004 三下
ビンガルの元へ向かおうとしたルークの前に、先程足蹴にされていたディンゴ兄弟が現れた。
「おいおい兄ちゃんさっきはよくも……」
「おい待て馬鹿野郎……まさかお前らの言ってたの、このお方じゃねえだろうな?!」
「へ?」
絡み始めたディンゴ兄弟のでかいほうを止めたのは、背後にいたいかついスキンヘッドの男だった。
思わぬ制止に戸惑うディンゴ兄弟のでかい方。だが相手は決して逆らうことのできない相手だった。
所属する組織の長であり、この地域においてその顔を、名を知らぬものはいない札付きの人間。
ルークはぞろぞろと現れて勝手に盛り上がり始めた柄の悪い男連中を冷ややかに見つめていた。
白けた顔で一同を睨みつけていたルークに冷や汗をかきながら反応したのは、連中の中で最も格の高い男である、スキンヘッドの男、ヴェラゾだった。
「申し訳ありませんでした!!!」
ヴェラゾの土下座に目を白黒させる男たち。
ただごとではないことだけはわかったようでその顔にはありありと焦燥が浮かんでいた。
「お頭……一体何を……」
「馬鹿野郎が! 幻夢の盗賊団も知らねえのかてめえらは!」
「ひぃっ! すいません!」
「いや待て……幻夢の……?」
「あの伝説の盗賊団の!」
幻夢の盗賊団。
組織の規模は数千人にのぼり、幹部に至っては冒険者レベルAランク相当と言われている、もはや国家の戦力を凌ぐほどの集団であった。
「まさか……その……幹部ですか?」
「馬鹿野郎が! 盗賊王ルーク=ディ=バルド様だよ!」
「盗賊王っ!?」
表の世界ではない組織に与するものでも、その末端、下っ端であるディンゴ兄弟がその顔を知らなかったことは仕方ないことでもあった。
そもそも顔を知る手段も少なく、また直接目にかかることもない。顔を知っていることがそのままこの世界における実力へとつながる、そんな存在。
「すまねえ! 許してくれ! 落とし前はつけさせる!」
「いらねえよ」
「だがーー」
「何度も言わせるな」
「ひっ……」
ルークの放つ威圧だけでヴェラゾがのけぞる。
その姿はディンゴ兄弟をはじめとした部下たちにとって、自身が何かされることよりもはるかに恐ろしく映ったことだろう。
あのヴェラゾがこれだけの低姿勢を見せた上、視線だけで恐怖に慄いているのだ。
「てめえらごときのもんを盗ったところで何にもなりやしねえ……とっとと消えろ。俺はわざわざ追いかけねえ」
「それじゃ……許してもらえて……」
「馬鹿野郎……馬鹿野郎どもめ! なんとしてもここで、許しを乞うんだよ!」
あまりに必死の形相のヴェラゾに部下たちが戸惑った。
だがヴェラゾが焦るのにはわけがある。
「けどいま……」
「幻夢の盗賊団は団長ルークのカリスマで成り立ってんだ! その部下ですら一人でドラゴンを殺す力があるんだぞ!」
「ドラゴンをっ!?」
「団長に見逃されたからといって部下が許しちゃくれねえんだ! 俺はそうやって死んだやつを山程見てきたんだよ!」
部下たちの血の気が引いた。
だが意外にも、助け舟はルークから出された。
「なんだ知らねえのか?」
「へ?」
「俺の部下たちゃいまごろ俺の代わりに捕まってくれてらぁ。心配も要らんだろ」
「その噂……本当に……?」
「さぁな」
それ以上は不要とばかりに地べたに跪くヴェラゾたちを置いてルークは歩き出した。
ヴェラゾたちの姿が完全に消えた頃、ルークが一人呟いた。
「まぁ、いつまでも捕まったまんまでいるやつらじゃあねえだろうけどな……」
誰に聞かれるでもなく、森の中に不穏な呟きは消えていった。
タイトルちょっと変えました
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