ミソラ盗賊と初めての対人戦をした
ミソラが盗賊と対峙します。
頑張れミソラ。
「お父様、デル伯爵様が言っていた盗賊が現れる所ですね。」
「うむ。油断をするな。盗賊は必ず集団で襲ってくる。いろいろなやり方があるが、街道に障害物を置いて足止めしたり、野営を襲ったり、弓矢で遠距離攻撃して足止めしてから、周りにそっと近づいて近接戦闘などがあるな。」
「お父様は詳しいですね。冒険者時代に対応されたのですか。」
「その通りだ。それに盗賊討伐依頼などもあるからな。盗賊は依頼を受けていなくても手配対象者であれば報奨金が貰えるぞ。」
「そうですか。盗賊も人でしょうから人を殺めるかも知れない仕事、理解できません。」
「動機はいろいろだろうな。生活の苦しい者、人を殺めるのが好きな者。特に注意しなければならいのは、盗賊に見せかけた暗殺者だな。これは一番手ごわい。」
「そんな、人を殺める専門の仕事などがあるのですか。許せません。」
「そうだな、ミソラ。地位と名誉を手に入れると人から恨まれる事もある。そんな輩に雇われるのが暗殺者なのだ。彼はその道の達人だ、毒殺、弓矢、毒剣そして罠などなんでも使う。そして戦闘も達人の事が多い。」
「怖いです。」
「そうだな、だが将来徐爵された時など気を付けなさい。どこで恨みを買うのか解らないからね。」
「はい、ミソラは気を付けます。ですが・・お父様お尻が・・」
「その内に慣れる物であるから我慢をしなさい。」
「ですが・・お父様。」
「では馬車の中で少し屈んで屈伸でもしていなさい。」
・・
「お父様、先の馬車止まっています。」1km先に馬車が止まっているのが見えた。
「どれ、倒木か盗賊の置いた障害だろうな。」
後ろの馬車2台に待機している警備兵にはそのまま待機をさせて、様子を見る。
騎馬の剣士4名を先に行かせて様子を見させる。
やがてアルマ達が戻って来た。
「公爵様、倒木に見せかけていますが切り痕があります。罠ですね。」
「わかった。ミソラ外に出て体操していなさい。ただし弓矢には気を付ける様に。」
「はいお父様。」
・・
「お前達、死にたくなければ金目の物や女を置いて引き返せ。」
汚い風体の盗賊らしき者が6名出て来た。
「ミソラ、林の中に弓矢を持った者が隠れているはずだから注意しなさい。」
「はい、お父様。」
「アルマ、林を先に掃除してきてくれ。」
「畏まりました。」
アルマは単騎で大きく回って林に突っ込む。
声が聞こえる。「うわー」「ギャ」「逃がす物か」「助け・・」「おーー」「グッ」
静かになった。
前の馬車では商人と思しき人物が品物を盗賊に渡している様子が見えた。
盗賊達の弓矢隊は後続の馬車に、少女を見つけ密かに後ろに移動していた所に、アルマが突っ込み、切りつけられ全滅していた。弓矢隊は6名であった。
「アルマ、そろそろ良いだろう。警備兵は残して全員で歩いて行くか。」「はい。」
「ミソラ歩いて行くぞ。」「はいお父様。」
・
「お困りですか。」とアルトハイムは声をかける。
盗賊と商人はこちらを振り向く。商人が逃げろと目で合図する。
「おやおや、かわいいお嬢さん。高く売れそうだな。」盗賊が商人を置いてこちらに歩いてくる。
「娘をお前達にやる事はできないな。」
「では力ずくで攫うだけだ。やれ。」
「そうか、ミソラ出来るか。相手は人だぞ。」
「お父様、あれは人ではありません。人の姿をした魔物です。」
そう言うとミソラは剣を抜き、盗賊4人に自分から近づいて行く。
「お嬢ちゃんが俺たちとやるのか。これでも「暗闇の狼」と呼ばれている盗賊なのだがな。」
ミソラは無言で剣に炎を纏わせる。
「ほぅ、少女が炎を剣に纏わせるか。ますます高く売れるな。」
盗賊の頭は両手剣を振りかざし威嚇をする。
ミソラは突然走り出し、かしらの隣、足を切りつける。盗賊は皮の防具事切られ出血して膝をつく。
「くっ」
「あまり、やんちゃな事はダメだな。後でお仕置きだ。」頭は「やれ」と命令する。
相手は少女のミソラだけなので、3人が気軽に飛び込んでくる。
ミソラは高く飛び上がり、盗賊の利き腕を切りつける。
たちまち3人共に戦闘不能になる。
「お嬢ちゃんやり過ぎだ、死ぬほどの恐怖を味わえ。」
頭が部下一人と共に突っ込んでくる。
ミソラは右にかわして相手の剣と反対方向に飛びのく、そして横胴を払う。
盗賊の部下が横腹を切られ足をつく。皮の防具もすっと刃先が入る。
「やるな。」かしらは両手剣を振り回し、入るスキを作らない。
ミソラは剣を正眼に構え、タイミングを計っている。
突然、かしらは振り回していた両手剣で打ちこんできた。
ミソラは左に飛びのき、横胴を払う。かしらの払った剣に邪魔されて切り込めない。
再度ミソラは横に1回飛び、かしらの真後ろを取る。背中を切りつけると見せて、振り向いたかしらの左腕を切りつける。
