08 (食事の乱れは人の乱れ)
1月3日…午前10:00。
「なにこれ?もくせいで ばくはつ?」
ファントムに乗るカズナが木星の爆発を見ながら言う。
『何か知らないけど、ワームの数が減ってる…。』
僚機のロウが言う。
確かに、大量の爆発で ワームの数が減ってくれるのは良いのだけど…何かが不自然しい…。
これもワームの対応進化なのかな?
『ファントム全機へ…ミサイル型が進化…核ミサイルになった。
ファントムの対応は 変わらず…』
クオリアからの通信…。
木星の爆発も急激に止んでいく…。
核ミサイルね…おおよそ3000℃で20kmを焼き尽くす生身の人が使う最終兵器…。
ただ、真空の宇宙空間では 核ミサイルの爆風が発生せず、大量の放射線を発生させるするだけ…。
外に出れば パイロットスーツを着ていても致死量の放射線で即死だけど、ファントムの中に入れば 取りあえずは安全…。
それに核ミサイルを短時間で30万km先に運べぶ手段が、今の所ない…なので戦闘機型に積むにしてもスピードが遅すぎるせいで、こちらで迎撃が出来ている。
まぁこちらも木星に爆弾を持って行く事は出来ないのだけれど…。
「このまま おわって くれれば いいんだけど…。」
『ロウ達、滅ぼされない様に必死、ワーム達、滅ぼされない様に必死』
「そうだね…。」
わたしはロウに答える。
11時45分…。
『ファントム全機へ…戦闘機型に手足が生え始めた。
Gウォーク形態だ。
Gウォーク型は 核ミサイルをキャリアーしている。
ファントム部隊の対応は 変わりなし…だが、間もなく アウトレンジ攻撃にワームが対応して来る可能性が出ている。
各自は警戒を怠らず、任務に臨んでくれ…。』
クオリアからの通信…。
わたし達は まもなく、次のシフトのトヨ兄ぃとレー姉ぇの部隊と交代…今、その部隊は 機体を反転させて減速行程に入っている状態で、もう そろそろ合流出来る。
『ぐッ…お待たせ…カズナ…ロウ…交代時間よ』
カズナ機の後ろから大量のファントムの反応…トヨ兄ぃとレー姉ぇの部隊で、レー姉ぇが減速の為、苦しそうな声を出している。
『ふっふっふっ…相対速度…合わせ、ミスるなよっ!!』
後ろ向き状態で わたしたちの部隊の間を綺麗に通りすぎ、1km先で止って、機体を反転…木星に銃を向けて撃ち始めながら ゆっくりと後退…。
『トヨカズ機、レナ機 配置に着いた。』
『了解…部隊を入れ代える。』
トヨ兄ぃの通信にクオリアが答える。
わたし達は射撃を止め、それぞれが交代の意味の片手タッチをする。
「トヨ兄ぃ…レー姉ぇ…気を付けて…。
ワームが また進化した。」
『あいよ…それと、こっちも アップグレードだ。
さて、新型兵装は使えるかな…。
全機、撃ちながら間隔 開けぇ…!!』
トヨ兄ぃが そう言うと部隊の間隔が綺麗に開き、後方に魔法陣が展開…各機、右斜め上下、左斜め上下に魔法陣が2重に現れ、1つ目の魔法陣が弾を生成して、生成した弾を加速の空間ハッキングで光速の50%まで加速させて木星に降り降り注ぐ…。
1機に付き、4門の疑似銃が追加され、よく見ると直線機動だけでは無く、多少の追尾機能も持っている…命中力も高い。
左腕のハードポイントには量子光色に光る盾が現れ、レーザーの熱を無力化している。
『マルチロックのフルバースト機能だ。
如何だ?カッコ良いだろう~
戻ったら機体をアップグレードして、シミュレーターで軽く訓練を受けろ』
『とは言っても実質、固定砲台だからね…。
誤射の可能性もあるから、ロクに回避が出来なくなってるし…』
レー姉ぇ機がトヨ兄ぃ機の横で撃っている。
