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08 (初ダイブ)

 翌日の朝、ナオ(オレ)はスーパーのカゴを持ってゴミ収集所まで行き、置いてくる。

 その帰りに1階のタベルナで朝食を食べに行く…。

 夜は部屋で済ませる事が多いが、朝は基本タベルナだ。

 内装は大量の自動販売機が 部屋の4分の1を占め、席数が120席はあり、皆は自販機で売っている物か、カウンターで学生のアルバイトとドラムが作っている、ある程度決まった日替わりセットの数種類から選ぶ事になる。

 オレは 軽めの時は自販機で おにぎりやパンを…がっつり行きたい時には日替わりセットを頼む事が多い。

 が、実際には おにぎりやパン率が高く、しかも部屋を出るのが割とギリギリに出るので、登校しながらの食べ歩きする事が多い。

 旧時代では 珍しいこんな光景もここなら割と普通な光景で、数は少ないものの食べている人を見ない日はない。

 今日のオレのメニューは 日替わりセットでご飯、焼き鮭、コーンスローのサラダのシンプルメニューにして、納豆と生卵は自販機で購入する。

 納豆に卵と日本食があり『腐った豆』と言われて外国人に人気が無かった納豆が、自販機の棚を見ると ここでは それなりに売れている。

 580年立っているのに食事の見た目は変わらず、あまり進んでないみたいだ。

 ただ…生卵が若干じゃっかん変わっていた。

 色は白いが、卵型のカプセルになっていて 右と左がキャップで繋がり、その部分だけビニールテープで包装されている。

 多分この都市に家畜はいなくて、これは人工的に再現したものなんだろう。

 オレは ビリビリとテープをがし、真ん中に力を入れると すぐにカプセルが開き、形のい卵がご飯の上に落ちる。

 テーブルに置いてある調味料から醤油を取り出し、ご飯にかけて食べる。

 味は昔の味を完璧に再現していて、むしろこれは高級な部類に入るい卵ではないだろうか?

 食が進み、焼き鮭と一緒に半分程 食べて 納豆を投入し、余った鮭を入れ食べる。

 食べ終わったら食器はカウンター横の返却口に返し、その隣のゴミ箱に納豆の容器と卵のケース()を捨てる。


 食事の終わったオレは、その後3階にある自分のポストに向かう。

 1階に600もの集合住宅用のポストを設置してもスペースを取るだけで無駄だし、そもそも紙媒体の手紙が趣向品扱(しゅこうひんあつか)いで、基本手紙はデータで送られて来るので、そもそも使われる事自体が少ない。

 手紙を送る際も、送られる側は日常的にポストなんて確認しないから『手紙を送りました。』とメールを出す事になり『直接メールで送れよ』と突っ込まれる事になる。

 ただ、本人がいない時の小物の受け渡しなどに便利なのと、旧時代からの慣習もあり、まだ存在している。

 オレが初めて自分のポストを開けて中を見ると、端子の先が太い磁石がついていて、その後ろには細いコードが繋がっているケーブルがある。

 ケーブルは丁寧にまとめられ、ご丁寧に真空包装まで されている。

 包装には 2つのQRコードの様な シールが貼られており、オレが目線を合わせると情報が表示され、上のシールがケーブル名や品質、取り扱い方法などのデータ、下のシールには『カンザキ・ナオトを私の友人として歓迎する。友人の証としてこれを贈呈(ぞうてい)する』と書かれている。

 よく見て見るとこのQRコードは上のシールとは明らかに違うインクが使われていて、多分手書きだ。

「うわぁ手書きでQRコード作れるんだ…。」

 『手書きだと心がこもる』とか聞いて実践してみたのだろうか?

