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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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106.土下座

 エルフの国(テルマ)において教会の影響力は他国に比べて強い。創設者がエルフであり、その後を継ぐ法皇が全てエルフである事を考えれば嫌でもその関係性が分かるだろう。視界に映る広大な土地と豪壮建な物がそれを証明していた。

 四天王の襲撃によって今は見る影もないが、元々王都(ハルジオ)の家造りは木の性質を活かした造りで木の香りを感じる暖かみのある家が多い。そんな中で白を基調とした教会は少しばかり浮いている。

 浮いているという意味で言うなら王宮も同じか。権力の象徴とした絢爛豪華な外観で一目で国を治める王が住む宮殿だと分かる程だ。


 話を戻そう。教会の建物の形は前世で見た物によく似ている。ルドガーが創設者である事を考えれば記憶の中にある建物を真似て作った可能性が高い。

 違いがあるとすれば教会のシンボルと言える十字架がなく、代わりに太陽をモチーフとしたモニュメントがあるくらいか?

 この太陽には何の意味があるのだろうか?エルフは太陽を崇める種族ではなかった筈だ。彼らが崇める対象はこの世界の神、つまりミカだ。ミカ=太陽という認識もない。

 ルドガー個人が太陽を崇めていたのか?太陽万歳とでも言っていたら面白いが流石にそれはないか…。


 ───どうでもいい思考を一度中断し軽く辺りを見渡すと、教会に避難しているエルフたちの姿が見える。教会の敷地に入ってきた俺の事が気になったのか、彼らの視線を感じたが嫌な気配はない。既に何度も訪れている事もあり俺が勇者パーティーの一人だと周知されている。

 それでも騒動の後という事もあり警戒はしているようだ。見たところ目立った怪我人はいないな。軽傷者はまだいるようだが命に関わるような重傷者は最優先で治療を受けた聞いている。


 前世とは違い死んでさえいなければ魔法で怪我を治す事は出来る。腕がちぎれようと腕が健在ならば容易に繋げることが出来るし臓器が破裂していようと再生する。

 今回のような大きな騒動が起きても人的被害は前世のように酷くなる事は少ない。特に戦後の処理の差は明白だ。

 怪我人が多く出たとしても回復魔法を使えば一瞬で完治する。怪我の治療に時間を要さないのは大きな利点だろう。特に聖属性の適性者の多いエルフの国(テルマ)にはそれに比例するように回復魔法の使い手がいた。

 今回の騒動で多くの怪我人が出たが、その傷が治るのもまた早かった。まだ軽傷者がいるようだがそれも後数日で治療が完了するだろう。


 ドレイクたちの襲撃があった直後やその後暫くは避難してきた者や、怪我人たちで溢れ返っていたが少し経った今は落ち着いているようだ。

 パッと見た感じこの場にいる者たちは女性や子供が多く、男性の姿は少ない。男性はもしかしたら壊れた建物等の確認に行ってるのかも知れないな。ジェイクと朝出掛ける前に会話をしたが、その際に被害の確認が終わった所から倒壊した建物の撤去を始めると言っていた。既に復興の為に動き出しているのもかも知れない。


 教会の警備をしている騎士の一人に挨拶をしてから教会へと歩みを進める。本当に広大な土地だと思う。収容人数はどれくらいだろうか?少なくとも万は超えるだろう。多くは王宮の方に避難していると聞いているが、この場にいる者だけでもかなりの数だ。

 避難してきた者たち用の物資は足りているのだろうか?前世においても震災の後なんかは物資が不足気味だった。こういった場合の備えはしていると聞いていたが…。最も俺たちに出来る事は少ない。大事な事は国が対処するだろう。俺たちの手が必要だと言うのなら幾らでも手を貸すつもりだ。


「剣士様ー、こんにちは!」

「こんにちは」


 建物は視界に映っているが目的地まで結構歩くな。挨拶をしてくれた子供に返事を返しつつ建物へと向かっていると、教会の扉が開き中から見慣れた仲間(エクレア)が出てきた。

 俺の事を見て嬉しそうな表情をしているエクレアを見ると数分前の嫌な思いが払拭されるようだ。以前と違って彼女と顔を合わせるだけで気分が悪くなる事はない。原因は前世について考える事だろうな。今も少し考えただけで頭にノイズが走った。

 思い出すなと強く訴えているようだ。この後の用事が終わったら一度前世の記憶を振り返るべきだな。どれだけの記憶が無くなっているか把握しておくべきだ。


「エクレア、お疲れ様。怪我人の治療は終わったのか?」


 仲間の姿を認識したからかその足取りは軽くなり、彼女と顔を合わせるまでは直ぐだった。

 お昼まではエクレアも怪我人の治療をすることを聞いていたので、確認すれば彼女が小さく頷く。俺と違って回復魔法が使え、魔力量も一流の魔法使いと遜色ないエクレアは大いに活躍しただろう。その事を仲間として誇らしく思う反面、戦う事しか出来ない自分に嫌気がさす。

