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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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108.夢の会遇

 場所は変わり、現在俺が居るのはジェイクの屋敷である。何の意図があるかは知らないが屋敷の主人であるジェイクの寝室から最も近い客室を借りている。ここに住んでくれても構わないですよと冗談を言っていたな。冗談であって欲しい所だ。

 既に日は暮れており暗くなった部屋を机に置かれた魔道具が照らしている。魔道具のすぐ近くには二通の手紙があり、その内の一つを手に取る。


 空虚感に苛まれながら広げた手紙には涙で滲んだ文字が連なっていた。そこに書かれていた文章は彼女が内に秘めた後悔を紙にぶちまけたものだ。この場にサーシャが居なくてもこの手紙を読むだけで彼女の絶望と後悔が伝わってくる。


『トラさんがあたしを庇って亡くなった』


 普段の達筆とはかけ離れた震えた字で書かれた一文。仲間の死…その死因が自分か。

 逃げ出したくなるような現実と向き合って俺たちに手紙を書いてくれた。強いなサーシャは…。


「トラさんはサーシャを庇って死んだ…か」

「ノエルさんの時と同じですね。自分の命より仲間の命に重きを置い行動しています。例え自分がどれだけ傷付いても仲間を助けようとする」

「自分より弱い者を救う為に強くなった。より多くの者を救う為に強くなる。それがトラさんの信条だからな」

「それでも死んではダメですね。あの人の代わりにいないですから。それはマスターも同じですよ」

「分かっているさ」


 サーシャが書いた手紙を机の上に置き、窓を覗けば蒼い月が空に浮かんでいた。雲一つない夜空に浮かぶ月を見るとトラさんとの思い出が脳裏を過ぎっていく。昼間にアレだけ仲間と一緒にトラさんの死を悲しんだというのに…一人になると余計にダメだな。

 ため息をついてから気分転換の為にジェイクが用意してくれた飲み物を一口飲む。俺の胃を気遣って彼が準備してくれたハーブティーのようだ。美味しいというより、温かい飲み物だ。


「そちらの手紙はまだ読まないんですか?」


 デュランダルの言葉に机の上に置かれた二通の手紙を視認する。一通は先程読んだサーシャが俺たち宛に書いた手紙。もう一通は未開封のものだ。同様に俺たち宛にサーシャが書いた手紙であり、ジェイクの屋敷に戻った際に彼から渡された。教会で仲間達と話をしている時に届いた物のようでジェイクが代わりに受け取ってくれたようだ。


「読まないといけないのは分かってるんだがな…」

「差出人はサーシャさんのようですし、大事な要件ではないですか?」

「それは分かっているんだ…。ただ、この手紙を読んだ後だと気分がな…」


 色々と重なって気が重いというのが本音だ。


 ───数時間前の話をしよう。トラさんの死を仲間に打ち明け、皆の気持ちが少し落ち着いた頃にサーシャの手紙を読んだ。

 今になって思えば先に俺一人で読んでおくべきだった。タングマリン襲撃についてサーシャ目線で書かれた手紙ではあったが、その内容はノエルにとって辛いものだった。

 トラさんが亡くなった死因はサーシャを庇ってのものであったが、右腕を失ってさえいなければ彼女は死ぬ事はなかった。いや、より正確に言うならば右腕さえあればトラさんはエルドラドに勝つことが出来た。


 魔族が襲撃を仕掛けてきた時にトラさんは試作品の義手を付け、タングマリンを護る為に戦闘に出向いた。二人の賢者によって作られた義手は元々の腕と遜色ないレベルの操作性と魔力の伝達速度を持っていた。それでも耐久性に難があり日常生活で使う分には問題はないが、戦闘で使うにはまだ心許ない。

 特に、義手を使うのは勇者パーティーの中でも飛び抜けて身体能力の高いトラさんだ。彼女の強靱な肉体に義手が付いていけなかった。

 義手の強度を上げることが二人の賢者の課題になっており、何度目かの調整をしている時に襲撃が起きた訳だ。

 

 トラさんは調整中の義手のまま魔族からタングマリンの人々を護るために飛び出していった。流石の緊急事態にサーシャも渋々ではあるがトラさんに付いていったらしい。

 トラさんに関しては流石の戦闘センスというべきか…義手の耐久性を考慮した上で身体を動かし魔物や魔族を倒していった。サーシャによる付呪も大きかっただろう。

 快進撃を進めるトラさんとサーシャの二人を止める為に現れたのが四天王のエルドラドであり、強敵との戦闘ではトラさんも義手の耐久性を考えて戦う余裕はなかった。

 

