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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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107.修羅場回避(後回し)

出張で県外に行ってて更新遅れました。1日1ページ…目標が難しいぜ

 世知辛い話を一つしよう。俺がノエルに対して行った土下座は前世においては礼式の最敬礼として扱われており、主に不祥事を起こした時の謝罪の際に使われたりしたものだ。その点だけで見れば使い所は間違っていなかった。

 間違いがあったとすればこの世界は日本ではないという事。世界が違えば当然ではあるが常識は違う。早い話土下座の文化がこの世界では広まっていない。その為、


「君は何がしたいんだい?」


 俺がやった事は無意味と言って良かった。頭上から投げつけられた声は身震いしてしまいそうな程に冷たかった。もちろん物理的ではなく精神的な意味ではあるが。

 ノエルから見れば『いきなり何してるんだこいつ?』といった反応だろうか?俺からすれば見事なまでに出鼻をくじかれた形である。土下座から入って続けて謝罪するつもりだったが、今の空気ではそれは出来そうにない。

 恐る恐る顔を上げればノエルの碧眼と目が合った。言葉からも伝わってきていたが呆れたと言わんばかりの表情でノエルがため息をついた。


「君が謝りたいのは分かったけど、それなら地面を見るんじゃなくて相手の目を見て話すべきじゃないかな?それとも顔を合わせられないくらいに後ろめたいのかい?」


 返す言葉がない。実際にやましい事をしてしまった自覚があり、その所為でノエルに顔を合わせ難い自分がいる。婚約者がいる身でありながら他の女性と肉体関係を持つ。言ってしまえば浮気である。

 普通に許されない行為だ。それは前世でもこの世界でも変わらない。なんだったらこの世界の方が重たいだろう。神から受ける祝福によって制約は異なるが、不貞を働いた場合神の裁きで死ぬ事も有り得るのがこの世界だ。結婚の持つ責任がこの世界では前世以上に重たい。

 俺が不貞を働いたにも関わらず今こうして生きているのは…何故だろうか?祝福の内容によるものか…あるいは神であるミカが見逃してくれているのかのどちらかだろう。後者の可能性が高いと俺は思っている。


「後ろめたい事と言えば後ろめたい事だな。正直に言うとノエルとこうして顔を合わせる資格すらないだろう」

「それを決めるのは僕であって君じゃない。理解出来ないのなら凡人の君にも分かりやすく噛み砕いてあげるよ。資格がないなんて便利な言葉で逃げないでまずは真っ直ぐに僕と顔を合わせてごらん。そうしたら僕に何を言わないといけないか分かるだろ?」


 彼女の言葉通りに顔を合わせれば言葉にしなくても伝わってくるものがあった。

 俺の様子に呆れてはいたがそこに怒りはなかった。怒られて当然の行いをしたにも関わらずだ。ノエルが欲しかったのは謝罪なんかではない。彼女の目が雄弁に語っている。


「俺にこんな事を言う資格があるかは分からない」

「もう一度言わないといけないかい?それは君が決める事じゃない、僕が決める事だ。言わないといけないと思ったのならはっきりと言って欲しいね」

「そうだな……。ノエル、俺はノエルの事を世界で一番愛している」

「誰よりもかい?」

「あぁ、誰よりも愛している」


 満足そうに…分かりやすいくらい頬を緩めて笑うノエルにこれで良かったのだろうかと自問自答を繰り返す。ノエルが求めたのは不貞を働いた事に対する謝罪などではなく愛の言葉。嘘偽りのない俺の本心からの言葉を求めた。


『君がとても魅力的なのは僕が1番知ってる。パーティーのみんなが君に好意を持ってるのも。君は優しいからみんなの好意を無下に出来ない。なら僕が折れるさ。何人いても構わないよ。けど君の中で一番は僕であって欲しい』


 脳裏に過ぎったあの時のやり取りがノエルが一番求めているモノを教えてくれた。彼女が求めたのは誰よりも俺に愛されているという自信と安心感。そして俺から向けられる愛情。

 ただ、言葉を間違えていたらどうなっていたかは分からない。そんな危うさがノエルから感じた。だからこそ俺の選択は間違っていなかった事に対する安心感はあるが、正直に言えば複雑だ。

 個人的には怒りのままに責められていた方がマシだっただろう。浮気した事を許された…その事が罪悪感としてのしかかってきている。


「ちなみに許した訳ではないよ。後で浮気した分、いっぱい相手をして貰うから」

「あ、はい」


 それでノエルが満足するならそれでいいやと、自分でも諦めている事が分かった。満足そうに頷くノエルも見て、一段落ついたと安堵した時に気付いた…この部屋の冷え切った空気に。

 あぁ…そうだ、この部屋にいるのは俺とノエルだけじゃない。鋭い視線を感じて部屋を見回せば不満そうにこちらを見つめる二人の姿がある。


「我らを放置して、二人でイチャイチャして満足か?」

「いや、すまない。そんな気はなかったんだが…」

「なら、我にも愛してると言うのじゃ!世界で一番愛してると言って欲しいのじゃ」

「……………」フルフル。

「む!何故そこで首を振るのじゃエクレア。一番は自分だと言いたいのか?」

「…………」コクコク。

「我がカイルに一番愛されたいのじゃ!それはエクレアであろうと譲れんぞ!」


 変に話に割って入ると巻き込まれそうだったので、逃げるように黙り込んだ事を許して欲しい。バチバチとダルとエクレアの間で火花が散っている光景が幻視出来た。何故二人でぶつかり合っているのだろうか?

