10 (生まれたての子は立てない)〇
翌日の早朝…パイロットスーツの姿のナオとクオリアは 砦学園都市の中心にある地上へのエレベーターに乗り、地上の格納庫まで上がる…。
そこから オレ達は エアトラS2に乗らず、日が沈んだ 暗闇の空を 走って砦研究都市に向かう。
学園都市から研究都市までは おおよそ100kmなので狂気の沙汰に感じるが、今のオレ達には それほどキツイ程でも無い。
機械翼とフライトユニットを装備した2人が 雪解けの地面を走る。
オレは 地面を思いっきり蹴り上げ、滑空時間を長く取りつつ進む…。
速度は 時速50km…この分だと3時間もあれば普通に着くだろう…。
『上手いな…この一週間で無理が無くなったように見える。』
忍者走りのオレと超低空飛行で並走しているクオリアが言う。
『そうか?…確かにこれ位なら もう体感時間が長くなる事は無いが…。』
気温が上がって短い春になり、雪が融けて地面がぬかるんでいるので足を取られそうになるが、接地圧も含めて管理しているので問題無い…。
『もう、空を飛べると思うのだが…練習はしているのか?』
『ああ…先週始めた。
身体の運動エネルギーの把握が難しくってAIにアプリを組んでもらってる…。
空間ハッキングのスキルチップって無いからな…。
最適化には まだ時間が かかるだろうな…。』
今 無理なく使えるのは 足の運動エネルギーを変える事位で、オレが飛ぶようなジャンプをしているのも それによる物だ。
『運動エネルギーを操れれば、前に進むのは簡単だ。
動きに合わせてコードを流せばいい。』
『簡単に言ってくれるよな…。』
オレは 少し遅くなっている速度を上げ、クオリアに追いつく。
砦研究都市…。
外観は 学園都市と変わらず 地上には倉庫だけ…。
だが、ワームの侵攻があった事もあり、DL1個小隊が常時警備をしている。
『はい?』
エアトラS2で来ると思っていた兵士は 空では無く地上から物凄いスピードで走ってくるヒト達を見つける。
『発見…多分本人…確認に入ります。』
『止まりなさい…砦研究都市警備部の者です。
我々は、部外者が許可なく都市に入る事を禁じています。』
ナオが速度を緩め…クオリアは空中で停止して体勢を直し、ゆっくりと地面に足を付ける。
「今日から 1週間 労働者として滞在する クオリアとナオです。
事前手続きは終わっているので…照会をお願いします。」
小さなクオリアが 4.5mの黒鋼を見上げ、少し大きな声で言う。
『連絡は来ています。
許可証の提示をお願いします。』
ナオとクオリアは ARウィンドウで許可証を開き、拡大してDLに見せる。
『確認しました…砦研究都市は あなた達を歓迎します。』
「どーも」
こちらに銃を向けていた黒鋼が 構えを解く…。
周囲から仲間のDLが集まり、オレ達は DLの肩に乗せられ、倉庫内に入った。
さて、エレベータで地下に降り、銃の持ち込み申請や入国手続きを済ませ、バスタクの迎えでナオ達は 研究所まで向かう。
「へえ…都市の雰囲気は 学園都市に近いか…」
バスタクの窓から外の景色を見てオレが言う。
ただ1層の天井が低く、ビルが柱のように立っていて、空は見えるが 日当たりが悪い。
街灯が無ければ 相当 暗く見えるだろう…。
デザイン自体は 常に夜の学園都市の2層に近い。
「構造材も同じだし、ライフラインをすべて20kmのドームに収めるから、似たようになる。
学園都市と違うのは 流通倉庫と核融合炉は2層だが、それ以外はすべて1層にある。
だから、効率重視の学園都市の2層のようデザインになるんだ。」
「まあ…空が有るだけましか…。」
オレは空を見る…そろそろ昼か?
ARの時計を見ると11:45分になっていた。
研究室が体育館と表現したが、DLが走れる位のスペースを食うグラウンドもあり、その横に建てられているのが、研究棟とまさに学校風の建物だ。
建物のサイズは 学園都市の寮位で、この都市の基準としては高さが 低い方なのでは ないだろうか?
グラウンドの端には 計測機材が机の上に設置された業務用のテントがあり、真ん中には DLも待機している。
ファントムの姿は 見えない。
門の前でオレ達が バスタクから降りると、テントからツヴァインがやって来た。
「よく来てくれました。」
「早速ですが、データは見れますか?
