俺は悪役令嬢を愛しているのにゲームの強制力に逆らえない
乙女ゲームの強制力が強すぎたらどうなるのかなと思って書いてみました。
「アリシア様が虐めるんですっ!」
うるせえ、アリシアがそんなことするわけないだろ。
「大丈夫だ、カレンのことは俺が守る」
うるさいうるさい、何で、
なんで、口が勝手に動くんだ。
・
・
親が決めた婚約だった。
だけど確かに俺らは愛し合っていた。
俺が冗談を言って、アリシアが笑って。
アリシアの前では、俺は王子からただのアレクでいられた。
歯車が狂い始めたのはいつからだろうか。
1人の少女に出会ってから、俺はおかしくなってしまった。
礼儀も知らない平民の少女を、俺はまるで愛おしいものに話すように微笑み、触れ、愛を囁いた。
どれだけ俺が嫌だと思っても、身体が言うことを聞かない。
嫌だ、俺は、アリシアのことが。
そう思うのに、身体は勝手にカレンを庇い、アリシアへの非難が口から溢れ出た。
ある日、俺が授業を終えて歩いていると、中庭にアリシアとカレンが対峙していた。
まずい、そう思った途端に身体が支配される。
「何してるんだ」
「アレク様ぁ!」
媚びるような声が鬱陶しい。それでも、俺はアリシアを睨んでいた。
「……アレク様」
縋るようなアリシアの視線に、胸が裂けそうに痛い。
こんな、こんなことをしたくはないのに。
どうして。
せめて指一本でも動かせたら。
「アリシア様が、アレク様に近寄るなって言うんですぅ」
「…何を」
「私が悪いんですっ!アリシア様がいるのにアレク様を好きになってしまったからっ!」
聞いてもいないのにカレンはベラベラと喋った。
悪いなんて、思ってもないくせに白々しい。
だと言うのに。
「はっ、まさかカレンに嫉妬したのか?醜いな、俺がアリシアを好きになることなどありえないというのに」
やめろ
「お前みたいな女では、俺は満たされない。
カレンといると、俺はただのアレクでいられるんだ」
やめてくれ
それは、それだけは、アリシアへの台詞なんだ。
俺の想いの全部なんだ。
お願いだから、奪わないでくれ。
ふと、視線の先に呆然と傷付いた顔のアリシアが見える。
ごめん、アリシア。
お願いだよ、こんな俺の言葉に傷付かないで。
こんな奴なんか見捨てて、違う奴と幸せになってくれ。
俺じゃない奴の、隣で。
どうか笑っていて欲しい。
ぼろ、
アリシアに嘲る表情を向けたまま、涙が一筋零れ落ちた。
アリシアが目を見開く。
「アレク様…?」
カレンも呆然としている。
俺は固まったまま動かなかった。
バグがかかったみたいに身体の一切が動かない。
「はっ、まさかカレンに嫉妬したのか?醜いな、俺がアリシアを好きになることなどありえないというのに」
そしてもう一度、そっくりそのまま同じ言葉を吐き出した。
「………陛下直属の魔術師を呼んできてください」
アリシアは召使の一人にそう言うと、こちらへ寄ってくる。
「アレク様、大丈夫ですか、どこか辛くはないですか」
こちらへ手を伸ばして様子を窺ってくる。
俺は、動くことができない。
何故だろう。俺はこの一連の動作が実際には存在しないことを知っていた。「本当は」ない、はずだ。
だから、俺はどう反応したらいいか分からない。
「どうしたんですかアレク様ぁ、ね、カレンのことが好きなんですよね?」
焦ったようにカレンが腕に縋りつくが、それを振り払うことも出来ない。
暫くして、魔術師がやってきて強制連行された。
「これは、とても強力な魅了です」
王宮中の魔術師達が四苦八苦して数十時間後、ようやく
自由の身になった俺の前で、魔術師はそう言った。
「魅了……?」
「はい。しかも、とても古いものです。
そして人間がかけられる威力のものじゃない。
普通だったら解けないものですけど、アレク様がずっと抵抗していたので、魔力に亀裂が生じたようです。」
そう告げられ、恐ろしさに鳥肌が立つ。
「もう大丈夫なのか」
「はい、完全に解いたので心配ありません。
よく頑張りました。」
あぁ、でも良かった。本当に。
ようやっと俺は自由に生きられる。
「アレク様!」
医務室に駆けこんで来たアリシアに微笑む。
「たくさん傷付けてごめん、アリシア。
愛してる。俺と結婚してくれないか」
泣きながら言った俺に、アリシアも泣きながら微笑んだ。
「ええ、よろこんで」
その後 俺たちは、すぐに結婚して何十年も倦怠期もなく幸せな日々を過ごしている。
あの少女は後に、ひろいん とか 乙女げーむ とか喚いていたらしいが、退学させられ、今は会ってすらいない。
あのとき諦めなくて、本当に良かった。