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裏道抜けたらケモの国   作者: 空鹿
6/14

エスカニヤ





天獣帝(てんじゅうてい)は不老不死の聖獣である。


十二の国を導き守護する天子は、彼らにとって唯一無二の存在であり、獣人の始祖として信仰の対象になっている。


だが天獣帝は政治には関わらない。


天の声を聞き、それを十二支国の長。

“元老公”に伝えるのみである。

この世のまつりごとは全て彼らに委ねられていた。




ー天楼城 最上階 “碧晶(へきしょう)()”ー


蒼水晶(あおずいしょう)に埋め尽くされた大広間。


高座にある御簾内(みすうち)の前では、白い軍服姿の獣人が跪き。

御簾の中の人物へ何かを告げ終えると、すぐにその場を立ち去った。



その直後、部屋中に優しく澄んだ声が響き渡った。



『さてもめでたき事ならむや、

世に再び(こう)がうちいでき』

(なんとめでたい事であろうか。

この世に再び瑞光(ずいこう)が現れた)



蒼水晶は。御簾内から語られる声に呼応するように、小さな光を発しながら明滅(めいめつ)していく。


段下(だんか)で控える黒銀の獣人が尋ねた。



「天子様。瑞光(ずいこう)とは…」



『人ぞ』



天子の力強いその言葉に、獣人の耳と尾がピクリと動くと同時に、

“まさか⁈”

という驚きの表情を浮かべた。



「…それは誠で御座いますか⁈」



この世を守護する天獣帝の言葉を疑うつもりではなかった。

しかし、つい疑問を持ってしまった…。

それに気付いた途端。

獣人は己を恥じたのか、耳と尾は垂れ下がり顔を伏せ頭を深く沈めた。


それほどまでに衝撃的な言葉だったのだ。



(ろう)よ。な案じそ。

信ぜられぬ心地は心得たり

さほどまでに遠き存在となれれば』

(狼公(ろうこう)よ、気するな。

信じられないのも無理はない、それほどまでに遠い存在となっていたのだから)



天子の労りの言葉に。“狼公(ろうこう)”と呼ばれた獣人は安堵の色を浮かべ、顔を上げた。



『既に兆しはあれど。

深く長き眠りつきづきしかりし黒狐(こくこ)おどろき我に告げけり』

(既に予兆はあったが。

長い時を眠っていた黒狐が目覚め、私に告げたのだ)



元老公は身を乗り出し天子に問うた。


黒狐(こくこ)様がお目覚めに⁈

何と仰られたのですか?」




『…懐かしき者のにほひす』

(懐かしい匂いがすると)


『我が使い帰り申し

誠この世に人が現いだしき』

(私の使いからも、人間が現れたと知らせを受けた)



次の瞬間。

大広間の蒼水晶は輝きを増し、頭上を明るく照らし出した。



『我、命ず。

彼の者を護りたまへ』



黒銀の獣人は深く頭を下げると碧晶の間を退出し、すぐさま老公達が集う白条(はくじょう)の間へと向かった。






<十二の支国>


支国(しこく)“と呼ばれる十二の国は、全て大公が治める小さな公国だ。


それぞれ独立した国ではあるが。

大公が干渉できるのは国内に限られる。


国同士の直接的な交渉や争いは禁じられ。

その是非、可否は中央(エスカニヤ)の老公院に委ねられている。



<老公院 (上局)>


老公院 (上局)は“元老公(げんろうこう)”を含めた十三名の老公で構成されている。


“元老公“は老公院の長。

十二支国の頂点であり、エスカニヤの最高責任者である。

現在は(ろう)一族が元首を務めている為、”元狼(げんろう)“または”狼公(ろうこう)“とも呼ばれている。


支国にて役目を終え引退した大公は、都と自国の中立ち役として都へ登り“老公(ろうこう)”として天獣帝に仕える。


彼らは上局(じょうきょく)(老公院)を統括する元老公を中心に、支国や下局(かきょく)から上がった議題を協議し決定を下す。

老公院は獣人世界の最高意思決定機関なのだ。


天子の加護を受ける十二の国にとって、老公院が下す決定こそが“天獣帝の意思”とされ。

これに異を唱える事は許されていない。


それが獣人世界の掟となっている。


下局(かきょく)

