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我とお似合い。鬼会いだな

第四話!

よかったら最後まで読んでいって下さいね!

「さてと。殺す気でいくわよ」


そう言うとスカイラーは、霜時ノ一(しもときのはじめ)を抜いた。


僕とスカイラーは現在、ギルド旧館を抜けた更に奥、”旧道場”と呼ばれる場所に来ていた。

旧道場は今や冒険者はもちろん、ギルド管理人でさえ一部の者しか知らない古い施設である。


昔はこの施設で、冒険者や武家の者が剣や魔法の稽古を行っていたそうだが、建物の老朽化に伴って取り壊された――ことになっている。


山林に囲まれており、そんなに広い施設でもない為、隠れ家や秘密の会議室にはもってこいで、事実こうして、僕とスカイラーは十メートル程離れて向かい合い、約束通り、まさに”秘密の特訓”の際中である。


「国内トップクラスの冒険者が殺す気って・・・僕はFランクなんだけど?」

「殺す気でやらなきゃ訓練にならないじゃない。それに殺す気で、死ぬ気でやらないとあんたに殺されちゃうし」

「殺すわけないじゃん・・・」


先程の食堂での一件と言い、僕の武力(厳密に言えば違うが)に対するスカイラーの過大評価が凄まじい。

ギルドの全冒険者でかかっても皆殺しって。誇大表現もいいところである。


「時間もないし、行くわよ」


そう言うとスカイラーは、刀を上段に構えた。

瞬間、空気が変わる。彼女はその肌のような、白銀の世界を思わせる冷気を帯びた――ように錯覚する。

僕とスカイラーを包む空間が、ピリッと重くなる。戦いの空気だ。


彼女のその冷酷な雰囲気とは逆に、剣における上段の構えはしばしば「火の構え」とも呼ばれる。

それほど上段から放たれる一振りは豪快で素早く、重い。


それを国内でも最高峰の剣と剣技を持つスカイラーが本気で構えているのだ。


前に出された左足には、踏み込みのタイミングを読ませず、かついつでも踏み込めるよう巧みに体重が乗せられている。

眼前の左手から天に昇るように構えられた刀は、その美しさもさることながら、上段の構えの理想とする角度をしっかりと維持している。

また”上段”ということもあり疎かになりがちな下半身に関しても、しっかりと腰が落ち、その隙の無さと、初速の早さを物語っている。


まさに対峙するものにとっては、冗談のような上段の構えであった。


「ハンデとして、初手は私からってことで。合図も無しよ」


ハンデって普通は設ける側が申し出るものでは・・・?

なぜハンデをもらう側がこうも高圧的にハンデの設定を・・・と。


彼女の構えに見蕩れながらくだらない事を考えていると、彼女が”かき消えた”。


”消えた”のではなく”かき消えた”のである。

この世界では、透明化の魔法や一時的に存在を希薄にする魔法等、魔法によって”消える”ことは可能である。

しかし彼女はそう言った魔法ではなく、足運びや体重移動、また部分的な加速魔法や強化魔法によって得た”速さ”により消えおおせたのである。


「・・・ッ!”捉えろ!”」


瞬間、体を右に倒すように移動する。つい先ほど(というよりもたった今)まで僕が居た場所に、次元の歪みとして目視が可能なレベルの剣撃が走る。


(言霊の目でギリギリ”捉えられる”レベルの速度・・スカイラーってやっぱり化け物?)


