表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏道抜けたらケモの国   作者: 空鹿
5/14

クレームは青いタヌキへお願いします。




「間違いなく」


女官の言葉に。

少女の前に跪くシルバートも、クロード達も動揺を隠しきれなかった。



「人間だと⁈」


「まさかそんな…あれは伝説上の種族ですよ?」


「だが、女官が確認したのだ。

そしてそれを肯定した。

彼女らは天子様の眷属(けんぞく)

つまり天子様がお認めになったという事ではないのか?」



予想外の事態にクロードも、側近達も冷静ではいられなかった。


女官が立ち去った後。

皆、一斉に少女へ跪いた。



「カミシロ サクラ様…

我らの世界には“人間”という種族は存在しておりません」


シルバートがそう告げると、少女はそのまま硬直してしまった。



「真実でございます。

“人間”つまり人族は、“遥か昔に絶滅した“という文献が僅かに残っているだけです」


クロードもシルバートに続き、信じがたい言葉を少女に告げた。



少女は更に青ざめ、そのまま俯いてブツブツと独り言を呟き始めた。



側近のフィルが、シルバートとクロードに囁いた。



「カミシロ・サクラ様へのお話は、またの機会とされた方が宜しいのでは?

今は何を申し上げても、ご理解頂けないかと思われます」


「私達自身も混乱しています。

それに今の状態で我々の事を明かしても、カミシロ・サクラ様がお聞き入れになれるかどうか分かりません」



ヒツジの女性がフィルの言葉に続いた。



(確かにフィルとメリルの言う通りかもしれない)


シルバートもクロードも互いに視線を交わすと、再び深く頭を下げた。



「カミシロ・サクラ様。

お目覚めになられたばかりで、まだ困惑なさってる事でしょう。

一先ずはゆっくりお寛ぎになられた方が宜しいかと」


「また日を改め御挨拶に伺いたいと存じます。

女官と警護の者が側に控えておりますので、御用の際はお申し付け下さい」



『では本日はこれにて失礼致します』



そう告げると、桜を残し部屋を後にした。





「大変な事になってしまいましたね」


ギールは桜の部屋を振り返りながら、主達の様子を伺った。


「カミシロ・サクラ様の事は、父上の耳にも入っているだろう」


「ああ…。

おそらくは“老公院(ろうこういん)”まで話は届いているだろうな。

いや北氏、南氏…もうすでに十二の支国(しこく)全てに広まってるかもしれん」



「警護を固めねば」







“人間”という種族は存在しておりません”


“遥か昔に絶滅したという文献が僅かに残っているだけです”



人族がいない?

人間が絶滅?

んなアホな。


あれからずっと頭の中で二人の言葉が繰り返され、その度に無意味なツッコミを呟いていた。



もしかしなくても、人間の私ってこの世界ではかなり貴重な存在?


いや待て。

貴重というか珍獣的な存在なのかも?


まさかとは思うけど見せ物とか、何かの実験に使われるとか…?

最悪どっかのキモイ金持ちの王族にでも売り飛ばされるかもしれんっ!


うわぁ…あの映画のワンシーンが浮かんできた!

ナメクジのおっさんに飼われるお姫様のあのシーン!



うおーっ!

この鎖がそれを如実に物語らせるぅぅ!



“王様の耳はロバの耳”的なノリで、枕を顔に押し付けギャーギャー喚いた後。

ふと、床に散らばったままの鞄の中身が目に入った。



これまで頑張ってきたのに…。

何でこんな目に遭わなきゃいかんの?



枕を置いて鞄を拾うと、それをぎゅっと抱きしめた。


「おじいちゃん…」




はぁ…。

たとえ元の世界に帰れても浪人確定とか。



「…………」


ん?

帰れるっていつだ?

今のところ全く確証は無いよね?

そんでもって、この世界じゃ人間である私ってば、超レアな種族で超貴重な生きたお宝なんだよね?


返してもらえない可能性の方が高くない?