 そんな疑問はさておき、今のやり取りで俺が気になっているのはノエルの反応だ。彼女からすれば今のやり取りは見逃せる内容ではない筈…にも関わらず不気味な程に静かだった。

 ノエルに視線を向ければ睨み合うダルとエクレアを憐れむように見下していた。


 ───分かりやすく勝ち誇ってるな。なんというか…嫌な予感がする。


「二番手争いは時間がある時に好きなだけしてくれて構わないよ。カイルの中の一番は僕であることは揺るがないからね」


 火に油を注ぐという諺はこういう時に使われたのだろう。ブチッと何かが切れる音がしたと思うとダルとエクレアがノエルに突っ込んでいった。

 驚いた表情でダルを躱したノエルだったが、間髪入れずに迫ってくるエクレアに対応出来ず床に押し倒された。


「これだから野蛮な人間は嫌いなんだ!」


 流石は勇者パーティーの一人と言った所だろうか、押し倒されると同時に魔法を発動しノエルに馬乗りになろうとしていたエクレアを『ホーリーバインド』で引き剥がしている。

 そのままエクレアを拘束しようと鎖が彼女に迫る。そこまではまだいい。魔法に対抗する為にエクレアが聖剣を鞘から抜いた。

 その光景を見て流石の俺も止めないといけないと思って動き出したが少しばかり遅かった。迫る鎖をエクレアが一太刀で切り払った…その勢いで聖剣から放たれたビームが部屋の壁をぶち抜いていったのは悪夢のような光景だった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 床に倒れたまま壊れた壁を見つめるノエル。聖剣から放たれたビームによって壊れた壁とエクレアに交互に視線を向けるダル。『やっちゃった』っと言いたげな顔で固まるエクレア。壊れた壁の向こう側から現れたモロさんを見て血の気が引いていく俺。

 結果が分かりきっているので先は省略しよう。一言だけ。めちゃくちゃ怒られたという事だけは伝えておこう。



 ───閑話休題。



「こんな空気の中で言うのもどうかなとは思うんだが、皆に伝えないといけない大事な話があるんだ」

「トラさんについてだったな?」

「そうだ。俺たちがタングマリンを出た後で魔物を率いた魔族の襲撃があったそうだ。その事で首長から俺たち宛に手紙が届けられた」


 魔族という単語にダルとエクレアが顔を引き締めたのが分かった。ノエルは伝令と俺のやり取りを聞いていたのだろうな、二人のような分かりやすい変化はない。

 ただ、話の内容を知っているからこそ俺が言い出す前から悲しげな表情をしていた。


「あらかじめ計画を練っていたんだろうな。今までと違って多くの魔族が今回の襲撃に参加していたそうだ。その中の一人に魔族の四天王がいた」

「『二代目豪鬼』バージェスJrと『赤竜』のドレイクはテルマの襲撃に関わっておる。という事は残りの三人の誰かじゃな?」


 四天王なのに五人いる所為で少し可笑しな話になっている。バージェスJrが死んだ事で数として漸く合った事になるのか?

 その事は今はどうでもいいか。ダルが気にしているのは急に活発になってきた四天王の動向だろう。

 今まで一度もその姿を見せなかった四天王が一斉に動き出した事実は、何か大きな事件が起きようとしているのを予感させた。


「タングマリンを襲撃したのは『冥闇』のエルドラドと呼びれる魔族だ」

「カイルを夢の中で襲ったディアボロではないのだな?」

「首長から送られてきた手紙には他の四天王の名前はないからな。エルドラドだけの筈だ」

「あい、分かった」


 ディアボロの事を随分と気にしているな。仲間にディアボロに襲われた事を伝えたのは失敗だったか? 次は一体一でディアボロと決着を付けたいと言った所為で余計に心配させた気もする。四天王の中でもより仲間が注視しているのはディアボロの動きらしい。


「王都にいる戦力はエルドラド以外の魔族と、彼らが率いてきた魔物たちの対応に手を取られていた。そんな中で四天王を相手取れる者は限られていた」

「トラさんとサーシャじゃな」

「そうだな。二人以外にもマクスウェルや首長なら相手をする事は出来ただろうが、先に手をうっていたらしく二人は動けなかった。」

「……トラさんは片腕じゃぞ」

「万全なら…何時ものトラさんなら四天王が相手でも大丈夫だっただろう」


 この先の続きを言いたくない…、未だに受け入れたくない自分がいる。右腕が健在なら…万全なトラさんなら四天王が相手だろうと戦えただろう。あの人の強さは俺が一番良く分かっているつもりだ。


「トラさんは…エルドラドと戦い……命を落とした」

「嘘…ではないのだな」

「…………」

「トラさんとサーシャのお陰で…被害は少なく済んだそうだ」

「バカもの……死んではダメなのじゃ……みんな揃って……勇者パーティー……」


 ダルの涙に釣られるように俺の目からも涙が流れた気がした。横を見ればノエルの美しい碧眼からも涙が零れている。

 良かった…悲しいのは俺だけではなかった。それだけトラさん(貴女)の事を皆は大切に思っているんだ。

 もう、十分に泣いたと思っていたんだがな…やっぱり悲しいよトラさん。


「…………?」


 ───トラさんの死に涙を流す俺たちと対象的にエクレアだけが不思議そうに首を傾げていた。

カイルの女性問題に関してはまた後日

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