特に操作系…。」
オレは挨拶を抜きにして、いきなり本題に移る。
「はい…こちらにどうぞ…。」
オレ達は テントに入り、パイプ椅子に座る。
長机には ファントムのキューブがあり、ケーブルが差さっている。
「さてと…どうなってるかな…。」
多少ワクワクしつつ ARウィンドウを開き、キューブの中身にアクセス…一覧で表示する。
「何だ、この『スパゲティーコード』!!」
映し出されるプログラムを見て…すぐに理解する。
スパゲティーコードだ。
作るプログラムが 壊滅的なまでに汚く、システムを無計画に増設しまくり、カオスな状態になっている…。
これだとバグの発生確率は 各段に上がるし、修正もしにくい…と言うか、場当たり的にバグを修正して増設したせいで、システムを組み合わせた時に 連鎖的なバグが発生したのだろう…。
よくこれで動けたな…。
「専門家は いないのか?」
オレがツヴァインに聞く。
「と言うより、時間が無かったと言った方が正しいです。
何せ、砦祭から1週間不眠不休で作っていて、しかも、全く新しい物を基礎から作っていますから、今までのモジュールデータが使えず 難航しています。」
ツヴァインが言う。
「なるほど…既存の物ならAIが組み合わせて くれるからな…。」
今の時代、プログラマーは いらず、過去の先人達が作った莫大な モジュールをAIが選んで組み合わせて形にする。
ただ、今回は全く新しい物を作ろうとしている為、それが出来ない。
しかも今までAI頼りだった事で、プログラマーの技術も落ちているのだろう…。
1週間しか無かったとは言え、この突貫作業はヒドイ…こりゃ難解だ。
「まずは、仕様書を見て解析かな。
クオリアも手伝ってくれるよな…。」
オレはプログラムを高速で流し見しているクオリアに聞く。
「ああ…勿論…指示を出してくれればやる。
だが難易度が高そうだな…。」
「分かった…じゃあ取り掛かりますか…。」
ARのウィンドウを開き、アイテムボックスからジュースとブリトーを出し、食べながらチェックを始めた。
「ああ…ここ、AIに バグだと指摘されて従ったせいか…。」
「デバックAIが前例が無い為、対応しきれ無かったのだろう」
まずは モジュール事に分割し、動作の確認…。
ちゃんと仕様書通りに データを吐いているが、このプログラムの中に何かしらの問題があり、別のモジュールと繋がると 偶然 何かしらのバグを起こす仕組みになっている。
まずは それを特定…。
天井ディスプレイが、夕方になる午後6時頃に作業が終了…。
始めてから6時間で 大きなバグは すべて潰せた。
後は並行して クオリアが学習させていたAIが細かな部分を指摘してくれる。
AIによる自動修正が使えないのが痛いが…如何にかなるだろう。
さて、その日の夜8時に デバックが終了…。
無駄な処理を減らす為の最適化処理は 学習させたAIに任せてオレ達は宿に行く。
宿は 研究棟の一室…如何やら研究者の為の寮も兼ねているらしく、食堂や、娯楽施設、大浴場と一式そろっている。
仕事が終わったら速攻で寝に行けるのは ある意味で合理的だ。
研究員用の2段ベットが 両壁1台ずつの4人部屋だ。
オレ達は 4人部屋を借り、部屋に入ると早速作業を再開…オレは 新しいDLにハマり、クオリアは黙々と作業をこなしている。
結局、2人は窓から日が差し始めるまで続け、オレが慌てて クオリアに頼んで加速させて貰い 8時間の休憩を取った。
1時間後の午前7時に起床…食事をそこそこに グラウンドのテントに向かう。
機材は 昨日のまま、ファントムのキューブは研究所の金庫に仕舞われていて、ツヴァインが持って来てくれた。
さて2日目は、昨日の夜(今日の朝?)に作ったインターフェイス機能とオプション設定の項目だ。
直接コマンドで入力していた操作をDLのインターフェイスをベースに追加する事で 扱い易くした。
そして 出来たモジュールの仕様書を更新し、キューブの中のデータを書き換える。
ファントムをキューブから召喚…駐機姿勢状態のファントムが出来上がる。
ナオが 装甲に足をかけ、コックピットに上り、ハッチを開けて中に入る。
コックピットレイアウトは とりあえずDLの物を採用。
ただしコントローラーは マウス型では無く、オレの好みで旧時代のスティック型に変えている。
オレの個人データの入ったUSBメモリを挿し、回して折り畳む。
機体が動き出し、各種データを参照…自己診断では問題無し…。
グラウンドでは 真ん中に駐機していた黒鋼も起動し、不測の事態に備えて待機している。
