104.量が多いと気が滅入る
槍にした所で使える者がいないな。俺はメイン武器は剣だ。使えない事はないが本職には間違いなく劣る。他の物に使えるかどうか考えるか。ユニコーンがダルに釣られるなら…いや、待てよ!
「待て、ダルは魔族のハーフだ。ユニコーンが蛇蝎のごとく嫌っているなら釣れない可能性が高い」
「私とした事が忘れていたな。ついでに言っておくとユニコーンは処女なら誰でもいい訳ではない。容姿もそれなりに優れていないと直ぐに姿を消す」
「カスだな」
「言っただろう駄馬だと。ダルの容姿は私から見ても良い。処女である事を踏まえれば魔族のハーフとはいえ姿を現す可能性はある。魔族である事を嫌って逃げる事が予想されるが…」
意味深に言葉を区切ってきた。ティエラが何を言いたいかは察した。
「逃げる前に捕まえる、あるいは姿を現した瞬間に動けなくする訳か」
「そういう事だな。勇者パーティーの皆の力なら可能だろう。危険感知と逃げ足は早いが個体として強さはそれ程だ。」
「姿を現さなかったら…」
「その時は別の者に協力を仰ぐしかないな。現状ではユニコーン以外に水の精霊の助力を得る手段がない。世界樹を救う為なら一人位はいるだろう」
「それなら最初から教会の神官に協力を要請するべきじゃないか?『審判』の魔法が仕える女性の神官という形で要請を出せばユニコーンの条件にも当てはまる」
神にその身を捧げた者のみが使えるとされる聖属性の魔法『審判』。下卑た言い方をすれば処女か童貞しか使えない魔法だ。
魔族の判別に使おうにもデメリットが多く使い難い魔法に分類されるが、このような形で利用する事になるとは思わなかった。馬鹿正直に処女の女性を探しているなんて言い方をすれば、女性に良い感情を持たれないだろう。
世界樹を救う為、ユニコーンに出会う為。どれだけ理由付けしても気持ち悪さが目立つ。審判の魔法が使える女性の神官に絞っておけば必然的にユニコーンの条件に当てはまる。我ながら冴えた考えだと思った。
「それが一番だな。神官が偽りを述べてない限りはユニコーンが釣れる筈だ。ダルで試してもいいが、魔族のハーフというだけで現れない可能性も…駄馬である事を考えればまず現れないか」
「ユニコーンについてはまた改めて情報を集めるつもりだが、万が一はない方がいい。確実にユニコーンが釣れる方を取ろう。後でジェイクに頼んでおく」
ユニコーンの住処は変わっているだろうな。シャーリーが出会ったのも1000年以上も前だ。同じ場所に住み続けるとは考えられない。タケシさんが考えたように魔族に対する対抗札としてユニコーンの角を使おうとした有力者もいる筈だ。その者達から逃れて場所を変えた可能性が高い。ユニコーンを捕らえたという話は聞かない。死んではないと思うが…。
「なぁ、ティエラ。ユニコーンが既に死んでいるなんて事は有り得るか?」
「ないとは言えないな。だがそれは寿命や病気の場合だろう。ユニコーンの強さは大した事はないが、逃げ足は早い。一説には落雷より早く走るとすら言われてる」
「とてつもないな。もし本当ならユニコーンが逃げたら捕らえる事は不可能だぞ」
「だからこそ油断している時を狙え。ユニコーンの好む処女を罠として使って捕らえるしかない。それにあくまでも伝承だ。もし落雷より早く走れるなら二代目勇者シャーリーはとてつもない化け物という事になる」
「伝承はあくまでも伝承という訳か」
逃げ出したユニコーンをタコ殴りにして従えたのがシャーリーだからな。伝承通りならシャーリーは落雷より早いユニコーンより早い事になる。流石にないな。何故か二足歩行で走って逃げたようだが、それが原因で捕まったとかではないか?
