13 (580年越しの再開)
翌日…。
ナオ達は 市役所でパイロットスーツを受け取り、隣の更衣室で着替える。
ロッカーは 旧時代のオレが使っていた物よりも大きく、ドアにカーテンと鏡が付いていて、簡易更衣室になっている。
オレは カーテンを伸ばして着替える…。
隣のトヨカズと、昨日あれから髪を切って貰ったのだろう…肩より少し下 位まで短くしたレナが、カーテンを伸ばさず、そのまま着替えている。
ジガは パイロットスーツが私服なので そのまま…だが、昨日VRで少し会ったロウの着替えを手伝っている。
クオリアは 白色で黒のラインが入ったパイロットスーツを着る。
「私は先に減圧室に行っている。」
先に着替え終わったクオリアは ヘルメットと酸素ボンベを持ち、頑丈なスライドドアを開ける。
「分かった。」
「よし…出来た。
ジガ…どうだ?」
オレがカーテンを開け、ジガが確認する。
「OK…合格」
「んじゃオレも行ってくる。」
ヘルメットのバイザーを開けた状態で酸素ボンベを背負い 減圧室に向かう。
「ジガ オレも頼む…。」
「はいよ…OK、合格…VR訓練の成果が出てるな」
「アレだけやればな…。」
続いてトヨカズも減圧室に行く。
「私も。」
「はい合格…。今度はちゃんと締めているな」
「もうアレはこりごりだから…今回は本当にヤバいし」
レナはヘルメットを被り、ボンベを片手にぶら下げ、減圧室に向かう。
「ジガ、ロウ、服、ぶかぶか、脱ぐ」
ロウのパイロットスーツを限界まで巻き取るが、まだ一回り以上大きい。
肺はちゃんと圧迫しているから大丈夫だろうが、精密作業は無理だろうな。
「おいおい脱いだから…宇宙に出れないだろう」
「ロウ、丈夫、問題、ない」
「さすがのオマエも-240℃は無理。」
「ロウ、頑張る」
「頑張らんでいい…。
ウチらがオマエの死体を回収するハメになる。」
ロウに無理やり パイロットスーツを着せ、減圧室に向かう。
「クオリア…それって意味があるのか?」
減圧室でヘルメットを被るクオリアに ナオが言う。
クオリアの長い銀色の髪は 当然ヘルメットに収まる訳も無く、束ねているが首にある隙間から完全に出ている。
「この髪は 放熱用だ…ヘルメットの中に入れたら 私が蒸し焼きになってしまう。」
「いやいや、真空中で 大丈夫なのかその髪は?」
「問題ない…空気より隙間の密度が小さいから漏れない…。」
ゴム製のヘアバンドを押し込み、僅かに開いていた穴を埋めて穴を塞ぐ。
クオリアが そう言うとトヨカズ達が入ってくる。
「さてバイザーを下して気密を確認しろ。」
ナオ達は バイザーを下ろし、ヘルメット内の空調が作動し始めた。
「呼吸問題なし…。」
「オレも」「私も」
「じゃあ部屋の空気を抜いて真空にする。
パイロットスーツに異常があったら直ぐに知らせてくれ」
クオリアが壁の操作パネルを操作し、シューと空気が抜けて部屋が真空になる。
「どうだ?」
「特に苦しくはないけど…エラーも出てないし…。」
レナは ARウィンドウを出し、確認する。
「確かに少し動きづらくなってるな…」
オレは 屈伸…伸脚…前屈と試していく…。
「指は普通に動くな…」
トヨカズが指の反応を見る…。
「ならいい…気圧を戻すぞ」
シューと風が吹き霧に包まれ、しばらくして 気圧と温度が安定する。
「動作確認は出来た…。
バイザーを上げて空調を停止…そのまま地上に出るぞ」
「やっと外か…。」
旧時代の宇宙飛行士ならもっと時間が掛かるのだろうが、昨日の訓練密度が高かった為か かなり長く感じる。
昨日出来たばかりのエレベータに乗り、ナオ達は上がって行く。
皆の他に給油車も一緒に積み込まれ、まだまだ余裕はあるが 閉塞感を感じる。
「これ液体酸素と液体水素か?」
「いや…普通の酸素と水素だ。
液体酸素と液体水素は管理が面倒だから あまり使われていない…。
機体の性能もあって 宇宙に行くには これで十分だからだ。」
クオリアが言う。
「更に言うなら、月まで行く場合は 高度200kmにある備蓄基地から推進剤の補給を受けるから、無理に乗せる必要も無くなっちまった。」
隣でロウが暴れないように押さえつけているジガが話を引き継ぐ。
「こんだけで 宇宙に行けるようになっちまったのか…。」
「殆どはAQBのおかげだ…。
燃料効率を考えないでプロペラを回せるから、大気を推進剤として使える。」
「と言っても宇宙では 使えないだろう」
「いや…高度200kmでも まだ大気はあるんだ…。
ただ大気が薄いから大気密度を上げる為のスピードが必要なんだよな…。
具体的には8km/s…この速度さえ出れば、重力で地球に落ちないから後は時間をかけて加速できる。」
「なるほど…永久機関があると こういう事も出来るのか…。」
基本は 永久機関のプロペラによる電気駆動…燃料はあくまで機体が失速しない為の補助にする事で質量を抑えるのか…。
「まぁ詳しい技術面は後する事にして…。
そろそろバイザーを下ろしておけ、外は低酸素状態だ。
死なないだろうが、それなりに息苦しくなるぞ。」
ジガの腕の中で、大人しくしているロウのバイザーを下ろす。
オレ、トヨカズ、レナもそれを聞いて下げる。
クオリアとジガは そのままだ。
エレベータが地上に上がり、スライドドアが開く…。
エレベータを出ると6m先にまた扉がある。
「空気が調整されているのは ここまでだ…開けるぞ」
スライドドアが開き、風が吹く中、給油車と一緒にクオリアが出る。
ドアを出るとそこは 大型倉庫になっていて、エアトラが履帯の台に乗せられ、運ばれてくる。
「あれがエアトラS2?普通のエアトラじゃないか?」
キャノピーや窓が無くカメラが装着されているが、外見はエアトラを同じだ。
『外見の違いは プロペラ下の部分のスクラムジェットエンジンですね…。
これティルトローターとスクラムジェットのハイブリッドなんですよ。』
「て…この声コパイか?」
オレがエアトラに向かって言う。
「はい…お名前を聞かせて貰えますか?」
「カンザキ・ナオトだ」
「ああ先日は、私の不注意で申し訳ございません」
「ナオ…コパイと会っていたのか?」
クオリアが 給油ケーブルを取り出しながら聞いてくる。
「58?年を先日とは言わないから…ジャベリンで撃たれて 空中分解せずに 森に不時着 出来ただけでも十分だよ」
『なら良いのですが…。』
「罪悪感があるんだったら、今回のフライト…580年の学習の成果を見せてくれないか?」
『分かりました。
今回のフライト…全力でサポートさせて頂きます。』
大型倉庫のシャッターが開き、エアトラが運ばれてくる。
「ジガ…ナオ達を席に案内してくれ…私は機体への推進剤の補給をする。」
「分かった…じゃ行くぞ」
補給が終わり 最後にクオリアが機長席に乗り込み、後部ハッチが閉じた。