伯位(はくい)衛位(えいい)の支族で構成され、

四方護城の“四氏”を纏め管理する、エスカニヤの行政機関。



支族(しぞく)”とは純血統の一族である。


支族には三つの階級がある。


公位(こうい)

支国を収める大公の血族。

大公の血族は重臣として仕える。

或いは国内の各領地を統括している。


伯位(はくい)

領地を持たず。首都、地方に限らず支国全体の市井を管理する。

異種族純血統の一族で構成される。


衛位(えいい)

軍事や警務を担う。

伯位と同じく異種族純血統の一族で構成されている。



ーーーーーーーーーーーーーーーー





ー老公院会議室 白条(はくじょう)の間ー



黒銀の獣人が入室すると、他の老公達が一斉に立礼した。



「ああ、元狼(げんろう)様。

お待ちしておりました。

この度の突然の召喚…天子様は何と?」



天獣帝の急な呼び出しに。

何事かと皆が戦々恐々としていた。


彼らがここまで狼狽(うろた)えるのには理由がある。


天獣帝は星と対話し、この世の安寧を祈り続けている。

また、エスカニヤを取り巻く十二の国へ自らの霊力を注ぎ守護しているため。定められた期日以外での召喚は、これまで一度もなかったからだ。





「人間が現れた」


元狼と呼ばれた黒銀の獣人が口にしたのは、他の老公達の予想を超えたものだった。



「に…人間ですと⁈」



十二人の老公は一斉にざわつき、元狼の元へ集まった。



「まさか…」


「有り得ぬ!

人族はとうに絶滅した筈ではなかったのか?」


其方(そなた)!天子様のお言葉を疑うとは無礼であるぞ⁈」


「疑っておるわけではないわ!

この糞爺‼︎」


「何⁈貴様…糞爺とは何事か‼︎」



「おお…何という吉事!」


「まさか人族が発見されるなど思いもよらなんだ…。

長生きはするものよのう」




疑いの目を向ける者。

困惑する者。

感嘆の声を上げる者。

彼らの反応は様々だったが、その殆どが人間の出現を喜ぶものだった。




大騒ぎする老公達を眺めながら、小さくため息をつくと。

元狼は片手を軽くかざし、皆に静まるよう促した。



黒狐(こくこ)様がお目覚めになられ、人の気配にお気付きになられたそうだ。

既に御使(みつかい)殿も人間の存在をご確認なされている」


「おおお〜」


その言葉に部屋中が歓喜の声で溢れた。



「何と。めでたき事であろうか!

二百五十年もの間、()せておられた黒狐様がお目覚めになられたとは…」


「その上、人間の出現!」



「天子様もさぞかし御喜びであろう…

祝いじゃ!祝いじゃ!」



皆が喜びに沸いていると



「待て。まだ喜ぶには早い」


「確かに喜ばしい事ではあるが、支国の者達が黙っておるかどうか…」


大きな曲線を描いた立派な角に、長い髭を蓄えた羊の老人未老(びろう)が呟いた。


「確かに。

この噂はすぐに広まる事であろうな…」


長い尾をゆっくりくねらせ。

黄色い蛇目(じゃのめ)で他の老公達を舐め回しながら巳老(みろう)も未老の言葉に賛同し、顔をしかめると不安を口にした。


「支国の動きも憂うべきであるが。

ここ数年“生成化(なまなりか)“の問題も深刻になっておる。

ここまで多発するのは異常じゃ。何処(いずこ)の支国…或いは組織が関与しておるのは間違いなかろう。

そんな中、人族の存在が奴らに知られれば十中八九狙われる事となろうぞ…」


巳老(みろう)の言う通りじゃ」


そうだそうだと頷く老公達に、元狼は再び手をかざすと


其方(そなた)達の心配通り、天子様からも直々に命が下っておる。


『彼の者を護りたまへ』


とな」


「天子様が…」


しんと静まりかえったその時。


「失礼いたします。

下局より火急(かきゅう)の報告が御座います」


官服姿の獣人が慌てた様子で、白条の間へ飛び込んできた。


「この無礼者!

許可もなく入室するとは一体何事じゃ!」


太く反り上がった牛角の老が、顔を真っ赤にして怒っている。


その様子に官服の獣人の顔は一気に青ざめたが、何とか気を取り直し元狼の元へと跪いた。


「元狼様!