帰れる方法があったとしても、そんなすぐには返してくれない筈…。



「…って」


私…卒業式出られんやん⁈

卒業証明書って確か、卒業式当日に貰えるんじゃなかった?


浪人生なるにしても、証明書なきゃ予備校通えないはず…。

(予備校前提になかったのにー!)


数年後、戻ったとして学校に言えば貰えるもんなの?



ぐぁぁーわがんねっ!

だってそんな実例とか調べた事ないー!


「う〜〜〜」





この時の私はかなりテンパっていた。

人間ってあれだね。

一つの事で頭が一杯だと、他はな〜んも思い浮かばないもんなんだね。





「はぁ…ゆっくりしろって言われてもなぁ」


とりあえず片付けた後、着替え探すか…。



繋がれた鎖は思ったよりも長く、どんなに蛇行しても部屋の隅々まで歩ける程の余裕があった。

それにそんなに重くない。

この鎖って鉄製とかじゃないのかなぁ?



のらりくらりと参考書やノートなど、一つ一つ拾い上げては鞄の中へ入れていった。


最後にスマホを拾い起動してみる。



「良かった。壊れてない」



でもやっぱ電波は入らない。


「当然か…」


使えそうなアプリは幾つかありそう。

写真も見れるし。

繋がらなくてもないよりは随分マシだわ。



元の世界の名残が、この小さな機械の中にほんの少しでも残ってる事が嬉しかった。




バッテリー勿体無いから切っとこう。


それより着替え着替えっと。


しかしこの部屋無駄に広っ。

柱や廻り縁には凝った彫刻が彫られてるし…かなり豪華な造りしてる。

それに高そうな家具とか調度品もそれなりに置いてある。


「客間か?」


クローゼットを開けてみると、コートや制服が掛かっていた。

一番下には靴。

右半分は三段ほどの引き戸が付いたタンスになっていて。その上に籠が置いてあった。

籠の中にはニーソックスとセーラー服のスカーフ…



「なっ!◎△×¥ぁwせdrftg☆⁈‼︎」


ちょっっ!下着ぃぃぃ!!!

パンツとブラがっ!


なんかスースーすると思ったらっ!


んぎゃーーーー!‼︎



あーもうホント勘弁して下さい。

洗濯してくれたのはありがたいですけどねっっ!


これはないわ…。


バカ猫共とじゃれてた時、ピーな部分を見られなかった事を切実に願う!




って鎖付いてるから履けないじゃん!



女官さん呼ぼう…。

外してもらわんとパンツ履けんわ。





女官を呼ぼうと部屋の扉を開けた途端。

絶句した。



皆様ご覧下さい。

扉を開けると、そこには…。

太くて頑丈そうな美しい鉄格子が…。



って

ナンジャコリャーーーーーっ


座敷牢やないかーいっっ‼︎


ザッケンナーーっっっ!




扉を閉め。

布団に飛び込むと、再び枕を顔に押し当て叫びまくった。


「うがぁーーーーー何が貴方様じゃー!

完全に囚人扱いじゃねーかっ!

禿げろ!クソ犬共がぁぁぁぁぁーーーーー!」




あらゆる暴言を吐き尽くした後、私はすっかり意気消沈してしまった。



この世界に来てから、私の脳みそ沸騰しっぱなしだわ。

二日も寝てたのに疲労感半端ない…。


ああ…家に帰りたい…。



鞄からスマホを取り出し。

懐かしい我が家。

大好きなおじいちゃん。

神社のモフ達の写真をスクロールしながら眺めていた。



その時。

リマインダーのアラームが鳴った。


「ん?」


「んんん‼︎⁈」


こ…これは⁈


“前期が終わったからと気を抜くべからず!

後期に備えよ!”




おおおおおおお!


うひょーーーーーーーーっ!


そうだった!ソーダッター‼︎


後期の試験がまだあったじゃん!


うわぁマジ泣きそう。

ヒャッハー!


