信頼と衝撃
すみません、なかなかアイデアが浮かばず、久しぶり状態です!
最終章の始まり12話です
「はあ……」
3学期に入り、久方ぶりの生徒会が始まる。これで公私ともに優紀姉ちゃんの近くにいられる……そう思っていた。しかし、
「今日も先に帰るから、宮川くん後よろしくね」
「はい会長」
「……」
てきぱきと仕事を終わらせた彼女は急いで部屋から出て行く。年度末が近いから僕の仕事も山積みだし、そこまで要領よく仕事が出来ない……。そのためここ1週間ほど優紀姉ちゃんと一緒に帰れていない。
そして彼女に内容を訊こうとも、はぐらかしてなかなか教えてくれない。ただ、
「心配しないで。単に頼まれごとをしているだけだから」
と、その一点張りだった。いままで秘密を口にしなかった優紀姉ちゃんの初めての隠し事だ。気になるが、執拗に訊くのもなあ……。
「喜多村君」
「はい副会長…」
「会長から言づてだ」
「え!? はい何でしょう!?」
「『これとこの分の仕事、少し遅れているから明日までに終わらしといてくれ』だそうだ」
「………」
こうして僕のもやもやと仕事が増えるのだった。
仕事を終えた僕は一人降りしきる雪の中を歩く。吐く息は白く、一人で家路につくのがとても寒い。一人でいることの寂しさを改めて実感した。手をズボンのポケットに入れ、淡く白色が交じった地面を眺めながら、僕は足早に学校からほど近い北山駅へと向かう。
少し待っていると電車が重たそうにホームにやって来る。僕は群集ひしめくその中へささっと乗り、誰も使っていないつり革を握るとじきに電車が動き出す。ガタンゴトンと不規則で規則的な音を鳴らしながら、斜めに降る雪を窓越しで眺める。
外の暗い色と雪の白色のコントラストが風景画のような一瞬の美を感じ、僕のこころを少しだけ和ましてくれる。
「………」
僕は2駅先の最寄り駅のホームを降り、出口までの下り坂をとぼとぼと歩いていると、透明の傘を差して、手を口元へもっていく一人の女性を見かける。
「………え? 優紀姉ちゃん???」
「あ、お帰りなさい直くん」
「え!? 寒いのにどうしてこんなところに!?」
「カノジョが彼氏の最寄り駅にいる理由なんて一つしかないでしょ?」
「……待ってくれてたの?」
「うん、もう用事が終わったから、駅まで立ち寄ったのよ」
「わざわざ??」
「うん、1秒でも早く直くんに会いたくて」
「……ありがとう」
僕はとても嬉しくて、あやうく涙がこぼれるところだった。
「雪降ってるから、傘の中に入って」
「うん、分かった」
「ふふっ。初相合い傘ね……っ」
自分で自信ありげにそう言いながらも、彼女はどことなく照れている。
なにこれ? かわよ。
そして僕たちはこの時間を大切にしながら、静かに帰路につく。そしてしばらくして優紀姉ちゃんが僕に話しかけた。
「………ごめんなさいね」
「……ん? なにが?」
「なかなか一緒に帰ることが出来なくて……」
「………」
「頼まれごとだったから無下にできなくて」
「いいさ別に」
「え?」
「こうしてまた僕と一緒に歩いてくれているんだから」
「………」
そして互いの呼吸を合わせながらまた黙って歩く。コツ、コツと僕たち二人の足音だけがしんとした夜道から聞こえてくる。
「……くしゅん」
「あっ、寒い?」
「あ、ごめんなさい。ううん、大丈夫だから心配しないで」
「何分ぐらい駅で待ってたの?」
「それは……ほんの少しだけよ……」
「だから何分??」
「………20分」
僕はその待ち時間に驚き、困惑した。まさかそんなに待っていたとは……。大丈夫とは言いながらもやはり寒そうに小刻みに身体を震わす優紀姉ちゃん。
僕は意を決して彼女の肩に手を伸ばし、ぐいっと僕の方へ引き寄せた。
「……!?」
やっぱり彼女の身体は冷えていた。僕は彼女の身体を少しでも暖かくなるように自分の方へできる限りぎゅっと引き寄せる。最初は戸惑っていた彼女だったが、次第に力を緩ませてきて、
「暖かいわ……」
幸せそうにそう言ってくれた。そしてそろそろ彼女の家が見えてきたころだ。僕は彼女の身体を寄せていた力を緩めたら、
「あのね、手も冷たいから握ってくれない?」
優紀姉ちゃんからは珍しい甘めのお願いだった。僕は彼女の手を優しく握る。
「うん、良いよ」
「良かった………。貴方の手を握るのがとても待ちわびていたの……!」
「?」
そして僕たちは分かれたのだった。
数日後、いつものように学校の体育館の用具入れのチェックをしていたときのことだった。
「えーー? まじ~??」
「本当だーって。市内で会長が他の男二人と揉めていたの見たの~~っ」
なんのことか分からず、意味がよく分からなかったが、しかしなんとなく耳に入ってしまい記憶の片隅に残った。
そして翌日の朝、僕はあくびをしながら自分の下駄箱を見ると、二枚の写真とボイスレコーダーが入っていた。不審に思いながらもおそるおそる見ると、それは一番信じられない写真だった。
「え……これって……???」
なんとそれは優紀姉ちゃんと他の男が手を繋いで仲良く歩いている写真であった。
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