表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏道抜けたらケモの国   作者: 空鹿
7/14

東氏と西氏の戦い

挿絵(By みてみん)



ギールから報告を受けた後。


シルバート達は明日の謁見について緊急の会合に招集され、全員が老公達の待つ白条の間へと向かった。



一人ポツンと残された私は焦っていた。



「明日夕刻にて、天子様がサクラ様との面会を希望されていらっしゃるとの事です」



あれから頭の中でギールの言葉が、ヘビーローテンションしていたからだ。




ヤバいヤバい!


そんな偉い人に会うとか、完全に要人扱いじゃん!

いや。

私が異世界人…絶滅した唯一の人間って時点で、この展開は予想してたけどさ…。


売られる線は消えたが、これはある意味もっとヤバい気がする…。



そりゃまあ確かに?

“神様“って事は元の世界に戻る方法くらい知ってるかもだけど…。




いや…待てよ?

むしろ私をここに連れて来た張本人かもしれないぞ⁈


だとしたら、そう簡単に帰してくれるのか?


一先ず神様と面会して…


「あれ?呼びたかった子と違うの来ちゃった」

「この子要らな〜い」

「君らの好きにしていいよ?」

「何なら今晩のメインディッシュにしちゃう?

人間って美味いらしいし〜」


チーン


「…………(汗)」



いや…逆に気に入られたとしよう…



「ヤダヤダ帰したくないもーん!」


飼い殺し人生確定〜。

ヤッタネ(ハート)



アホかっ!

お断りじゃっ!


こっちが幾ら拒否ったとしても、逃げられないよう更に厳重な、最下層の地下牢とか放り込まれたらマジで終わる。


どっちに転んでもバッドエンド一択やないかっ!




くそぅ…せっかく足枷外してもらったのに…。

下手したら四六時中監視役が付く羽目になるかもしれん。



これが小説やマンガなら、レビューに並ぶのはこんな言葉だろうか…。


「せっかく神様に会えるんだから大人しくしとけよw」


「脱走したって帰れる保証ないじゃんw

自分から野垂れ死ぬとかないわー」


なんてコメント書かれるとこなんだろうけど…。



やかましいわっ!


リアルに切羽詰まってたこの状況で、慎重に考察してる余裕なんて私にはないっつーの!



それにたとえ可能性は低くても、自分の目で確かめたい…。


今後自由に動き回れる保証がない以上、こんなとこ長居は無用じゃ。


やるなら今夜しかない…。


それまで出来るだけ情報を掴んで、あの場所まで行ってみよう。



そんな事を考えているうちに、口寂しくなった私は鞄から菓子を取り出した。



しかし便利だなこの鞄。

最初はつい文句言っちゃったけどさ。

思ったより色々出てくるもんね。


買い物だのなんやかんやで、生活に必要な物はエコバッグ代わりに入れてきたからなぁ。

ぱっと見はそんなに大きく見えないけど、留め具外せば大容量の優れ物だからね。


ここから抜け出しても飲み食いには困らないだろうし、着替えも問題なさそう…。


たぶんこの世界には存在しない便利グッズもかなり入っているはず。

非常時にはそれ売り飛ばして稼ぐって手もある。



手にした菓子を口に放り込んだ時だった。



「サクラ様。

お待たせ致しましたー!」


入って来たのは、エルとギールの二人(二匹?)だった。



「あれ?他の人達はどうしたの?」



相手がこいつら二匹なら、別にかしこまらなくてもいいや。(モグモグ)



「シルバート様は、まだ元狼様とお話しされています」


「クロード様が、サクラ様のお相手をするようにと仰いましたので戻って参りました」


「へぇ〜そうなんだ」



放っといてくれた方が、こっちは都合いいんだけどな…。(モグモグ)



また一粒。菓子を空中に放り。

口でキャッチしていると、



「あの…さっきから何を口にされてるんですか?」


「ん?これ?」


二人は手にしている菓子を興味深そうに見つめていた。



「チョコだけど?食べた事ないの?」


「見た事もございません…」


「へぇ〜」

パクリっ(モグモグ)



「…………」



「え?欲しいの?」


二人は途端に耳をピンと立て尻尾をクネクネと揺らし始めた。



「あげてもいいけど…」



犬猫にチョコレート食べさせてもいいんだっけ?

