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2 警護任務に入ります

お仕事、頑張ろう!


アルと何度かバディを組んで、我々は偉業を達成した(たぶん)。

 

アルが無表情、もしくは表情を固めている限り、きらきら&お色気オーラを半減させることに成功したのだ。

ヒャッホー! よくやったね、わたし!



それは長い戦いだった。

主にアルの精神面において。



「表情キープ、感情を殺せ」

「……レイ、顔がつりそう。すごいひきつる」

「耐えろ。

今、目の前で追いはぎに遭った巨乳の女性が助けを求めたとしても、一ミリも感情を揺るがすな」

「ないよね。そのシチュ、絶対ないよね!」

「そんなことがあったら、絶壁のわたしを見て冷静さを保て」

「……うわ、崩壊した!」

きらきらきらきら……。


ほとばしる、きらきら&お色気オーラ。

こいつ、緩すぎる!



煌めくきらきらを止めようと、てのひらでアルの顔面を覆ってみるが、ますますぎらつくようになってしまった。なんでだ? 私の手が小さいせいか?


なので、最近では拳骨を落とすことでオーラを抑えている。

武士の情けで、魔力は込めていない。



当初は誰もいない、誰も来ない環境で警護任務を任されていたが、最近では多少人通りのある箇所を任されるようになってきた。

マイク小隊長の判断だろう。たまに様子見に来るし。

見た目によらず、意外と仕事熱心だ、あの赤毛。



今日の任務は、アルとバディを組んで初めてのでかい任務だ。

国王陛下主催の、夜会警護である。

 


数多くの来客がある上に、近衛隊の半数も貴族として参加となるので、警護人数が限られてしまうのだ。

王宮の外周は王国陸軍の支援によりまかなえるが、王宮内は近衛隊で警護することになる。

来客も多いので、気の抜けない任務だ。

 


われわれポンコツバディも、誰もいない箇所でお茶を濁している訳にもいかない。


時々お客様がいらっしゃることもある、個室の控え室への入り口、の警護を請け負うことになった。



まあ、気分が悪くなった奥様だとか、反抗期真っ盛りだけどとりあえず参加だけしてやったぞ小僧だとか、会場から距離をおきたい方が利用するくらいで、混み合う区画ではない。

控え室ご利用の方に、にっこり笑顔でお部屋へご案内し、不審者が来たらたちどころに成敗するだけの、簡単な任務だ。


これくらいなら、アルとわたしのバディでもこなせるって。

余裕だわ。

 



私はざわつき始めた会場の喧騒に、そわそわしていた。

なんちゃって淑女のわたしは、夜会なんぞ参加したことがない。

どんなもんか、見てみたいじゃん。好奇心じゃん。



「アル、アル。ちょっと覗いて来ていい?」

「……なんでレイが盛り上がってるのさ」

「だって貴族様の正 装(フルそうび)がわんさかやって来るんだよ? 絶対ゴージャスじゃん。絶対金掛かってるじゃん」

「うわ、あさましい……」

「うるさい。

ほらー、すげードレス。おっぱいもれそう。どうなってんだ、あれ?」

「……レイだって、一応貴族でしょうが」

「貧乏だから、ドレスなんて着たことないもん」



わがカリキス家は、まだまだ復興のさなかですよ。

ドレス買うなら、道路敷設のための土木関係の資材を買います。

備蓄用の食糧買いあさるのもいいですな!



それこそ、アルだって貴族だし。しかも侯爵家だし。

パーティーやら夜会やら、ピカピカの衣装で散々参加してきたんじゃないの?

そんでもって、その見かけと身分が備わってれば、ご令嬢たち入れ食いなんじゃない?