 QRコードだとクオリアの無機質な感情が ひしひしと伝わってくる。

 これも別の意味での個性なのか…。

 ともかくクオリアが オレを友人カテゴリーに入れてくれるのは ありがたい。


 さて、午前はVRの訓練だ。

 準備は簡単で 先ほどのケーブルを首の後ろに接続し、もう片方の端子をモバイル エレクトニック コンピューター…メックに繋いで中継させるだけだ。

 ナオ(オレ)はベッドの上で寝っ転がり、天井を見上げる。

 そして少し考えて昨日下のスーパーで買ってきた画用紙とマジックペンを出し『真實世界(現実世界)』と縦書きで書いて天井に張り付けた。

 気休め位にしかならないが、これで この部屋に似たVR空間に連れていかれても分かる事が出来る…。

 再度ベットに横になり天井を見上げ、ARウインドウでVRアプリを立ち上げ「フルダイブ」と(つぶや)き、仮想空間にダイブする。


 天気は快晴で気温は25度…。

 この都市は 3ヵ月ごとに季節が変わり、その度にゆっくりと気温が変わるのだが、今は3月から6月の間なので季節としては『春』になる。

 気温は20℃前後で、それからすれば この気温は少し高い。

 周りは森で 無理やり木を切り開いた舗装(ほそう)されていない道路があり、森が綺麗な円状に開けている…。

「気化爆弾でも落としたのか?…それにしてはデカい」

 Tシャツにトランクスと言うまるっきり初期装備の状態でナオ(オレ)はのんきに考える。

 昔、森に訓練施設を作るのに いちいち木を切り倒すのが面倒くさくなった、とある軍隊が気化爆弾を落として更地(さらち)にしたと言う話を聞いた事がある。

 そしてその中あるのは、擬装網(ぎそうもう)が かけられた大型テントに丸太をかき集めて作ったアスレチック…とは言っても遊ぶものではなく、軍事訓練で使うハードなやつだ。

 それが円状に配置されていて、道を示すように そこだけ草が取り除かれた地面…真ん中には人型の的があり、ガンケースと弾薬箱が置いてある。

「どこぞの軍隊だ?こんな訓練キャンプを作ったの」

 そう、この光景を一言で表すなら『訓練キャンプ』だ。

 実際はこれもVRなのだが、VRと現実の区別がつかないオレは どっかのクリエーターが作った このキャンプを思わず軍隊が作ったと錯覚してしまう。

「思いのほかリアルだな」

 森の香りに草に匂いに土の臭い、それらが入り混じって地面を良く見てみると昆虫サイズの虫もいる…さすがに微生物まではいないだろうが…。

「これは騙されるな…。」

 オレは 2本指でL字を描き ウィンドウを表示させ服を選びタッチする。

 すると、量子光がオレの目の前に現れ、緑色のパイロットスーツになる。

 首部分から腰部分まで線ファスナーがあるツナギ型で、全体の色は緑色で所々に黒のラインが入っている。

 腰にはカラビナが2つに、6発式のリボルバーがホルスターに入って ベルトにぶら下がっている。

 そして このスーツの背中には 背骨がついていて、重量物を持ち上げる際の負担を減らしてくれる。

 『トニー王国製 宇宙規格強化服』を着たオレは アスレチックのstartラインについて走り出す。

 強化服と言われるだけあって、楽に登れるし楽に走れる。

 全身に人工筋肉を編み込んだ強化服は、身体の筋電を感知し、サポートする。

 超人的な性能は出ないものの、50kmの荷物を楽々持てたり、100㎏の物を一人で何とか持てるようになるなど、過酷な訓練で身体を鍛えるより、工業技術でそれを補う『手を抜く事には手を抜かない』トニー王国らしい装備だ。

 ここでの訓練キャンプの目的は身体を鍛える事ではなく、個々に微妙に違う脳の運動情報をアバターに反映させる為、機械学習によって脳とVR機器の互換プログラムを作る事だ。

 アバターは 人から得られる少ない運動情報で、周りの状況も見つつ 学習して『気を利かせてくれる』。

 これが完璧に思った通りに動くようになったら ここは卒業だ。

 普通なら大体1時間から2時間程かかるらしいのだが、リハビリ中に数日にかけて行った義体の学習データが 生きていて現実世界のように動ける。

 オレは しばらく走ったのち 指でL字を描きARウィンドウを出し、ログアウトボタンを押し、オレの平衡感覚が後ろに倒れる感覚を伝えた。


 そして、ナオ(オレ)はベッドの上に寝ていた。

 天井には 先ほど書いた『真實世界(現実世界)』の画用紙が張り付けれており、ちゃんと戻った事を証明していくれる。

 ARウィンドウの時間を見ると、ちょうど11:00時となっていた…。

 ダイブした時は 9:00からだったので、2時間程だろう。

 オレは起き上がり、首のケーブルを引き抜く。

 ダイブ中に接続端子が首を圧迫していたのか首が若干(じゃっかん)痛い…ドーナツ型のクッションを使えば解決できるか?

「あっ…パブリックスペースの住所(アドレス)を聞いてないな。」

 12:00に集合とは聞いていたが…パブリックスペースのアドレスは聞いてない。

 オレは ARウィンドウを表示しトヨカズにメールを送る。

 帰ってきた返信は『クオリアにガイドを頼むつもりだった…11:45分にクオリアに向かえに行ってもらう』だった…。

「いや、アドレスを教えろよ…サプライズのつもりか?」

 何を企んでいるか分からないが、サプライズなら聞き出さない方が良いか?

 どっちにしろ後45分でクオリアが迎えに来るんだ…それまではゆっくりしよう。

 オレはそう思いARウィンドウを開き、ネットサーフィンを始めた。

 インターネットの仕組みが だいぶ変わっている為、早く慣れないとな…。

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