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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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105.忘れたモノ

 一度は聞いた事がある名前だ。新約聖書においてイエス・キリストの突き刺した槍だったか? 有名なのはとあるアニメのモノだった筈だ。この世界にも同名の槍がある事に驚いた。

 神器という事はミカが創った物だろう。俺の時と同様にルドガーに授けられた可能性が高い。瘴気を浄化(神の権限)を与えられた槍か…、その話が本当なら何故タケシさんは加護を消す為の手段に名を出さなかった?

 手に持っている書類を隅まで見てもその答えは書いていない。途中で途切れている訳ではない。ルドガーの話はこの紙で終わりだ。

 次の書類を手に取って軽く見て見れば書かれているのはドワーフの転生者についてだ。これでは理由が分からないな。


「ティエラ、ロンギヌスの槍について何か知っているか?」

「概念的なモノなら知ってる。だがカイルが求めているのは違うだろう」

「そうだな。この書類を読むにルドガーはロンギヌスの槍を所持していた事が分かっている。その槍がどうなったか気になるんだが書いていなくてな」

「……………」

「どうかしたか?」

「いや、なんでもない。ロンギヌスの槍についてだが、私も詳しくは知らない。ルドガーの死後、教会の後継者となった二代目法皇がロンギヌスの槍を引き継いだそうだが…」

「何かあったのか?」


 ティエラが言い淀んでいる所を見るに良くない展開なのが予想出来る。現在ロンギヌスの槍が何処にあるかは分からないだろうな。

 瘴気を浄化出来るという事から探す事も考えたが、この書類を読むまでロンギヌスの槍の名を聞くことは一度もなかった。同じ神器である聖剣コールブランドは勇者にのみ扱う事が許された剣として世界中に認知されている。

 教会の初代法皇であるルドガーが扱った神器、ロンギヌスの槍も同様に広がっていても可笑しくはない。隠蔽している可能性がないと言わないが、タケシさんは教会とも近い関係にあったのはこれまでの情報で分かっている。

 書類に残っていないという事はタケシでも調べて見つける事が出来なったのだろう。


「消息不明になったそうだ」

「どういう事だ?」

「ロンギヌスの槍は聖剣と同じように常人には扱えない。選ばれた者のみが扱う事を許された神槍だった。法皇はロンギヌスの槍に選ばれなかった」

「その結果、消息不明になったのか」

「何かに操られるように『聖地エデン』の大聖堂を後にする姿を当時の大司教が目撃したそうだ。普段と違う様子に声をかけようとしたそうだが、光と共に消えたそうだ」

「なんだそれは…」

「教会の神官総出で法皇を探したそうだが見つかる事はなかった。ロンギヌスの槍もその時一緒に行方不明になった。法皇がどこに消えたのか、ロンギヌスの槍が何処にあるのか…今でも探している者がいるそうだ」

「見つかってはいないだろうな」


 ロンギヌスの槍は二代目法皇と共に行方知れずか。何百年と探しても見つからなった物だ、俺が探しても見つかる事はないだろうな。世界樹を救う手段の一つとして選択肢に入れるには些か不慥かなものだ。徳川埋蔵金を探すようなものじゃないか?時間の無駄だな。

 ルドガーについて書かれた書類を裏返しにして置く。次の物を読もうと手を伸ばした時にティエラから待ったがかけられた。


「どうした?」

「そろそろ時間を気にした方が良い。思ったより時間が過ぎている」

「そんなに経過していたのか?この部屋にいると感覚が分からなくなるな」

「この部屋には本と書類以外には何もないからな。一応、そこの気色の悪い魔道具が一定時間毎に光るようになっている」

「気付かなったな」

「下腹部が一瞬光るだけだ。意識して見なければ分からないだろう」


 ティエラに言われ机の上に置かれたマッチョの魔道具を見る。相変わらず気色の悪い造形をしている。5分ほど注視して見ているとマッチョの股間が赤く一瞬だけ光った。卑猥だな。

 光る感覚はどれくらいだ?


「その魔道具が光るのは10分間隔だ。私も正確に把握している訳ではないが、そろそろ昼が近いだろう」

「そんな時間か。タケシさんが残してくれた情報を全て読めた訳ではないが…、続きはまた今度だな」

「タケシの家には何時でも来れる。時間がある時にまた来れば良い。一先ず目標となる情報を入手する事は出来た。今後の方針としてまずはユニコーンについての情報を集めたらどうだ?」

「そうするか」


 お昼過ぎにエクレアとダルと会う約束をしている。彼女たちを待たせる訳にはいかない。ユニコーンの情報が書かれた書類を手に持って部屋の入口へと向かう。


「カイル、この部屋を出たら何時も通りデュランダルと呼べ。ミラベルやノエルにお前との関係が変わった事を知られたくない」

「ミラベルは分かるが…ノエルもか?」

「クロナのように武器に嫉妬しないとは限らないからな。また封印されるのはごめんだ」


 実感がこもっているな。どのタイミングだったかは忘れたが前にも言っていた気がする。それだけ封印され無為に過ごした時は堪えたのだろう。一つ疑問が浮かぶ。ノエルの場合は盗聴されているから今更じゃないか?


