い出したのか?そんなニュアンスを感じる声だった。


「ありますよ義兄さん!」

「何がだ?」

「『読心』の魔法の対処法が!」


 ───数分前の泣き顔が嘘のような、それはもう惚れ惚れするようなドヤ顔だった。

娘の寝かしつけをしてから続きを書こうとして思い、そのまま一緒に寝てしまっていた作者です。

睡魔に負ける弱者ですまない…

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