一応後期も願書出してたんだったー!


試験終わったら絶対ダラけると思って、リマインダーセットしておいた私グッジョーブ‼︎


これで首の皮一枚繋がった。


後はここからオサラバするだけじゃい!


問題はこの足枷と座敷牢。

それと最初にこの世界に来たあの場所。

あそこへ行けばもしかして。


帰れるかもぉー!



なんとかコイツだけでも外せないかな。



足枷をガチャガチャといじりながら、無駄だと思いながらも両手で引っ張ってみた。


ピキ。


ん?

なんか音がした。

気持ち緩くなった気がする。




もう一度引っ張ってみる。


ガチガチっと音がしてボルトらしき部分が、更に緩んだのが分かった。



もしかして、あの地割れ。


いや。まさかなぁ…。


そう思いながら窓の方へ向かうと、内開きになっている鎧戸を開けた。


ちっ…。

思った通り太い鉄格子がハマっている。


この部屋は半分以上が地下になっているようで、下は石垣のように積まれた壁で埋まっていたが上側からは外の様子を伺えた。

どうやらこの窓は狭い通路沿いにあるようだ。


よし。


両手で鉄格子を引っ張ってみた。


グニャ。

まるで、伸びのある棒状の粘土を持った感触で鉄格子はあっさりと広がった。


ヒェェェーー!

マジか!

何だこれ。

スーパーマンかっ(笑)


自分の両手を凝視していると、扉の方からガチャンと言う音が聞こえた。


ヤバイ!見つかったら終わる。



慌てて鉄格子を元に戻した。

が、少し歪んでしまった(笑)


鎧戸を閉めてすぐ。

ササっと布団に潜り込んだ。



入り口の扉が開くと女官がお膳を持って現れた。


「お食事でございます」


「…ありがとうございます」


女官は寝所の側にある小さなテーブルに食事を並べると一礼し、またス〜ッと立ち去って行った。


多分着替えさせてくれたのは、この女官さんなんだろうなぁ。



あーーーー!

鎖外してって言い忘れたーっ!

私アホかっっ。


はぁ…次来たら絶対言おう…。




しかしあの雰囲気…。


小さくておかっぱ頭で、着てる服も和服っぽくて…ん〜。



あれだ!

キツネの座敷わらし!


うん。

そんな感じ。


怖…。




なに持って来たんだろう。


お粥?雑炊?

変わったキノコ入ってる…毒キノコじゃなかろうな…。

いや流石にそれはないか。


多分二日も寝てたから、胃に優しい物持って来てくれたんだろうけど…。



違う世界の食べ物食べたら、帰れなくなるって話があったような…。




あーあれは黄泉の国か。


でもなぁ…。

やっぱ怖い。


帰れなくなったら困るし。





そういえば…。

あの時お弁当食べた筈なのに、バカ猫が鞄荒らした後。

弁当箱なかったような。


色々おかしいよね。

あの日だってお弁当持ってなかったのに…。



鞄の中を探ってみた。

あった!


しかも重い。


包みを開けると今度は、ハンバーグやサラダに煮物、ふりかけ。

あの時とは違うおかずが入っている。




なん…だと?


…まさかの四◯元ポケット?

いや四次元カバンか?


これが噂のチートアイテムってやつ?

願えば何でも出てくる的な?


よし。

出て来い!ど◯でもドア!


「………」


デスヨネー。

んなもん出てくるわけないわな。

もっと普通の物を。



えーっと…

喉渇いたからお茶!


すると、ほうじ茶のペットボトルが出てきた。


おおおお〜!

マジか!すげー。

冷たい!美味い!


お次は…








色々試して分かったが。


結論。

“これはチートアイテムではない”


確かにあの日入れていた荷物とは、違う物が出てくる。

その殆どは鞄に入るサイズの荷物だった。

例えば。

タオルやジャージ、下着、靴下、折りたたみの傘なんかも出た。

何故か大根とか、ハエ叩きとかも出てきたが…。


不思議な事に、鞄にそれらをしまうと跡形もなく消えてしまった。


この鞄はラノベとかによくある。

収納タイプの魔法道具なのか?