 ありきたりな不幸な話だ。サーシャとトラさんのコンビネーションで戦闘を優位に進め、エルドラドに決定打を与える絶好のチャンスで義手が壊れた。試作品の義手ではトラさんの動きに耐える事が出来なかった…。

 義手でさえでなければ…右腕さえあればエルドラドに決定打を与え二人で四天王を倒す事が出来ただろう。だが、現実はそうはいかなかった。

 

 ───トラさんはサーシャを庇って亡くなった。


 俺以外の仲間の前では決して言葉には出さなかったが、トラさんが右腕を失った時にノエルは自分を責めていた。自分が無様を晒さなければこんな事にはならなかったと。

 分かりやすくトラさんに対する態度が変わっていたからな。罪悪感はそれだけ強かった訳だ。


 だからこそ、トラさんの死因は自分にあると考えてしまった。サーシャを庇ったからじゃない、ノエル(自分)を庇って右腕を失わなければトラさんは死ぬ事はなかったと。

 仲間の前であれほど落ち込んだノエルを見たのは初めてだったな。


「読むんですか?」

「そうだな、読まないといけないな」


 机の上に置かれた未開封の手紙を手に持つ。この場には俺とデュランダルしかいない。ダルとエクレアは教会に、ノエルは自分の屋敷に帰っている。

 今後の事を決めるにしても今日は俺を含めて皆のショックが大きかった。その為、日を置いて気持ちの整理が付いてから改めて話し合う事となった。数時間前に解散した訳だが、別れ際の皆の元気のない姿を思い出した。明日、時間がある時に様子を見に行くべきだな。特にノエルだ。

 一人にして欲しいとノエルに断られたとはいえ、彼女の屋敷まで一緒に行くべきだったと今になって後悔している。一人で考え過ぎなければいいが…。


「気は進まないな」


 封筒の封を切り中から手紙を取り出す。また同じような事にならないように先に目を通しておくべきだろう。ここまで気が乗らないのはなんでだろうな?


 手紙に書かれた文章はもう一通の手紙に比べれば短いものだった。達筆な字で書かれた内容を読み解くのに時間はかからなかったが、内容を理解するのに時間を要した。

 難しい内容ではない。ただ、頭の理解が追い付かなかった…。深く息を吐いてから読んだ手紙を机に叩きつけた。


「マスター!?」


 バンッと大きな音を立てて手紙を叩き付けた事でデュランダルが心配そうに声をかけてきたが、今はそれ所ではない。なんて表現すれば良いのだろうか?

 感情の浮き沈みが激し過ぎてジェットコースターのようになってしまっている。こんな胃に優しくない絶叫系は勘弁して欲しい。怒りのままに叩き付けた手紙に書かれた文字は何度見ても見間違えではないらしい。


『ごめん、あたしを庇って亡くなったと思ったけどトラさん生きてたわ。

いや、生き返ったのかしら?どういう原理かまでは分からないけど死んだ後に蘇ったそうよ。詳しくは本人に会った時に聞いてちょうだい。

という訳で、先に送った手紙は忘れてちょうだいね〜

サーシャより』


 理解が追いつかない。もう一度言うが難しい内容ではないが、あまりに非現実だ。パニックになりそうなんだが…。


「…………」

「マスター、大丈夫ですか?」

「デュランダル」

「はい」

「色々と相談したい事があるんだが、正直疲れた。今日はもう寝る事にするよ」

「そうですか…。分かりました、ゆっくり休んでくださいね!マスターの相談ならどんな話でも乗るので安心してください!」

「ありがとうデュランダル」


 考える気力もない。話す元気もない。疲れた身体を癒すためにも今日はもう寝てしまおう。手紙の事はまた明日考えよう。

 魔道具に再び魔力を流すと灯りが徐々に弱まっていく。光が完全に無くなる前にデュランダルを手に持ち、ベッドの近くの壁へと立て掛ける。気だるさを感じる身体を動かし、ベッドに横になれば疲れのせいか急激に眠気が襲ってくる。逆らう事をせず、睡魔に身を任せると俺の意識はそのまま真っ暗に染まっていった。









 ───これは夢だな。見覚えのある真っ白な空間に状況を瞬時に理解した。だが、何時も違ってミラベルの姿がない。

 どういう事だ? 疑問の答えを導き出そうと思考を巡らせていると背後から声が聞こえた。

 その声に反応して振り返れば、見知らぬ男が拳を振りかぶっている。誰だ?



ティエラ(俺の嫁)を幸せにしろ、小僧!!!!」


 ───は?

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