「クッやるな」ミソラは正眼の構えで見ている。
「このやろう。」かしらは右腕だけで両手剣を振り回す。両手で持つ両手剣はバランスが両手用なので、片手で振り回すと力が伝わりにくい。
ミソラは、素早く振り回している剣の下にもぐり込み、左足を切りつける。
痛みで「ギャ」とかしらは言う。「おい弓矢どうした。」
「残念ね、あなたが商人から受け取っている間に弓矢隊は全滅しましたよ。残るはあなただけ。」
「うおーー」とかしらは今度は剣を縦に振り回す。左足を防具事切られて出血しているが、まだ動けるようだ。
「炎強くして骨ごと切り落としますよ。」
「できるか。」かしらは再度片手で切りかかるが、刃先が安定しないのでミソラは「体かわし」で避ける。
「そろそろ良いかしら。」
そう言うとミソラは高く飛び上がり何度も回転してかしらの両肩を切りつける。「流星切り」である。
かしらは剣を落とし、片足を地面につくと短剣を抜き構える。
それを見たミソラはダッシュして横胴を払う。防具事切られたかしらは横腹を抑える。
後ろに回り込み、こんどは背中を縦に切る。防具の皮が焦げる嫌な匂いがする。
「うわー」
更に右横に回り込み、剣を払うと右腕を切りつける。「二段切り」である。
「うっっっ」かしらは座り込んで戦闘意欲を無くしていた。
「お嬢、始末は俺らで」と言うと剣士のアルマとトルネ、アルフ、ソリマの4人が盗賊達6人を縛り上げロープでつないだ。
「ミソラ怪我はないか。」アルトハイムが心配する。
「お父様怪我はありません。」
「そうか、よくやった。初めての盗賊討伐だな。」
「えへへ」ミソラは照れていた。
「お父様盗賊はどうなるのですか。」
「普通は縛って馬車で引っ張り歩かせ、王都の警備隊に引き渡すのだが、儂ならめんどくさいから・・・」
「えっ」
「いや、まとめて燃やしてしまうがな。」
「そんな・・・・お父様。」
「はは、ミソラは嫌か。だがその内に手加減できない相手も出てくるであろう。その時は相手の技量を見て無理だと思ったら真剣に対決しなさい。手加減はスキもできやすくなる。強い相手ならそこを攻め込むであろう。
「しまった」と思ったらもう遅い。そうならない為にはたくさんの人と打ち合いをしなければならないよ。
人によって切り込む瞬間が違うからね。これは経験だけが頼りだ。」
「そうなのですね。もっと剣の勉強・・打ちこみを練習します。」
「そうだな、殺そうと来ている相手には手加減をしている時間はない。逆に舐めてきている相手はスキだけだから手加減ができる。難しいところである。」
「はいお父様。」
アルトハイム一行は警備兵の馬車に盗賊を括りつけて王都に向かっている。
・・
やがて王都に到着した一行は王都警備兵に盗賊を引き渡し王都の貴族地区にあるアルトハイムの屋敷に入っていく。
ミソラは屋敷の豪華な風呂に入り盗賊との戦闘を思い出していた。
「もっとなんとかできた筈」ミソラは風呂に頭を沈めるとぶくぶくと泡を出して顔をだす。
「でも初めての対人戦・・怖かった。リルル達との打ちこみとは違う、これが実戦なのね。」
と独り言が出てしまっている。
やがて女中のロリアが入って来た。
「お嬢様お体を洗います。」
「ロリアも砂埃や泥で汚れたでしょ。私が洗ってあげます。ふふ。」
「お嬢様いけません。あっ」
「大人しくしなさい。」ミソラはロリアを洗っている。ロリアは12歳で女中見習いである。
「お嬢様おやめ・・・」「覚悟しなさい」ミソラ何をしている。
盗賊との戦闘を思い出して独り言を言っていたのを聞かれたと思い、ロリアを洗う事で口止めしようとしていた。
やがて風呂を出たミソラは食堂でアルトハイムと夕食をしている。
「お父様、盗賊との戦闘が忘れられません。」
「ミソラ最初は誰でも対人戦闘なら、夢にも出てくるものだ。忘れろとは言うが忘れられないものである。
だからミソラ。これを糧に剣士として励め。それしか忘れるすべはないぞ。」
「お父様。ミソラは剣士として一層精進いたします。」
「そうだ、それしかない。」「はい。」
「ミソラ明日は王に会う予定である。明日10時に王宮に向かうから、今日は早く寝なさい。」
「はいお父様。」
「王の謁見が終わったら学園に行き願書をだすか。ついでに学園も見られるしな。
ギルドは明後日で良いな。王から何かを依頼されれば行かなくてはならないが、その時はアルマに頼むとするぞ。」
「はい、王様の用事が優先。心得ています。」
そして翌日。
「ミソラ準備はできているか。」
「はいお父様。ドレスはこれで宜しいですか。」
「うむ。良い。さて行くぞ。アルマ。」
「御館様、準備はできております。王宮ですので我ら剣士4名が同行いたします。」
「うむ。頼むぞ。」
盗賊を倒したミソラ。
だが人を切った事が忘れられない。
修行に励もうと決めたミソラであった。
ミソラ10歳秋である。