『それは 次のオレ達のシフトのアップグレードに期待かな~』
レー姉ぇの真剣な口調にトヨ兄ぃは 相変わらずの陽気な声で答える。
「それじゃあ きをつけて」
わたしは そう言い、ノスタルジア号に向けて加速し、撤退した。
カズナ達はノスタルジア号の後方格納庫から機体を降ろし、ファントムをキューブの状態に戻して気圧が整った船内に入る。
中でヘルメットを脱いて腰に固定し、奥に進むと大量の大型サーバーに繋がれたケーブルと番号が書かれた電子レンジの様な機械が入っている棚があり、わたし達は 近くの作業員が折りコンを抱えて配っている スパウトパウチのジュースを慣れた手付きで受け取り、飲み口を開けて 口に加えながら、その電子レンジのドアを開けて ファントムのキューブを入れ、ドアを閉じる…。
そうすると 電子レンジの中が 黄緑色の量子光に光る。
これで、後は待つだけで 出撃時には データの書き換えが出来ている…。
次のシフトまでに わたし達は シミュレーターの訓練を受けて80%以上の成績を出さないと行けないのだけど…訓練は12時間後…それまでは 基本的に自由時間…。
とは言っても、大半が食事を取って眠るだけの時間に なってしまうのだけ れど…。
「アレ?何?」
ロウが指を差して言う。
そこにある物は 6時間前の出撃時には無かった機械…それを エレクトロンが テキパキと組み立てている。
「わからない…けど…たぶん、つぎのアップグレードのきかい…。」
わたしは そう答える。
まだ機械の原型が出来ていないけど、機体のアップグレード速度やシステムの仕様を根本的に変える必要が出たのだと言う事が何となく分かる。
開戦から こちらが圧勝し続けているけど…地道に学習しているワームは着々とわたし達の兵器に対応し続けて来ている。
今では 核ミサイル搭載型の戦闘機まで作り始め、次のGウォーク型に進化し始めている。
本当に数ヵ月前は 突進して相手を叩き潰す事しか 出来なかったワームなのかと疑ってしまう…本当に凄まじい程の開発能力だ。
更に奥に行くと大量の死体袋風の寝袋が壁に取り付けられていて、わたしは その光景に少しドキリとするが、まだ戦闘での死者は出ていないし、緊急時の為にヘルメットを被って寝ている。
ただ パイロットは 疲労で疲れ、文字通り、死体の様に眠っている。
「大丈夫、生きてる」
わたしの隣にいるロウが言う。
「わかっているよ…。」
でもいずれ、この中に入る人が必ず出て来る…。
自分達は数兆匹のワームを殺して置いて、仲間が死ぬのは嫌だって虫が良過ぎるのだけど、本当に誰も死んで欲しくない。
「ロウ、腹減った、カズナ、休もう、狩りをするなら、良く食べて、良く寝る」
「そうだね…。」
カズナとロウが食堂に行くと 帰還した大量の兵士が来ていて、食事を取っている…。
メニューは選択式だけど、お湯や電子レンジで温める系の宇宙食で、食堂内は重い空気で 一切、言葉を発さず、お皿に盛り付けないで ひたすら無言で無表情で食べ続けている。
中には 自販機でミートキューブを買って、口に咥えながら食堂を出て行く人もいて、その光景は食事では無く、まるでカーレースで燃料補給を受けている様だ。
レー姉ぇは 食事の空気で人のヤバさが分かると言う。
レー姉ぇ曰く、会話をしつつ何かしらの表情を出せていれば正常。
食事中にくだらない事で、罵り合いやケンカが始まるのも まだ正常。
本当にヤバイのは、ケンカするエネルギーすらも面倒になり、ひたすら食べ物を胃に流し込む 燃料補給の作業になる事…。
「うわっ」
