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14 (地球は青かった、だが神はいなかった)

 ナオ(オレ)達は 機内に入り、後部ハッチが閉じる

 中には窓の類は一切なく、コックピットのキャノピーすら装甲で(おおわ)われている。

 機長席、副操縦士席の後ろには、長さ50cmに拡大した単1乾電池が それぞれ3本…計6本。

 乾電池にはA(アトム・)Q(クアンタム・)B(バッテリー)と書いてあり、これがエレクトロン製の永久機関だ。

 それが 丈夫そうな電池ボックスに入れられている。

「何でこのデザインなんだ?」

 永久機関ならもっとSFチックなデザインがあるだろう。

「使い方を直観的で分かり易くする為だ。

 実際、内部は かなり複雑なんだが、使用者は+極と-極を繋ぐだけでいい…。

 つまり使う相手は 高度な技術が必要なく『大出力の直流電源』を扱える技術さえあれば 使えるんだ。」

 クオリアが電池ボックスに(ふた)をし、酸素ボンベを機長席横に取り付けシートに座る…。

 ナオ(オレ)は クオリアの後ろの席に軽く座る…。

 シートには ゼリー状の物質が入っていて、オレの身体に合わせて形を変え 隙間なく埋まる。

「ボンベは横だ…そのままだと 加速時に背中に負担がかかるぞ」

 前からクオリアの声が聞こえる。

「分かっている」

 オレは 席の横にボンベを置きベルトで固定する…ホースは ヘルメットに繋がったままだ。

 椅子には足の高さを自動で調節する『足掛け』が取り付けられていて、足の部分はスリッパのような袋の形状になっている。

 袋に足を入れ、座る…多分加速時に強制的に耐G姿勢にする為だ。

 5点ロックのシートベルトを閉め終わると、足掛けが最適な位置に上がり調節される。

 トヨカズとレナは ジガのレクチャーを受けつつ座る。

 進行方向左側がオレとトヨカズで、レナとロウは右側だ。

 レナが ロウのシートベルトを閉める。

 ロウは 身体が小さいので ジガが席を調整する。

「これでよし」

「うぅ~」

 ロウは不機嫌に(うな)る…動き回れない事が不満なんだろう。

『アテンション…ご清聴願います。』

 機内アナウンスでコパイが喋る。

『エアトラS2にご搭乗頂きありがとうございます。

 私は副操縦士(コー・パイロット)のコパイです…機長は…』

『クオリアです…ご搭乗ありがとうございます。』

 クオリアが やれやれといった感じで コパイに付き合う。

『本機は 出発後、限界高度まで上がり、その後ブースターで加速…高度100kmまで行きます。

 その後、しばらくの無重力と地球の景色をお楽しみ頂きながら数周周り、降下…目的地は『エクスマキナ都市』から10km離れた空港です。

 予想MAXGは6Gと想定されます。』

「6Gか…。」

 訓練の受けていない生身の人間での限界が3G…DLも最大で3G位しかかからない。

『ご心配いりません…皆様の着ているパイロットスーツは耐G仕様です。

 更に専用の座席もありますので、快適とまでは 行かないまでも十分行けます。』

「コパイ…そろそろ出発して良いだろうか?」

『コピー…では 限界高度に行く間、快適な空の旅を…。』

「コパイ最終ステータス確認…」

『オールグリーンA-OK…出発準備完了…。』

「よし、I'S(アイズ) have(ハブ) control(コントロール)…私が操縦する。」

You's(ユーズ) have(ハブ) control(コントロール)…機長に操縦を譲渡(じょうと)します。』

「エンジン始動…ARキャノピー表示…」

『コピー』

「「おおお」」

 エアトラS2の装甲が透けて外が見え、オレ達は驚く…。

「ARなのか?」

「みたいだな」

 隣の席に座るトヨカズが言い、エアトラS2がゆっくりと垂直離陸して高度を上げて行く…。

 高度を稼いだ所で 中間モードに切り替え、斜め上にプロペラを向ける…。

 その後 速度が出た所でプロペラを前方に出し、プロペラ機モードに移行して加速する。

 後ろに押し付けられる感覚はしているが…2G程度の加速だ…つまり1秒で時速36km加速している。

 大きな螺旋(らせん)を描きながら機体が上がって行き…時速500kmになった所で加速が止まり、巡航速度になる。

 そして更に高度を上げ…高度10km…。

『空気密度 低下中…。

 失速(ストール)注意』

 コパイの警告。

「了解、加速再開…フルパワー」

 クオリアがスロットルを上げる。

 プロペラの回転数が上がり更に加速…。

 失速を回避し現在…時速1000km…そろそろ音速。

 ARのおかげで壁が透けて見え、プロペラから衝撃波が発生して突き抜けていく…。

 通常ならプロペラ機は音速を超えられない…。

 プロペラの回転速度が音速に近づくに つれてプロペラから衝撃波が放たれ、回転力が奪われて抵抗が増し、エネルギー効率が著しく減少するからだ。

 だが、永久機関のAQBを積んでいれば エネルギー効率が悪くても ある程度 無視出来る。

 ボンと機体がソニックブームを放ち、音速を超える…加速速度は落ちたが上昇する。

「まもなく限界高度…耐G姿勢、スクラムジェット準備」

『コピー』

 オレ達の足掛けが上に上がり、足を持ち上がる。

「うわぁ」

 今まで斜めに傾けて昇っていた機体が更に傾き45°を超える。

