013 次善策
「安心しろって。倒しゃしねえからよ」
「いやいやいや! 倒す倒さないの問題じゃないですよ! もしうまくいったとしても、倒さずに盗ってきたりしたら絶対怒るじゃないですか」
「んなもん知ったことかよ。その辺にいんだろ。竜も倒せるとか言ってた野郎どもが」
さっと顔を背ける冒険者たち。
飲みながら語り合ううちにドラゴンキラーを名乗りだすというのは、ある意味Cランク前後の冒険者たちのお決まりでもある。筆頭はベッキャルだった。
「そう言ってた人たちをボコボコにしちゃったからもういないですよ!」
「ちっ……使えねえ奴らだな」
二人ともわりと無茶苦茶なことを言っているのだがツッコミ役は不在だった。いや正確にはツッコミ役に回るリィムの手に余っているのが今の状況だ。
「もう……誰彼構わず殴らないでください……あんなのでも我がギルドの貴重なBランクだったんですから」
「あれでか……?」
「ルークさんに言われてしまえばまぁ、何も言えないんですが……」
ベッキャルがCランク。それを守るための護衛は一応、それより強かったという話だった。ディンゴ兄弟はそれなりに戦闘能力はあったらしい。
実際のレベルは数段落ちることになるだろうが、それでも戦力だったことはそうなんだろう。
「と、いうより! ルークさんはまだ基本的に戦闘はしちゃいけないんです! そのために納品クエストを行っているんですから」
「めんどくせえなあ……」
ルークにとってはドラゴンだろうと一人でなんとかできる相手ではあるんだが、リィムにしてみればちょっと強いルーキーでしかない相手がドラゴンを相手に何かできるとは思ってはいない。
「ま、とにかく竜相手ならいいんだろ? 盗っても」
「普通そんなこと考える人がいないので大丈夫ですけど……色々大丈夫じゃない気もします」
「煮え切らねえやつだなぁ」
「しょうがないじゃないですかっ! 普通はFランクでドラゴンから宝石奪ってこようなんて人いないんですからっ!」
リィムの主張はもっともだった。
そんなリィムの元に助け舟が出される。
「大型ルーキーのルーク、だったか? あまり受付嬢を困らせるのは感心しないな」
「誰だてめぇは」
ルークは現れた男を鋭い目つきで睨みつける。
「もう! ルークさんは誰彼構わず喧嘩をしかけないでください! この人は我がギルドの誇る本物のBランク冒険者、リットですよ!」
「そんな大したものじゃないさ」
涼しげに答えるリットと呼ばれた男は、女性がみれば爽やかで実力も兼ね備えた美貌を持つ貴公子。ただ一方で、同性の者たちには胡散臭い男として嫌われている二面性を持つ男だった。
パーティーメンバーも露出の目立つ美女たちだけで構成されている。
「どうだい? 僕の顔に免じてここは──」
「ドラゴンじゃなきゃいいんだな?」
ひと目見て面倒と判断したルークはこの男との問答は諦めてリィムに向き直る。
無視された形になったリットが一瞬表情を歪めたが、すぐに元の涼し気な表情に戻るとパーティーメンバーを率いて離れていった。
「はあ……やむを得ない場合を除いて戦闘は避けてくれるなら……」
「わかった」
「え? ゴブリンの巣にいったりしないですよね? ゴブリンは一匹なら確かに下位の冒険者でも倒せる相手ですが巣には危険な……」
「わかってるわかってる。まあ見とけ」
リィムの不安をよそに、自信満々のルークがギルドをあとにした。
残された者たちはルークが下手にドラゴンやゴブリンの巣を刺激しないように祈るしかなかった。




