019 挨拶
「で、名前とランクは?」
王女メリリルの言葉を受け、ルークが優雅に会釈をした。
その様子はまるで城で貴公子に挨拶されたかのような錯覚を一瞬だけ生み出すほどだった。
だがすぐにルークがその雰囲気を口調と態度で崩壊させる。
「ああ……はじめまして、お姫様。名前はルーク、ランクは……Fだ」
「F!? 誰ですかこんなふざけた人間をよこしたのは!?」
当然ながら姫様は激昂した。
そりゃそうだろう。ランクB以上をわざわざ指定しておいてこれだ。
怒りを鎮めたのは横にいた小さな老人だった。
リーマス=フォン=アルノルド。外交の大臣を任されいる子爵だった。
「姫様……ここはライカの街。ライカといえばギルドマスターシャナハン。王家にも覚えの良いものでございます」
「それがこんなものを寄越したことはどう説明するのかしら?」
「はて……ですが意味もなくこのような真似をすることはないかと」
ルークはシャナハンの根回しを感じ取る。
味方はリーマス。
そして逆に障害になるのはおそらくこの男だ。
「アルノルド様! 私はこのような得体の知れない男を同行させるのは反対します!」
「ふむ……ではお前からシャナハンへ突き返すか? リンド騎士隊長」
「それは……」
今回の遠征に当たり、護衛の任を与えられた新隊長リンド。
本当なら冒険者の手を借りること自体気にくわないといった様子だった。
「いいじゃない。ならリンドを認めさせなければ突き返す。これでどうかしら?」
「ふむ……ですがいくらなんでも騎士隊長の相手をしろというのは……」
「当たり前じゃない。相手はFランクよ? でもせめて、邪魔にならないくらいの力は見せてもらわないと」
「なるほど……ではリンド隊長。程よい相手を2、3名連れてきて、手合わせの様子を見て判断でいかがか?」
「わかりました」
話はまとまりリンドが動き出そうとしたところで、ルークが口を開いた。
「わざわざ隊長に手間をかけさせることはない」
「何を……?」
「隊長というからには少なくとも剣の技術も上位だろう? その相手ができれば文句はないと思うがどうだ?」
「貴様……」
こんな安全な街のお守りだけで何かアピールできるとは思えない。
もちろん王女側で何かしらテストのための仕掛けは施すことは考えられるが、ルークはせっかくの機会を生かすことにした。
「ふふ。面白いわね」
「姫様……面白いかどうかでは……」
「わかってるわよ! でも、言うからにはある程度やるんでしょう?」
「はて……それについては私にはさっぱりでございます」
2人が呑気に話している間に、リンドが剣を抜いて構えていた。
「良かろう。私に一撃でも与えれば良いものとする。この街から次の目的地へ到着するまで、隊もお前に預けよう」
「で、もう良いのか?」
「どこからでもこい。来れるものなら──」
ルークが動くことを目で捉えられたものはいなかった。
「これで良いか?」
「なっ!?」
ただ次の瞬間、ルークの手の中にリンドの剣があり、リンドの手には何もなくなっていた。誰がどう見ても勝負有りだ。
「馬鹿な……一体どうやって……」
「丸腰で一撃とやらを受けるならそうしてくれ」
奪った剣をくるくると弄びながら問いかけるルーク。
悔しさに顔を歪ませながらも、リンドはなんとか言葉を紡いでいた。
「いや……騎士に二言はない……この道中、我が隊はお前の指示に基づき動こう……」
潔くリンドが負けを受け入れたため、ルークは一旦同行者として認められることになった。
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