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勇者ぐらいのものだろう

・・・ちょっとプライベートが色々と大変で、

とんでもない時間が空いてしまいました・・・


ごめんなさい!今日から頑張ります!

(読んでくれてありがとうございます)

「ひゃははははっはははああぁぁッ!!」


時を同じくして、ギルドから約2㎞程離れた森の中で、漆黒の鬼が恍惚と笑っていた。


「うるっせぇなぁ・・・」

「霧生よ。何をぼさっとしておる。さっさとやれ」


対するは国内最高峰との呼び声も高い、キヌガサ一族の技術指南役が一人、衣笠霧生。

その飄々とした態度の中に、飛びぬけた”武”を感じさせる国内屈指の実力者である。


「――って何で俺一人でやってんだ!?じじいも戦えよ!」

「はて?わしのような老いぼれが鬼の相手なんてとてもとても・・・」

「このくそジジイは・・・」


自らを老いぼれと称する彼もまた、キヌガサ一族が頭、衣笠法衣。

その老体からもまた、素晴らしく熟成された”武術”の粋を感じ取ることができる。


「おいおいぃ・・・くっちゃべってねぇでもっと殺ろうぜ!なぁ!」

「うるせぇ・・・お前こそ魔物のくせに喋ってんじゃねぇよ・・・」


木々で囲まれ、昼間にも関わらず灰がかかったように暗い森の中で、数多の斬撃が交錯する。

シュラノの山林は険しい。にも関わらず、相対する両名は木を岩を、

自然を巧みに利用しての大立ち回りを軽々とやってのけている。


(こいつ・・・本当に魔物か・・・?こりゃあどっからどう見ても武人じゃねぇか)


霧生はいつもの飄々とした態度は崩さずとも、内心驚きを隠せずにいた。


本来魔物はその強靭な体躯を利用した力任せの物理攻撃や、

人間よりはるかに適合性の高い魔力を利用し、魔法を使って攻撃をしてくるのが常識である。


ところがこの鬼はその荒々しい口調に似合わず、どこからか取り出した漆黒の太刀で、

あろうことが国内最高峰の剣術に、剣術をもって対抗してきたのである。


(まぁとは言え剣術はCランクの冒険者レベルって感じだが・・・パワーとスピードがえぐいな)


過去に発生した鬼は、凶暴性もさることながら、一番の脅威はそのフィジカルにあった。

人間よりも一回り大きい程度のサイズながら、その拳はやすやすと地面を砕き、

その脚力は、現在シュラノギルド内最速と言われている銀次に並ぶほどであったと言われている。


現にこの鬼の剣術はCランク程度だが、そこに鬼のパワーとスピードが合わさることでAランクに届きうるほどに強力な魔物になっている。


(だが、まぁ・・この程度なら、”技術”でカバーできる・・か)


霧生は初めて武術を使う鬼と対峙するにあたり、まずは鬼の観察と分析に努めた。

なぜ鬼が武術を身につけているのか。どんな武術を使うのか。”誰が教えたのか”。


(これ以上は無意味だな・・・)


霧生は鬼の振り下ろしをなんなく受け止めると、体と体の間に刀を挟む形で当て身を放った。


それは何の捻りもない、基本に忠実なあくまで基礎的な当て身だが、

それを放つのは他ならぬキヌガサの技術指南役――当て身を正面から受けた鬼は数十メートルは吹き飛び、木にめり込むようにして止まった。


「ぐええぇえぇ!?なんだコレ!吹っ飛んだぞ!?」


霧生は鬼の喚きを一切気にも留めず、刀を上段に構えた。


兜割剣術(かぶとわりけんじゅつ)――”(ほむら)”」


(ったく、じじいの手前、手は抜けねぇし、一撃でやらせてもらう)