無礼を承知でご報告が!」


只事ではない使者の様子に。

老公達は顔を見合わせていると、元狼が発言を許可した。


「許す」


「は…はい。申し上げます。

本日、東ヶ原で開戦された戦にて異常事態発生。

謎の壁が出現し、東氏・西氏軍共に負傷者多数…」


「何じゃと⁈」


「静かにせんか(しん)老!

まだ途中であろう?」


興奮した猿族の老を、(がく)族の(たつ)老が硬い鱗で覆われた尾をパシリと床に打ち付け嗜めた。


「………申し訳御座いません」




「続けよ」



「は…はい…」


「種族不明の少女を壁内(へきない)にて発見。

両軍とも手出しできぬ状態が続いておりましたところ、突如大規模な地割れが起きました。

その後。意識を失った少女を御使様の命により、天楼城へ護送中との事で御座います」


報告し終えると、元狼は直ぐに使者を下がらせた。


しばらく沈黙が続いていたが、垂れ下がったウサギ耳の老が口を開いた。


「…では、その少女が人間…という事でしょうか」


「間違いなかろうな」


元狼の言葉に、またも他の(ろう)達は舞い上がっていた。


「黒狐様のお告げ通りじゃ!」


一方で、下局の余りに遅い対応に不満の声も上がった。


「全く!下局の者は何をグズグズしておったのじゃ」


「これ程の大事。

老院へ上げるまでに時間がかかり過ぎだぞ!」



皆口々に、下局への不満を漏らし始めた。



「しかし。

これで確実に支国まで噂は届きますな」


巳老が元狼に耳打ちをした。


すぐ隣にいた虎の老公もそれに頷くき。


「報告が遅れたのは巳老が案じられたとおり、間者による妨害かも知れませぬ。

人族の保護は厳重にすべきかと…」


「護衛は東西城主である、我が息子達に任せるとしよう」


巳老も虎老も元狼の言葉に頷いた。







桜が天楼城に運ばれた翌日。


シルバート、クロード、側近達が桜の部屋を訪ねて来た。


「カミシロ・サクラ様。

先日の失礼な態度をお許し下さい。

私は四方護城の一つ、西虎城が城主。(ろう)族のクロード・ウォルネルと申します」



クロード…犬じゃなく狼だったのか。

という事は。



「カミシロ・サクラ様。

改めましてシルバート・ウォルネルと申します。

クロードと同じく狼族でございます」



だよね。

兄弟だもんね。


だけど、兄弟で城主?

どういう事?



その後、それぞれの側近達を紹介された。



<東氏 東龍城 シルバート陣営>


明るい茶の髪を後ろに束ね、緑色の瞳をした

鹿()族” フィル・ディアム(24)


濃いグレーの短髪。

大柄強面だが、桃色の瞳がギャップ萌えな

(ゆう)族” ダン・ベアエル(24)


金髪碧眼。金の耳に金の尻尾。

(ねこ)族” エル・コラット(13)



<西氏 西虎城 シルバート陣営>


巻き髪で濃いベージュの髪。

ライトグリーンの瞳をした美女。

(よう)族” メリル・コリデール(22)



セミロングにアッシュグリーンの髪。縦長の瞳孔を持つ灰色の瞳。

浅黒い肌に、鋭く尖った歯が怖すぎる。

(がく)族 ”ナイル・ダーイル(20)


黒髪碧眼。黒の耳と黒い尻尾。

“猫族” ギール・コラット(13)



一通り紹介が終わった後、エスカニヤとそれを取り巻く十二の支国。

支族の在り方。

この世でどのような政治が行われているのか。

ザックリとした説明を受けていたが…。



「ちょ、ちょっと待って!」


こちらの息付く暇もなく、シルバート達がこの世界について語り始めた為。

桜は慌ててそれを中断させた。



「説明してもらってるところ、大変申し訳ないんですけれど…」


「はい。何で御座いましょうか?」


シルバート達がキョトンとしていると、桜がメリルの方を向いた。


「あの…メリル…コリデールさん?

