000 司法取引
書籍化作業の裏で温めていた作品です
ホントはもうちょっと書き溜めて連載予定でしたが1万文字くらい書いたので投下し始めます。
「盗賊王ルーク=ディ=バルド。その者を部下三千の身柄と引き換えに自由の身とする!」
王国の法を司る大臣が直々に判決を読み上げる。
この決定に至るまで、大いに議論が繰り返されたが、国の上層部にとって、ルーク一人よりもその他三千人を捕まえるほうが困難に写っての結論だった。
ルークが作った大盗賊団。その被害額はここ一年の働きだけで貴族が大小十数家つぶれ、国庫にまで影響を及ぼす始末だった。かと思えば盗賊団は国民に嫌われているわけでもなく、あろうことか英雄視されているものまでいる。今からその三千の部下を捕らえるとなれば、国民の相手も含めて相当な労力が必要だ。そしてその三千のすべてが、今後も多くの被害を生み出すことも想像に難くなかった。
一方でルークもまた、部下の三千は盗み返せばいいくらいにしか考えていない。ニヤニヤと話を聞くだけだった。
「盗賊団なんぞ野蛮な集団の頭を張っていたところで、そんなもの、これからの道に何の意味もない!」
ルークの様子を気に入らなかった周囲にいた貴族の一人が、そんな声を上げる。
それを聞いてルークは不適に笑い、こう答えた。
「ごもっともで」
「ふん、良いザマだな。これから何もかも失う」
「シーフなど、そのような底辺の役割で仕事が来ると思わんことだ」
「表の世界は甘くないからな」
声を上げるのは大臣クラスではないがここに呼ばれるだけの貴族たち。すでにルークの盗賊団の被害を直接的にも間接的にも受けているものたちだった。家が潰れなかったのはもともとの蓄えの差でしかない。
彼らとっては頭の痛い問題だっただろう。
「本当に良いのだな……? お主の功績を考えれば……」
「ああ? 良い、良い。というより、お前がそんな事言いだすな。何事かと思われんだろうが」
「ああ、すまないな」
「ほんとに……気が良すぎるのも困りものだな」
唯一申し訳無さそうにルークに声をかけた人間こそ、この国の王であった。二人の間には奇妙な友情のようなものすら垣間見える。
なにはともあれ今日、世間を賑わせ続けた盗賊王ルーク=ディ=バルドは盗賊を引退した。
野放しにするのを嫌った大臣たちの嫌がらせとして、ルークの次の職は決められていた。
「冒険者だったか……あれをやればいいんだったな?」
稀代の天才盗賊として間違いなく歴史に名を刻んだ男の、第二の人生の幕開けだった。
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