――やっぱりスカイラーは抜刀術がいいよ。練度が違う。


スカイラーがハヅキとの訓練の際に、”飛び道具的”に使用したのがこの上段の構え――火の構えだった。

突発的に使用した技術にも関わらず、スカイラーが放った上段からの一振りは、次元が歪むほどの斬撃を生んだ。


奇しくもこの男、衣笠霧生が、鬼を一撃で屠る。とそう決めてとった構えも同じ、火の構えであった。

しかし同じ構えのようで全く違う。それこそ正に”練度”の違いであった。


武に少しでも馴染みのある者であれば、その構えを前にしただけで恐怖や畏怖といった感情で動けなくなってしまうであろうことは容易に想像が出来た。


だが鬼には――魔物にはそういった恐怖はない。

恐怖することができる。これもまた人間が持つ数少ない”アドバンテージ”であった。


「何をしたか知らねぇけど!!いいぜ!!もっとやろうぜ!!」


構える霧生に対し、鬼が直線的に向かってくる。

凄まじい速度ではあるが、霧生は鬼が間合い入ったのを確認するとゆっくりと、刀を振り下ろした。


ガキィンッ――と金属と金属がぶつかる鋭い音を立て、

鬼は霧生の上段からの振り下ろしを刀で受け止めた――が。


霧生は構わず、勢いはそのまま刀から手を離し、”手で刀を持つようにして振り下ろした”。


「・・・・・・・」


数秒の静寂の後、鬼はその体を頭の先からまっすぐに、左右に体を分けながら倒れ、

対する霧生は、その手から離した刀を拾い上げ、鞘に収めた。


「・・・相変わらず剣だけは立派じゃの」


一族の頭にして兜割剣術の党首を務める法衣にさえ、そう言わせるほどの剣術。


「”刀通し”・・・兜割剣術の基本中の基本じゃの。まぁお主レベルは中々おらんが・・・」

「偉そうに喋ってる暇があるなら少しは戦えよ・・・マジで何しにギルドまで来たんだよ」

「やかましい。老人の褒め言葉は素直に受け取っておけ」


これがシュラノ国随一の武力。


太古の昔に剣聖・剣豪と呼ばれた剣士もまた、目指したのはこの境地。


――我が剣は、天地とひとつ。ゆえに剣は無くともよいのです。


他国の冒険者はこのキヌガサ一族、および兜割剣術をこう呼び恐れる。


――無刀流(むとうりゅう)。キヌガサ一族。


   ■■■


夜の帳が下りるという言葉がある。

夜の闇を”帳”に例えて用いられる言葉で、世界が闇に染まる様を表す上でこの上ない表現である。


だがこの世には闇よりも暗い黒が存在している。

果たして闇よりも黒い”黒”は、何を用いて例えればいいのか。


その一族を冥家と呼ぶ者が存在している。

そんな”冥”こそ、正にその一族の黒を表す、そんな言葉なのではないか。


「・・・・」


冥のごとく黒い闇に包まれた空間に、一人の男の姿が浮かんでいる。


その余りにも深い闇のせいで、男の全容は分からないが、

唯一空間を照らしている”篝火(かがりび)”が、辛うじてその男のひどく年老いた顔を照らしている。


「シュラノにて奴の残穢(ざんえ)を確認しました。どうやら強い言葉を使ったようです」


どこからともなく声が響く。その若くハッキリとした声から、篝に浮かぶ老人のものでは無いのは分かる。


「・・・シュラノか。あそこにはあのガキの契約者が居るからな。当然であろう」


老人の声。だが、それは晩年の人間が放つ声とは一線を画していた。

低く、声量があるわけではないが、迫力とはまた違う”圧力”が伴っている。

耳元で囁かれているようで、叫び声のようでもある。不可思議な感覚に襲われる声。


「鬼を各国に放って正解だったな。特にシュラノには衣笠法衣が居る。二体放ったのが吉と出たか」


「その後動向を追っていますが、奴がシュラノから動く様子はありません。・・・消しますか?」


「消す?」


それはたった二文字。たった一つの単語が放たれただけだったが、

そこに込められていたのは、殺意なんて言葉では表せないほどの憤怒。


老人と話す姿の見えない男が、姿が見えないのにも関わらず、ひどく怯えているのが分かる。


「や、奴は・・・危険ですッ・・・シュラノには”塔葬”の連中がいないとはいえ・・・奴の存在を嗅ぎつけて合流する可能性も、あ、あるかと・・・」


