003 受付
「いらっしゃいませ……随分暴れていらっしゃいましたね?」
ルークを待ち受けたのは可愛らしい女性受付嬢だった。
ふわふわした明るい髪とくりくりした大きな目が目立つ。
「見てたのに止めねえのか、ギルドってのは」
ルークは自身のイメージよりも規律のないギルドに多少なりとも驚きを見せていた。
ルークのような人間が使う食堂は揉め事に気を使う店が多かった。エスカレートすれば抗争に発展して店ごと潰しかねないというのが主な理由だが。
「あんなことは日常茶飯事ですから。流石に看過できないものは止めに入りもしますが、下位の冒険者同士のいざこざなんて止めには入らないですよ」
「そうか。Cランクってのまでは下位の扱いってわけか」
「え? Cランク?」
「誰がやってるかまでは興味なしか」
「ええ……いやえっと……一応聞きますが相手の名前とかって……」
「名前は知らん。ああいや知ってた。ビンガルんとこのガキだ」
「ビンガルさん……え? ベッキャルさんではないですよね?」
「知らん。だかまぁ、貴族のガキだな」
「なんってことしてるんですかー!?」
ガバッとカウンター越しに飛び上がる受付嬢、リィム。
「向こうが仕掛けてきただけだぞ?」
「いやいや!? 相手はこの地域を治める貴族のご子息ですよ!? それに今回はたまたま運良くいったかもしれませんが、ベッキャルさんには護衛もいるんですよ! 騒ぎがわかればすぐ駆けつけてきて……」
「あのデブとヒョロヒョロのやつか?」
「まさか……」
リィムが目を凝らすと、ギルドのテーブルの前に転がる三人組の男がギリギリ視界に入ってくる。
パッと見た特徴と、今目の前にいる男の発言を照らし合わせ、ことの重大さに頭を抱えた。
「とんでもないことを……」
「俺からは手を出してねえからな?」
「それでもです! 貴族とその護衛まで……いえ、この場合その護衛についてた方々の組織も……」
ぶつぶつと呟き続けるリィムを無視してルークはさらさらと紙に登録のための情報を書き入れていく。
登録証は本来ギルド職員しか持てないものだが、目の前にそれをポケットに入れた人間がいる以上、ルークにとっては自由にとっていいと言われているようなものだった。
「書いたぞ」
「なにを……ってこれ!? どこから!?」
「で、あとはなにすればいいんだ?」
「流さないでください! もう! え? まさかここから?」
慌てた様子でリィムが手を伸ばすのは登録証の入った胸ポケットだった。はたから見ればそれなりに育った乳房を自らいじっているようにしか見えないが。
「で、冒険者ってのにはいつなれる? 何をしたらいい?」
「あんなことをしておいて普通になれるはずないじゃないですか!」
「なんでだ?」
「なんでって……貴族相手に粗相したんですよ!? ビンガル家が許すまで我々ギルドがあなたを受け入れるなんて出来ませんよぉ」
涙目になりながら嘆くリィムだが、ルークの心に届くことはない。
「それなら問題ないぞ?」
「問題ないわけないじゃないですか! とにかくっ! 申し訳ありませんがいまあなたを登録する事はできません! あなたの依頼も受け付けられないので自分の身は自分でしっかり守るように! いいですね?」
「はぁ……」
これ以上は時間の無駄と悟ったルークはその場を離れることにした。
記入した用紙をしっかりチェック済みの列に紛れ込ませてから。
「にしても、思ったよりギルドってのは国とズブズブだな」
考えてみれば不思議なことではなかった。
ルークを無理やり冒険者に押し留めようとしたことがすでにそのことを表していたのだから。
「さてと、ビンガルのおっさんが認めるまでできねえ、だったか……面倒だが行ってやるか」
ルークの歩くと皆一斉に道を開けていた。
皆一様にとんでもない新人に思うところを持っていたが、しでかしたことの大きさを考えれば、二度と出会うことはないと確信を持って送り出していた。
19:01に投稿するつもりだった