009 再会
「よぉ。探したぞ? おっさん」
「お前はっ!」
「お前は……」
ベッキャルと伯爵の反応は対照的だった。
息子は因縁の相手を見つけた歓喜と、その記憶を思い返した強い憤りを。
そして父はーー
「お前は……いや……一体なぜ……」
「ああ? てめえのせいで俺が冒険者になれねえって聞いてな」
「まさか……私はそのようなことは……」
「うるせえよ。ギルドの人間がそう言った。現に俺はこうしててめえを探す羽目になった。迷惑はかけるな、そう言っただろう? あのときに」
「だが……そんな……」
「父上? 何を……?」
「黙っていろ! とんでもないことをしてくれたな!!!」
「ひっ……!? どうして!? この男が私を――」
「やはりそうか! 本当にとんでもないことをしでかしおって!」
「え……」
集められていた街の人間たちは呆然としていた。
ただ一人の男が現れただけで、こうも状況がかわるのかと。
あの偉そうにしていた強大な伯爵が、こうも恐怖におののくものかと。
「父上! どういうことです!?」
「お前はもう何もしゃべるな! この方とはわしが――」
「納得できません! この男のせいで私は!」
「黙れと言っておろうが!」
「おいおい。喧嘩は他所でやってくれ。どうするのかだけ聞かせろ」
「ええ……この度はとんでもないご迷惑を……」
震える身体で交渉に入ろうとした父の姿に、ベッキャルの何かが切れた。
「父上がやらぬというなら私が!」
「馬鹿者! やめぬか!」
杖に手をかけるベッキャル。
「この距離で魔法使いと対峙した愚かさを呪え!」
勝ち誇った表情で杖をルークに向けた。確かに通常、ある程度距離があれば有利なのは魔法使いの方ではある。
だが、その杖から魔法が放たれることはなかった。
杖を差し出しておきながら魔法が出る気配がない。その姿は一言で表すなら――
「間抜けだな」
街の人間たちの間にも嘲笑が見てとれた。
「貴様ぁあああああああああああ」
「うるせえよ」
激昂したベッキャルの意思に呼応するように杖が赤黒い光を放つ。勝利を確信したベッキャルが醜く顔を歪める。
だが次の瞬間、ベッキャルの持っていた杖が爆発した。
「は……?」
魔法の暴走で起こる現象ではある。だが通常、その前兆を察すれば魔法使いは杖を手放す。普通はいきなり暴発することなどないわけだ。
だがベッキャルの杖は何の前触れもなく爆発した。ベッキャルはその暴発の影響を直に受けている。
結果、爆発した杖だけでなく、それを握っていた右腕にも目も当てられない被害をもたらした。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ」
「だからうるせえんだよ」
「かはっ!? あっ……あっ!」
「息子に何をっ!?」
「うるせえから声を奪っただけだ」
「なっ?!」
ビンガル伯爵の血の気が引いた。
自分が過去敵に回し、今回息子がまたしても敵に回してしまったこの男は、どれだけ強大な相手だったのだろうかと戦慄したのだ。
「で、どうすんだ? てめえが俺を冒険者とやらにしてくれんのか?」
「すぐに確認いたします! ええと……つかぬことをお伺いしますが、ヴェラゾという男を見ては……」
「あ? ああ、なんかハゲがいたな」
「それは……」
「何もしてねえよ。俺はな」
ビンガルがホット息を吐く。だがすぐに思い出す。目の前の男の恐ろしいところは、本人だけでなくその部下たちの数と、そして質であったと。