「・・・お主は何か勘違いをしているようだな」


老人が言葉を放つたびに、空気が重く、重く沈んでいく。居る物を圧していく。


「ワシがなぜあのガキを消さないか分かるか?一族を抜け”塔葬”に加わったあの愚か者を、こうも易々と野放しにしている理由が分かるか?」


対する男は何も言わない。否、言えない。

老人の発する言葉の圧が、有無を言わさないなんてものではなく、

まるで男の存在を許していないかの如く圧力を放っていたからである。


「あのガキは一族の歴史が生んだ”化け物”。十ある禁句の全てを発現した歴史上初の言霊使い。・・・消さないのではない。消せないのだよ」


顔を見なくても、老人が苦虫を嚙み潰したような顔をしているのが、その声色から分かった。


「あのガキの言霊は一族の者でも――いや、一族の者だからこそ最大の脅威。奴を殺せるとしたらそれは――」


勇者ぐらいのものだろう――と、闇より深い黒に、声が響いた。


   ■■■


「・・・・・」


目覚めるとそこは・・・見知った天井だった。


流石にギルドマスター、シュラノギルドの主要な施設、どころかすべての施設が頭に入っている。

スカイラーは目覚めて直ぐに、ここがギルドの医務室であると分かった。


左腕には点滴が打たれ、体の至る所に医療布(いりょうふ)と呼ばれる治癒魔法が施された包帯が巻かれている。


一体どのくらい眠っていたのか、ギルドマスターの不在でギルドに迷惑がかかってなければ良いけど・・・と、

この期に及んでもぼんやりとした頭でギルドの心配をするスカイラーだったが、

脇腹を貫くような激しく鋭い痛みで一気に目が覚めた。


「いっつ・・・久々に派手にやられたわね・・・体も怠いし、しばらく寝たふりでもしようかしら」

「それこそ、そうはギルドが卸さないよって感じかな」


声がしたほうに目を向けると、ハヅキがベットの傍でまるで看病をするように座っていた。

手を握って。


「まるでじゃなくて看病だよ。目が覚めてよかっ・・・うぉお!?」


ギルド内にごまんといるスカイラーのファンのうちの誰かが、お見舞いにと持ってきてくれたであろうリンゴがハヅキの顔面目掛けて宙を舞う。


「そんな諺は聞いたことがないわ。そしてセクハラよ。死んで?」

「言い過ぎでは・・・?ハラスメント・ハラスメントですよこれは」

「幼気で可憐な少女が眠っているのを良いことに手を握るなんて、万死に値するわ」

「幼気で可憐・・・?」

「切るわよ」


スカイラーは病床であるにも関わらず、さすがの毒舌である。


「どうしてハヅキがここに居るのよ。冒険者としての仕事はどうしたの?」

「・・・Fランク冒険者に依頼なんてないよ。今日はスカイラーに話があって来たんだ」


先程の浮ついた空気から一変。ハヅキは表情を固くする。


「そんな改まって・・・何よ話って」


やはり鬼の話だろうか。


スカイラーがどのくらい寝込んでしまっていたかはまだ分からないが、

少なくともその間ギルドマスターは不在。シュラノに鬼が、しかも2体同時に現れたともあればその後処理や分析が必要である。


さらに言うと、今回の鬼の発現はどうもきな臭い。また次いつ鬼や鬼クラスの魔物が現れるか分からない――とスカイラーのいわば”女の勘”が告げていた。


ギルドマスターとして、これからどうすべきか、正に”鬼の居ぬ間に選択”の必要があった。


「・・・・」


しかしハヅキは、なにかを堪えるように俯き、言葉を詰まらせていた。


それがハヅキでなければスカイラーは多少イラっとする程度かもしれないが、

他ならぬハヅキが――”言葉”を武器に戦う言霊使いのハヅキが――言葉を詰まらせているのである。


「・・・大丈夫よ。話して」


スカイラーのそんな言葉を聞いて、ハヅキは一度大きく目を見開いた後、

どこか申し訳なく、情けなく、痛々しく、切ない。そんな表情と声色で、


「スカイラーとの守護契約を――破棄したいんだ」


鬼と戦ったときとは打って変わった、覇気のない声でそう言った。


最後までお読み頂きありがとうございます!

感想どしどしお待ちしております!

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