でも神社のモフに食べさせた、虫下しの薬はチョコだったような…。


あ〜でもこいつら獣人だから関係ないのか???


などと悩んでいると。

二人はポケットから何か取り出し、銀のコインを一枚づつ差し出してきた。



がま口っ⁈


この世界の財布か?

猫耳っ子ががま口開ける姿とか。

かわいいなチクショウっ(笑)



「えっと。それお金?」


二人は頷いている。



あはは…別にお金欲しくて渋ってた訳じゃないんだけど…。


いや、待てよ?

これ棚ぼたってやつじゃ?

この世界の通貨をゲットできるなら手に入れておきたい!



「分かった。はいどうぞ」


”我ながらケチくさい“と思いながらも、一粒ずつエルとギールに手渡した。


手にしたチョコの匂いを嗅いだり、興味深そうに眺めた後、二人はポイっと口に放り込んだ。



大丈夫か?



二人ともハッとしたように口を押さえた。



え?うそ⁈

やっぱ獣人といえどチョコはヤバかったか⁈



「んまーい!甘ーい!

サクラ様!これは何という食べ物ですか?」



お約束かっっ!


まあ…何ともないんならそれで良いけど。




「チョコレートって言うんだよ。

中にアーモンドの実が入った、アーモンドチョコって言うお菓子」



「ちょこれいと…?」


「あーもんどちょこ…?」



可愛いからそれやめろっ。



「凄く美味しいです!」


「生まれて初めて食べました!」



そっか〜良かったねー。


ふーん。

こっちにはチョコ無いのか。


って…まだ欲しそうな顔してるな。



「まだ欲しいの?」


「はい!もっと食べたいです!」



そう言うと。

がま口から銀貨をドサッと出してきた。



マジか…。


「じゃあ、これあげる」


開封したばかりとはいえ。

いくつか食べてしまったチョコを箱ごと彼等に渡した。


良心が痛む…が、これも正当な取引だ!(多分…)



「一度に食べ過ぎないようにね?」


「はい!」


チョコを受け取り狂喜乱舞している二人に、心の中で“ぼったくりスマン”と手を合わせつつ。


思わぬ収穫に小さくガッツポーズすると。

肝心な事を切り出してみた。



「ねえ。そういえば…あんた達が戦ってた場所って何処?」


二人は口をモゴモゴさせながら、あっさり答えてくれた。



「先日の戦場(いくさば)は“東ヶ原(あずまがはら)”でした」


「東氏の街を出て、一山越えた先にある草原が、東ヶ原と呼ばれている戦場(いくさば)なのです」



東氏…確かシルバートが統治してる土地か…。



「迷ったりしない?」


「迷う事などありえませんよ?

一本道ですし。

東へ向かえば嫌でもたどり着きます」



ほっほう〜


チョロすぎる。


よくこれで側近とかやってんなぁ。

大丈夫か?


てか二人共敵同士だよね?

情報管理とかどうなってんの?



「あんた達確か姓が同じだったよね?

“コラット”だっけ?

兄弟なんでしょ?

シルバートもクロードもそうだよね?」



二人は首を振ると



「確かに僕らは衛位(えいい)であるコラット家の者ですが、兄弟ではなく従兄弟です。」


「サクラ様の仰る通り。

シルバート様、クロード様はご兄弟です。

北氏(ほくし)城主ミレニア様と、南氏(なんし)城主レニエル様もそうです」



四兄弟で城主やってるのか…。



「現在”元老公“は、狼族が務めておりますので。

狼族の長であり。

元狼であるディアロ閣下の御子息様方が、それぞれ護城城主を任されていらっしゃいます」


ヘェ〜。


「この世界は世襲制なの?

選挙でトップが代わるとかじゃないんだね」


「選挙?」


「私たちの世界では選挙。

つまり国民に選ばれた人が指導者になるんだよ。

勿論、国によって方法も変わるし、色々問題もあるけど…」


他所の世界のこんな話聞かされても分からないだろうし、つまんないか。



理解は出来ていないようだったが、二人は聞き慣れない世界の話を真剣に聞いていた。



「ところでさ。

同じ国?都?の城主同士なのに、何で戦なんてやってんの?

