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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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102.種は開花するもの

 ───デジャヴだな。一度同じような場面と直面した覚えがある。いや、現実逃避をしても意味は無いか。何がそうさせたかは知らないが俺は知らないうちにティエラの好感度を上げていたらしい。好かれている自覚はあったがここまで重たい感情だとは思っていなかった。

 それでもノエルの時よりは危機感を感じない。あの時はノエルに押し倒されていたからな。力では勝ってる自負があったにも関わらずノエルを押し返す事が出来なかった。あれも加護の影響の可能性が高いか。

 同じような場面ではあっても状況が違えば感じ方もまた違う。あの時のノエルは目の光は消えており、こちらに迫ってくる圧力もあったから分かりやすく身の危険を感じた。彼女が正気ではなかったのも大きい。

 ティエラの場合は言葉の重みや感情の強さは感じるがあくまでも声だけだ。肉体がない故にノエルの時のように押し倒される事もない。それもあってティエラの告白を受けても気持ちは落ち着いている。


 軽い気持ちで告白を受けた訳だが、途中から話の内容についていけてなかった。俺の脳が拒否したのだろうか? 流石に気になる所は確認したし、彼女の亡くなった夫の存在もあったのでそれでどうにかならないか試したりもした。結果は良くはなかったな。

 それにしても、俺の幸せが彼女にとっての幸せか…。あまり良い気はしないな。無理矢理我慢しているようにも感じる。俺としてはティエラにはティエラの幸せを掴んで欲しい。


「俺の返事はティエラの望むものにはならないと思うぞ」

「分かっている。ずっと共にいたからな。お前はノエルを選ぶのだろう?」

「そうだな、俺の想いは変わっていない。約束を忘れてノエルを泣かせてしまった…。二度と同じような想いはさせるつもりはない。好意を持ってくれているのは嬉しいけど、俺はノエルだけを愛していたい」

「私個人の感情を除いた客観的な視点から見ても、ノエルだけを愛すのは難しいと思うぞ」

「それは…、分かってはいるさ」


 俺個人としては婚約者であるノエルを選びたい。俺の意思を無視した祝福による始まりだとしても、今は確かに彼女の事を愛している。ノエルと結婚する事に異論はない。同時にそれがとても難しい事も理解している。

 ノエルと結ばれてハッピーエンドとならないのが、俺の女性問題だな。ノエルと婚約関係にある事を伝えても全員が納得する様子はなかった。ダルはセシルと共に文句を言っていたし、エクレアも諦めないと強い意志を示していた。サーシャに関しては二番目でいいという考え方だ。簡単には片付かないだろうな。

 男としてこれだけの美少女と美女に好意を寄せられるのは悪い気はしないが、肉体関係を持ってしまっている事もありどう責任を取るべきか頭を抱えている。

 先の事を考えればエクレアとノエルと俺の三人だけではなくダルとサーシャを交えて話し合うべきだろう。本来ならトラさんもこの中に入るんだが…。

   

「分かっていると思うがカイルに対して想いを寄せている者は我が強い。良く言えば個性的、悪く言えば問題児共だ。ノエルを選ぶと言って素直に引き下がる者は一人もいないと思う 」

「エクレアにダルか」

「サーシャもだな。あの女は飄々としているがクロナの血を引いている。間違いなく爆弾を抱えているだろう」

「そこまでか?」

「武器であった私にまで嫉妬するような女だ。嫉妬深く束縛も強かった。タケシに対する執着は誰よりも強く、気持ち悪かった」

「…………」

「事が片付くまでにどうするか定めておけ。選択を間違えればタケシのようになるぞ。私はお前が何を選んでも尊重する。カイルが幸せならそれで良い」

「そうだな、考えておくよ」


 俺の中では既に決まっている事であっても、受け入れてくれなければ意味はない。どうやって説得するべきなんだろうな。

 大事なのは着地点。お互いに納得しなければ火種として残るな。ティエラが言うようにタケシさんのような修羅場になる訳か。タケシさんが残した書類の中にこういった時の対応方法とかないだろうか?

 前に聞いた時にティエラが答えない時点でないか。タケシさんは修羅場を迎えてメリルに刺されている。最後は処刑だった。女性関係が死因だと言える。俺もそうなる可能性が少なからずある。


「カイル、最初の質問に改めて答えようか」

「最初の質問?」

「私がカイルの味方かどうかだ。私の話を聞いて少なからず印象は変わっただろう。その上でもう一度伝えておこう」


 魔王だからとティエラに僅かでも疑いの目は向けていた。タケシさんの信じても欲しいという言葉があってもだ。疑り深い性格になってきている自覚はある。それでも仲間を守る為に油断は出来ない。

 最もその考えはティエラの話を聞いた後で大きく変わった。魔族だとしても、魔王だとしてもティエラは信じていいと思えた。

 デュランダルとしてではなくティエラとして接するようになったのも大きいか。当時の魔族の境遇はあまりに過酷だ。魔王として立ち上がったのは自然な流れだった。ティエラが今に至るまでの魔族との戦いきっかけだとしても彼女を責める事は出来ない。