 オレ達は シートに寝るような体勢になり、足は上がったまま…。

「限界高度まで5…4…3…2…1…0」

 ドン…プロペラの後部につけられたスクラムジェットエンジンに点火され、オレ達をシートに叩きつけ、急上昇する。

「ふっ………ふっ………ふっ………ふっ………。」

 腹に力を入れ3秒ごとに1回短く呼吸をする…耐G用の呼吸だ。

 義体だからだろうか…6Gになるってのに、ちゃんと意識を保てている。


「はっ………はっ………はっ………はっ………。」

 トヨカズ(オレ)は 必死に耐G呼吸をする。

 戦闘機もののVRもやってはいたが、現実は ここまでキツイものなのか…。

 視界から色が抜け落ち…モノクロの世界になる…。

 これがグレイアウトか…パイロットスーツが自動で身体を締め付け、血流を上半身に持ち上げる。

 意識は持つだろうが…頭は働かないし、腕も動かせない…。

 戦闘機を操縦していたら確実に墜落するな。

「はははははは」

 大人しく座っていたロウは笑い出しご機嫌だ…。

 ロウにとってこれはジェットコースターの感覚なのだろう。

 クオリアとジガも当然、問題はないみたいだ。

「後60秒だ…頑張れよ」

 ジガがオレ達に応援してくれる。


「す……。」

 レナは耐G用の呼吸をせずG-LOC(意識消失)していた。


『3…2…1…噴射停止。

 時速28,000km…周回軌道に乗りました。』

 今まで後ろに押し付けていた加速Gが無くなり身体が浮く…。

「ここ?宇宙?」

 オレは シートを軽く叩くが音は返ってこない…機内は真空か。

『お客様へ…当機は高度100km…宇宙に到着しました。

 地球降下までは 最短で90分…それまで宇宙空間をお楽しみ下さい。』

 コパイが無線でアナウンスする。

「よっ」

 ベルトを開けて後ろを向く…後ろには地球が見える。

「『地球は青かった』か…雪だらけで白くなってるな…。」

 流石(さすが)に全球凍結はしていないし 赤道付近は まだ緑があるが…全体的に白い印象だ。

『神様もいないな』

 クオリアの声がヘルメットのスピーカーから聞こえて来る。

「放任主義の管理者(かみさま)より、機械の神様の方が信じられる。」

『デウス・エクス・マキナか?』

「ああ行ったら会って見たいな…。」

『問題ない…間違いなく会うだろうから』

「そうか」


 ロウが 隣の席のレナ()のヘルメットを ペシペシと平手打ちしている。

「う~ん…はい?…私」

『気を失ってたんだ』

 ジガが答える。

「あ~あ…てことは宇宙?」

 私が ベルトロックを外し、周りを見渡す。

「うわぁ綺麗」

『どこが、きれい?』

 ロウが答える。

 私は ロウのベルトを外し、上に持ち上げる。

『壁が きれい?』

『あーそうか ロウは ARマイクロマシンを入れてないから見えないのか』

 ジガがARウィンドウを表示し、操作する。

 今までバイザーから見えていたロウの顔が一瞬で白くなって…見えなくなる。

 スモークバイザーかな?

 その後で ロウのヘルメットが透明になり、顔が見えるようになる。

 ARによる顔の合成だ。

『うおぉぉ』

 スモークバイザーに映像が投影されているのだろう。

 ロウがはしゃぎ周り…無重力なので回転する。

『ジガ、あれ、大地?』

『そう、大地…地球っていうんだ。』

『チキュウ?チキュウ~チキュウ~』

 ロウは尻尾を回転させて身体の回転を止めて、天井を蹴る…楽しそう。


「それにしても6Gも受けたのにグレイアウトもしなかったな…。」

 不思議そうにナオ(オレ)がつぶやく…。

 耐G訓練時でも6Gは かなりキツかった記憶があるんだが…。

『そりゃナオの脳みそには 血は流れてないし、そもそも呼吸すらしてないからな…。』

 ジガが答える。

「は?オレは呼吸しているぞ」

『それは ナオの頭の中で VRで身体を構成しているからだ。

 ナオの義体には 肺も心臓もない。

 けど 頭の中で臓器をシミュレートして動かしているから、あるように感じているだけ』

 オレが胸に手を当てる…。

 ドクンドクンと心臓がなっている気がするが…実際にはVR上の臓器の感覚なのか。

『心臓や肺が無くなったらメンタルに影響するからな…だから こうしているんだ。』

 身体は ただの感覚器官で、見えている空間は すべてオレの脳が作り出すVR…ならVRのオレにとってVRが現実?

 そうなると現実の定義ってどうなるんだ?

 オレは 皆の顔を見る。

 ヘルメットを被っているはずだが…ARで顔を合成して張り付けている為、ヘルメットを被っているように見えない。

 ARで現実を(ゆが)められている…ARウィンドウもそうだ。

 現実からの視点…つまりARマイクロマシンを使っていないロウの視点からすれば、何もない空中でキーボード操作をしている痛々しい子に見えるはずだ。

 更にARでボイスチャットをしているヒトがいるとする…。

 当然、そのヒトは何もない空間で会話をしている事になり…転生前のオレなら確実にヤク中を疑っているだろう。

 結局この()()で暮らす オレの世界が現実なのだろう…。

 そうなるとVR(現実)上で敵を躊躇(ちゅうちょ)なく射殺し、得点を競って喜んでいるサイコキラーのトヨカズが出来上がるのだが…。

 やっぱりオレには難しいな。

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