そう言うと、アルはじとっとわたしを睨みつけ、黙って手刀を振り下ろしてきた。

痛えな。



「そういう下品な言い方しない」

「でもやろうとすれば、アルならできるじゃん。

つーか、もうしてる?」

「してません。

あのねえ……」


アルは遠い目をした。透明なきらきらが天井に向けて広がっている。



「初めはね、役得って思ったよ。

自分の周りを、胸の谷間を強調した、綺麗なお嬢様方が取り囲むんだ。

目の保養極まれりって、思うよね」


思います。おっぱい囲まれシチュなんて、一生出会えないです。うらやましいです。

ぜひ、わたしもそんな目に合ってみたい。



「だけどさ、見せてる胸って、彼女たちの武器なわけで。

見方を変えたら、抜き身の剣で取り囲まれてる状況だよ。

で、俺は丸腰なわけ。

もう、怖くて怖くて」


……おおう、へたれー。



アルはふと、きらきらした目でわたしを見つめた。いや、見下ろしてきた。正確にはわたしの胸元だ。

そこにあるのはいつもながら、見事なわたしの絶壁である。

……アル、お前。


「……はああああ、レイって落ち着く」

「馬鹿にしてんの? 喧嘩売ってんの?」

「レイはずっとそのままでいてね」

「わたし、まだ十六歳ですから! まだ成長してますし! 数年後にはすごいことになってるかもしれないし!」

「そうだねー。そうなると、イイネー」

「おい、一回殴らせろ」

 


しかし、ふと思い立った事がある。


アル、丸腰って言ったけど、刀持ってるじゃん。

……アルの、その長ーい足の付け根に。

その刀は、なまくらか?

いや、切れ味鋭い名刀であっても、事件性は高まるな。



うっかりガン見してしまったら、アルが青ざめて股間を押さえて後ずさった。


「……何見てんの? 何考えてるの!」

「ちょっと妄想が、爆走を始めてな」

「ごめんなさい。謝るから、今すぐやめてください」

 

私もさすがに『しゅくじょ』の端くれですし。はしたない妄想は終わりにしましょう。




しばらくすると会場から楽隊の音楽が流れてきた。

ダンスとか始まっているのかもしれない。

きれいな恰好した姉さんと兄さんが、クルクル踊るんだろ。

どんなんかなー。見てみたいなー。



……あー、暇だ。

夜会なんて、商談の場であったり、男女の出会いの場だったりするわけで、会場の外で休憩する人なんてそういないよね。

隣を見ると、アルはきちんと姿勢を正して任務を遂行している。真面目ー。

わたしはきょろきょろと辺りを見回してみた。



奥の廊下に、おどおどしながら歩く二人連れの女性がいる。あれ、迷子かな?

王宮、広いからね。目的の場所から離れちゃったのかも。



「アル、迷子っぽい女性二人視認。声をかけに行く」

「了解。すぐ戻って」


へいへい。

わたしは早足で女性に近づき、声をかけた。



「お嬢様方、いかがいたしましたか?」

「……あ、兵隊さん。

あの、庭園の方に出たかったのですけど」

「それでしたら反対ですね。あちらの通路を真っ直ぐに進んでいただけると……」

「……ちょっと、あそこにいらっしゃるの、ローフィール次期侯爵様じゃない?」

「うそ、アルフォンソ様? ……やだあ、本物!」


ご令嬢たちはわたしをすり抜けて、アルの方へ殺到した。

おおい、庭園に行くんじゃなかったのかーい?



「アルフォンソ様、お久しぶりでございます!」

「最近、どの夜会にもご出席されていないので、寂しゅうございましたわ」

「……申し訳ありません、お嬢様がた。忙しくしておりまして」


爽やかに受け答える、アル。

礼儀正しくご令嬢たちに笑いかけている。

だが、わたしにはわかる。



すげえ焦っている。

焦りのため、きらきらが多めに放出中だ。

いかん、まずい。

ご令嬢たちに、これ以上きらきらをまぶすと、大変なことになる気がする。



わたしはアルとご令嬢たちの間に入り込んで、押しとどめた。


「お嬢様がた、申し訳ありません。彼は今日、近衛隊として、王宮警護の任務中です。ご遠慮願えますか」

「ちょっと話すくらい、いいじゃない。わたくしたち、アルフォンソ様とお会いするの、本当に久し振りなんですのよ」

「ですが、仕事ですので」

「ねえ、アルフォンソ様。我が家の夜会に来ていただけませんか?」



話、聞けー!

