15 (蓮の花)
「レン…いるか?」
トヨカズがオレの店…『ノスタルジア』のスライドドアを開けてレンを呼ぶ。
「だからロータスですって…。
もう、いい加減慣れましたけど…。」
「お客さんからも『レンちゃん』って呼ばれてるじゃないか…何でオレだけ…。」
「そりゃカズさんが そう呼んでいるから定着しちゃったんでしょう…。」
受付の席に座ってARウィンドウを広げ、黙々と宿題をやっている女性だ。
「宿題やってたのか…。」
「あーマズかったですか?」
レンが バツが悪そうにオレに言う。
「いんや…店番してくれれば 基本自由にして構わねぇ」
オレがレンの目の前のカウンター席に付く…。
前の店長のおやっさんが良く お客さんと長話をする為に設置した椅子だ。
「それにしても、直接来るお客って少ないですよね…。
殆ど、ネットからの注文ですし…注文品を送ったら、かなり暇になるんですから…。」
ここの仕事は もう製造していない昔のレトロ商品を3Dプリンターで再現して売る仕事がメインで、他には都市間の軽い貿易もしている。
都市内の生産施設には限りがある為、新しいパーツの生産ラインが整うと、古いパーツは生産停止する事になる…そして このペースが結構早い。
そうなると新規格と旧規格での互換性に悩まされる事になり、最終的にはオレの店に頼る事になる。
「そんかし…常連客が来ると長いだろう…。」
「あっ…たまにありますね。
30分位、濃い話してく人…。」
「それそれ…そんな客がいるから、その分野に詳しくてコミュ力が高い奴に任せないと行けないのな…。」
ニューアキバは マニアックなオタクが良く利用するので、必然的に多くの知識を求められる。
その点、レンは色々と腐っていて こう言う仕事には 適任だ。
「なら、店頭販売をやめて、ネットオンリーに すればどうです?
そちらの方が 効率良いでしょ…。」
レンが言う。
「いや…まあ そうなんだが…それは 遠まわしに『私をクビにして下さい』って言ってるのか?」
「いえいえいえ…店長には 大変お世話になっております…はい~ぃ。」
レンがクビをぶんぶんと引きちぎれる勢いで振る。
「ははは…まあ効率を考えるなら、それが良いんだが…。
オレも昔おやっさんに言った事があってな…。」
「おやっさん…引退した元店長ですね…。
その方の方針なのですか?」
「ああ…おやっさんは『効率が良けりゃ価値があるって訳じゃない…。
俺は 非効率でレトロな、そんな この都市が気に入って移住したんだから』だってさ。
効率で考えれば それこそ、天尊の一強だろ。
だからこそ、昔ながらのレトロが価値を産むわけさ…。」
それが 太陽系内でコロニー向けに荷物を送る宇宙トラックドライバーをしていたおやっさんの出した答えだ。
「売上は伸びませんけどね…。」
レンが笑いながら言う。
「これでも、おやっさんの頃に比べて随分効率は上がったんだけどな…。
おやっさんの時は ネット販売すらしてなかったし…。」
おやっさんが運営していた時は、客が直接店頭に足を運び、会話を楽しみつつ、商品を渡していた…と言うより、電子化しない事で 強制的に客を店頭まで来させていた。
だが、オレはこっちに構っきりに出来ないので、かなりの部分を電子化する方針に切り替えた。
ただ…おやっさんの方針を組んで ネット注文でもオレが作ったAIが音声対話で接客をしてくれるようにして、あえて不便さを取り入れている。
今はネット面ではオレが、商品などの物理系をレンに任せている。
「それで…珍しくカズさんが ここに来たのは お喋りする為ですか?」
「ああ…そうだ…今までのは 前置きな…はいこれ…。」
オレがレンに渡したのは、記録用キューブだった。
「業務データですか?
いつもは ネット経由なのに珍しいですね…。」
「いんや…この店のすべてのデータだ。
オレは1ヵ月位、学園都市を離れる。
で、オレが死んじまったらカズナが この店を相続するんだが、今回は カズナも一緒に行くからな…。
てな訳で、オレとカズナが死んだ場合 レンがこの店を相続するようにする事になるようにして置いた。
店さえ守ってくれれば 後は好きにして良い…。
それこそネットオンリーにして効率良くしてもな…。」
オレが笑ってレンに言う。
「ちょ…入社1ヵ月のアルバイターに何押し付けてるんですか!?」
レンが青ざめ、ガクガク震えながら言う。
「別に信用出来る人になら、売っていいし…金額が少ないとはいえ、殆ど不労所得だ。
レンの腕ならドラムに任せれば、問題無く運営出来るだろう。」
「そうですけど…。
でも…他に大切な人はいないのですか?
何も私にしなくても…。」
「ネット上での友達は それなりにいるんだが…。
『リアルで顔を合わせてて』『スキルがあって信用できる』人はいない…。
元カノ達に任せる訳も行かないし、ネットに依存していると こう言う時に困るんだよな…おやっさんがリアルを重視するのも今なら分かる気がする。
という訳で社長命令な…よろしく」
オレが店を出ようとする。
「はあ…あの…帰って来ますよね…。」
心配そうな声でレンが オレを呼び止める…。
オレは 少し考え「ああ…一応連絡は取れるし…なあに、1ヵ月程、クルージングして来るだけさ」
オレは少し笑いながら店を出て行った。
「まったく…こっちが知らないと思って…。」
カズさんが店を去った後、また宿題に取り組みつつ、ロータスが愚痴る。
レンは ネットネームで、狙撃手のカズさんに敵を近寄らせない為の少し強気な突撃兵…。
兵科上、後方にいるカズさんと一緒に戦う事は無いが、カズさんとカズナと一緒に 結構パーティを組んでいる友人…。
リアルでは ネット世界に引き籠る…カズさんの元クラスメートで、他の生徒には 名前も覚えて貰えない影の薄い存在。
そんな私が企業面接に合格する事も出来ず、卒業と同時にあえなくニート…。
生活保障金で生きられるので それからは ネットが私の現実となり、私はレンとして生きていた…。
ワーム侵攻事件時も 数ブロック先がワームとの戦闘でリアルで破壊されているにも関わらず、『DLマスターズ』でDLを狩っていた…ツワモノだ。
ただ色々と課金しまうレンは、私の家計を苦しめ、資金不足に陥ってしまい…。
そこで バイトと行きたい所だが、そう出来れば ニートには ならない。
なら、RMTに手を染めようかと言う所でカズさんの店にスカウトされた。
最初は カズさんの評判から風俗業かと勘違いしたが、仕事は店の在庫の出し入れと客への対面接客だった。
接客何てもっての外だと思っていたが カズさんが「レンとして振る舞えれば大丈夫」と無理やり強行…。
出社当日に緊張で 胃が痛くなり、医療用マイクロマシンに警告される中、初めての客が濃い話をするので盛り上がってしまい…結局3時間も話してしまった。
それ以降は レンの強気が乗り移ったのか ちゃんと話せるようになり、今では 接客はむしろ楽しい。
公式には まだ発表されていないけど カズさん が、またワームと戦う事も、今回の作戦は半分のDLが撃墜される想定だと言う事も分かっている。
それでも陽気に振る舞う彼を止める事は出来なかった。
私に出来る事は…カズさんが存分に力を振るえるように、仕事を順調に進める事…。
カズさんが 帰って来た時に 客が来なくなっていたら問題だ。
スライドドアが開き、客がやってくる
「いらっしゃいませ~」
陽気な顔で元気よく、少し強気で私は 客を迎えた。