それに、エルもギールも親戚なんだよね?

なのに敵同士?

どうして戦ってるわけ?」


こちらの質問の意味がわからないのか。

二人は首を傾げていた。


その時だった。



「それが我らの職務だからです」



いつの間にか部屋に入って来たシルバートがその問いに答えた。



お前ら…ノックくらいしろ。

さっきメリル姐さんに叱られたばかりだろうが…。



「シルバート様」

「クロード様」

『お疲れ様でした』


二人はパッと姿勢を正し敬礼した。



「職務…?」


「はい」


戦争が職務?

この世界は戦争で成り立ってる世界って事?

いや…でもさっき国同士が争うことは禁じられてるって説明された気がするけど???



釈然としないこちらの気持ちが分かったのだろうか、ダンが前に進み出て話し始めた。



「簡単にご説明致しますと。

東西南北の護城の内、東氏・西氏は領地管理の他。

エスカニヤの戦番(いくさばん)という大役を仰せ使っております」


「戦番?」


「はい。

通常、支国…或いは|四方護城から持ち上がった懇請(こんせい)は、最終的に老公院にて協議され裁決されるのですが。

時に票が割れ、いつまでも裁定できない事案がございます。

その際。

是か非を東氏(とうじ)西氏(さいじ)に振り分け両者が戦う事で決着を付けるのです」



なんだそれ?



「え…?そんなスポーツ感覚でいいわけ?

だって戦争でしょ?

人の生き死にをそんな事に使うの?」



これにはクロードもムッとしたらしい。



「我々はお遊びで戦っているわけでは無いぞ?」



あ…地雷踏んじゃったかな?



「でも戦争って命のやり取りの問題でしょ?

採否なんて多数決で決めればいい話じゃないの?

同じ土地に住んでるのに?

いくら街から離れた場所で争うって言ったって、万が一飛び火でもしたら迷惑被るのは一般の人達なんじゃないの?


…そりゃあ人間の世界でも、戦争が無いなんて言えないんだけどさ…」



時折ニュースで流れてくる、紛争地域で暮らす人々の苦悶の表情が脳裏に浮かんだ。

それを想うと割り切れない気持ちになった。



「私にはお偉いさん達の揉め事に命差し出す感覚なんて理解できないし。

したくもないんだけど?」



ここまで言うつもりはなかった。

でもやっぱり納得できない。


険悪なムードにナイルが割って入ってきた。



「サクラ様。

クロード様の仰る通り、我々は遊びのつもりで争っているわけではありません。

ただ、サクラ様がご心配されているような命のやり取りは我らの戦にはございません」



え?


「死人が出ないって事?」


「はい。

先程遊びでは無いと申し上げましたが。

市井では、この戦いは娯楽とされている側面もある事に間違いは御座いません」



「遊びじゃないのに娯楽って…」


それ遊びだろ。

ますます意味不明なんですが?



「我々獣人は元来、好戦的な種族が多いのです。

その闘争本能は一般の民も同じ。

彼等は我々の戦いに興じ、内から湧く猛りを晴らします。

またエスカニヤの民自ら参戦する事もよくある事です。

参加枠は多くありませんが、希望者は後を断ちません」


「そして。一度戦が始まれば、命を取る事は無くとも互いの四肢を無くす覚悟で臨みます」



「はぁ⁈

四肢って…手足切断されるのはどう考えても問題なんじゃないの?」



あまりの事に目を丸くする私に、ナイルは微笑むと言葉を付け加えた。



「切り落とされた者達は、接合師が治療を施し元の身体に戻します」



ええっ⁈


「くっつくの???

手と脚が???」


「はい」


「何それ魔法?回復術?ポーション⁈?」



「まほう?ぽーしょん?