汁物のビーフシチューにマッシュポテトを砕いて入れ、野菜もちぎって入れ、先折れスプーンでぐちゃぐちゃに かき回し、一気に飲み干す…食事の時間は 30秒も経っていない…それが複数人出て来ている。
わたし達は出入口を塞いでいたので中に入り、人間性が無くなっている兵士を見る…。
「こりゃヤバいな…余裕が一切無くなっている」
兵士を見てそう言い、出入り口から入って来たのはナオだ。
「ナオも、食事?」
ロウがナオに聞く。
「まぁな…オレはAR食だから ここに来なくても良いんだけど、息抜きがてらな…。」
ナオは 出入りが激しく、今開いたばかりの4人テーブルの席に座り、場所を確保…わたしとロウは自販機で食べ物を買う。
わたしは ハンバーグ、ご飯、サラダに飲み物は スポーツドリンク…。
ロウは鶏の唐揚げとエビフライ…ミートスパゲッティにハンバーグ…飲み物はアップルジュース。
をちゃんと お皿に盛りつけて、テーブルに行く。
ナオは クオリアと同じで毎日軽食の様な食事ばかり食べていたけど、今日は トヨ兄ぃが大好きな極太の麺に背油、野菜山盛りの次郎さんラーメンで、こんなに食べるナオは初めて見る。
「さぁ皆さんご一緒に」
ナオが音頭を取り「「いただきます」」と食べ物に感謝をする。
そう言えば 最近、ナオとは直接 会っていなかった…思い返してみると最後に会ったのは木星での開戦前だ。
DL部隊を遠隔操作で戦わせていた事は知っているけど、その後は 何をやっているのだろう。
皆が忙しく席が入れ替わる中…カズナは6分程 ゆっくりと食事を取り、3分の1程食べた所でナオに聞く。
「何をやっていたって、機体開発だよ…2世代後のな…。」
「新型機?」
「そ…DL部隊が全滅してから4ヵ月位は オレとクオリアは ひたすら 次世代機開発をしていた。」
「え?まだ開戦から3日目…DL部隊が全滅したのは昨日」
「あっそっか…実時間だと まだ1日位しか経って無いのか~。
オレらが造ってたのは、明日の機体と明後日の機体…で、これから3日後の機体を造る…。
今は 技術のブレイクスルーが必要なんで、エレクトロンの膨大な演算で、総当たり計算させている。
大体1時間位 掛かるって言われているな…。」
「しんがたが、1にちで きゅうがたか するの?」
「そ…これでも まだ遅い方なんだぞ…。
ラプラスに進化する直前は 1時間事にファントムを新型化しないと行けなくなるからな…。
いや~生産設備が必要無くて、データさえ入れ変えれば 新型機になるって本当に重要だよな…。
で、それまでにワームを仕留められれば、人類の勝ち、これでも敵わないならワームと太陽系を道連れにブラックホールに落とす事になる。
まぁポジトロンがいる時点で、太陽系の脱出は 出来るんだろうけど…。」
「だいじょうぶなの?」
「ああ…研究環境は良いよ…バックアップが充実しているからな…。」
「いや…そうじゃなくて…。」
『そんな無茶して アナタは 大丈夫なの?』と言いたかったのに、ナオは わたしが『新型機の開発が大丈夫か?』と言っているのと判断した みたいだ。
ズルズルズル…。
ナオが スープまで飲み干した所で、ナオがアイテムボックスにどんぶりをぶち込み、立ち上がる…。
「おお…良いタイミング…相変わらず仕事が早いな…まだ45分程度しか経ってないってのに…そんじゃ、また4ヵ月行ってくるよ。
あ~そうだ。
これから大多数を守る為に少数を切り捨てる事もある…だから大多数でいてくれ…。」
そう言うと、ナオがVR空間にダイブして顔が無表情になり、ヒューマノイドの様に規則的に出入口に歩き、出て行った。




