020 道中
「なぁ……あれ見えたか?」
「いや……いつの間にか剣が移動した」
「なんであれでFランクなんだ?!」
ざわつく隊員たち。
気になっていたのは末端の隊員たちだけではなかった。
「貴方は彼が何者か、知っていたのかしら」
「今の彼はFランク冒険者。それだけです」
第一王女メリリルの問いを大臣リーマスははぐらかす。
大臣クラスであれば彼が元々何者だったかは耳に入っている。確かにこの道中、彼ほど護衛に適した人材はいない。
最もそれは、信用がおける場合にのみ成り立つ話ではあるが。
「さて……犬を増やして道を行くか、飼いきれぬ狼を腹に抱えるか……」
「何を一人でぶつぶつ言ってるのかしら」
「決めるのは姫様ですので」
「わかってるわ。隊長をこうもあっさりあしらったのは驚いたけれど、問題はこの後よ」
第一王女率いる遠征部隊は各拠点から次の拠点までの護衛を任せる中でテストをしている。
護衛を試すためにあえて賊を装い仕掛けることさえある。
危険察知能力はもちろん、指揮能力、対人戦闘能力まで全て含め判断したいメリリルの意向によるものだった。
「にしても、王国には十分戦力がいたと思うんだけどな……」
ルークが呟く。
何しろ自分自身が生け捕りにされる程度には国内に戦力を割く余裕があったはずだと、ルークは考える。
生きたまま捕まえることは非常に難しい。あの時も騎士団長クラスや雇われた超級冒険者たちに昼夜を問わず追われた結果……待てよ?
「そうか。そもそもこの国の戦力ってのは冒険者頼みか……。で、今の状況を考えると……仮想敵は南のアンリス帝国あたりか?」
「なっ……どうしてそう思うのかしら?」
「まずエルモンド商業公国に頼るに至った経緯。位置関係。周辺諸国の情勢。仮にも第一王女だ。頼めば道は使わせるだろうが、それをしないということは何かしら下手に出る必要がある。金の工面だ」
ルークの頭には王国の皮算用と公国の思惑、そして新興国家ながら勢いの止まらないアンリス帝国の戦力など様々な情報が駆け巡っている。
「冒険者は金でしか動かん。上位の冒険者が仮に他国に利用されればおしまいだ。そのために金がいる」
「流石は冒険者。その辺りはよく……」
「で、エルモンド公国への手土産があんたか」
「……」
ルークの視線が真っ直ぐメリリルを捉える。
図星を突かれたメリリルはさっと顔を伏せた。
「ああ、まあ俺の仕事は次の街までの護衛だったな……まずお前、あとお前、面倒だな……そこのもだ、あとは……」
「何をしてるのかしら?」
「今から俺が指名した奴らで王女の周りを固める。隊の指揮もしばらく預かれるんだろ?」
リンドに向けていうと、不服そうにしながらも同意した。
「ならこいつらは王女と俺の近くに居させろ」
「待って。その配置に根拠はあるのかしら?」
メリリルが聞いた理由は興味本位などではない。冷や汗を流しながらそう尋ねた。
なぜなら、ルークが選んだ騎士たちは一人の例外もなく、一人の漏れもなく、これからの道中で工作部隊として動く予定の人間たちだったから……。
「簡単だ」
「簡単?」
「こいつらだけ他の奴らに比べて明らかに緊張感がちげえ」
「それは……」
しくじったという顔をする騎士たちだが、それを責めるのは酷すぎる。
「わかったわ。貴方を認めましょう」
「よろしいのですか?」
「いいわ。貴方が何を隠してるか知らないけれど、ただのFランクではないことは明らかでしょう」
「全く何者なんでしょうな」
愉快そうにリーマスが笑った。
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二周目を主張する美少女に未来で結婚するから今から仲良くしましょうと迫られる
書き溜めなくなったのでここからは超不定期更新の可能性高いです。
単純なので感想もらうとやる気になって書く可能性があがります。
大方針としては書籍化最優先なのでご理解を!
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