021 公国への道
「あっさりだな」
「それだけ貴方の力が規格外ということでしょうなぁ」
馬車の中でルークとリーマスが笑い合っていた。
「全く……で、私は貴方を受け入れたのだから、貴方も少しくらい、自分を出したらどうかしら?」
「自分を?」
「ええ。もうただのFランクでないことはわかったのです。何者なのか出しても良いのでは?」
「なるほど……」
ルークは状況を観察する。
馬車に乗るのは三人。
街中の移動に大臣と王女に顔を出させるわけにもいかないし、ルークも最も近くで守るという名目のもと中で顔を突き合わせている。
「良いのではないでしょうか。ルーク=ディ=バルド殿」
「ルーク=ディ=バルド……? まさか……!」
「名前を変えてるわけでもねえんだ。もう少し前に気づけたんじゃねえのか?」
「それを言うのは少々酷でしょうな……貴方とは出会うはずのない人間と思って生きている人間のほうが多い」
リーマスが言うことは最もである。
なんなら都市伝説と思われている地域すらあるほどだ。
「だがまあ、王族ならもう少し気を使って生きたほうがいいな」
「なっ! 失礼ですわね!」
「そりゃそうだ。なんつっても出自が出自だからな?」
「いまは私の護衛のはずですがどうですか?」
「ちっ……」
珍しくルークが一本盗られる形になる。
メリリルは王女としては多少無防備なものの頭がまわらないわけではないらしい。
「して、念の為確認しますが、その事実を知った上で姫様として受け入れますかな?」
「当然でしょう。むしろ今回一番欲しい人材じゃない」
「左様でございますか」
メリリルは兄が三人いた。
まずもってその状況下において王位継承の話が回ってくることは想定されず、早々に自力で生きていくための道を模索させられた経緯もある。
「なかなか面白いお姫様だな」
「ありがとう盗賊王さん。それで、公国へいくルートの候補はこれだけど、何か意見はあるかしら」
地図を広げながらメリリルが尋ねる。
ルークは間髪入れずにこう口にした。
「竜の谷底を抜ける」
「はぁっ!?」
「正気ですかな? ルーク殿」
二人がそれぞれ否定的な意見を述べる。
「まず今の候補ルートだが、ここで詰まるぞ」
「ここですか? ここには何もなかったかと……」
「ギープの山賊団は本来ここに城を構えてやがった」
「ギープ……これはまた……」
盗賊王ルークほどではないにしても、悪名が畏怖を込めて広まった人間はいる。
その一人が山賊ギープ。
山を抜ける貴族たちを襲いその身代金で成り立つ武力と交渉のプロだった。
「ギープを相手にするなら金を払えば命は保証されるが、会わないにこしたことはない」
「そもそも私どもだけではその交渉も厳しかったでしょうな……」
「でも、他の候補より竜の谷がいい理由は?」
ルークが一つ一つのルートの問題点を上げていく。
「……なるほど。すべて名だたる者たちの縄張りであると」
「貴方がしっかりやっていればこの辺りって……」
「お前んとこの騎士団だろうが。必死に俺を捕まえたのは」
「はあ……まあ言い合っても仕方ないわね。で、竜の谷底は下手な山賊たちより危険度は高いけれど?」
そう。
竜の谷底はその名の通り、上空を無数の翼竜が舞うとおりだ。
底を通る人間は彼らにとってめずらしい餌であり、知っている人間なら決して足を踏み入れない地域。
「人間は倒すとな、面倒が多い」
「ギープを始め武力で対抗すれば確かに、抗争になりますな」
ルークが冒険者をやっているとはいえ、彼らの目に映るルークは盗賊王のそれだ。
弱体化した、いや本来はルーク一人になった幻夢の盗賊団と弔い合戦が始まれば、その仲裁のほうがよっぽど公国に行く道より険しくなるだろう。
「竜は倒しても文句は言わん」
「まさかあなた……」
「谷底抜けるときにはしっかり食料まで確保しといてやるよ」
不敵に笑うルーク。
竜殺しの旅の幕開けとなった。
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復讐のネクロマンサー 〜最弱職テイマーと判定されて冒険者を諦めて平和に生きていたけれど使い魔を全部殺されたらネクロマンサーの力に目覚めたので復讐のためにスキルレベルを高めます
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