「よし…動ける。
クオリア…観測を頼む。」
『観測機の正常稼働を確認、モニタリング正常…第一回試験を開始して下さい。』
記録係のクオリアがそう言い、オレがファントムを駐機姿勢状態から立ち上がらせようとするが、予想外の感覚にバランスを崩して すっ転び、砂が舞い上がる。
「あたた…報告、パイロットは無事、だが ダイレクトリンクシステムの感覚誤差が酷くて使い物にならない。」
オレは すぐに原因を特定して報告する。
『観測班、了解…機体の運動データが ロクに入っていないのが問題だと思われます。
試験続行、機体を動かして動作を学習させて下さい。』
「そうか…DLでの運動システムも使えないのか…。
となると学習させるのに1日は 掛かるな…。
パイロット了解…それと 歩行器を要請する。」
『観測班、要請を了解、準備させます。』
原初のDL…人の手で造られ産み落とされた5mの大型二足重機のDLは、始めは歩く事さえ出来なかった。
DLに搭載されているコンピューターはニューロ型で ノイマン型と比べ小型化し易く、処理能力が早く 柔軟性があるのが特徴であったが、プログラムの難易度が桁違いに難しい…。
それをコンピューターが誕生して間もない1940年の時期にやるなんて、つくづくトニー王国は滅茶苦茶な事をやる。
そして その対策として コンピューターその物に自己学習させるプログラム開発し、機械が感覚器官から得た学習データを元に 人がプログラムを選別し、最適化していく『品種改良』方式が採用された。
それに使われたのが『ディープラーニング』だ。
実際に機体の身体を動かし、機体に操作方法を覚えさせる地道な方式…。
ナオが乗るファントムは グラウンドを匍匐前進し始める…原初のDLも匍匐前進から始めた。
1時間、匍匐前進でグラウンドを周り、次は四つ足での『ハイハイ』で1時間…。
次の1時間は DLサイズの大型歩行器に掴まり、歩き出す…。
その次は 手を伸ばしてバランスを取りながらのゾンビ歩きで 1時間。
通常歩行が1時間、通常走り1時間、武装装備で走り1時間、戦闘機動1時間の計8時間…。
8時間を超えた頃には 感覚も同期され、逆にオレ側がファントムに合わせた事で変な感覚が身に付いていた。
原初のDLは これを複数機で1ヵ月かけて学習させ造った。
機体が『匍匐前進』や『ハイハイ』をする度に、機体の装甲がボロボロになり、その度にメンテナンスする為、大仕事だったそうだ。
それに比べ、装甲にダメージが入らない この機体は気楽でいい。
「ふう…テスト項目終了…。」
『観測班、了解、駐機姿勢で待機せよ』
「了解…。」
ファントムが、テントの前まで行き、駐機姿勢で待機する。
『テストを終了します…お疲れ様…。』
「ああ…お疲れ」
USBメモリ型の鍵を抜き、待機電源状態の機体のハッチを開け、外に出る。
「あー疲れた。」
オレは 肩こりや首こりなんて起こる訳ないのに肩を回す。
「お疲れ…機体の感想は?」
クオリアがARウィンドウを開いている多分テストの記録だ。
「8時間ぶっ通しでも、難なく使えるのは良い。
最後まで ステータスグリーンだったしな…。」
「こちらからもダメージは観測していない。
装甲強度は 保証しても良いだろう。
何か問題点は無かっただろうか?」
クオリアがオレに聞く。
「使い心地が悪いのは確か、最後はこっちが合わせてたし、でもこれは学習で如何にかなるレベルだ…問題なのは QEの残量の問題が大きい。」
「確かに処理能力の大半を運動で使っていたな。」
この機体は エネルギーと機体制御を演算に頼っている為、演算機構が壊れたり、装甲や接合部分に処理が回せないと自壊してしまう。
なので 今までのDLよりエネルギー配分がシビアになる。
「これも単純に処理能力が上がれば解決するんだろうけど…一度切り詰めたい。
それと 武器への電力供給が出来ないのが 致命傷だ。
ボックスライフルが撃てないなら、そもそも作戦に投入出来ない。」
「そっちは 現状…AQBを銃側に取り付けているAQBライフルしか無いだろう。
電力供給の機構は 後々詰めるとして まずは戦闘機動の信頼性の確保が先だ。」
「だろうな…。」
武装の前に機体の問題が多い…。
とは言え、通常ならパーツ製造工場から製造しないと行けないDLに対して、中身のプログラムを弄るだけで解決出来るファントムは やり易い…。
如何にか期日までには 形になるだろう。
空が赤く染まる夕方になり、変えた仕様の確認と今後の機体仕様について研究員と相談する事になった。