ちょっとよろしいでしょうか…」


「はい。カミシロ・サクラ様」


前に進み出たメリルにもっと近付くよう手招きすると、真っ赤な顔でボソボソと耳打ちをした。



「まあ!これは大変失礼致しました。

すぐに対応させて頂きますわ!」


そう言うと(きびす)を返したメリルは、クロードの首根っこを掴み他の男性陣諸共(もろとも)扉の外までグイグイと押し戻した。


「なっ!メリル!何をする!」


唖然としているシルバートにも、ニコニコと笑みを浮かべ圧のかかった物言いで


「シルバート様もお早く」


そう言って部屋から追い出した。



扉の外でクロードがノブに手をかけメリルに抗議し始めた。


「メリル!貴様これは一体どういう事だ!」


こじ開けようとするクロードの手を掴むと



「カミシロ・サクラ様はお召し替えを所望されております。

まさか?()()()()()()()()()()()()()と仰せですか?」


メリルの氷の様な冷たい微笑に、クロードもシルバートも慌てて首を横に振った。


「結構」


そう言うと、ピシャリと閉じた扉をガンッと殴りつけた。


“開けたらコロス”


私にはそう聞こえたような気がした。



う〜わぁ…メリルさん怖っ…。


今のやり取りで、真の力関係が垣間見えた気がする。



「カミシロ・サクラ様。

こちらの配慮が足らず、申し訳御座いませんでした」


「それと私の事は“メリル”とお呼びになって下さいませ」



「あ…はい…メリルさん」


「では、私の事も神代…いえ。

“桜”と呼んで頂けますか?

その…“カミシロ・サクラ様”と呼ばれるのは私の方もこそばゆくて…」


「承知致しました。サクラ様」


メリルは嬉しそうに私の名を呼ぶと、クローゼットの前で鬱陶しいこの足枷を外してくれた。


「おかしいわ?留め具が緩んでる…」



やばいっ!そうだった!誤魔化せないかな…



「あの!ちょっと聞いてもいいですか⁈」


「はい。何でしょうか?」


「メリルさんは女性ですよね?

なのに立派な角をお持ちなんですね〜」



これちょっと苦しいか?




内心ヒヤヒヤしながらも、昨日から借りたままのシルバートの上着を脱ぎ、一旦クローゼットに掛けた。


「と、仰いますと?」


メリルは不思議そうに桜を見つめた。


「私のいた世界に獣人はいません。

ですが、あなた方と同じ種類の動物達がいます。

その多くが雌…つまり女の性を持つ者は、角は小さかったり見た目が地味な生き物が殆どなんです。

ですから、その…珍しいなぁと」


「まあ!そうなんですの?

我々獣人は、種族の象徴である部位に男女の差はあまり御座いません。

ですが、確かに大きさや形は男性の方に比べるとやや小振りではありますね。

それも種族によって異なりますが」


そう言いながら、ごく自然に私の着物をほどき始めた。



「なるほど…って!

着替えくらい自分で出来ますからっ!

メリルさんも席を外して下さい」



「あら。

女性同士恥ずかしがる事は御座いませんよ?

まあ、まあ!なるほど。これが人族の下着ですのね?

とても興味深いですわ♪」



ってメリルさん…。

人の話聞いちゃーいねぇっ!




案の定。

全ての着替えが終わるまで、彼女の好奇心は暴走しっぱなしだった。


「変わったお召し物ですわ〜」


「セーラー服?学生の制服ですの?」


「ドレスの丈が随分と短い様ですが…

これは流石に、はしたないのでは?」


「え?これで普通ですの?

まあ!斬新ですわね!」


「なるほど!この“にーそっくす”という靴下を履けば肌の露出は少なくなりますのね?

それに、太ももだけ見えるというのも色っぽくて素敵ですわ〜♪」


「確かに動きやすそうですし。

男性を魅了するデザインとして、今度私が懇意にしている商団に相談してみようかしら」



機関銃か…



やっとの事で着替え終えると、メリルは再び足枷を付けようとした。


「あの…それって絶対付けないとダメなんですか?」



付けられても壊せるだろうけど。

できるなら外してもらいたい。

気分のいいもんじゃないからね…。



肩を落とし暗い表情になった私を気の毒思ったのだろう。しかしこればかりはメリルの独断で判断できるものではなかったようだ。


「そう…ですわね。

確かに不便だとは思うのですが。

元狼様にお伺いしなければならないかと…」



デスヨネー




「案ずるな。すぐ元狼様に進言しよう」


いつの間に入って来たのか。

クロードは、すぐさま老公院に報告するようギールに命じた。



「あらクロード様?()()()()()()()女性の部屋へ、無断で入室なさるのは如何なものでしょうか?」


メリルの目が完全に座っている事に、気付いたシルバートは慌てて弁明し始めた。


「メリル…落ち着いてくれ。

わ…私はもう暫く待つよう此奴(こやつ)に言い聞かせていたのだが…」


しかし彼の耳と尻尾を見れば、これが言い訳であると分かる。



うわっ!今クロードに擦りつけたぞ?