無理やり体を倒して剣撃を避けた為、バランスを崩し膝をついてしまう。

立ち上がろうと地に付けた両腕に力を込めたタイミングで、いつ間にやら後ろに回り込んでいたスカイラーを”捉えた”。


「”止まれ”」


瞬間、スカイラーの動きがピタリと”止まる”。

まるで彼女だけ時間が止まってしまったかのようにピタリと。


しかしその顔は苦虫を嚙み潰したような、苦渋に満ちた顔をワナワナとさせている。

怖い。


「今のはやったと思ったのに・・・ッ」


事実ピタリと止まった彼女――というよりも彼女の刀は、僕の首筋に触れて止まっている。

まさに首の皮一枚。あと一瞬でも言葉が遅ければ僕の首がどうなっていたか、想像に難くない。


「初手で捉えられたのが痛かった・・・どんな反射神経よ」

「いや、ほんとにギリギリだったよ。まさか抜刀術を捨てるなんて。予想外だった」

「なにがギリギリよ・・・刀も抜かずに」


スカイラーはかなり悔しそうな様子である。

試合の前、”今日こそは刀を使わせる”とかなり息巻いていた。いやはや。

彼女の抜刀術は国内でも間違いなく三本の指に入る。シュラノ国の冒険者の多くが日本刀を好んで使う為、この国での抜刀術の普及率は世界トップだが、彼女はその中でもダントツである。


そんな彼女が抜刀の構えではなく、上段の構えで対峙したのである。初めて見るスタイルだった。

なるほど奇策も奇策。居合による加速が無い分、刀の威力は落ちる(それでも次元が歪むレベルだけど)が、初速は抜刀に勝る。


相手への刀の到達タイミングは若干だが火の構えの方が早いのだろう。

ぶっちゃけ、魔力や魔法による物理防御のない僕には、刀に威力は要らない。当たればいいのだ。

魔法による強化なんてなくても、僕にとっては致命傷となりえるのである。


「”解除”」


僕がそう発言すると、スカイラーは止まってた時間を取り戻すように身体の自由を取り戻した。

――はずなのだが、依然として動かず、悔しそうになにやらブツブツ呟いている。


「ちょっとスカイラーさん?刀をどかしてくれないと怖いのですが」

「煩い。なんならこのまま切ってもいいのよ」

「それはもう訓練ではなく処刑では?」


そこまで言うとようやく、スカイラーは刀をどけた。


「こんなんじゃどっちにしろ訓練になってないわよ。可憐な女の子を虐めて。最低ね」

「可憐な女の子・・・?」

「切るわよ」


まあ確かにスカイラーの言うことも分かる。現状僕たちが行っているのは訓練というよりも”初手の速さ比べ”、不可避かつ必殺の一撃をいかに相手より速く放つかの勝負ともいえる。

