花音の懇願
花音の要求とはいったい……!?
6話です
いきなりの事態に我々は硬直する。あいつとはもうお互いに近寄ることはないと思っていたからだ。しかしそうはならなかった。一体なぜ? 何を企んでいる?
「花………一体なんだよ。僕たちはもう別れただろ? 僕が何をしようと君には関係のないことだ。かかわり合いたくない。だから帰ってくれ」
「なお………」
「顔も観たくない」
「待ってお願い。これだけは信じて! 今でも好きなのはずっと貴方だけよ」
「………」
なんて白々しい。こんな奴を僕は今まで好きだったなんて、相手の見る目がなさ過ぎるな。こいつの厚顔無恥も良いところだ。
「じゃあ宗太郎にはどんな気持ちで接してたんだよ?」
「それは……、ただの遊び友達よ。彼に対して恋愛感情はなに一つもなかったわ!」
ひどい……なんてだらしのない女だ。こんな身持ちが軽い性格だったなんて。子供の頃は笑顔がとってもチャーミングで、明るく、毎日を常に楽しく過ごすプロフェッショナルで僕の憧れの存在だった。僕はずっと彼女の背中を追っていた。それぐらい魅力的だったのに………もうそれは影も形もなかった。
「話にならん、帰る」
「あ、なお待って……!」
「花音、まず貴女は家で頭を冷やしなさい」
「姉さんは黙ってて! なおの隣にいられるからって調子に乗らないで! そんなの今だけ……」
「おい、そんな言い方はないだろ!!」
「っ……!」
僕がきつく咎めたからか彼女は悔しそうに黙る。そうして僕たちはしばらく張り詰めた空気のまま花音と対峙する。腹の探り合いだ。これは長かった。
そして何分か経ったあと、今まで険しい表情だった花音の顔が一転して沈着したおもむきになり、路上で正座をし始める。
「お、おい一体何して………?」
僕が動揺しているのをよそに、彼女は何も言わず両手を地面に添え、頭を下げる。
「!?」
「か、花音!?」
「お願いします、なお……いえ、直樹さん。貴方へしてしまった重き罪に対して私が償うチャンスをもらえませんか? もうあの頃の関係を取り戻せなくて良い。せめてもの贖罪を貴方に行いたい」
「………」
「身の回りの世話でも何でも御奉仕するから、償えるチャンスを私に下さい」
「……」
これはまたしても想定外のことが起きた。まさか贖罪をしたいと言ってくるとは……。土下座までするんだから、かなり本気の様子だ。一体どうしたら……、
「駄目よ!」
僕の横で黙って静観していた優紀姉ちゃんが鋭く言い放つ。
「花音の話なんてまともに聞いちゃ駄目よ! そんなことしたらまた貴方が苦しい思いをしてしまうわ……っ!」
「!」
「………」
確かにそうかもしれない。また花音といたら、どんなことをしてくるか分からない。だけど……、
「………」
「分かった……」
「……」
「良いよ」
「!」
「直くん?!」
「けど一つだけ確約してもらう条件がある。必ず優紀姉ちゃんが僕の傍にいる時だけだ。その時だけ僕の身の回りのことをする。それ以外の時は僕に一切係わらない。それで良いか?」
「…………分かったわ」
こうして花音は僕の(監視付き)お世話係になったのだった。
まあ、花音のことだ。僕がOK言うまで、絶対に引き下がらなかっただろう。さて一体どんなことをしてくるのだろうか。充分気をつけねば……。
─後日談─
「あ、優紀姉ちゃん」
「ぷいっ」
花音と分かれてから、やたら優紀姉ちゃんの機嫌が悪い。めちゃくちゃすたすたと先を歩いてゆく。花音の願望を承諾したのがまずかったのだろうか。僕は急ぎ彼女の後をついていく。
「待ってって」
「………」
「待ってよ、優紀姉ちゃん!」
一向に止まる気配がないので、走って彼女の手首を掴んで、そのあと両肩を掴んで強引にこっちに向けさせた。そしたら顔を赤らめながら、少し口をとがらせていた。
「ゴメンなさい優紀姉ちゃん! あいつの意見の方を承諾してしまって……! ああでもしないと花音が引き下がらないと思って」
「違うわっ! そっちでここまで不満になってるわけじゃないの……っ!」
「え? じゃあなんで……?」
「そっ! その…………わ、私も……直くんのご奉仕したく……って………」
え? え~~~~~~~~~~!!!??
な、なにこれ!!? めっちゃ可愛いんだけと……!! ハグしていいかな?? い、いやっ、もしくはお持ち帰り案件か!?
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価を頂き励みになります。