それは何でしょうか?」


聞き慣れない言葉なのか、今度はナイルがポカンとしている。



「え?だって今くっつけるって…」



部屋にいる獣人達全員が、顔を見合わせ“?”という表情を浮かべていたが。

ナイルは話を続けた。



「接合師というのは衛生隊に属す治療師の事です。

彼らは辰と巳の国に伝わる薬と秘術で、切り落とされた身体を繋ぎ合わせます。

これには大変な苦痛が伴いますが。

二、三日もすれば傷は跡形なく修復されます。

但し、戦場に於いてこのような重傷を負った者は戦闘不能と判断されます。

東氏と西氏の戦いは。

天子様のお力で各支国。及びエスカニヤ各所に設置された玉石に投影されます。

戦には制限時間が設けられており。

戦闘終了後。

残兵数の多い陣、或いは大将である城主を討ち取った陣が勝利となり、その結果で裁定が下されるのです」



正直。

ナイルの話は私の理解を超えていた。

いくら職務だからといっても、兵の中には自分の意思に反する戦いを強いられている人もいるはず…。

その上一般民自由参加の全国中継??

色々ぶっ飛び過ぎ!



「命を奪われない戦争…?」



でもやっぱり手足が切られるのは残酷だと思う…


納得はできない…けど。



「…………」



「あなた達の世界の事に、異世界から来た私が異論を唱えるのは筋違いなんだって事は分かった…と…思う」



これが彼らの世界のルールなんだ。

異世界人である私に口出しする権利なんてないんだろう。


まして戦争なんて知らない私は、授業で習ったり。ニュースで見聞きする程度の内容を、自分の物差しで測るくらいしかできない。

民族や宗教で違う、国の事情や考え方なんてまるで理解できないんだから…。

結局のところ納得できないのは私の身勝手なんだと思う。


でも…。


「人間世界の戦争はもっと悲惨だから…」


俯いて小さく呟いた私の言葉に、彼らなりに何か感じたようだった。


ただ、私がナイルの言葉を理解しようと努力している事は分かってくれたのだろう。


シルバートが私の前で胸に手を当て跪いた。


「人族の戦いは我らには想像もつかない事ですが…。

少なくとも東氏と西氏の戦いは、サクラ様が気に病まれるような愚劣なものではありません」


「この世界では国同士の争いは禁じられております。

それを犯せば天子様の加護を失うからです。

故に我々は支国の…エスカニヤの民に代わり、名誉を掛けこの身を差し出し全力で戦うのです。

例え彼等の支持を受けた陣が、敗者となったとしても勝負の行方は天の采配。

これに意を唱える者はおりません。

我らが真剣に戦いに臨んでいる事を皆は理解しているのです」


憤りを拭えない私に、シルバートは優しく穏やかな口調で語った。



それが彼等の誇りって事…?



「ハハハッ。

まあ実を言えば、そこに賭け事を持ち込む者も少なくはないんだがな。

獣人にとって戦とは血湧き肉躍る祭りなのだ。

だが戦いはいつでも真剣そのもの。

”娯楽であっても遊びではない“というのはそういう事です」



ん?

おい。

ちょっと待て。

勝敗賭けて遊んでんのかっ⁈

やっぱスポーツ感覚じゃん!



さっきまでの険悪なムードもクロードが笑い飛ばした事で、少しだけ楽な気分になったような気がした。


獣人世界ってさっぱり理解できん。









そこが何処かは分からない。

地下なのか、建物の中なのか…。

暗くじめっとしたその空間には、只ならぬ気配と凄まじい獣臭(けものしゅう)が充満していた。


閉ざされた深い闇の中で、対になった幾つもの光りがチラチラと瞬いている。

やがてその光は寄り集まり、むせるような臭気の中で(せわ)しなく(うごめ)いていた。


「不吉ダ」


「アア。アノ噂…人間ガ現レタ」


「人間⁈」


「人間ダト?」


「アレハ絶滅シタ筈ダ」


「ダガ現レタ…」


「天獣帝ガ塔城ニ匿ッテイル」


「天子ガアレヲ呼ビ寄セタノカ?」


「何故ダ!今更人間ダト?」


「邪魔ダ」


「人間ハ不吉ダ…」


「殺セ!」


「イヤ…殺スノハ手ニ入レテカラダ…」


「ソウダ。アレヲ攫ッテコヨウ」


「人族ナド喰ラッテシマエバイイ…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