03 (クモの糸)
ワーム侵攻事件から2日目の朝。
昨日はロウとアイスドームに泊まり、ジガは ロウと一緒に『大きな家』にたどり着く。
「ここが、『大きな、家』?」
着地したロウが首を傾げる。
大きな家…地上用倉庫は、ワームのせいでボロボロで、瓦礫の隙間にある風を防げる場所に 負傷兵達が身を寄せ合って、座っていた。
如何やら地下と地上を繋ぐワイヤーが落ちたらしい。
ワイヤーが落ちた事で 10km下の砦学園都市に迎えず、せっかく生還した命が尽きようとしている。
他の都市から出たDL部隊も ワームの残敵の確認やディフェンスラインの引き上げにより前線に向かっている。
学園都市から 救助部隊が向かっているとか聞いていたが、実際は ここで立ち往生していた訳か…。
「やべぇな…早くしないと凍死すっかも…。
まったく…正確な情報を出さなければ 意味が無いってのに…。」
「アンタ、エレクトロンか?」
「そうだ…ワイヤーの復旧の目途は?下は何て言って来ている?」
ジガが雪の冷たい地面に座り、肩を怪我した負傷兵の男に聞く。
「地上の通信機が やられた…。
地下と連絡が取れない…。
いや、忙しくてそれ所じゃないのかも しれない。」
「それにしたって何かしらの連絡はするだろう…穴は?」
「そこだ…」
男が地下へと繋がる巨大な穴の方向に指を向ける。
この声どっかで…あっ、戦闘を指揮していた隊長か…。
「おっあったあった…ロウ…飛べるか?」
「ジガ、ロウ、ここに、いる。」
ロウは凍死しかけている隊長に抱きついた。
「ロウ、尻尾、生きてる毛皮、暖かい」
「ああ…嬢ちゃん…ありがとよ」
歯をガタガタ震わせながら負傷兵は答えた。
ジガは 搬入用の大穴に飛び降りる。
身体を逆さまにし、機械翼を展開して加速して降下…。
穴の外壁は ワームが落下したと言うのに思いのほか綺麗だ…軽い補修で済むだろう。
穴を抜け1層の天井に開いた穴からジガが抜け、空中に静止する。
「これが砦学園都市か…。」
ここは 都市の中心部で、下を見るとワームが質量弾となり、床が抜けて落ちた2層が見え『二足歩行重機』のDLが作業をしている。
さらに 付近を見て見ると、建物が崩れ、瓦礫が多く、道を塞いでいる瓦礫をDLがショベルで持ち運べるサイズに切り分けて一ヵ所に集めている。
だが上手くワームを中心部で食い止めたらしく、外周に行けば行く程ワームによる被害が少ない。
ウチは ゆっくりと降下する…。
上からウチが 降りてくる事に気づいたDL…ベックが ボックスライフルを向ける。
ウチは 両手を上げ、ゆっくりとベックの横に降りる。
「緊急だったんで 不法入国は勘弁な…。
ウチは『エクスマキナ都市』所属のエレクトロン…ジガだ。
落ちたワイヤーを上に上げに来た。」
ベックが地面に座り、手を後ろにまわして機体を固定…。
プシュッとエアーの流れる音がして コックピットブロックがスライドし、中から人が出てくる。
「私はルッツ…土木作業の業者だ。
銃を向けてすまない…ワームのせいで神経質になっててな」
長年DLに乗ってきた事を思わせる筋肉質の身体の中年男性が 手を差し出す。
「気にするな…で早速だが、地上と繋ぐ為のワイヤーはあるか?」
ウチが ルッツと握手して言う。
「一本だけ ほぼ無傷で…戦闘中に回収してくれたらしい。」
ルッツは少し低いトーンで言う…おそらく犠牲者が出たんだろう。
「ついて来てくれ…」
ルッツは、ベックに乗り…起き上がる。
「おう」
ワイヤーの巻き取り機をジガに渡す。
重さは100kg…で横に長い円柱状の芯にワイヤーが綺麗に巻かれている。
100㎏と言っても、10kmの長さのワイヤー自体の重さは500g程で、殆ど巻き取り機の重さだ。
ジガは、巻き取り機を軽々と持ち上げる。
「さすがエレクトロンだな…。」
ルッツ機は大量のザイルや通信用の旧型無線機を入れた箱を持ち上げる。
「この位なら、パイロットスーツ位で十分に持ち上がるぞ」
「そうなのか?」
前言撤回…コイツは長年乗っているが知識は無いみたいだ。
ウチは リュックにザイルを積めるだけ積めて、機械翼に干渉しないように前に背負う。
背中に機械翼が現れ、ウチは ワイヤーを掴み ゆっくりと上昇する。
巻き取り機がワイヤーが引っ張られた事で回り始め、適切な長さをキープする。
大丈夫そうだ…。
「んじゃ負傷者が来るから救急車を頼む。」
「この都市の救急車は 今 出払っている…移動用のドラムを手配する。」
「分かった。」
ウチは スピードを上げ、天井の穴に入った。
「ジガ、早かった。」
ジガがワイヤーを持って穴から出るとロウが迎えに来てくれた。
「おう、ケーブルを持ってきた…固定を頼むって皆に伝えてくれ。」
「分かた」
ロウが、皆の所に行き「けーぶる?、持て、来た、こてい?、頼む、らしい」と意味を理解していないのか そのまま伝える。
「おお」
女性の負傷兵達が起き上がり、DLを立ち上げる。
DLのベックが穴に座り、両手を伸ばして少し曲げた状態で停止する…。
ウチが ベックの手にワイヤーを巻き付け終わると、ベックは それを強く握り締める。
これで即席のクレーン車の出来上がりだ。
そして別のボロボロのベックが重石として座っているベックを抱えて固定する。
「重量物は下ろせないが ヒトなら十分だ…。
ザイルも持って来たからこれで降りろ。」
ウチは リュックを下ろし、ザイルを出していく。
怪我の軽いヒト達が ワイヤーにザイルを取り付ける。
ザイルは ワイヤーを挟み込むように出来ていて、中には 車輪がついている。
Vハーネスを取り付け、ザイルに固定する。
そして重傷なヒトを背負い、固定して降りる。
砦学園都市は7割が女と言う事もあって ここにいるのは殆ど女性兵士だ。
「それと通信機だ…コックピットに置いてくれ。」
後ろの支えているベックのコックピットが開き、パイロットが身体を出して手を伸ばす。
少し手が届かなかったので ウチは 少し上に飛び 通信機を渡せた。
一通り終ったので ロウを探す…見つけた。
「ロウ?」
ロウは小さい身体で先ほどロウが抱いていた隊長を担ぐ…だが身長が足りず足は引きずられたままだ。
「笑って、行って、貰えた、土に…返す。」
ロウは、力を込めて凍死体をズルズルと引きずる。
確かに遺体の顔は笑みを浮かべている。
死ぬと分かってたら抱きついていたのか…最後を孤独で終わらせないように。
「ロウ、悪いが生きているヒトが優先だ。
そこに寝かせてくれ…。」
「分かた」
ロウはベックの横に遺体を寝かせ、胸に手を当てて軽く礼をする。
「ロウ、死体、持って、来る。」
再びロウは、力尽きて、この寒さで冷凍保存されている遺体の方に向かった。




