07 (大型二足2種 最終試験)
さて、前のキューブから新しいキューブに驚く程 スムーズに移れたナオは 新しいキューブを義体の頭に入れ、完治した。
そして完治したオレが初めにやった事は『免許の更新』だった。
緊急時とは言え、実質無免でDLを動かした事は 色々と問題になったらしい。
この都市は 正規兵だろうが義勇兵だろうが ケガをすれば治療といくらかの手当が保証される。
だが、無免の場合 負傷したのは自業自得で処理され、ケガは治療されるが手当は出ない…。
今回はオレとクオリアは 共に無免で、クオリアは傷は負わなかったので問題ないが、オレは 義体を全損した。
もっとも戦闘で負った傷では無く、クオリアのバリアに飛び込み身体が分解されたのだから自業自得なんだが…。
そこで アントニーが『彼はDLの免許を持っている…ただ580年前から更新していなかっただけだ。』と言ってくれたらしい。
これらはレナ経由で聞いた話だ。
そしてレナから『いい加減 免許を更新しろ』と言われ、職権乱用してまで資格費用を政府負担にしてくれた。
さて、DLの免許『大型二足1種2種』なのだが…。
1種の土木作業資格、2種は戦闘資格だ。
1種は高校を卒業している人は 大抵持っている資格で 2種持ちは軍人とDLマニア位であまりいない。
さて資格講習なのだが、驚く事に『オンラインゲーム化』されていた。
タイトルは『DLマスターズ』…地球で架空の大戦が始まり、主人公は傭兵として歩兵やDLで戦うゲームだ。
だが これが恐ろしくリアルに作ってあり、チュートリアル全200面をA評価以上でクリアすれば、最終試験以外は すべてパスできる。
軍と言う物は 防衛上絶対に必要なものだが、平時には全く役に立たない。
それでも軍を維持する為、警察などと兼任する事で維持しているのだが、DLのパイロットの育成には 金がかかるし、そのパイロットを維持するコストも平和で軍縮がされた今の状態では それなりにキツイ出費になる。
その為、VR上でオンラインゲーム化して平時に遊び感覚でパイロット育成を行う事にした。
こうする事で経費を安く抑えられ、優秀な人材も維持費無しで勝手にトレーニングしてくれる。
そして戦時になった場合、上位ランカーは傭兵として軍に高額でスカウトされ、即戦力になる訳だ。
さて、身体を取り戻したと言うのに VRで永遠とチュートリアルをやり、丸1日でクリア…評価は最高ランクの『DLマスター』…。
とは言え 200面を全部S評価になるまで ひたすら繰り返しただけだ。
中には『死んで覚える』教訓もあり、負ける前提の鬼畜難易度設定されたミッションもあった。
現場を経験しているオレからすると『死んで覚える』経験を積めるVR環境はDLの訓練として最適だと思う。
そして、最終試験…。
ナオは 中央区の警察署まで行き、最終試験を行う。
1層から2層まで降り、DLのコックピットがズラ~と横に並んでいる部屋でオレは コックピットに乗り、VR接続する。
最終試験は 現役の軍人との即席相棒で どこまでやれるか…だ。
相棒は ジェニーと言う軍人…相手の情報は名前だけしか 分からない。
オレは コックピットの中からARディスプレイで状況を確認する。
「これ、ワームじゃないか」
多分 ワーム侵攻事件の戦闘データから組み上げた内容…吹雪の中の最前線。
まぁ今は 対人戦需要より、ワーム戦の需要の方が高いのだろうが…。
クオリア無しの最前線か…ある程度は加減してあるんだろうけど…。
機種や装備は自由に選べるとの事で、DLマスターズでの自分の機体を出す。
DLマスターズでは 架空武器は使われていない…
まぁ たまに現場の反応を見る為に開発途中の兵器が導入される事もあるらしいのだが…。
場所は 警察所前の広場で臨時のDL駐機場…。
DLを立ち上げ、ジェニー機がこっちに近づいてくる。
ジェニー機は黒鋼で ボックスライフル2本に各部のハードポイントに大量の弾薬…。
「……かなり変則的だと聞いていたけど…ヒドイな…。」
『黒鋼乗りの最適解です…。』
ナオの機は 黒鋼…装備はボックスライフル2本に『全身シャベルだらけ』だ。
まず両腕についているハードポイント2つに シャベルを盾の状態にして装備…。
シャベルは伸び縮み出来る機構なので面部分を簡易的な盾に出来る。
更にその状態で両肩にも装備…。
腰は ボックスライフル2本を装備…腕で接近戦をしながら腰から撃てる。
そして膝にシャベルが2本…膝蹴りに使う。
そして手に1本の7本がナオ機の装備だ。
「装甲の強化しつつ装甲自体を接近戦の武器として使う…てのは分かるんだがな」
ジェニーは そう言うと試験を開始した。
吹雪で見通しの効かない中…計器を頼りにワームと戦う。
ナオト機が前衛…ジェニー機は 後衛でナオト機の動きを見る。
ナオト機がワームが突っ込む寸前で回避して、機体をひねり、水平に回転して ワームの後ろをショベルで切り裂く…。
そして次は ワームの顔面を踏みつけて乗り越え、ワームの後ろをショベルを突き立てる。
ワームに突き刺さらないかったら、5tのDLで足掛けに体重をかけて押し込み、てこの原理で中身をかきだす。
ショベルの振れない距離まで接近された場合は、腕に取り付けたショベルでワームを殴る…。
ショベルの刃が突き刺さり、ナオト機は即座に引き抜き回避…突進してきたワームが 味方のワームを巻き込む…。
ナオト機は 態勢が悪かったのか背中から地面に叩きつけられるが…ベックの背中が丸くなっている事を利用して、位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、後転することで、うつ伏せになり腕で起き上がる。
人を模倣しているDLは 構造上、仰向けになった場合、起き上がりに時間が掛かるからだ。
更に ナオト機は うつ伏せになった時の硬直も最小限に抑え、そこを狙ったワームを回避し、腕のショベルで殴る…。
さっきからコッチは撃つことが一切できない…。
こちらが 狙って撃つ前にナオト機が射線に入りFFを警戒した次の瞬間には もう倒されている。
見た所 ナオトは 射撃が比較的苦手に見えるが それは精度が高くなる射撃姿勢に入らないからだ…。
射撃姿勢になる事の硬直すら嫌って…と言うより接近戦に繋げにくいのが原因か?
実際発砲している時は 接近戦で火力が足りないと判断した時だ…。
しかも確実に仕留める為、コイルガンの速度はMax…。
長距離なら空気で弾がそれるレベルだが、接近戦では関係ない。
「組める相棒が要れば 優秀なんだろうが…。」
後方支援がしにくい…つまりナオトが ミスをしてもバックアップが出来なくなる。
つまり『大量の数のDLとの連携で相手を倒す』DLのコンセプトを無視している。
大量のDLが確保出来ない所で戦っていたのか?
ともかく成績表には『後方支援が受けられるような戦闘を心掛ける事』とコメントしておこう。




