014 殺すものと奪うもの
「やぁ」
ルークが森に入ってすぐ、先ほどの冒険者、リットが声をかけてくる。
「大型ルーキー、だったかな? 大層なあだ名だねえ?」
明らかに小馬鹿にしたニュアンスをにじませながらリットが絡みにいくが、頑なにルークは相手にしない。
その態度が気に食わなかったリットはルークに掴みかかりながら叫んだ。
「僕を無視するなっ!!!」
「うるせえよ……後ろの姉ちゃんたちも引いてんぞ?」
「んっ……ごほん。失礼。だが……待て! なぜ無視する!」
ルークの行動は一貫している。
時間を奪う相手は無駄なものとして切り捨てているわけだ。
今のルークにとってこんな小物と話す時間より、はやく薬草でも取ってギルドに運び込むことの方がよほど重要、そう言うことだった。
「これは警告だ。あまり調子に乗らないほうがいい」
「……」
「私はね、私より目立つ人間が嫌いだ」
「……」
「だからほら、注目のルーキーとかが現れたらね、毎回こうして警告をしてあげているんだ」
「……」
「その態度は気に食わないが、選ばせてあげよう。私に従うか、私に殺されるか」
その言葉に初めてルークが反応して足を止めた。
「おや? 君も死ぬのは怖いのかい? 良いだろう。大人しく言うことを聞くなら……」
「後ろの女も、そうやって殺したのか?」
「……は?」
お互いの視線が初めて合った瞬間だった。
「いきなり何を言い出すかと思えば……」
「エルフの奴隷の感情を一つ二つ殺してるだろう。それがお前のスキルか」
「一体何を……」
平然を装うリットだが明らかな焦燥が見て取れる。
「何が目的で絡んできたか知らんが、もう関わるな」
それだけ言うとルークは再び歩き始める。
だがリットのほうは止まらなかった。
「そうはいかないねぇ。君は私より目立ちすぎた」
「関わるなら覚悟を見せろ。何もかも奪われて良いなら来い」
「へえ……殺してあげるよ」
動いたのはリットではなく後ろにいた3人のエルフたちだった。
「四対一で勝てるかな?」
「馬鹿だな」
エルフは弓の名手。魔法弓と呼ばれる自らの魔力で作り出した弓矢を引き絞る。エルフの魔力は底無しだ。並みの人間が受ければ一撃で消し飛ぶほどの脅威を今、弓矢に圧縮して放とうとしている。
「待て! なぜ!?」
焦った声を出したのはリットの方だった。
自分の都合いい人形だったはずのエルフたちが、なぜか皆、自分に弓を向けていたからだ。
「何もかも奪われる覚悟でと言った」
「そんな馬鹿な……私は確かにこの奴隷たちの心を……」
「殺した、か?」
その言葉を受け、エルフたちがさらに表情を歪め弓をより強く引き絞った。
「ひっ……一体何を……」
「何もかも、と言っただろ? まずは見えてるお人形を奪ってやっただけだよ」
「まさか! こいつらが私以外の命令など……」
「命令なんざしちゃいねえよ。ただ死んでた心を奪い返しただけだ」
「それで……どうして……どうやって……」
恐怖に顔を歪ませながらリットが呟く。
静かに、一言こう答えた。
「お前を狙ってんのは単純に、お前のことが殺したいほど憎いだけだ」
「やめろ! 嘘だ……! 僕はお前たちを可愛がっぎゃぁぁあああああ」
言い終わる前にエルフの弓がリットの左肩を貫いた。
「やめろ! なんで……やめてく……ぐああああああ」
続けて右腕。
「がはっ……どうし……ぎゅあああああ」
三人目は股間に綺麗に当てていた。あれはもう治らないだろうな……。
「ぐっ……そんな……どうして……」
「言っただろ。すべて奪われる覚悟で来いと……」
「かっ……はぁ……死ぬ……死んでしまう!」
「そうか。あー、本当にろくなもんがねえな、お前の持ち物」
「待て! やめろ! 僕のものに触るな!」
「うるせえ」
「ぎゃぁああああ」
エルフの弓矢が2周目に入る。
荷物を持たされていたエルフも、それを守るそぶりはまるでなかった。
持ち物の中で多少は使えそうなものをいくつか拝借したルークは何も言わず消える。
森にはリットの断末魔が響き渡っていた。
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