 他の魔法が使えたら良かったんだが、こればかりは生まれ持っての才能だな。


「ダルはまだ来ていないのか?」

「…………」コクコク。

「そうか。ならモロさんに挨拶してからダルが来るまで待たせて貰うとしよう」


 エクレアが小さく頷く。モロさんがいる場所は彼女が知っているだろうと思い、尋ねると先程と同じように頷いた。付いて来いと言わんばかりの視線を向けた後、教会の中へと戻っていくエクレアの後を付いて行く。


 先程から話題に出ているモロさんという人物は『司教』の地位に着くエルフの神官だ。この教会の責任者は現在『聖地エデン』に招集されている為不在である。代理人として大司教の代わりにこの場を任されたのがモロさんであり、支障なく物事が進んでいる事から彼女の優秀さが窺える。

 余談ではあるがモロさんは男性同士の絡み合いが大好きらしい。鼻息荒くして語っていたな。


「この部屋はご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


 エクレアの案内でモロさんに会い、挨拶を交わした後は教会の一室でダルが来るのをエクレアと二人で待つことになった。

 モロさんのご厚意で教会の一室を使えるので第三者に聞かれる心配をせずトラさんの事を話す事が出来るのは助かる。テルマが襲われた直後で勇者パーティーの仲間が亡くなったという情報は、良くない方に影響を及ぼすだろう。

 今は出来るだけ隠し通すべきだ。不安が大きなパニックとなり騒動にまで発展する恐れがある。後に分かる事であってももう少し落ち着いた頃に情報が知られるのが望ましい。


「あれから大変じゃなかったか?」

「…………」フルフル。

「そうか。この国の人の為なのは分かるが無理だけしないようにな」

「…………」コクコク。

「ダルが来るまでゆっくりしよう」


 この部屋は会議用の部屋だろうか? ちょっとしたテーブルと椅子が置いてある。その他に小さな本棚が一つあるだけの簡素な部屋だ。

 軽く部屋を見回した後、用意された椅子に座ると倣う様にエクレアが俺の右横に座ってきた。わざわざ椅子を動かして体が触れる位置まで持ってきたので何をするかと思えば、俺の右肩にもたれかかって満足そうに鼻息を鳴らしている。この光景をノエルが見たら怒るだろうな。

 想像しただけで胃が痛くなる。エクレアに離れてくれと言うのは簡単だが、言ったら言ったでショックを受けそうなんだよな。その後の対応の事を考えると変に言わない方がいいのだろうか? 正解を教えて欲しい所だ。


「………………」

「………………」


 それから数分ほど静かな時間が流れた。エクレアが喋れないのと俺がダルやエクレアにトラさんの事をどう話すのが最適解か考え込んでいたからだ。

 出来るだけショックが少ないように伝えたいが…、ダルやエクレアもトラさんとの親交は深い。戦闘以外でも町で休息を取る時は一緒に行動する事が多いからな。良く四人で食事に行ったものだ。俺と同じか俺以上にショックを受けるかも知れない。ここまで気が進まない話も久しぶりだな。


「どうしたものか」


 無意識に呟いた一言にエクレアがピクリと反応し、心配そうに俺の顔を見てきたので大丈夫だと伝える。正直に言うと大丈夫ではないのだが、そのまま伝えると余計な心配をさせてしまうからな。

 俺の言葉に納得していないのか暫く見つめ合う形となり、何故か頬を赤らめたエクレアの顔が少しずつ近付いてきた時にバンっと大きな音を立てて扉が開いた。

 エクレアには悪いが良いタイミングで来てくれたと思ったものだ。残念そうな表情でエクレアが俺から離れるのを確認してから、扉の方へ視線を向けると腰に手を当ててドヤ顔をするダルの姿がある。


「我、参上なのじゃ!」


 いつもと同じダルの様子に心が安らぐ。仲間の元気そうな姿を見るのが一番安心するのかもしれないな。ハッハッハと笑うダルにもう大丈夫なのかと確認すると、花が咲くような笑顔で『我の仕事は終わったのじゃ』と返ってきた。


「我が来るのが遅くなったのは少し話し込んでいたからだ」

「誰と話していたんだ?」


 彼女と一緒に被害の状況を確認していた騎士だろうか?不思議に思っているとダルが道を譲るように室内に入ってきた。その後ろから現れた人影を見た時、飛び起きるように椅子から離れて行動に移っていた。


「僕に何か言う事があるんじゃないかい?」

「申し訳ございませんでした!!」 



 ───それはもう見事な土下座だったと後にダルが語っていた。


 

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