カノジョと幸せな日々からの転落
久しぶりに新連載です。宜しくお願いします!
1話です
秋。木々はもう紅葉一色になり、冬の気配が少しずつ近づいていた。そんな外の寒さが肌に伝わる11月終わりのことだった。こんな噂が校内で流れ始めるのは。
──花音が宗太郎と仲良くデートしてるって?
◇◇◇
僕は喜多村直樹、高校一年生だ。容姿は普通、成績も普通で、部活は小学校のころからしている剣道部だが、別にそこまで強くもなく大会の個人戦で3連勝したら良い方の実力だ。
どこともない至って普通の高校生だが、しかし一つだけ僕には自慢の種がある。それは……、
「なおー!」
後方から僕に声をかけてくるのは僕の幼馴染で、初カノジョでもある相葉花音だ。彼女が僕の自慢の種なのだ。
ぱっしりした愛くるしい目に、綺麗な黒髪のショートボブ、明るく元気で活動的、スポーツ万能で成績優秀なもう完全に完璧美少女だ。
彼女と付き合っているのが僕はいつも信じられない気持ちになる。僕はなんて幸せ者なんだろうか。
「なおー、顔が緩んでいるわよっ。なにか良いことでもあった?」
「うん? あぁ、それは花音と一緒にいられて幸せと思ってるだけさー」
「! もう、なおったらー!」
花音の照れる顔がまた可愛らしい。こんな日々がずっと続けばいいと思っていた。
いつも僕たちは一緒に登校している。それは小学生の頃から変わらない。ただ変わったことと言えば……、
きゅ。
僕たちは恋人つなぎをするようになったことだ。
「まだ慣れないわね。少し恥ずかしい……」
「う、うん……」
告白したのは高校入ってすぐ。もちろん僕からした。昔から彼女はモテモテだったが、高校にもなるといままで以上にたくさんの男子生徒から告白されていた。しばらく僕は静観していたままだったが、やっぱり花音のことが好きだったから、意を決して告白した。あれからもう半年近くが経つ。
「……」
「……」
僕もまだ緊張していて自分の手汗とか気になっちゃうけど、その代わり彼女の手からぬくもりが伝わってくるから、僕は彼女の手をしっかりと握る。そしたら彼女は自身の腕を寄せて僕の方に少しもたれかかる。
「でもやっぱり私もなおの近くにいられて幸せよ」
クラスに着くと、僕の机に親友が座っている。たくさんの人達が彼の周りを囲んでいる。
ここ僕の席なんだけど……。
「宗太郎」
「お~、直樹かっ」
嬉しそうに笑う彼は僕の親友、久米宗太郎だ。友だち多く、コミュ力も高く、スポーツ万能のマジイケメンモテ男だ。勉強は少し苦手だけど。
「おーい、直樹が来たから、みなこの席から離れろ~」
「えー?」
といいながらもみんな各自の席に向かう。流石の人気者だ。いや、それよりお前がどけよ。
「よう、直樹」
嬉しそうにニコニコしているが、全然席から離れようとしない。いや、どけ。
「どうした直樹? いやに元気じゃないな? 風邪か?」
おめーがどかないからだよ。はよ、どかんか。
「そんなにむくれてると幸せが逃げちゃうぞ!」
「うざい。どけ」
「きゃー、直樹君っ、こ・わ・い~~!!」
「どかんかい!」
やかましいのでためらわず宗太郎の頭に手刀を入れた。
「いたいっ!!」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……。
時間が過ぎるのは早い者で、もう放課後である。ほとんどの生徒が部活動に向かうなか、僕は別の場所に向かうための準備をする。そしてクラスから出る時にちょうど花音にあった。
「! 花音」
「わっ、なお!」
「どうした? 部活は?」
彼女はバレー部員で、体育館は反対側だ。
「……ちょっとなおの顔を少し見たいと思ったから」
「花音……」
僕は嬉しすぎて、泣きそうになった。
「じゃあ、生徒会まで一緒に行くか?」
「え? うん、良いよ」
邪なさがまったくないとても愛らしい笑顔だ。そして僕たちは生徒会室に着くまで一緒に話をする。彼女は8組で、僕は6組だ。8組は英数コースで、一学年の一番頭の良い生徒たちが集まっている。クラスが違うから普段の花音の過ごし方は知らないが、僕のクラスまで彼女のうわさが聞こえてくる。
「今日は授業中に少し頭を揺らして、めずらしく眠そうだった」
「彼女は本屋大賞の話題で盛り上がってたよ」
「今日も今日とて花音たんかわゆす」
もう学校のアイドル状態だ。そういえば文化祭の時のミスコンで1位だったっけ? あの時は2年の優k……
「あ、そろそろ部活に行かないと先輩に言われるから行くね」
「あ、うん。分かった」
そう言って花音はこの場から急いで去って行った。
「こんにちは~」
「喜多村君来たか」
僕は生徒会会計係。主に学校関連行事の資金調整を行っている。この方は生徒副会長の宮川先輩だ。会長のあらゆる指示に従い、仕事をテキパキこなし、生徒会メンバーを指揮するいわゆる出来る人だ。
ところで今日はまだ会長が来てなかった。
「会長は?」
「ん? あぁ、会長はいま職員室に行って抗議しているところだ」
「……また教頭のところですか?」
「そうだ」
桂沢教頭。ことあるごとに生徒達(特に会長)に難癖つけてくる先生だ。
「もう少し生徒と教師が寄り添えれば、より良いんですけどね」
「…そうだな」
とはいえ生徒会の仕事も充実しているし、今の僕はとっても幸せだ。
そして数日経ったある日、体育館の用具入れのチェックをしていたときのこと。
「えー、まじで~?」
「ほんとにほんとだって!」
普段は他人(とくに女子)の会話なんかほとんど気にならないのに、このときばかりはたまたまそのひそひそ話が耳に入った。
「……けど信じられないわ~」
「……ほんとに私見たもん! 花音ちゃんとソウ(=宗太郎)様が仲良く手をつないでるところ!」
………え?
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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