 彼女もまたミラベルによって運命を歪められた犠牲者の一人だ。彼女とタケシさんの助けがなければ、俺はミラベルの事を疑うことなく操られていた可能性が高い。

 色々とそれっぽい事を述べた訳だが、一番大きいのはティエラから俺へと向けた告白だな。


 受け止めるにはあまりに大きく重たい告白ではあったがその想いは信じるに値するものだと思った。彼女から向けられている好意が偽りではないと証明された気がしたからだ。

 なんだかんだパーティーメンバーの誰よりも付き合いが長く、信頼していた相棒でもある。彼女を疑うのは正直に心苦しい。

 もし告白(あれ)が演技なのだとしたらティエラは名女優だな。俺は女性を信じられなくなるだろう。


「私はカイルの味方だ。この世界で一番大切なモノがあるとするならばそれはカイル、お前だ」

「そうか…。俺と魔族、どちらか選ばないといけない時はどうする?」

「それは魔王として魔族に付くか、カイルに付くか聞いているんだな」

「そうだ」


 この先俺が生きているなら必ず直面する俺たちにとっての問題。俺は勇者パーティーの一人であり、ティエラはかつて魔族を率いた魔王。決して相容れぬ関係だ。今はティエラが俺に協力的だから問題が起きていないだけだ。彼女の正体を知っている者は必ず魔族の為に動けと言ってくるだろう。その時のティエラの選択が俺の未来を決めると言っていい。

 ティエラが魔族を選んだのなら最大の理解者を失うと同時に武器(デュランダル)を手放す事になる。『マナの泉』があるとはいえ武器(デュランダル)を失えば俺の戦力は著しく下がる。それだけ戦闘において彼女に依存している事になる。デュランダルが無くても戦える準備はしておくべきだな。

 

「先も言っただろう。私はカイルの味方だ。同胞たちが私に助けを求める事は…この先あるかも知れない。それでも私はカイルを選ぶ」

仲間(まぞく)を裏切るのか?」

「そう言われると辛い所ではあるな。私が始めた戦いだ。責任を取るべきなのは分かっている。それでも…私はカイルを選びたい!カイルは私にとって、この世界で見つけた唯一の希望なんだ!」


 魔族(どうほう)たちに対する思いを振り払うように彼女は宣言した。心の葛藤が伝わってきた。ティエラに辛い選択を強いてしまった。

 けど彼女の想いは確かに俺に届いた。


「ありがとう。そして辛い選択をさせてすまない。俺にとってデュランダルは…ティエラはかけがえのない存在なんだ。俺にはティエラが必要だ。共に戦ってくれ」

「まるでプロポーズみたいだな。私でなければ勘違いしてしまうぞ」

「俺の考えはよく分かってるだろう? 長い付き合いだからな」

「そうだな。私が必要か。ふふ、ただの言葉にこれほど心が躍る…お前だからだよカイル。だからこそ認識の相違がないように伝えておく」

「なんだ?」


 嬉しそうに笑っていた声から一変して、魔王(ティエラ)として話す威圧感の伴う声。釣られるように緊張が走った。


「何度でも言うが私にとって大切なものは…カイル、お前だ。私にとって希望。愛する人。お前は私の全てなんだ。カイルだけは失いたくない」

「…………」

「その上で覚えておけ。私にとって大切な者はお前だ。私はカイルの幸せを願っている。カイルの幸せが私の幸せ。だがな、カイルにとっての大切な者は私にとっては無価値だ。

カイルの仲間がタケシの時のようにお前に危害を加えようとするようなら手段を選ばずに排除する。何を犠牲にしてもカイルだけは救う。だから、私に行動させないように心掛けろ。私は最愛の人(カイル)を失いたくない、それと同じくらいカイルからの信頼も失いたくないからな」

「責任重大だな。分かった。そうならないように頑張るよ」


 俺の言葉にティエラが嬉しそうに笑った。残念ながら俺は笑えそうにない。

 ティエラに対する疑いの目が消え、胃痛の種が一つ消えたかと思ったら開花した。とんでも問題として聳え立った気がする。修羅場を迎える=ティエラが動くという事になる。これから先、俺が原因で仲間が排除される事もある訳だ…。


 ───胃が痛い。とてつもなく痛い。

 一度、深呼吸してから机の上に山積みされた書類へと近付く。

 この痛みが和らぐような情報が欲しい。そんな思いから無造作に手に取った書類に書かれた内容は確かに胃の痛みを軽減した。


『性獣ユニコーンに導かれた純潔の乙女は水の精霊と出会い、その身を蝕む呪いをうち払った。それは死の呪いであった。己の運命に打ち勝った乙女は神に選ばれ、救世の為に聖剣を手にした。それこそが勇者伝説の始まり。

彼女の名はシャーリー・フェルグラント。『血濡れの悪魔』の名で知られる二代目勇者である』


 ───漢字間違えてるぞタケシさん。

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