「それは分かるんだが、盗聴されているから今更じゃないか?」

「カイル、先も言ったが此処は本来の世界とは異なる場所だ。世界を隔てて盗聴器が使えると思うか?」

「無理だな…」


 普通に考えれば不可能か。正直どのくらいの距離まで聴こえるかは分からないが、流石に世界が変われば届かないだろう。そこまで高性能のモノは発明できないと思われる。

 前提がそもそも違うな。大陸全土ならまだ分かるが、世界が変わっても聴こえる盗聴器をまず作ろうとは思わない。現実問題として不可能だ。


「それもそうだな。この部屋を出た後はいつも通りデュランダルと呼ぶ」

「ああ。帰り方は分かるな? 最初にきた場所の足元に魔法陣があった筈だ。鍵を持っている状態で魔力を流せば元の場所に帰れる」

「分かった」

「それと、最後にティエラと呼んでくれ。暫く呼んではくれないだろう?」

「そうだな…。じゃあ、帰ろうかティエラ」

「あぁ」


 部屋の入口を開けて外へと出れば目がおかしくなりそうな真っ白な空間に出る。まだ壁に扉があるからマシだが扉が無ければ方向感覚が狂ってしまうだろう。

 雲のような床に刻まれた魔法陣が目に映る。

この空間では場違いに見える。出口だと分かりやすくて良いんだがな。色々と収穫はあった。タケシさんの情報で新たに分かった情報は多い。ティエラの事も知る事が出来た。胃痛の種も増えた訳だが。プラスマイナスで言えばギリプラス。

 世界樹を救う手段として水の精霊の存在と、その在処を知るユニコーンの事を知れたのは大きい。仲間とジェイクと協力して情報を集めよう。


「ロンギヌスの槍か」

「どうしたカイル?」


 その神器の名を見てから妙に頭が騒ぐ。得体の知れない焦燥感に襲われているようだ。何かを訴えている。この感覚は一度あったな。エクレアの時だったか? あの時は何が原因だった?


「…………」

「カイル?」


 エクレアと顔を合わせるだけで頭を掻き回されるような不快感が襲ってきていた。何かを思い出そうとすると頭の中にノイズが走り、あまりの気持ち悪さに戦いに集中出来なかった。

 エクレアだ。エクレアが関係していた筈だ。武術大会で彼女と戦った際…あの時口にした名前が関係していると思う。その名前はエクレアに関係していた。その名前は確か…。


「…………」

「カイル!」


 ダメだ、思い出せない。その事で余計に心が騒ぐ。なんだこの違和感は。頭の中からその記憶だけがくり抜かれたような不快感。武術大会が終わったあの夜まで覚えていた。あの名前についてエクレアに確認した記憶がある…。


「…………っ!」

「どうした!カイル!」


 頭にノイズが走る。これ以上思い出すなとまるで警告しているようだ。


『敦、□の事を任せてもいいか?』

『俺に任せてよ』


 脳裏に過ぎる記憶にない会話。なぜ、今俺の頭の中に浮かんできた?


『14年振りにあのアニメの劇場版が出たらしい、一緒に見に行かないか?』

『□さんと二人でですか?』

『男二人で映画館に行くのは嫌か? いや、□と行きたいのか?』

『そういう訳じゃ』

『はははは!敦は分かりやすいな。□も誘って行こうぜ。二人きりがいいなら俺は外すけど』

『そんな事言わずに□さんも一緒に行きましょうよ。せっかくの劇場版ですから一緒に楽しみましょう』

『だな!□の方には俺から言っておく。三人で見に行こう』


 頭の中に浮かんだ会話が消えていく…。砂で作った城が崩れるように…少しずつ薄れて消えていく。つい先程の事なのにどんな会話だったかも思い出せない。

 記憶にない会話だ。それは日常の中の何気ない会話であり、親友と交わした遊ぶ約束だった。俺があの時死ななければ週末に共に映画を見に行く筈だった。親友とその妹。

 親友? …誰の事だ? いた筈だ。幼少期からずっと共に青春を過ごした親友が。その名前が思い出せない。親友の顔が浮かび上がらない…。


「なんだ…これは…」

「カイル、呼吸が乱れている。ゆっくり息を吸って吐け」


 ティエラに促されるままに大きく息を吸ってから吐く。それを何度か繰り返せば少し楽になった。まだ心がザワついている。

 何が原因かは分からないが前世の記憶が消えている。俺にとって大切だった…、大切だったか?それすら判断出来なくなっている。


「…ふぅ…」

「大丈夫か、カイル?」

「ありがとう。大丈夫だよティエラ」


 頭にノイズが走る度に不快感が募る。この不快感から逃れる方法は簡単だ。前世の事を考えなければいい。だが、それをすれば俺は全てを失う気がした。向き合うべきだ。逃げるな。この不快感すら受け入れろ。

 俺の中に起きているこの異変はなんだ? 何故今の今まで気付かなかった。忘れている事すら気付けなかった。


「ティエラ」

「どうした?」

「俺の中の記憶が消えている。前世の記憶だ」

「……おそらくミラベルの仕業だ」

「そうか」

「加護だな。ミラベルが与えた加護がカイルから記憶を奪っているのだろう」

「なら悠長に構える訳にはいかないな。これ以上、記憶を失う訳にはいかない。大切な記憶を奪われる訳にはいかない!」

「カイルの記憶守る為にも世界樹の解呪を急ごう。まずはユニコーンの在処だ。情報を集めるぞ」

「その前にダル達と会わないとな」


 時間の経過と共に記憶が消えているのが分かる。武術大会までは覚えていた記憶がすっぽりと抜けている。これがミラベルが与えた加護の影響だとするのならば急がないといけない。


 ───雲のような床に刻まれた魔法陣に魔力を流す。来た時と同じように俺の体を光が包んだ。

 景色は一変した。先程までの真っ白な空間ではない。雲一つない青空、不自然な大岩と視界の端に映るこの国のシンボルと言える王宮。

 戻ってきたな。空を見上げ視界に映った太陽の位置から時間の経過が分かる。予定通りにダル達に会いに行こう。そうすればきっと、この焦燥感も頭を掻き乱す不快感も忘れさせてくれる。


 ───仲間に会おう。大切な仲間たちに。この記憶までは奪わせるな。

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