シルバートもメリルさんが怖いんだな…。

姉さんどんだけ恐ろしいねん(笑)




「シルバート貴様っ!汚いぞっ!」



もうええて…。



「メリルさん、気にしないで下さい。

これ以上は疲れると思いますので…」


異様なオーラを漂わせているメリルの様子は、このままだと血の雨でも降るんじゃなかろうか?と思える程恐ろしかった。

流石にそれは勘弁して欲しかったので、落ち着いてもらおうとメリルを宥めた。



「まあ。サクラ様は寛大なお方ですのね。

確かに怒りは疲弊するばかりですものね。

私のような者にお気遣い頂けた事、嬉しく存じますわ♪」



いや…疲れるのは私の方だけどな…




「メリル?“サクラ様”とは?」


フィルが尋ねると


「先程、そうお呼びするようにとサクラ様が申されましたの♪

堅苦しいのはお好みではないようですわ」


「なるほど。

では、どうか私達の事もフィル、ダン、エル、ナイル、ギールと。

ファーストネームお呼び下さい。

そしてお許し頂けるなら、我々も”サクラ様“とお呼びしてもよろしいでしょうか?」



え?



フィルも他の側近達も、うんうんと頷いている。



お前らもかよ…



「あ、はい。じゃあそれで…」


こちらが言い終える前にクロードが口を挟んできた。


「貴様らズルいぞ⁈

サクラ殿!我らもそのようにしてよろしいか?」


クロードの言葉にシルバートも尻尾を小さく振っている。



殿って…。

アンタら城主様と違うんかいっ



「あ〜ハイ…。

分かりました…」


面倒臭いと思いながらも、大事な事を思い出した。


「あの。シルバートさん。

この上着お借りしたままですみません。

ありがとうございました」


手に持ったままの上着をシルバートに差し出した。


するとシルバートが視線を外しながら、少しだけ頬を染め


「いや…これしきの事。

男として当然の事ですので」


そう言って私の手から上着を受け取った。




乙女かっっ!

やめろ。こっちまで恥ずかしくなるわっ!




「クロード様!

元狼様からお許しを頂いて参りましたよ〜…と」


報告から戻ったギールは、いつの間にか和気あいあいとした雰囲気に戸惑っていた。


「え?何?

何でみんなカミシロ・サクラ様と仲良くなってんの⁈」


「え?サクラ様?」


「ズルいっ!

僕もサクラ様って呼びたい!」


入って来るなりプンプンと怒り出したギールは、クロードに落ち着くよう嗜められると、ハッとしたように姿勢を正し敬礼した。


「元狼様より伝言を預かっております」



さっきまで騒いでいた側近達。

二人の城主もサッと姿勢を正しギールを見た。


「何事か?」


「明日夕刻にて、天子様がサクラ様との面会を希望されていらっしゃるとの事です。

その際、老公院及び四方護城城主様方も同行される様にと」



「何と‼︎我らも同席するのか?」


シルバートが信じられないとばかりに、クロードと顔を見合わせている。

彼もまた同じ思いだったようだ。


「天子様って…この世界の神様?」


「はい。

先程お話しした通り、天子様は我ら獣人の守護神であらせられます。

サクラ様にお会いになるのは理解できますが、まさか我らも同席とは…」


「天子様はこれまで元老公以外の方とはお会いなられた事が御座いません。

老公院のみならず、護城の主までもが謁見を許されたのは初めての事なのです」


シルバートの言葉にダンが付け加えた。



天獣帝ってそんなに凄い人なん?

それもそうか…神様だもんね。


いや…待て待て。

これチョットどころじゃなく絶対ヤバいやつじゃないの⁈




私は急に自分の足元が崩れるような錯覚に陥った。

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