答えはNO。


鞄から取り出した物は、鞄の中に入れるとどこかに消えてしまう。


じゃあ新しく何かを入れたら消えるのか?




実はこの部屋の調度品を拝借して試してみた。


銀製の手鏡。


大きめの宝石箱。

(中身は空だった)


テーブルに置かれていたスタンド。


最後は、超豪華な装飾が施された縦長の大壺。


全部消えなかった。


鞄から半分以上はみ出した、間抜けな姿の壺を眺めながら。


これはどういう法則なんだろう。


出てきた物はどれも私の私物。


んじゃ大根やハエ叩きって何っ?




いや待てよ。

学校帰りによくスーパーとかコンビニで買い物してたな。

それにうちの学校って鞄の指定がないから、どこ行くにもこの鞄使ってた。


もしかして?一度でもこの鞄に入れた事のある物が取り出せるとかじゃない?


なるほど!


ちょっと試してみよう。


カバンに入っていた壺を取り出し床へ置くと、ふうっと息を吐いて鞄の中に手を入れた。


取り出したのは“銀製の鏡”


おおおおおおーーー!


次に“宝石箱”


よっしゃー


続いて“スタンド”


ひゃっほーい!


更に”壺“!



その時すぐ側で“ゴッ”という音と衝撃を感じた。




「へ?」


手には底から三分の一が輪切りになった壺。


私の傍には…残りの上部分が、”だるま落とし“状態で床に鎮座していた。



ひぃーーーーーーーーーーー!


え?

何これやばいやばいっ!!!!


え?どうしよう!


「!」


急いで手に持っていた壺の底を鞄に入れた。




頼む頼む!

お願いだから元に戻ってっ!




手の中でふっと消える感触がしたその瞬間。

ガバッと壺の方を見た。



よっしゃー!

元に戻ったぁぁ!


あービビった。

マジで心臓止まるかと思った。



冷や汗をかきながら、部屋の調度品を元に戻していった。


「危ない危ない。

こんな高そうな物弁償できるかっての(笑)」


そんなことを呟きながら、壺に手をかけヨッコラショと抱えた。




ん?さっきより軽いな…。



視線を落とすと、輪切りになった壺の底が床の上に…。




んひゃぁぁぁぁ ◎△×¥ぁwせdrftg☆⁈‼︎



全身の血の気が引くような嫌な感覚と共に。

マンガで落ち込んだ時に出る、あの縦の効果線が私の背後に具現化されたような気がした。



「……」



まず底の部分を、元あった場所へと戻す。



「ヨッコラセっと…」


壺は水平に割れていたので、残りを一ミリのズレもないよう絵柄を合わせ。注意深く底壺の上に重ねた。




「ふぅ。これでヨシ!」



「………」



何がヨシっだぁっ!

解決になってねぇぇぇぇぇー!


やばいやばいやばいやばいやばいっ!


何が“四次元カバン”だこの野郎!

中途半端な仕事してんじゃねーぞっ!




これ”(私が)売り飛ばされる“コース確定じゃん⁈


えらいこっちゃー!

あっかーんっ!マジであかん…。


絶対バレないようできる限り、壺の方は見ないようにしよう。



(まさか、監視カメラとかないだろうな?)




キョロキョロと壁や天井。部屋の隅々を舐めるように見回したが、それらしい物は見当たらなかった。




まあ、とりあえずだ。

鞄もそうだけど。

気になるのはこの怪力と。

最初に現れた謎の壁…。

これらの検証と、獣人世界の情報を集める事にしよう。


とにかくあの場所の位置を聞き出さなきゃ。


脱獄するのはそれからだ…。



名付けて!

「我が翼よ!自由を求め羽ばたけ大・作・戦!」



多分この時の私は、深刻な厨二病を患っていたのだと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