気まずい関係性
やばい展開です
3話です
「おはよ~」
「う、うん、おはよう……」
「?」
優紀姉ちゃんに話して気が楽になったのか、もやもやは幾分晴れたけど……、
(なかなか寝つけられなかったんだよな~……)
僕は隣を歩いているカノジョをチラッと見るが、相変わらず愉しそうだ。昨日見た光景がまるで嘘のようないつも通りの花音そのものだった。
浮気なぞまったくしていない、もはや無縁と思えるほどの邪心のなさだ。昨日のあれは見間違いか、そうだ見間違いかもしれない。
「あ、あのさ花音……」
「ん? なぁに~?」
「最近宗太郎に会ったりしたか?」
「……!」
い、いきなりすぎたかな……? 怪しまれ……。
「……最近ソウちゃんにはまったく会ってないわよ?」
………え?
「部活も忙しいし、そもそもクラスも違うんだから会う暇なんて全くないわよー」
「………」
「それよりいきなりソウちゃんの話をするなんてどうかした? もしかしてクラスで他の子とよくつるんでいるから親友要素が不足して寂しいの~?」
「ち、違うさ…………」
「……ふ~ん?」
「………」
…………いまの花音の発言はやっぱり嘘だ。少なくとも僕がカノジョと親友を見間違えるわけはない。……ぼ、僕にとっては大切な二人になんだから。しかし……。
そうして僕は昨日の優紀姉ちゃんとの会話を思い出す。
◇◇◇
「とりあえずまずはあの馬鹿と別れなさいっ」
「え? え??」
「そうしないとますます直くんが不幸になってしまうわ!」
「それは………そう……なんだけど…………」
「どうしたの? なにか別れられない理由とかあるの?」
「……まだ確定したわけじゃないから、いきなり別れ話を言うのは……」
「あなたの親友とカノジョに不義な扱いをされて悔しくないの!?」
「…………」
「私は悔しいわ!! 昔から直くんは花音のことが好きで、やっとの想いで告白したのに、そんな信じられない扱いをされたら私が耐えられない!!」
「優紀姉ちゃん………。ありがとう………」
「……分かったわ! しばらくそのままでいなさい。その間私も動いてみるから!」
「動いてみるって、一体どうやって……?」
「生徒会会長の情報網をなめないで頂戴ね!」
「…………」
◇◇◇
あれから優紀姉ちゃんは颯爽とどこかへ去っていったけど、一体どこに行ったのだろうか……。これからどうしたらいいかな、優紀姉ちゃん……。
そう僕が考えを巡らせていると、そっと手の甲になま暖かいのが当たる。僕はビクッとして手を反射的にかわしてしまった。
「……え??」
花音は目を見開いて、とても驚いた顔をしていた。まるでこの世のこととは思えん状況が起きたような表情だ。彼女は震える声で、
「な、なお……?」
僕はその声ですぐにはっと我に返り、
「あ、いや……ゴ、ゴメンッ。今日はその………手が汚れてる……そう、軽く運動して汗かいたから手を繋ぐのは止めとくよ」
「いいよ、それぐらい恋人同士なんだから」
「今日はいい!」
「……そ、そう?」
僕が強い口調で言ったせいか、花音は少し萎縮した。花音に怒り気味に言ったのは人生で今のが初めてかもしれない。この気まずい状況のまま僕たちは黙って学校へと向かった。
「おっす、直樹~!」
「……よお」
「どうした今日も元気ないぞ、おい~」
「……」
「今日も元気にしないと、幸せになれないぞ~?」
「……ろって」
「ん? どうしたー? 小さくて声が聞こえな……」
「離れろって!!」
「お、おう………分かった……」
はあ、こんな気分が嫌な日が続くのは嫌だな……。
そして案の定モヤモヤした嫌な日が続いた。それから数日経ったある日のこと。この状況に歯止めをかけたかったのか珍しく花音がうちのクラスに来た。
「相葉さんだ!」
「花音たんだ……!」
「……花音!」
「最近どうしたの? いつものなおじゃないよ?」
よほど心配しているのか、表情がいくぶん暗い。僕が返事をしないと、近づいて腕を触る。それでも僕は返答しなかった。
「……なお」
「あの~………相葉さん」
クラスの複数人の女子が花音に控えめな声で呼びかける。
「はい……?」
「最近……こんな噂が流れているのをご存知ですか?」
それは例の花音と宗太郎についてのことだった。僕はすかさず二人の顔を観る。宗太郎は少しビクついて、
「ま、まさか……そんなことあるわけないよ。いくら俺でも親友のカノジョに手を出さないよ……!」
と言ったが、花音は涼しげな表情で、
「あり得ないわ。私はなおだけを想って生きているもの」
と臆することなく言った。そう言われてはさすがの僕も心が動く。やはりあの時のことは何かの間違いで、僕の勘違いかもしれない、そう思い直した。
その時だった。
一斉にチャットアプリの着信音が鳴る。
「え! なにこれ!??」
「…………え?」
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