002 格の違い
「どうなると思う?」
「どのみち終わりだろあれは……ディンゴ兄弟に手出して、伯爵様まで愚弄したんだ……」
「そりゃそうだろ。俺が聞いてんのは今、だよ」
「そりゃまぁ、どっちかってえとなんか起きてくれたほうが楽しいけどな」
「っち。んじゃ賭けにならねえな」
ベッキャルに対する周囲の評価が伺えるワンシーンだった。
その様子を小耳に挟んだベッキャルが更に機嫌を悪くする中、トドメを刺したのは張本人のルークだった。
「お前みたいな無能に何が出来るんだ?」
「貴様ぁあああああ!」
ベッキャルの手にする杖に魔力波が迸る。
「挑んでくるのは勝手だが、お前に何があっても文句を言うなよ?」
「ふんっ! 私に何があるというのだ? お前がそこで無様に死ぬだけだ!」
ベッキャルは腐ってもCランク。Cランクとはすなわち、ただの人間などあっさり亡き者にするだけの力を持つということだった。
だが今回の相手は、残念ながらただの人間ではなかった。
「道具のおかげでかさ増しできても、その程度のレベルじゃ宝具が泣くな」
「は?」
気づけばルークとベッキャルの立ち位置が反転し、互いに背を向けた状態でもともとの距離と同じだけ離れた位置に戻っていた。
片やギルドの丸机に退屈そうに座り込み、片や全身から冷や汗を流してなぜか何も持っていない手を宙に差し出している。
「良い杖だな。今回はこいつで勘弁してやろう」
「ふざけるな! それは我がビンガル家に伝わる家宝で……」
「家宝で……? あぁそうか。あん時も言ってたな。これがお前んとこの継承の証、だったか? 馬鹿な家訓は早くやめろと言っておいたのになぁ?」
「お前は……何を……」
「てめえの父親の時はたしか……一千万ギィルは積んでたぞ? お前は何して取り返すんだ?」
「そんな……ふざけるな……! 一千万ギィル……?! 馬鹿にするのも大概にしろ! そもそも人から奪っておいて何を我が物顔で……」
「お前が賭けたんだろうが。何があっても文句は言うなと、言ったはずだぞ?」
そう言いながらルークが無造作にポケットから小さな紙を取り出す。
「それは……」
「貴族なら知ってるだろ? お前は俺と契約したんだよ」
「馬鹿なっ!? 私は一度も契約を許してなど」
「言葉に気を付けろってこったな」
魔法で縛られた契約はそのスクロールに込められた魔力が強力であればあるほど強制力が強くなる。
その分条件は厳しくなるのが普通だが、ルークは言葉だけで契約を強制的に結ばせる手段を持っていたことになる。表に出ている合法的なスクロールでは無いことは明らかだった。
「くそっ! 油断しただけだ。その紙をわざわざ私に見せたのが馬鹿だったな」
「あ?」
再び魔法の準備に入ったベッキャルの周囲に魔力波が迸った。
「杖がなくとも私はっ!」
「ああ、あってもなくても才能がないな」
「なっ……ぐふっ……」
気づけばベッキャルが地面に倒れ伏していた。
「魔法ってのは気取られずに撃つもんだろうが。そんなすきだらけで待ってくれる相手としか戦ってなかったのか? 坊ちゃん」
「がはっ……くそっ……くそ! こんなことをしてただで済むと思うな!」
「ああはいはい。じゃあな」
「いや待て、今それを返すなら許してやらんことも……」
「馬鹿か?」
心底冷徹に、ルークはベッキャルを見下ろした。
「さーて、しばらくの宿代くらいにはなるかね、こいつ売り捌いたら」
「やめろ……やめてくれ! それがないと俺は……」
「安心しろ、こんなもんがあってもなくても、てめえの無能は変わらねえよ」
青ざめた顔で懇願するベッキャルを冷たくあしらうと、ルークは当初の目的通りギルドの受付に歩みを進めた。
彼を止めるものはもう、誰もいなかった。
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