別れと寄り添い
まあ、こうなります
4話です
それはあまりにも突然の出来事だった。学校用のグループチャットにとある動画と音声が届いたのだ。
動画は二人が宗太郎の家に行くところ、そして音声は花音の通話内容だった。
『またソウちゃんとこに遊びに行くからね~』
『え~、なおだとさ~、じれったくてつまんないからさー。ソウちゃんといる方がやっぱり良い~』
「………」
これを聞いたクラスの生徒達はしばらく黙っていた。言葉を失うほどみんな自分のスマホに向かって唖然としていた。しばらくこの沈黙が続いたが、初めに口火を切ったのはなんと花音だった。
「嘘よ、嘘っ! 誰かが私をはめようとしているんだわっ! だってそうでないとこんな……内でしか言ったことないこと……」
「………え?」
「はっ……! いや、これは違くて! そのっ!! あり得ない、そんなことあるはずないじゃない!!」
みんなが花音の方を見る。そして自分の近くにいる友達に囁くトーンでいろいろと彼女の悪態をつく。
「彼氏いるのにひどっ」
「サイテー……」
「花音ちゃんも結局面喰いなのね……」
周りがひそひそと陰口を言うなか、彼女は眉を垂れ下げながら、必死になって弁明する。
「………ち、違う。これは違うの! これは絶対誰かのねつ造!! こんなこと私は言わないわ……っ。あ……っ! な、なお……!」
隣にいる僕がじっと見ているのに気がついたのか、体をわなわな震わしながら何かを主張しようとする。
「ち、違うの、なお!! 聞いてこれは……」
「触るんじゃない!!」
僕は彼女の手を強めにパンッと払いのけた。そしたら彼女は瞠目して、ポカンと口を開けて茫然とする。
「な………なお………??」
「気やすく触ろうとするなよ………この裏切り者……」
僕はわなわなと声を震わしながら、涙を流すのを耐えに耐えながら続けて言う。
「……別れよう」
◇◇◇
ここからはあまり覚えていない。一応学校に平穏は訪れ、授業は受けたと思う。宗太郎のファン達は応援派と反発派に分裂し、かなり離脱者が出たようだ。一方の花音は一限目から欠席していた。
放課後、生徒会に顔を出して少し仕事をしてから僕も早々に切り上げた。今はと言うと、
「はあ……」
いつもの河川敷に体育座りで座っている。力が入らない。茫然自失とはまさにこのことだ。僕はいつもと変わらない川の流れを眺めながら、じっと孤独にたたずむ。
「またこんなところにいる」
「……! 会長!」
「いまはただの優紀よ」
「優紀姉ちゃん……」
「私も隣に座らして頂くわ~。んーしょっ」
彼女はスカートを手でお尻へ抑えながら、僕の隣に寄り添うように座る。
「…………」
「川からの風が来て、少し寒いわね」
「………うん」
「けど夕焼けが水面に反射して綺麗な紅色になってるわね」
「……うん」
「…………む!」
僕の声に元気ないからか、優紀姉ちゃんはぐぐっと横からのしかかる。
「え? 潰れる潰れる……!?」
「直くん!!」
「は、はいっ!」
「これからは私が貴方のそばにいて、ずっと貴方を支えるようにするから!」
「……え!? それって……」
「だから……。その………」
「………」
「わた、し……っ!」
「あ、まだそれ以上は言わないでっ!」
「………え?」
恥じらいながら言う彼女の言葉を制して、僕は横に向いてぐいっと彼女の両肩を握る。
「気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも………」
「……でも?」
「僕はしばらくフリーでいたいんだ」
「……!」
「だから……その………」
「いや、そうね……。確かにその通りだわ……。分かったわ」
「ありがとう……」
「じゃあその間は誰とも付き合わないのね?」
「付き合わない。約束するよ」
「そかっ」
こうして僕たちは河川敷で朗らかに肩を寄せあったのだった。
◇◇◇
花音と別れてからはずっと優紀姉ちゃんとよくチャットをするようになった。付き合ってないとはいえ、慕ってくれる人がいると思うと、やはり頬が緩む。
しばらくして花音も学校に来るようになり、学校に平穏な日々が戻りつつある。
花音は少し孤立気味になった。彼女がしてしまったことなので、自業自得ではあるのだが、なんだかんだかつて好きだった元カノなので少し気にはなる。とはいえ、彼女の親友の櫻井ちゃんが近くにはいるみたいなので、幾分安心ではある。
「喜多村君、頼む」
「はい、会長」
生徒会でも大分出来る仕事内容が回復してきた。生徒会でも会……優紀姉ちゃんとも一緒にいられるし、彼女の仕事が終わって、帰れる時はできるだけ僕と一緒に帰った。少しだけだけど幸せな日々が続くようになってきた。
そんな雪がちらりほらりと舞い、もう冬休みがそろそろ目の前に近づくころだった。
「おはよ~」
「おはよー……」
早朝。同級生に挨拶をし、自分の下駄箱に手を伸ばしたら、ガサッという音がした。なんだろうと見ると、一枚の封筒が入っていた。怪訝に思いながら、封筒の中を見た。
「………え?」
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