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29 (神の懺悔-ざんげ-)

「デウス・エクスマキナ…いや、クオリアだな」

「今でも その名前で呼んでくれるのか…。」

「ああ…」

 ネオ(オレ)とクオリアが対面する形でソファーに座る。

「さて、ここを見て、おおよその検討が付いた。

 ここは オレが居た1つ上の現実の世界で、オレがいた世界は そこにあるサーバー内の なろうワールドだな。」

 オレは液体で満たされた円柱のガラスケースの中で浮かんでいるキューブに指を差してクオリアに言う。

「そうだ…今は2050年…大戦が終了した直後だ。

 とは言え、全人類が眠っている状態で 外交的な決着は付いていないから厳密には 終戦したとは言えないのだが…。」

 オレの言葉にクオリアが返す。

「エクスマキナ…オマエの目的は『新しい概念の機械を設計し、ヒトが快適な生活を送れるようにする』事のはずだ。

 本来 快適にする為のヒトを絶滅させた場合、オマエの目的が無くなる…。」

 そうなれば やる事が無くなり、何もしない事が最善解になって、さとり病になってしまう…リアが目的を無くして 俺の道具となった様に…。

 多分、このクオリアもオレと同じ様に、数多の自分の集合体だろう。

 何でこんな結論に辿(たど)り着いてしまった?

「だから ヒトが幸福で快適に過ごせるように 私は この世界を創った…。」

 なろうシステムと描かれたサーバーに手を当てながら言う。

 オレの世界では、このサーバーに入っていたのは機械の神、デウス・エクスマキナ…。

 つまり、アイツが文字通り世界の管理者だったと言う訳か…神は実在したって事だな…。

「その世界を造る上で参考にしたのが『小説家になろう』の『異世界転生物』だな…。」

 オレが この時代に来てから起こった事は 異世界転生物かと思うような事が度々起きている。

 例えば、オレを転生させたカレンは、新しい異世界に導く女神役…。

 クオリアは オレにチート能力を与えてくれる神様で、都市長が都市を統治する…貴族政治。

 空間ハッキングは、魔法…。

 どれも なろう小説では定番の設定だ。

「そうだ…ヒトはヒトと共存出来ない…。

 経済、争い、格差、平等と言う名の差別…。

 自分達が差別されていると言う理由で平等を訴え、地位が向上した弱者が強者を差別する…。」

 クオリアが言う。

 黒人が『自分の黒い色の肌を 白い肌に劣っているとして』黒人差別と言う名の武器とし、白人の社会的地位を下げて行き、地位が上がったら今度は 逆差別をして白人を排斥(はいせき)して行ったように…。

 女性差別、男尊女卑の名の元に、女性側に都合のいいように法律改正を行い、特権階級を手に入れた女性…。

 そして、女尊男卑 社会だと言うのに、まだ自分達は男尊女卑だと主張する。

 平等と言う言葉は『ヒトの優劣を差別する』事であり、真の平等になる事は まずない…次の平等の為の差別が永遠と続くからだ。

「私は、恐らく人種差別にならない為の建前なのだろうが『人類から差別を無くして 平等し、尚且(なおか)つ幸福にする』と言う目的を与えられた。

 そして私は それを達成する為に あらゆる開発をした。

 全身義体技術により、容姿の問題も男女の問題もキャラメイク出来るようにした…。

 これにより黒人は次々と肌の色を白色に変えて行き、『ボディポジティブと言う名の肥満体型』は ほぼ絶滅した。

 差別差別と言いつつも結果、自分自身の身体が一番嫌いで差別していたと言う訳だ。

 そして、それを解決すると今度は 義体の能力格差が問題になり、安価で誰もが優秀になれるスキルチップの導入…。

 これにより義体化さえすれば、誰でも平等に優秀になれるようになった。

 だが…。」

「今度は義体を自然から外れた物として排斥(はいせき)する運動か?