あぁ、そうだ忘れる所だった。ユニコーンは容姿も気にするんだったな。ジェイクに頼む時に美しい女性という条件と加えないといけない。嫌だな…、なんで俺がこんな思いをしないといけないんだ。
ため息をつきながら紙で溢れた机を軽く整理する。山積みにされた書類以外に無造作に置かれた書類は正直に邪魔だ。一度読んだ物をまた読む事になれば時間の無駄だしな。少し時間を使って机の上の書類を整理してスペースを作る。ユニコーンについて書かれた書類を纏め、先程作ったスペースに置いておく事にする。ユニコーンについての情報は出来るだけ揃えておきたい。
さて次だ。山積みにされた書類から1枚を取る。内容はシャーリーの最後だな。彼女の場合は転生者ではない。その最後は老衰だ。魔王討伐後は穏やかな一生を迎えている。
内容としてはそれだけだ。流し読みで読んでいるが注視して読む事は特にないな。読み終えた書類だと分かるように裏返しにして机の上に置く。そこからは作業のようだった。山積みの書類から1枚手に取って流し読む。
数が数だ。書類に書かれた内容全てに目を通していたら時間が足りない。時折ティエラに書類を見せて内容が正しいか確認しながら書類をさばいていく。
転生者についての情報は詳しく書いてあった。正直な感想を言えば俺が調べた時よりも分かりやすかった。俺が求めている情報が分かっているからだろう。
転生者が行った偉業や功績、悪事についても詳しく書いてある。俺が知っている転生者もいれば知らない転生者もいた。やはりと言うべきか、転生者の共通点として皆が壮絶な最後を遂げている。それに若いな。ティエラやコバヤシを除けば皆が40になる前に亡くなっている。早い者は10代で死んでいる。例外は加護を外したルドガーか。やはり魂に刻まれた加護が悪さしているようだ。
ここまでくれば余程狂信していない限りはミラベルに不信感を持つだろう。流れ作業のように読んだ書類を裏返しにして置いておく。有意義な情報という意味なら今の所、最初に読んだシャーリーの情報だけだな。
転生者が残した偉業や功績は確かに後世に影響を残しているが、俺が欲しているのはそういう情報ではない。
「魔族の転生者はティエラとコバヤシ以外にいないようだな」
「いないな。少なくとも私とタケシは把握していない。あの女なら世界を掻き回す為に送り込むかと考えたが、しなかったらしい」
魔族に転生者がいない理由はなんだろうか?魔族の王であるティエラの影響力を恐れたからか? 人間やエルフなら魔王の言葉を疑ってしまうが同族なら捉え方は違うからな。
他に何が考えられる? 種族として魔族の強さが頭一つ抜けている事だろうか。正確に言うならば闇属性の性能だが。魔族側に転生者を送るとバランス調整が難しいのかも知れない。
二大勢力側に送り込まれた転生者をティエラは倒しているしな。
「ミラベルの考える事までは流石に分からないな」
「あの女の思考は常人とは違う。考えても仕方ない事だ」
「そうだな…。これは!タケシさんの時代からコイツらはいたのか」
「ん?…あぁ『悪魔の子供』か。カイルが滅ぼした人攫いの一味だな。見ての通りその組織を作ったのは転生者だ」
「本当に良くも悪くも転生者の影響がここまで残ってるな」
ノエルとの出会いのきっかけとなった人攫いの一味。デュランダルを手にした後に俺が滅ぼした組織ではあるが、作ったのがまさかの転生者だ。これに関しては間違いなく後世に残る悪行だろう。タラレバを一つ言うなら、この転生者が組織を作っていなければ俺はノエルと出会う事はなかったかも知れない。
ある意味でノエルとの出会いを生み出したのが転生者という事になる。この縁を喜ぶべきか、嘆くべきか悩む所だな。
読んでいた書類を裏返しにして机の上に置く。山積みの書類も読み始めた頃に比べれば随分と減った。代わりに裏返しにした書類が小さな山になっている。これだけ読んでも欲しい情報がないのは困りものだな。
魔族や彼らが使う闇属性の魔法についての知識を深める事が出来たのはまだ有意義か。それもティエラに聞けば済む話ではあるが…。
次の書類に手を伸ばして内容を流し読む。これは、ルドガーについてか。調べた内容やセシルから聞いた話と相違はない。
これも特に注視する所はないなと書類を裏返しにしようとした時に、とある文が目に付いて手を止める。
『ルドガーが使用した神器は瘴気を浄化する力を持っていた。神にのみ許された権限を持つ槍。神と聖者の血を吸いルドガーの死後に完成したとされるロマン武器。その名は』
───ロンギヌスの槍。