と、怒鳴りつけるわけにもいかず。

丁寧に丁寧を心掛け、任務中であるためお話はできないんですよー、と語りかけるも。

聞く耳持たないよね。お嬢様だもんね。

しかもちょっとウザイと思ったのか、わたしを上から下まで見て、フンっと鼻で笑ってくれた。


こ、こいつー!

まあ、確かにわたしの見かけは、子供劇団風近衛兵ですが。



ていうか、いつのまにかご令嬢が一人になってる。もう一人どこ行った?



「皆様、こちらですのよ! アルフォンソ様がいらっしゃるの!」

「キャーーーー! 本当だわ!」

「近衛の制服がお似合いですわ!」

「運命を感じますのっ。今日がその日だなんてっ」


ご令嬢軍団、引率してきやがった!




わたしは緊急事態発生の笛を取り出して、思い切り吹いた。

笛の音が届き次第、近くの隊員が駆けつける、はず。

だけど、この喧騒で笛の音、届くかな?

それぐらい、騒がしいんだよ、このご令嬢がたは!



それよりアル! アルを助けないと!

 


アルを背中に庇い、ご令嬢たちの壁になる。


どのご令嬢も自分の美しさを強調するように、個性豊かに着飾っておられる。

亜麻色の髪にお花を散りばめていたり、青い瞳と同じ色の宝石を身に付けていたり、真珠色の唇に真珠をあしらったドレスであったり。

だけど、なんでどいつもこいつも、胸だけは一律で露出高いんだ?

全員こぼれそうじゃん、その巨大なおっぱい!



わたしの憧れ、おっぱい囲まれシチュだが、これは怖い。なんだか殺意を感じる。

ごめん、アル。うらやましいとか、撤回する。

これは確かに、恐怖でしかないわ!



アルも必死に、固まった笑顔できらきらを最低限に抑えている。

が、きらきらが徐々に増えてる。きらきら崩壊が近い!



わたしは必死にご令嬢たちを説得する。

マジで必死。みんな、聞いてー!


「お嬢様がた、ご遠慮くださいっ。アルフォンソは任務中です!」

「お下がりください。アルフォンソの仕事に差し障りがあります!」

「本人が夜会参加の際に、ゆっくりお話ください!」

「お触りは禁止です! アルフォンソに触らないでください! お触りは禁止です!」

「わたしを触るのも、やめましょう!」



きゃあきゃあわあわあ騒ぐご令嬢たちに聞こえないように、アルが「ごめんなさいごめんなさい」とわたしに呟いている。



絶対、許さん。こんな仕事は聞いてない。

が、反省は受け入れる。



だから、アルを睨みつけて


「今度、メシ奢れよ」


と一言。



途端に、アルの顔面から華やかなきらきらと、桃色の色気が炸裂した。

クラクラする甘い空気が周囲にまき散らされる。

お前、今、そんなオーラ出すと……。

アルは今にもとろけそうな、それはそれは嬉しそうな顔をして、私の耳元で囁いた。


「一緒にご飯、行ってくれるの?!」

 

 

いや、そこじゃなくて、そうじゃなくてな。



アルのきらきらで甘い笑顔が、そりゃあもう、華やかで美しくて。


悩殺激甘オーラにさらされたご令嬢たちが一斉に、


「ぎゃああああああああああああ!!!」


と叫んで、悶えだした。




わたしは、腰の抜けたご令嬢たちの向うに、こちらに走り寄る数名の近衛兵を見た。

終わった、と思うと同時に助かった、とも思っていた。

だが、少なくとも、これだけは確信している。


……我々の警護任務は、失敗した。

アルはまだ次期侯爵です。そのうち侯爵になります。

まだだ。まだ、今じゃない。

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