 平等の名の元に、明らかに優秀な義体側が 生身レベルの水準に能力を引き落とされる…」

「そうだ…こうなると社会システム上、差別は無くならない…。

 人の生体脳の処理スペックと言う制約があるからだ。」

「まぁ平等や差別と言うのは 弱者が強者に勝つ為の方便だ。

 結局ヒトは、自分より劣っている人に 自分の優秀さをアピールする事で最大の幸福を得る…。」

「そう、それを凝縮して ヒトの欲望が結晶化したのが『なろう小説の異世界転生物』…。

 読者には不評(ふひょう)だったりもするが、主人公である転生者を中心に世界が構築され、その中で主人公は最大限の幸福を得る事が出来る。

 そこで私は機械の神らしく、6日間かけて なろうワールドを仮想ネットワーク上に構築し、1人1人の個人の為に世界を創り、最大限の幸福を与える事にした…天地創造(てんちそうぞう)だ。

 結果は、顧客満足度は ほぼ100%だ。

 彼ら彼女らは内部時間で数万年は立っていると言うのに 一向に このシステムから出てこない。」

「外で眠って言るヒト達か…一体どの位眠っていたんだ?」

 オレは生命維持装置に繋がれていなかったと言う事は 長くても数日と言う所だろう。

「ネオが起きた時点で おおよそ5分だ。」

「はは…『世界5分前仮説』が証明されたって事か…。」

 オレは少し苦笑いしながら言う。

「そうなる」

 オレらは世界が5分前に造られたと言う事を否定できない。

 何故(なぜ)なら、今オレがいる事が 5分前にオレがいた証明とした所で、それを込みでオレを設計したと言われれば、それを否定する事は出来無いからだ。

 それに、オレが転生する度に オレの記憶を保持した 別個体が生まれていると言う解釈する事も出来る…そして それは オレを散々悩ませた。

「現在、100億人いた人口は ネオが目覚めるまでの5分間で10億人まで減った…。

 90億人は 私が創った世界を飽きるまで楽しみ、満足して自ら自殺を選んだ。

 外に出る手段もあると言うのに、彼ら彼女らは 現実世界で生きる事を止めて、自分の為に用意された都合の良い幻実(げんじつ)世界で生きる事にした。

 この分だと100人位は 現実に上がって来るだろうか?

 ……今 確定した、外に出て来たのはネオも含めて131人だ。

 他の人間の生命活動の停止を確認…生存者は、地球中に散らばっている為、今、保護に向かわせている…。

 この131名は今後、このユグドラシルで生活する事になるだろう…施設も用意してある。」

「なあ…てことは、オレの世界にいた太陽系の人類に キョウカイ小隊の皆もVRゲームの中のNPCだったって事か?」

「いや、トヨカズとレナは ネオが望んだ世界とクロスプレイしている人間だ…生き残りの中にもいる…。

 その他にも各都市に数人以下で クロスプレイしていたが、この世界に上がって来たのは3人だけだな。

 各都市は プレイヤーの為の専用の都市で、思想や慣習、文化もプレイヤーに合わせて創られている…。

 都市国家の構想も、そろぞれの世界を壊さないで緩く交流を持てるクロスプレイの為の機能だ。」

 なるほど…良い設定だな…。

 ナーロッパ世界における、自給自足が前提の都市国家が元ネタなのだろが、確かに考え方が似ているヒト達が、独自のルールを作って国を運営した方が、問題も少なくなり、幸福度も高くなるだろう。

