023 超えた先
「ぷはっ! もう! なんなんですの!」
「ルーク殿はなにか、そうしたくない理由がお有りのようですな。国家としてはありがたいことに」
リーマスがフォローを入れた。
「なるほど……」
二人の意図を察したメリリルがおとなしくなる。
「ちょっと! それはそうと、私に王国に尽くせと言った理由はわからないわよっ!」
「なんだまだわかんねえのか」
ルークの言葉はリーマスが紡いだ。
「表立ってルーク殿の仲間が出てこられるよう、王女様の威光を利用したいということですな」
「いくらなんでもそれは……」
「姫様。ルーク殿が率いた幻夢の盗賊団。その最も大きな罪は何だと思います?」
「罪……? それは、盗みは悪いことでしょう?」
メリリルは少々純粋すぎるきらいがあった。
リーマスは優しく微笑むと言葉を続ける。
「そう……中でも国を敵に回したこと。国の金庫にまで被害が及んだことこそ、最も大きな罪なのです」
人も死んだ上、貴族も何家かつぶれている。
だがそれは国という大きな視点で見れば、仕方のない話として切り捨てることもできる程度だった。本当に必要な貴族家はそれぞれ自衛ができている。
だがこと幻夢の盗賊団の引き起こした事件はどれも、その規模が大きすぎた。
結果として国庫に打撃を与えたことがルークたちを捕らえるに至った経緯だった。
「なるほど……」
メリリルがうなずく。
「身代金を払えば自由を保証する。これは確かにいい打開策かもしれないわね」
「さすが姫様、ご慧眼恐れ入ります」
「これだけお膳立てされてるのよ。かえってバカにされてるようだわ」
「それは失礼いたしました」
現状3000の部下の拘束にかかる費用もまた、国庫に打撃を与えかねない状況であることも事実だった。
ギルドマスターシャナハンの考えはこうだ。
懸賞金に相当する金額を逆に国に支払うことで、その仲間を回収していくというもの。
シンプルだがこうすることで被害を大きくする強力な仲間を回収するハードルを上げ、人質としての効果は残しておくことも計算されていた。
「お父様が全ての部下を出すことには反対するでしょうね」
「そうですな……十傑はともかく、三凶は……」
「あいつらは最後だな」
幻夢の盗賊団はその被害額、そして純粋な単体能力に応じたランク付けが内外に知れ渡っている。
中でも有名なのが十傑。ほとんどの事件に実行役として関わる幻夢の盗賊団の顔がそれだ。
「噂によれば三凶の扱いはルーク殿も懸念事項だったとか……?」
「さあな」
幻夢の盗賊団。三凶。
団長ルークに匹敵する能力を持ち、またその被害額、傍若無人さなどで十傑を圧倒する、いわば幻夢の盗賊団の裏の顔と言える三人がいた。
「逆にいやああいつらがおとなしく捕まってりゃあ文句はねえだろ」
十傑の被害額を全て足しても、三凶の一人の生み出した被害額に及ばない。
これだけ隔絶した差がある相手を、国としても気軽に解放はできないだろう。そしてリーマスの言ったとおり、ルークが完全に従えているともいい切れないだけの力を持つのがこの三人だった。
お互いのためにここに触れるのは最後になることを確認する。
「とにかく、私はその橋渡しをすればいいということね」
「頼むぜ姫様」
「それは貴方がこの竜の谷を無事に乗り切って、公国の交渉もまとめてきたときに初めて約束されるものね」
「要求の多い姫様だな」
三者三様。ただ全員が笑い合って話に区切りをつけた。
三人を乗せた籠はゆっくりと竜の谷へたどり着いた。
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【連載版】Sランクパーティーのお荷物テイマー、使い魔を殺されて真の力に目覚める 〜追放されたテイマーは実は世界唯一のネクロマンサーでした。ありあまるその力で自由を謳歌していたらいつの間にか最強に〜
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