それも立派な訓練ともいえるが、大抵の実戦ではここまで高レベルの速さ比べはなかなか無いしなぁ・・・。


「あんたは一旦、その”言霊”とやら禁止ね。それで戦ってよ」

「嫌だよ。死んじゃうじゃん」

「刀を抜けばいいじゃない」

「・・・」


スカイラーめ。それが無理な注文だと知ってて言っているのだ。八つ当たりに違いない。

僕のそんな怪訝な目を見て、スカイラーはようやく刀を鞘に戻した。


「はいはい。今日も私の負けよ。・・・まったく。今日のは自信があったんだけど」

「僕を切りたいなら上段の構えは一つの可能性だけど、やっぱりスカイラーは抜刀術がいいよ。練度が違う」

「・・・ふん。次は刀を投げつけようかと思ってたけど」


とても剣士とは思えないとんでもない事を言っている。

いよいよ僕に勝つために手段を選ばなくなってきた。地雷でも仕掛けてきそうな勢いである。


膝に付いた土汚れを払いながら、我らがギルドマスターの錯乱を収める術を考えていると、勢いよく旧道場の扉が開いた。


「スカイラーさん!」


浴衣に身を包んだ女性が息を整えようともせず、スカイラーに必死の眼差しを向けている。

格好と、旧道場の存在を知っていることから察するに、ギルド管理人の一人だろう。


「どうした?」


その狼狽振りを見て、さすがのスカイラーも少し驚きと緊張が見て取れる。

浴衣の女性は一呼吸おいて大きく息を吸うと、管理人らしく、簡潔に。端的に。


「鬼です!鬼がでました!!」


流石は我らがギルドマスター。厄介事が絶えず舞い込んでくるようである。


   ■■■


衣笠霧生(きぬがさきりゅう)は、誇り高きキヌガサ一族の誇り高き技術指南役である。

その一族はギルドや国に属さず、報酬に応じてその鍛え抜かれた”武”を振るう。


戦争・魔物討伐・略奪・暗殺。報酬は高いが確実に依頼をこなす。

その武力は、国主である徳島家(とくしまけ)を凌ぎ、シュラノ国随一と言われている。


たかだか傭兵。されど媚びず。屈せず。

先代より多くの勇者パーティーを選出してきた、まさに名家。

そんなキヌガサの技術指南役である霧生は、それはもう誇り高き武人なのである。


「めんどくせぇ」


誇り高き武人である霧生は、スカイラーに軽くあしらわれた後、食堂でだらだらと温泉卵を食べていた。

室内でも常に番傘を差すその変人っぷりが故、食堂を行きかう人々から怪訝な目を向けられている。


「なぁにが技術指南役だよ。ただのジジイのパシリじゃねぇか。そもそもギルドが怪しいってんなら自分で見に行けばいい話だろぉ?」


もちろんそんな変人と相席を希望する冒険者がいるはずもなく、独り言である。


「スカイラーもやたら冷てぇしよ・・・”知らないわよ”じゃねぇってんだ・・・ったく」


よく見ると左手には徳利が握られており、机の上にも空の徳利がズラリと並んでいる。酒臭い。


「おい。なんだぁコイツ。ここは冒険者の食堂だ。酔っ払いの来るところじゃねぇ。どけ」

「あら。でもよく見るとこのオジサンかっこいいじゃない。酒臭いけど」

「ねぇさん。ぼ、僕の方がかっこいいよ・・・」


類は友を呼ぶ。変人は変人を呼ぶのだろうか、冒険者の誰も近づこうとしない中、どこかで見覚えのある三人組がニヤニヤと霧生の机を囲んだ。


「それはそうとスカイラーさんがどうとか言ってたわよね。オジサン何者?」

「それなんだがよ、聞いてくれよあの女、生意気でしょうがねぇ。あんたらのギルドマスターはどうなってんだよ」


霧生の回答を聞いたローブの女性が額に青筋を立てた。どうやら三人組の逆鱗に触れたようだ。


「てんめぇ。どこの誰か知らねえが、スカイラーさんを悪く言うなら容赦しねぇ。切られてぇのか」


赤い鎧に身を包んだ筋骨隆々の男が凄む。

しかし霧生は、意かけた様子もなく飄々と酩酊の様子である。


「切るったって・・・おめぇさん何で切るつもりだよ?」

「何って・・・この刀に決まってんだろぉ?」


そういって男は刀を――いや、”刀だったもの”を抜いた。


「なっ・・・え?は?」


男が抜いた刀は、本来のおよそ三分の一程度しか刀身が無かった。

焦った男が鞘をひっくり返すと、残りの刀身がカランカランと音を立てて地面に落ちた。


「なっ・・・てめぇがやったのか?」

「この程度も見えねぇで冒険者なんてやってんのか。シュラノのギルドも落ちたもんだ」

「ちょっとあんた・・」

「やめとけ。あんたの場合は腕を切らせてもらう」


先程までお怒りの様子であった三人組が、ものの数秒で困惑と恐怖を顔に滲ませている。


三者三様に、頭では何が起こったのか理解していない。

どうして鞘に納まっていた刀が折れていたのか。この男が何か行動を起こした様子も見えなかった。