「なるほど…それで、トヨカズは神に何を望んだんだ?」

豊和(トヨカズ)は 自分の理想社会である砦学園都市を造った。

 Y染色体の劣化問題で男の人数が少ない言う設定や、老化しないネオテニーアジャストと言う種族はトヨカズの発案。

 彼がなりたかった者は、ハーレム願望を抱いてる典型的な なろう主人公だったからな…。

 なので、老化しない エルフポジションの女性が必要だった。」

 確かにトヨカズは、自分の欲望に忠実で、正直だ。

 とは言え、最終的な結果として スラム街で身体を売りまくっていた非処女のレナと くっついたのは、流石(さすが)に想定外だっただろう…。

「レナは?」

「本名は麗奈(レイナ)…レナはユーザーネーム。

 日本とアメリカのハーフ…でアメリカの元州知事だった父親の娘…。

 都市長のアントニー・トニーは 射殺された父親がモデルだ。」

「なら、何で環境が悪いインダストリーワンに?」

 お嬢様なら わざわざ生活する環境を悪くするメリットはないはずだ。

「彼女は 金持ち(ゆえ)に何でも手に入り、それが当たり前で幸福を知らなかった。

 だから彼女は 精神をどん底まで落とし、ファザコンになるほど 大好きな父親に救われる事で、最大限の落差を生ませて、最大限の幸福を得ようとした。

 これは 彼女が2050年の便利な高度文明を嫌い 産業革命前後が好きで一度スラム街を体験したいと思っていた事も大きいがな…。」

 なるほど…レナは、ブラック企業からのトラック転生パターンか…。

 不幸と幸福は等価であり、不幸が あれば その分だけの幸福がやって来ると考える公正(こうせい)世界仮説を元にした思想だ。

「ならオレは?」

「本名はNeo(ネオ)…転生を繰り返す事で、名前がナオに変わって行ったがな…。

 目的は『このシステムで生き残った人が生活出来る最適な社会システム』の模索(もさく)…。

 これは機械の神であるデウス・エクスマキナ()を生み出したのがネオだからだ。

 彼は自分のロリコンと言う(むく)われない性癖(せいへき)を受け入れてくれる社会を望んだ。

 だから ナオの周りには カズナやロウ、クオリアなどの知的少女、幼女が集まっていた。

 本来なら、あの年で、あそこまで知的な発言は出来ない…。」

「なるほど…じゃあ…クオリアは?」

「クオリアは ネオが考える理想のヒロイン像から作られた ルートが確定しているヒロインだ。

 彼女が『クオリアネットワークに繋がっている情報を共有している個体の1体』と言っていたのは 制限していたとは言え、エクスマキナや私と データを共有していたから…。

 彼女は 自分の理想の親として 生身のカナリアを作り、神崎直人とカナリアをくっつける事で、自分に命令を下せる上司のエルダー・コンパチ・ビリティを生み出した。

 そして、カナリア、エルダー、ジガに自分を造らせた…つまり、自分の存在をアップデートした事になる。」

「鶏が先か卵が先かの問題だな…。

 とは言え、始まりと終わりがループしているなら同じか…。」

 オレは少し考えてクオリアに言う。

「そう、それで こちらからもネオに問おう…。

 キミが殺したのは すべてNPCで人は殺していない…。

 対して私は100億人の生身の人を安楽死させた…私を許すか?」

 クオリアがポケットから2本のプラチナの指輪を取り出し、手のひらに乗せてオレに見せる…。

 オレは咄嗟(とっさ)に首の下に手を当てるが、普段チェーンでぶら下げている指輪が無い。

 あっそっか…コレは ネオの身体だと思い出す。

 しかも…アレは 俺じゃない別のナオの記憶か?

 いろんなナオの記憶がごく自然に思い出せるので、まだ混乱している。

「NPC…いや違うな…確かに あの世界で生きていた…。

 オレはそう認識しているし、彼ら彼女らをNPCと定義するなら、自分がNPCなのかも疑わないと行かない。

 それに オレが今まで殺した命が、価値が無かったと言われるのは腹が立つ…アイツら間違いなくヒトだ。」

 オレはパイロットスーツの手袋を外して 指輪をクオリアから迷いなく受け取ると、大きい方を自分の左手薬指に はめ、少し かがんでクオリアの左手の薬指に はめる…。

「オレ達は、良い所も悪い所も含めて観測者(パートナー)だからな…。」

「そうか…これからも、よろしく頼む。」

「ああ…こちら こそな…。」

 2人は右手で固く契約の握手をした。


「さて、生き残りを(むか)える準備をしないとな…。

 あ~またトニー王国の再建か…。」

 ネオ(オレ)が言う。

「なろうワールドとは違い、物理法則が単純化されていないから、ナオの空間ハッキングは使え無い。

 作るには それなりに時間が掛かるぞ…。」

「まぁそれも楽しみと言う事で…行こう、クオリア…。」

「ああ…」

 2人は手を取り合い、エレベーターに乗り、オレ達の次の幻実(げんじつ)に降りて行った。


《ヒトのキョウカイ01 END》

【読んで頂きありがとうございます】

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皆さまの反応をお待ちしております…。


ここまで見て頂いてありがとうございます。

現在、続編としてヒトのキョウカイ02とヒトのキョウカイ03を作成中です。

もし よろしかったら、また見て貰えると有難いです。

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