回復と挫折
なにやら怪しい雲行きか……?
13話です
二つの写真とボイスレコーダー。一枚目は優紀姉ちゃんが東高の制服を着た男子と手を繋いでいる。二枚目はその男子の家と思われる建物に二人で入ろうとする。そして極めつけはこのボイスレコーダーだった。紛れもない彼女の声で、その内容が、
『なおくんよりゆう君の方が好きに決まっているじゃない!』
胸が今にも張り裂けそうだった。一体どうして?? 彼女がそんなことするようには思えないけど……。優紀姉ちゃんは今日クラス当番かなにかで早めに登校している。だから一緒に来てないのだが………。
「……」
◇◇◇
「残念ながらこの写真と音声は本物のようだね」
僕は昼休み時間、新聞部部長を務めている早川先輩とこに相談しに行った。僕の淡い期待がことごとく打ち砕かれてしまった。
「……え? 本当に本当にですか???」
「うん、まあそのようだ。合成の痕跡があるか調べてみたけど、どうやらその線はないみたいかな。精々合成といえば、この目を隠している黒線モザイクぐらいだね」
「…………」
早くも万策つきた僕は生徒会室に行かず、気づけばいつもの河川敷に座っていた。なんか辛すぎて涙も出ない。雪は僕の気持ちなんか気にせずしんしんと降ってくるし………。そろそろ空も暗くなってきたので、はあ……と白いため息を吐きながら、僕は立ち上がる。その時、
「こらっ!!」
後ろから声が聞こえる。優紀姉ちゃんだった。僕はいま将に会いたくない相手だったから、ついふいっと顔をそらす。
「生徒会に来なかったから、心配したじゃない!!」
「………」
「ほら、はやく戻って生徒会の子達に謝りに行きましょう!」
「………」
僕が何も返事をしないからか、彼女は僕の二の腕をぐいっと持つ。しかし僕はばっと払いのける。
「?? ………どうしたの直くん?? そんなに怒って??」
「僕なんかよりゆう君のところに行っちまえ………」
「はあ?? 全くこの子は? 何を言っているの??」
僕はばっと優紀姉ちゃんの方を見る。僕の目が涙目だからか、ぎょっとした顔をする。
「これを見ても聞いても、そんなことが言えるのか!!?」
僕はそのまま写真とボイスレコーダーを見せて、同時に音声も聞かす。しばらく彼女の顔を見ずに、音声が終わるまで目を瞑っていた。そして音声が終わり、おそるおそる彼女の顔を見ると、彼女は目を見開いてあっけに取られた様子だった。
「ど、どうだ……!? これでもまだ知らないふりをするのか!?」
「ど、どうして直くんがそんなものを??? まだ公開されてる内容じゃないのに………??」
「な、なにをはぐらかして………」
「ち、違うのよ、訊いて!!」
彼女はかくかくしかじかとことの事情を教えてくれた。なにやら東高には映像研究会という部があって、それを今度の大会に出すのだが、なかなか適役がいなくて代打で出たらしいのだ。ついでになおくんというのはその映画の主人公で、ゆう君というのは優紀姉ちゃんの彼氏役らしい。
「な、なぜ他校の部活動に??」
「なんか役柄的にかなりの美人さんが必要だったみたいで……」
彼女はもじもじしながらそう言うのだった。なるほど、だからこういうしっかりした構図の写真と綺麗な音声が取れたのか。これで得心した。
「……ごめん優紀姉ちゃん! そうとは知らず酷いことを言ってしまって……!!」
「ううん、私もごめん。紛らわしいことした私も悪いのよ……っ」
こうして僕たちは互いの不安を払拭したのだった。
◇◇◇
「え? そんな部はない???」
「東高には映像研究会などない」
昨日のお礼を伝えるため僕はまた早川先輩に会いに行って、昨日の話をしたら、そう返された。
「ど、どうしてそんなこと知ってるんですか?」
「これでも新聞部の端くれ。県下の運動部も文化部の活動内容ぐらい情報として知っているさ」
「………」
「まあ、最近出来たのかも知れないし、東高に直接電話して訊いてみたら早いんじゃないかい?」
「………」
そして電話してみたが、案の定東高には映像研究会なる部活動は存在しなかった。僕は怒って気づけば優紀姉ちゃんのクラスに向かっていた。
「この嘘つき!!」
「え……!? 直くん!!?」
僕が怒ってクラスで怒鳴ったからか、優紀姉ちゃんだけでなく、周りもざわつく。
「どうしたの直くん!? そんなに怒った顔をして………らしくないわよ……??」
「そりゃそうだよ!! ゆ………あ、あんたに嘘をつかれたんだから!!」
ただごとじゃないことを察したのか、彼女は僕をなだめさそうとしながら、校舎のひとけのないところに連れて行く。
「どうしたの直くん? そんなに怒って?? 何があったの?」
「東高に映像研究会なんて存在しなかったんだよ!!」
流石の彼女も目を見開き瞠目する。
「まさか………そんなことないわ。確かに東高の子達に頼まれて………」
「じゃあ、東高に電話してみてよ!!」
「わ、分かったわ!!」
しかし彼女が急いで東高に電話したところで、案の定………、
「まさか………そんなはずは………」
何回確認しても、東高の返答は同じだった。
「だって………そんな………。私は確かに花音に頼まれて………東高の映像研の手伝いを………。い、いや……まさか………あの娘が………私を………」
そう言いながら、彼女は力が抜けるように床にしゃがみ込む。な、なんだか様子がおかしい……。
「ね、姉ちゃん??」
彼女が振り向いて僕の方を見る。僕はおもわずぎょっとした。彼女の目が雫でかなり溢れていた。
「………別れましょう」
◇◇◇
僕は彼女を抱えて、彼女のクラスの近くまで送った。彼女の疑いを止めたわけじゃない。しかしあの涙は本物だった。それに彼女はこうも言った。
──私は貴方の彼女として失格です。だから別れましょう………。
僕は生徒会活動(逆に会長が休んだため)の後、いつものように河川敷に座った。とりあえず別れ話は一端保留にし、互いの冷却時間したのだが……、
「一体どうすりゃあいい………」
僕は何も案が浮かばないまま、ひたすら悶え考えあぐねていると、後方から僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
「なお」
その声の主はなんと、
「花音……」
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