しかしこの男の放つ覇気が、威圧が、間違いなく”この男がやった”と本能に刷り込ませている。


「まぁまぁその辺で」


三人組が動くことも話すことも出来ず固まっていると、落ち着きのある、初老の男の声が割り込んできた。


「なっ・・・ジジイ!なんでここに!」

「このアホンダラ。用事が済んだらとっとと帰ってこいや。挙句ギルドに迷惑かけおって」

「わざわざギルドまで来たんだ。少しくらいいいだろぉ?」

「やかましいわ。ほれ帰るぞ。お三方、すまなかった」


そう初老の男が言うとと二人は周りに目もくれず、ぎゃあぎゃあと言い争いをしながら食堂から出て行ってしまった。

丁度夕食の時間という事もあり、ギルドの食堂は混雑を極めているが、皆一様に二人の背中を目で追い、食堂は静寂に包まれ、異様な光景・空気となるのであった。


   ■■■


「おいジジイ」

「なんじゃ」


食堂を後にした二人は、ギルドから離れ、道なき山林を歩いていた。

凹凸や障害物の多い、道とも呼べない地面にも関わらず、二人はまるで散歩でもしているかのように山林を進んでいく。


「いいのかよスカイラーに会わなくて。あんたの口から聞けばちったぁ素直に話すかもよ」

「いい。どうせあの小娘は何も知らん。得るものはないじゃろ」

「はぁ?なら何で俺をギルドに送ったんだ?」


霧生は怪訝な目を隠そうともしない。もともとこの案件はなにやらキナ臭い。


「そもそもジジイがギルドに来るなんて何年ぶりだよ。一族の頭がわざわざ出向くに足る理由があるんだろ?っていうか若い衆が許したのか?」

「質問が多いのぉ・・・。もちろん理由はあるし、家はこっそり抜けてきた」


まじかよこのジジイ。あとで何言われても知らねぇぞ。


「霧生よ。実戦はいつ振りじゃ」

「あん?いつ振りって・・・半年前の砦奪還が最後だな」

「そうか、問題ないの。霧生よ。」


初老の男――キヌガサ一族の頭にして”兜割剣術(かぶとわりけんじゅつ)”当主、衣笠法衣(きぬがさほうい)は、告げる。


「鬼が出るぞ」


   ■■■


スカイラーは道なき道を駆けていた。

加速魔法と脚力への強化魔法を全力で行使し、報告にあった現場に向かう。


確認された鬼はギルドからスカイラーが全力で駆けてわずか五分の地点でギルド管理人の追跡を断った。

スカイラーの到着までそれほど時間は掛からないが、逆を返せばそれだけギルドに脅威が近づいているということである。


(ちっ・・・鬼だなんて・・・しかも一体どこから・・・)


この世界には数えきれない数・種類の”魔物”と呼ばれる異形が住み着いている。

魔物にも冒険者と同じくF~Sのランクがつけられており、基本的にはその魔物の魔力・腕力・知力・討伐難易度等、総合的な戦闘力を考慮して判定される。


特例を除き、Bランクの魔物はBランクの冒険者が一人で互角に戦えるレベルといったように、冒険者のランクと魔物のランクは対応している。

つまり、一概には言えないが冒険者が一人で魔物と戦うときは、自分のランクより低い魔物と戦うのが定石である。


(久々のA~Sランク級魔物ね・・・気合を入れないと)


魔物の強さは、まったく新しい種類の魔物でない限り、基本的には過去に発現した同種の魔物とほぼ同一と言われている。

シュラノ国では最近だと約五年前に鬼が発現しており、その際のランクはA-であった。


(ポータルの発生も確認出来ていない・・・ギルドの索敵圏外から来たのだとしても、どうやって索敵にかからずここまでギルドに接近したの・・・?)


魔物はそのほとんどが謎に包まれているが、3つ――魔力を使ってに存在・活動していること、魔力が切れると消滅すること、ポータルから発現すること――だけ分かっている。


どのように生まれるのか。どこから来るのか。なぜ人を襲うのか。――そもそも何故存在しているのか。

まったく分からないまま、世界の人々は魔物との戦いを強いられている。


(今は後回しね・・・とにかく一刻も早く殲滅・・・ッ!?)


駆けながらスカイラーは、対象の魔力をとらえるタイプの索敵魔法を放っていた。

その索敵に、”何やらとんでもない魔力”が引っかかった。それも――二つ。


「くそ・・・ホントに厄介ッ・・・」


スカイラーが驚きのあまり一度止めてしまった足を、再び動かそうとした瞬間であった。


「貴様はそこそこ強そうではないか。我とお似合い。鬼会いだな」


全身を滾るような紅蓮に身を包んだ鬼が、不敵な笑みとに不適切な魔力を携えて――


「では死ね」


そこに立っていた。


最後までご拝読ありがとうございます!

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