012 常識
冒険者ギルドでは看板娘のリィムと注目ルーキーのルークがなにか言い合っていた。
普通ならリィムが冒険者と口論になれば周囲の冒険者が助けに来るのだが、ルークは現在、ある意味ではディンゴ兄弟やベッキャル以上に関わりたくない存在。
皆一様に見て見ぬ振りを続けていた。
「これ! 盗品じゃないですか?!」
「あぁ? 俺は持って来いって言われたもん持ってきてやっただけだろうが」
ギルドカウンターに並ぶのは品質ごとに仕分けられた薬草たち。
先程まで値札が付いていただろうものであることは明らかだった。
「念のため確認しますが、どこから持ってきたんですか」
「そこのババアの薬屋だよ」
「ダメに決まってるじゃないですかー!」
「くそっ……しけてんなぁ。じゃあ何ならいいんだ?」
「もう……ルークさんはFランクですから、薬草や鉱石を納品するしかランクを上げる方法はありません」
「おいおい……他になんかねえのか? なんでも盗ってくるぞ?」
「盗っちゃダメなんです! もう!」
「お、いいもんあんじゃねえか」
「あっ……いつの間に……?!」
受付嬢リィムの持ってた依頼書はいつの間にかルークの手の中にあった。
その依頼はルークの見立て通り、ランク規制も、そしてその適性としても、ある意味では最も得意なものだった。
選んだのは「宝石類の納品」クエスト。
「ちょっと! 宝石類は確かに無制限納品物ですけど……え、嫌な予感しかしません」
「あ? 別に貴族のおっさんがいくらでもーー」
「ダメですー! 当たり前にダメです!」
「余ってんじゃねえかよ」
ルークの道徳心のなさにリィムが頭を抱える。
「もう……人のものは盗っちゃダメなんですよ。本当にどう育ったらこんな倫理観に育つんですか」
「うるせえな。……ん? おい今なんつった?」
「あれ? 怒りました? それはすみま──」
「ちげえよ。その前だ」
「人のものは盗っちゃダメ……?」
何を当たり前のことを? と首を傾げながらリィムが答える。
「それだ! 人じゃなきゃいいんだな?」
「ええ……あ! もちろん亜人もダメですからね! この国では平等で」
「わかってらぁ! 何人亜人の相手してきたと思ってんだ」
部下の半分以上が亜人だったルークにとっては当たり前の話だった。
「よかった……いやいや、じゃあどうする……え、まさか……?」
「いるじゃねえか。宝石集めが好きな馬鹿みてえにでかい獲物がよ」
宝石集めをする魔物は実は複数存在する。
有名かつ初心者の第一関門になるゴブリンもその一つ。ゴブリンは人や亜人の女を襲う。そのための釣り針として宝石を集めるようになったらしい。
だが、ルークの狙いはそちらではなかった。
「待ってください! ドラゴンの相手でもしにいくつもりですか?!」
ドラゴンと聞いてギルドがざわめき立つ。
それもそうだろう。冒険者の最高峰であるAランク超級の化け物。万が一人に牙を向けば、国家戦力を持って駆逐する必要のある最強の生物の一角。冒険者たちにとっていつか自分もその部隊として戦うことを夢見る一種の憧れでもあった。
ギルドのギリギリを試す元盗賊王




